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第二章 蛍宮宮廷
第十六話 宮廷の助力、そして決別【後編】
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「殿下のお許しが出ました。二人とも宮廷を出て芳明先生の診療所に住まわせて頂きなさい」
「いいの!?」
「立珂くんの快癒が最優先です」
「立珂。芳明先生の家に行って良いって。どうだ?」
「……薄珂といっしょじゃなきゃやだ……」
「俺は一緒に決まってるだろ。ずっと立珂と一緒だ」
「じゃあいく……」
「ああ。じゃあお気に入りの服持ってこうな」
立珂はふにゃりと微笑み小さく頷いた。一刻も早く向かおうと立ち上がると、彩寧と美星がすすっと前に出て来る。
「こちらが立珂様お気に入りの一式でございます」
「もう用意してくれたの!?」
「先日、いつでも持ち出せる用意をしておけと殿下からご指示頂きました」
「……そう」
有難うと言うべきところだ、と薄珂は分かっている。けれど顔は俯き前を向いてくれなかった。
「芳明先生。立珂様の今の状態で化粧をして差し上げても問題ございませんか?」
「においがしなけりゃ大丈夫だが、今それどころじゃなかろう」
「立珂様はだらしがないのを厭われるのです。こんな時だからこそ私共で身嗜みを整えて差し上げなくては」
「美星は立珂様にお供なさい。立珂様のお好きな紅梅色の頬紅で顔色を整えて差し上げなさい」
「承知致しました。立珂様。いつでもお洒落な立珂様ですからね。安心してお休みください」
「えへへ……うん……ありがとー……」
そうして薄珂は立珂を抱き芳明の診療所へ向かった。
慶真と孔雀は天藍に報告をするため宮廷に残ると言ったが、慶都と白那は立珂に付いて来てくれた。美星が同行してくたことは目を覚ます楽しみとなり、立珂はすっかり安心して眠りについた。
芳明の診療所に着くと既に立珂が休むための支度をしてくれていた。慶都が先回りしてくれたのですっかり準備が整っている。
「立珂ちゃんが怪我したって!」
「明恭のお姫様がやったんだと。なんて奴だ」
「ちょいと! そんな話してないで寝台を整えな!」
寝台には大きくてふかふかの枕がいくつも敷き詰められていて、立珂を抱きながら座るにはぴったりだ。
「薄珂はそのままだよ。ほんで慶都、こっちへおいで」
芳明は慶都に浅黄色の団扇を握らせ立珂の羽根の前に座らせた。軽く扇ぐと立珂の羽根がふわんふわんと揺れる。
「優しく扇いでおやり。羽の内に熱とにおいが籠らないよう掻き回しながらだ」
「分かった! 立珂、ちょっとの間だけ羽触るからな。気持ち悪かったら言うんだぞ」
「うん……」
慶都はそうっと立珂の羽に手を差し込み、やわやわと掻き回した。
風が通って気持ちが良いのか慶都が頑張ってくれることが嬉しいのか、立珂はふふふと微笑んだ。
立珂はいつだってこの愛らしい微笑みを向けてくれていた。その笑顔が今は弱々しい。
(もっと早くに宮廷から出てれば……)
何よりも守らなければいけないのは立珂自身なのに、契約なんかを気にして留まった自分が愚かで許せなかった。
天藍なら悪いようにはしないというのなら、とにかく宮廷を出て後はどうにかしてもらえばよかったのだ。
悔しさに耐え切れず唇を強く噛んだが、止めろとばかりに芳明にむにっと頬を引っ張られた。見ると芳明は手に一枚の紙を持っている。
『怪我を負った驚きで羽がくすむ場合があります。不安は口に出さず笑顔で安心させてあげてください』
それは医務局員が書いた筆談の紙だった。
これはついさっきのことで、護栄にも優先すべきは立珂を守ることだと言われたばかりだ。それなのにまた自分の感情に振り回されていたことにようやく気付いた。
薄珂は芳明と顔を見合わせ頷き、よしよしと立珂の頭を撫でる。
「怪我は大したことないってさ。もう血も止まってる」
「ほんと……?」
「ああ。傷も残らないから腕を出しても大丈夫だ。今度袖の無い服作るんだよな」
「うん……おそろいで作ろうねえ……」
「もちろんだ。また色選んでくれよ。立珂は黄色か?」
「ん……薄珂は……みどり色も似合うと……思うの……」
立珂はくふくふと笑いながら語り、次第に目を閉じた。
羽は前よりも濁ってしまい不安になったが、周りのみんなが立珂を愛しく思ってくれているのが心強かった。
「いいの!?」
「立珂くんの快癒が最優先です」
「立珂。芳明先生の家に行って良いって。どうだ?」
「……薄珂といっしょじゃなきゃやだ……」
「俺は一緒に決まってるだろ。ずっと立珂と一緒だ」
「じゃあいく……」
「ああ。じゃあお気に入りの服持ってこうな」
立珂はふにゃりと微笑み小さく頷いた。一刻も早く向かおうと立ち上がると、彩寧と美星がすすっと前に出て来る。
「こちらが立珂様お気に入りの一式でございます」
「もう用意してくれたの!?」
「先日、いつでも持ち出せる用意をしておけと殿下からご指示頂きました」
「……そう」
有難うと言うべきところだ、と薄珂は分かっている。けれど顔は俯き前を向いてくれなかった。
「芳明先生。立珂様の今の状態で化粧をして差し上げても問題ございませんか?」
「においがしなけりゃ大丈夫だが、今それどころじゃなかろう」
「立珂様はだらしがないのを厭われるのです。こんな時だからこそ私共で身嗜みを整えて差し上げなくては」
「美星は立珂様にお供なさい。立珂様のお好きな紅梅色の頬紅で顔色を整えて差し上げなさい」
「承知致しました。立珂様。いつでもお洒落な立珂様ですからね。安心してお休みください」
「えへへ……うん……ありがとー……」
そうして薄珂は立珂を抱き芳明の診療所へ向かった。
慶真と孔雀は天藍に報告をするため宮廷に残ると言ったが、慶都と白那は立珂に付いて来てくれた。美星が同行してくたことは目を覚ます楽しみとなり、立珂はすっかり安心して眠りについた。
芳明の診療所に着くと既に立珂が休むための支度をしてくれていた。慶都が先回りしてくれたのですっかり準備が整っている。
「立珂ちゃんが怪我したって!」
「明恭のお姫様がやったんだと。なんて奴だ」
「ちょいと! そんな話してないで寝台を整えな!」
寝台には大きくてふかふかの枕がいくつも敷き詰められていて、立珂を抱きながら座るにはぴったりだ。
「薄珂はそのままだよ。ほんで慶都、こっちへおいで」
芳明は慶都に浅黄色の団扇を握らせ立珂の羽根の前に座らせた。軽く扇ぐと立珂の羽根がふわんふわんと揺れる。
「優しく扇いでおやり。羽の内に熱とにおいが籠らないよう掻き回しながらだ」
「分かった! 立珂、ちょっとの間だけ羽触るからな。気持ち悪かったら言うんだぞ」
「うん……」
慶都はそうっと立珂の羽に手を差し込み、やわやわと掻き回した。
風が通って気持ちが良いのか慶都が頑張ってくれることが嬉しいのか、立珂はふふふと微笑んだ。
立珂はいつだってこの愛らしい微笑みを向けてくれていた。その笑顔が今は弱々しい。
(もっと早くに宮廷から出てれば……)
何よりも守らなければいけないのは立珂自身なのに、契約なんかを気にして留まった自分が愚かで許せなかった。
天藍なら悪いようにはしないというのなら、とにかく宮廷を出て後はどうにかしてもらえばよかったのだ。
悔しさに耐え切れず唇を強く噛んだが、止めろとばかりに芳明にむにっと頬を引っ張られた。見ると芳明は手に一枚の紙を持っている。
『怪我を負った驚きで羽がくすむ場合があります。不安は口に出さず笑顔で安心させてあげてください』
それは医務局員が書いた筆談の紙だった。
これはついさっきのことで、護栄にも優先すべきは立珂を守ることだと言われたばかりだ。それなのにまた自分の感情に振り回されていたことにようやく気付いた。
薄珂は芳明と顔を見合わせ頷き、よしよしと立珂の頭を撫でる。
「怪我は大したことないってさ。もう血も止まってる」
「ほんと……?」
「ああ。傷も残らないから腕を出しても大丈夫だ。今度袖の無い服作るんだよな」
「うん……おそろいで作ろうねえ……」
「もちろんだ。また色選んでくれよ。立珂は黄色か?」
「ん……薄珂は……みどり色も似合うと……思うの……」
立珂はくふくふと笑いながら語り、次第に目を閉じた。
羽は前よりも濁ってしまい不安になったが、周りのみんなが立珂を愛しく思ってくれているのが心強かった。
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