上 下
17 / 21
鯉屋の跡取り編

エピローグ

しおりを挟む
 夜も更けて鯉屋の中も寝静まった頃、結の部屋で何かが点滅しているのに気付いた雛依がやって来た。

 「結様、何してるんですか?」
 「あ、ごめん。起こしちゃった?」
 「起きてましたよ。いつも結様が寝るまで起きてます」

 結は雛依を部屋に入れ、おいでおいでと呼び寄せた。
 そして自分の後ろに立たせ、手を雛依からできるかぎり遠くに伸ばすとその手には片手に収まる程度の金属が握られている。

 「動いちゃ駄目だよ」
 「はいっ」

 雛依はぎゅっと結に掴まりひょこりと顔だけ覗かせる。
 そして結はさん、にい、いち、とカウントをして金属の上部をカチッと押した。
 すると何の前触れもなく、金属から急に火が灯った。

 「きゃうっ!」

 雛依はびくんと大きく震え、驚きのあまり尻餅をついてころりと転がった。
 大きな瞳をぱちくりさせている雛依を抱き起してやったけれど、やはり呆然としたままだ。

 「これ何だと思う?」
 「……結様は神様だったんですか?」
 「やっぱりそう見えるよねえ」

 結は金属をじいっと見つめた。
 よく見ればそれは片手で開閉できる蓋が付いていて、開けるとそこには小さな突起が付いている。
 それは彩宮殿で最初に結を襲った男が首にぶら下げていた物だ。

 (……ライターだ。あの男は虹宮の残党じゃない)

 最初の襲撃は、白練とグルだった更夜にとっても予想外の出来事だった。
 予定していたのは残党の襲撃だけなのだ。

 「結様、それなんですか?」
 「現世の道具だよ。不思議でしょ」

 結は白練の作った地図を取り出した。
 そこには幾つかの国が並び名が記されているが、そのうちの一つに目をやった。
 視線の先には《東京》という文字が記されている。

 (ライターに東京なんて偶然とは思えない。跡取りの招待は鯉屋の専売特許じゃないんだ)

 おそらく現世から来た人間がいて、東京というのは現世の人間が支配してると結は考えている。
 結を狙ったという事は恐らく味方ではないうえ、国一つを制圧するほどの攻撃手段を持っているとなると鯉屋は圧倒的に不利だ。
 平和な日本で生きていた結は兵器の構造には詳しくない。

 (現世に協力者が必要だ。それも鯉屋じゃなくて僕個人を優先する人間)

 結はしばらくじっと考えた。
 雛依はきょとんと首を傾げている。

 「ひよちゃんは兄弟いる?」
 「いないです。僕には依都様だけです」
 「そっかあ。僕は僕そっくりのお兄ちゃんがいるんだよ」

 結は雛依の頭を撫でながら、何よりも結を優先し無償の愛を与えてくれる双子の兄を思い出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

チュートリアルと思ったらチートリアルだった件

へたまろ
ファンタジー
唐突にダンジョンの中で、サラリーマン倉田良樹(クラタヨシキ)は目を覚ます。 その部屋の真ん中にはフヨフヨと浮かぶ綺麗な宝石が。 触れる事でセーブが出来る宝石。 セーブという言葉を聞いて、ゲームのモニターか何かだと勘違いする倉田。 いや、勘違いしてしまった倉田。 死んでも、セーブポイントで復活する仕様。 軽い現実逃避とも取れる思考と勝手な思い込みで、他にやれることも無い為これはチュートリアルだなと判断して、トライ&エラーよろしく体当たりで色々と学ぶ事にする。 だが、チュートリアルだと思っていた一連の活動の中で明かされた衝撃の事実。 半信半疑で、チュートリアルにありがちな初心者の館と思い込んでいたダンジョンの先で、色々な事に巻き込まれていく。 やがてチュートリアルの先に待ち受けるチートリアル(チートな現実)に気付く。 可愛いペットや、女の子に出会いつつもまったりと進んでいく物語です。 一話あたりは短めで。 話も淡々と。 気楽に進んでいく物語です。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

╣淫・呪・秘・転╠亡国の暗黒魔法師編

流転小石
ファンタジー
淫 欲の化身が身近で俺を監視している。 呪 い。持っているんだよねぇ俺。 秘 密? 沢山あるけど知りたいか? 転 生するみたいだね、最後には。 これは亡国の復興と平穏な暮らしを望むが女運の悪いダークエルフが転生するまでの物語で、運命の悪戯に翻弄される主人公が沢山の秘密と共に波瀾万丈の人生を綴るお話しです。気軽に、サラッと多少ドキドキしながらサクサクと進み、炭酸水の様にお読み頂ければ幸いです。 運命に流されるまま”悪意の化身である、いにしえのドラゴン”と決戦の為に魔族の勇者率いる"仲間"に参戦する俺はダークエルフだ。決戦前の休息時間にフッと過去を振り返る。なぜ俺はここにいるのかと。記憶を過去にさかのぼり、誕生秘話から現在に至るまでの女遍歴の物語を、知らないうちに自分の母親から呪いの呪文を二つも体内に宿す主人公が語ります。一休みした後、全員で扉を開けると新たな秘密と共に転生する主人公たち。 他サイトにも投稿していますが、編集し直す予定です。 誤字脱字があれば連絡ください。m( _ _ )m

プリンセスは殺し屋

平木明日香
ファンタジー
彼女との初体験を間近に控えていた葛城ユウトは、ついに、1つのベットの上で女子の体と交わろうとしていた。 下着に手を伸ばした、その時だった。 「貴様、私に触れようなどとは…」 キスまで交わし、同意を得たはずだった相手が、突然豹変したように顔を顰める。 手には「銃」が。 …ここ、日本ですよ? 学生兼殺し屋を営んでいる魔王の娘、——ブーニベルゼ。 日本の女子高生の魂に“憑依した”彼女とのドタバタ冒険活劇が、今、始まる。

処理中です...