人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

文字の大きさ
上 下
104 / 356
第三章 蛍宮室家

第十八話 立珂の成長

しおりを挟む
 今日は薄珂と立珂の家に人が集まっている。天藍と慶都一家だ。
 立珂が家から少し離れたところにお気に入りの場所を見つけたので、お弁当を持ってみんなでお出かけしようとなったのだ。

「薄珂。腸詰入れてね、腸詰」
「もちろん。いっぱい入れたから安心しろ」
「辛いの?」
「普通のも辛いのも」

 やったあ、と立珂は満面の笑みで万歳をした。
 よしよしと頭を撫でてやると抱っこをねだられ、薄珂は弁当片手にいつも通り立珂を抱き上げた。
 はしゃぐ立珂に案内され、到着したのはぽっかりと何も無い場所だった。周辺は雑草だらけだというのにそこだけ土がむき出しになっていて、木も切り倒されている。

「ここだよ! ここが最近お気に入りなんだ!」
「里に似てる!」
「でしょー!」

 実は、これは孔雀と芳明の提案を元に響玄が作ってくれた場所だった。
 立珂が初めて羽のくすみを経験して以来、立珂は今まで以上に薄珂にぺったりくっつくようになっていた。
 芳明が言うには、羽のくすみは子供のうちに経験して回復方法は自分で見付けるらしい。およそ五歳くらいまでに終えているらしいが、立珂はつい最近初めて経験したのだ。
 その他にも十歳までには済ませていることも未経験である場合も多く、少し不安定になっているらしい。
 ならば慣れ親しんだ場所と同じ環境があった方が心が休まるのではというので、里の広場と似たような形にしてくれたのだ。
 しかしわざわざ作ったとなると立珂が気に病むかもしれないので、過去に開拓しようと手を付けたがほったらかした場所がある――ということにした。
 立珂はすっかりここが気に入ったようで、響玄の店に行かない時は薫衣草畑かここのどちらかにいることが多い。
 立珂はぴょんっと薄珂の腕から飛び降りると、慶都と一緒に走り始めた。

「立珂ちゃん元気そうね」
「うん。普通は十歳までに済ませてる成長を今やってるんだって」
「やっぱり獣人とは違うわよね。困ったことがあれば言ってね」
「慶都が遊んでくれるだけで十分助かってるよ」

 薄珂と芳明の懸念は立珂が心を許せる相手が極端に少ないことだった。
 人里で生活する有翼人は学舎に通ったり働いたりして人と暮らす術を身に着け、その中で家族以外にも信頼できる相手を増やし心の安定を図るらしい。
 そんな立珂が唯一対等に遊べるのが慶都だ。獣人の里で仲良くなったということもあるが、おそらく精神年齢が同じくらいなのではと芳明は言っていた。
 こればかりは最も近い身内である薄珂では与えてやれないことだ。
 立珂を見ると、何やら慶都の服を弄っている。すると慶都が、わあ、と嬉しそうな声をあげた。

「どうしたの?」
「かーちゃん! この服すごいぞ! 獣化しても大丈夫なんだって!」
「立珂ちゃんが作ってくれたのよね」

 以前、慶都もお揃いの服が欲しいと言っていたので立珂はどんなのが良いか考え侍女に作ってもらった。
 それはゆったりとした服で、生地は薄く軽いので走り回る子供でも苦が無いらしい。

「これお着替えがらくちんなの。腰と肩の紐をほどくと全部脱げるの」
「これだな!」

 慶都は立珂が示した位置の紐をほどくと、前と後ろに生地が分かれてあっという間に脱げた。
 獣化は服を脱いでからしなくてはならないので緊急時に即はできないという難点がある。無理矢理獣化できなくもないが、鳥は腕が羽になるので長袖を着ていたらもう終わりだ。
 だがこうしてすぐ脱げさえすればすぐに獣化ができるというわけだ。

「この丸いのも凄いんだよ。慶都。鷹になってこれにお腹くっつけてみて」

 丸裸になっていた慶都はするすると身体を鷹に変えた。
 立珂が指示したのは脱いだ服の腰からぶら下がっていた共布で作られている。立珂が片手で握れる程度の大きさで、慶都はぴょんとそれに乗った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

ニケの宿

水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。 しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。 異なる種族同士の、共同生活。 ※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。  キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。  苦手な方はご注意ください。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

あの日の記憶の隅で、君は笑う。

15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。 その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。 唐突に始まります。 身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません! 幸せになってくれな!

処理中です...