11 / 13
ORDER01. 殺意の生クリーム
piece 10. 生クリームの正体
しおりを挟む
「……先輩が外に出て来た間に容体が急変したそうです。あの数分で」
「じゃあ全くもってあなたのせいじゃないわ。どうして言わないの?悪いのは母親だって」
「警察に言いました!でもそれが発表されるわけじゃないし、私がそんな事言ったって罪を擦り付けてるようにしか見えないじゃないですか!」
「じゃあその母親に皆の前で自白させればいいわ」
「そんなの私だって考えました!でも意識不明なんです!後を追って自殺しようとしたって!これ以上どうにもならないじゃないですか!」
「そうね。その通りよ。だから私はオーダーを受けたの」
「……オーダー?」
お姫様の言葉で現状に引き戻される。
葵は、オーダー、とうわごとの様に呟いた。
「私達はオーダーが無ければ動けない。けれどあなたに手を貸した。どうしてだと思う?」
「……誰かが……私を殺すオーダーしたって事ですか?」
「五十点ね」
リゼは店の入り口の方に目をやった。
そこには見覚えのある女性の姿があった。身体を折り曲げてくたびれている女性は、最初に店を訪れた時に見かけた女性だ。
既にリゼがオーダーケーキを作り立ち去ったはずだったが、ケーキを受け取りに来たのだろうか。
リゼはカツカツとくたびれた女性の背を支えて葵の前に立たせた。
「な、何ですか急に」
「急じゃないわ。あなたがこの人に会うのは今回で三度目。この前は二度目だったのよ」
「え……いえ、覚えはないですけど……」
リゼは少し寂しそうににこりと微笑んだ。
ミルクティの髪を留めていたピンを取り外し、くたびれた女性の前髪を留めてやる。そして背を伸ばすように手を添えるとようやく女性は顔を上げた。
その顔を見て葵はびくりと震えてよろめいた。
「先輩の、お母さん……!」
「この前私は彼女のオーダーを請けたの。自分はもう何もできないから、せめてあなたの辛い想いを消してあげて欲しいというオーダーを」
確かにオーダーケーキを作る時、リゼとこの女性は少しだけ何か話をしていた。
それに葵がここに辿り着くまではこの女性と一緒にいた。まるで道案内されているかのようだった。
「私がここに来たのは……偶然じゃなかったんですか……」
「こんな都合の良い偶然なんて無いわ」
「で、でも、じゃあ何で殺そうとするんですか!!」
「殺したいわけじゃないのよ。たまたまそうなってしまっただけ」
「たまたま殺すんですか!?」
「違うわ」
リゼは女性をリンに任せ、葵の目の前に立った。
紅茶色の目がきらりと輝いている。
「あなたの辛い想いを消すにはあなたのオーダーケーキを作って廃棄しなきゃいけないわ。オーダーケーキに必要な材料は?」
「……私の、生クリーム……?」
「そう。だから私はあなたの生クリームを取り出した」
リゼはちらりと一つのテーブルを振り向くと、そこにはワンカットのショートケーキが置いてあった。
一番最初に食べさせてもらったリゼのケーキだ。
「あなたは私のケーキを食べたわ。これがどんなケーキだったか覚えてる?」
とても美味しかった記憶しかない。
滑らかで甘い生クリームと綿のようなスポンジ。何個でも食べたいと思うケーキだった。
しかしあの時おかしいなと思った事があった。リゼは「気を付けて」と言ったのだ。食べすぎに気を付けろという意味かと思ったが、その後に言っていたのは――
『私のケーキは心を具現化させるから』
あれは何かの比喩でも謎かけでも無かった。
言葉そのままの意味だったのだ。
「私の辛い思いを生クリームにしたんですか……?」
「そう。先輩の姿をしたあれはあなたの辛い思い。そのまま消せればよかったんだけど、どういうわけか殺意を持っていたの」
「わ、私が殺意を持ってるっていうんですか。私は先輩も先輩のお母さんも殺したいなんて思ってない」
「そうでしょうね。だってあれが襲ったのはあなた自身なんだもの」
「……え?どういう意味ですか」
「そのままの意味よ。生クリームは殺意の対象を襲うわ。あれはあなた。あれの狙いもあなた」
リゼは杖を葵に向けた。
「あなたは自分を殺してしまいたいのよ」
「……私は……」
「彼の姿で現れたのは彼に罰して欲しいと思ってるからじゃないかしら。罰してもらって、そして許されたいんでしょう?」
生クリームの棗累はまだ何かに迷っているように揺れている。
あれが葵自身なら葵が迷っているという事だ。
「……紅茶を生クリームにかけたらスッキリしたんです。何かが溶けたような」
「あなたの殺意が少しだけ溶けたのね」
「リゼさんが廃棄したら……私の記憶も殺意も消えるんですよね……」
「そうよ。あれはもう賞味期限が切れるからすぐに廃棄できるわ」
リゼは葵に手を差し伸べる。
「さあ、オーダーは?」
「じゃあ全くもってあなたのせいじゃないわ。どうして言わないの?悪いのは母親だって」
「警察に言いました!でもそれが発表されるわけじゃないし、私がそんな事言ったって罪を擦り付けてるようにしか見えないじゃないですか!」
「じゃあその母親に皆の前で自白させればいいわ」
「そんなの私だって考えました!でも意識不明なんです!後を追って自殺しようとしたって!これ以上どうにもならないじゃないですか!」
「そうね。その通りよ。だから私はオーダーを受けたの」
「……オーダー?」
お姫様の言葉で現状に引き戻される。
葵は、オーダー、とうわごとの様に呟いた。
「私達はオーダーが無ければ動けない。けれどあなたに手を貸した。どうしてだと思う?」
「……誰かが……私を殺すオーダーしたって事ですか?」
「五十点ね」
リゼは店の入り口の方に目をやった。
そこには見覚えのある女性の姿があった。身体を折り曲げてくたびれている女性は、最初に店を訪れた時に見かけた女性だ。
既にリゼがオーダーケーキを作り立ち去ったはずだったが、ケーキを受け取りに来たのだろうか。
リゼはカツカツとくたびれた女性の背を支えて葵の前に立たせた。
「な、何ですか急に」
「急じゃないわ。あなたがこの人に会うのは今回で三度目。この前は二度目だったのよ」
「え……いえ、覚えはないですけど……」
リゼは少し寂しそうににこりと微笑んだ。
ミルクティの髪を留めていたピンを取り外し、くたびれた女性の前髪を留めてやる。そして背を伸ばすように手を添えるとようやく女性は顔を上げた。
その顔を見て葵はびくりと震えてよろめいた。
「先輩の、お母さん……!」
「この前私は彼女のオーダーを請けたの。自分はもう何もできないから、せめてあなたの辛い想いを消してあげて欲しいというオーダーを」
確かにオーダーケーキを作る時、リゼとこの女性は少しだけ何か話をしていた。
それに葵がここに辿り着くまではこの女性と一緒にいた。まるで道案内されているかのようだった。
「私がここに来たのは……偶然じゃなかったんですか……」
「こんな都合の良い偶然なんて無いわ」
「で、でも、じゃあ何で殺そうとするんですか!!」
「殺したいわけじゃないのよ。たまたまそうなってしまっただけ」
「たまたま殺すんですか!?」
「違うわ」
リゼは女性をリンに任せ、葵の目の前に立った。
紅茶色の目がきらりと輝いている。
「あなたの辛い想いを消すにはあなたのオーダーケーキを作って廃棄しなきゃいけないわ。オーダーケーキに必要な材料は?」
「……私の、生クリーム……?」
「そう。だから私はあなたの生クリームを取り出した」
リゼはちらりと一つのテーブルを振り向くと、そこにはワンカットのショートケーキが置いてあった。
一番最初に食べさせてもらったリゼのケーキだ。
「あなたは私のケーキを食べたわ。これがどんなケーキだったか覚えてる?」
とても美味しかった記憶しかない。
滑らかで甘い生クリームと綿のようなスポンジ。何個でも食べたいと思うケーキだった。
しかしあの時おかしいなと思った事があった。リゼは「気を付けて」と言ったのだ。食べすぎに気を付けろという意味かと思ったが、その後に言っていたのは――
『私のケーキは心を具現化させるから』
あれは何かの比喩でも謎かけでも無かった。
言葉そのままの意味だったのだ。
「私の辛い思いを生クリームにしたんですか……?」
「そう。先輩の姿をしたあれはあなたの辛い思い。そのまま消せればよかったんだけど、どういうわけか殺意を持っていたの」
「わ、私が殺意を持ってるっていうんですか。私は先輩も先輩のお母さんも殺したいなんて思ってない」
「そうでしょうね。だってあれが襲ったのはあなた自身なんだもの」
「……え?どういう意味ですか」
「そのままの意味よ。生クリームは殺意の対象を襲うわ。あれはあなた。あれの狙いもあなた」
リゼは杖を葵に向けた。
「あなたは自分を殺してしまいたいのよ」
「……私は……」
「彼の姿で現れたのは彼に罰して欲しいと思ってるからじゃないかしら。罰してもらって、そして許されたいんでしょう?」
生クリームの棗累はまだ何かに迷っているように揺れている。
あれが葵自身なら葵が迷っているという事だ。
「……紅茶を生クリームにかけたらスッキリしたんです。何かが溶けたような」
「あなたの殺意が少しだけ溶けたのね」
「リゼさんが廃棄したら……私の記憶も殺意も消えるんですよね……」
「そうよ。あれはもう賞味期限が切れるからすぐに廃棄できるわ」
リゼは葵に手を差し伸べる。
「さあ、オーダーは?」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
配信者:辻都はおこ
有箱
キャラ文芸
冬になると現れる、秘密の多い美少女配信者、辻都はおこ。
そいつは我が校にいると噂され、目星も付けられている。だが、未だ正体不明のままだ。
俺は知っている。そんな辻都はおこの真実――いや、秘密を。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~
七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。
冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる