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ORDER01. 殺意の生クリーム
piece 10. 生クリームの正体
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「……先輩が外に出て来た間に容体が急変したそうです。あの数分で」
「じゃあ全くもってあなたのせいじゃないわ。どうして言わないの?悪いのは母親だって」
「警察に言いました!でもそれが発表されるわけじゃないし、私がそんな事言ったって罪を擦り付けてるようにしか見えないじゃないですか!」
「じゃあその母親に皆の前で自白させればいいわ」
「そんなの私だって考えました!でも意識不明なんです!後を追って自殺しようとしたって!これ以上どうにもならないじゃないですか!」
「そうね。その通りよ。だから私はオーダーを受けたの」
「……オーダー?」
お姫様の言葉で現状に引き戻される。
葵は、オーダー、とうわごとの様に呟いた。
「私達はオーダーが無ければ動けない。けれどあなたに手を貸した。どうしてだと思う?」
「……誰かが……私を殺すオーダーしたって事ですか?」
「五十点ね」
リゼは店の入り口の方に目をやった。
そこには見覚えのある女性の姿があった。身体を折り曲げてくたびれている女性は、最初に店を訪れた時に見かけた女性だ。
既にリゼがオーダーケーキを作り立ち去ったはずだったが、ケーキを受け取りに来たのだろうか。
リゼはカツカツとくたびれた女性の背を支えて葵の前に立たせた。
「な、何ですか急に」
「急じゃないわ。あなたがこの人に会うのは今回で三度目。この前は二度目だったのよ」
「え……いえ、覚えはないですけど……」
リゼは少し寂しそうににこりと微笑んだ。
ミルクティの髪を留めていたピンを取り外し、くたびれた女性の前髪を留めてやる。そして背を伸ばすように手を添えるとようやく女性は顔を上げた。
その顔を見て葵はびくりと震えてよろめいた。
「先輩の、お母さん……!」
「この前私は彼女のオーダーを請けたの。自分はもう何もできないから、せめてあなたの辛い想いを消してあげて欲しいというオーダーを」
確かにオーダーケーキを作る時、リゼとこの女性は少しだけ何か話をしていた。
それに葵がここに辿り着くまではこの女性と一緒にいた。まるで道案内されているかのようだった。
「私がここに来たのは……偶然じゃなかったんですか……」
「こんな都合の良い偶然なんて無いわ」
「で、でも、じゃあ何で殺そうとするんですか!!」
「殺したいわけじゃないのよ。たまたまそうなってしまっただけ」
「たまたま殺すんですか!?」
「違うわ」
リゼは女性をリンに任せ、葵の目の前に立った。
紅茶色の目がきらりと輝いている。
「あなたの辛い想いを消すにはあなたのオーダーケーキを作って廃棄しなきゃいけないわ。オーダーケーキに必要な材料は?」
「……私の、生クリーム……?」
「そう。だから私はあなたの生クリームを取り出した」
リゼはちらりと一つのテーブルを振り向くと、そこにはワンカットのショートケーキが置いてあった。
一番最初に食べさせてもらったリゼのケーキだ。
「あなたは私のケーキを食べたわ。これがどんなケーキだったか覚えてる?」
とても美味しかった記憶しかない。
滑らかで甘い生クリームと綿のようなスポンジ。何個でも食べたいと思うケーキだった。
しかしあの時おかしいなと思った事があった。リゼは「気を付けて」と言ったのだ。食べすぎに気を付けろという意味かと思ったが、その後に言っていたのは――
『私のケーキは心を具現化させるから』
あれは何かの比喩でも謎かけでも無かった。
言葉そのままの意味だったのだ。
「私の辛い思いを生クリームにしたんですか……?」
「そう。先輩の姿をしたあれはあなたの辛い思い。そのまま消せればよかったんだけど、どういうわけか殺意を持っていたの」
「わ、私が殺意を持ってるっていうんですか。私は先輩も先輩のお母さんも殺したいなんて思ってない」
「そうでしょうね。だってあれが襲ったのはあなた自身なんだもの」
「……え?どういう意味ですか」
「そのままの意味よ。生クリームは殺意の対象を襲うわ。あれはあなた。あれの狙いもあなた」
リゼは杖を葵に向けた。
「あなたは自分を殺してしまいたいのよ」
「……私は……」
「彼の姿で現れたのは彼に罰して欲しいと思ってるからじゃないかしら。罰してもらって、そして許されたいんでしょう?」
生クリームの棗累はまだ何かに迷っているように揺れている。
あれが葵自身なら葵が迷っているという事だ。
「……紅茶を生クリームにかけたらスッキリしたんです。何かが溶けたような」
「あなたの殺意が少しだけ溶けたのね」
「リゼさんが廃棄したら……私の記憶も殺意も消えるんですよね……」
「そうよ。あれはもう賞味期限が切れるからすぐに廃棄できるわ」
リゼは葵に手を差し伸べる。
「さあ、オーダーは?」
「じゃあ全くもってあなたのせいじゃないわ。どうして言わないの?悪いのは母親だって」
「警察に言いました!でもそれが発表されるわけじゃないし、私がそんな事言ったって罪を擦り付けてるようにしか見えないじゃないですか!」
「じゃあその母親に皆の前で自白させればいいわ」
「そんなの私だって考えました!でも意識不明なんです!後を追って自殺しようとしたって!これ以上どうにもならないじゃないですか!」
「そうね。その通りよ。だから私はオーダーを受けたの」
「……オーダー?」
お姫様の言葉で現状に引き戻される。
葵は、オーダー、とうわごとの様に呟いた。
「私達はオーダーが無ければ動けない。けれどあなたに手を貸した。どうしてだと思う?」
「……誰かが……私を殺すオーダーしたって事ですか?」
「五十点ね」
リゼは店の入り口の方に目をやった。
そこには見覚えのある女性の姿があった。身体を折り曲げてくたびれている女性は、最初に店を訪れた時に見かけた女性だ。
既にリゼがオーダーケーキを作り立ち去ったはずだったが、ケーキを受け取りに来たのだろうか。
リゼはカツカツとくたびれた女性の背を支えて葵の前に立たせた。
「な、何ですか急に」
「急じゃないわ。あなたがこの人に会うのは今回で三度目。この前は二度目だったのよ」
「え……いえ、覚えはないですけど……」
リゼは少し寂しそうににこりと微笑んだ。
ミルクティの髪を留めていたピンを取り外し、くたびれた女性の前髪を留めてやる。そして背を伸ばすように手を添えるとようやく女性は顔を上げた。
その顔を見て葵はびくりと震えてよろめいた。
「先輩の、お母さん……!」
「この前私は彼女のオーダーを請けたの。自分はもう何もできないから、せめてあなたの辛い想いを消してあげて欲しいというオーダーを」
確かにオーダーケーキを作る時、リゼとこの女性は少しだけ何か話をしていた。
それに葵がここに辿り着くまではこの女性と一緒にいた。まるで道案内されているかのようだった。
「私がここに来たのは……偶然じゃなかったんですか……」
「こんな都合の良い偶然なんて無いわ」
「で、でも、じゃあ何で殺そうとするんですか!!」
「殺したいわけじゃないのよ。たまたまそうなってしまっただけ」
「たまたま殺すんですか!?」
「違うわ」
リゼは女性をリンに任せ、葵の目の前に立った。
紅茶色の目がきらりと輝いている。
「あなたの辛い想いを消すにはあなたのオーダーケーキを作って廃棄しなきゃいけないわ。オーダーケーキに必要な材料は?」
「……私の、生クリーム……?」
「そう。だから私はあなたの生クリームを取り出した」
リゼはちらりと一つのテーブルを振り向くと、そこにはワンカットのショートケーキが置いてあった。
一番最初に食べさせてもらったリゼのケーキだ。
「あなたは私のケーキを食べたわ。これがどんなケーキだったか覚えてる?」
とても美味しかった記憶しかない。
滑らかで甘い生クリームと綿のようなスポンジ。何個でも食べたいと思うケーキだった。
しかしあの時おかしいなと思った事があった。リゼは「気を付けて」と言ったのだ。食べすぎに気を付けろという意味かと思ったが、その後に言っていたのは――
『私のケーキは心を具現化させるから』
あれは何かの比喩でも謎かけでも無かった。
言葉そのままの意味だったのだ。
「私の辛い思いを生クリームにしたんですか……?」
「そう。先輩の姿をしたあれはあなたの辛い思い。そのまま消せればよかったんだけど、どういうわけか殺意を持っていたの」
「わ、私が殺意を持ってるっていうんですか。私は先輩も先輩のお母さんも殺したいなんて思ってない」
「そうでしょうね。だってあれが襲ったのはあなた自身なんだもの」
「……え?どういう意味ですか」
「そのままの意味よ。生クリームは殺意の対象を襲うわ。あれはあなた。あれの狙いもあなた」
リゼは杖を葵に向けた。
「あなたは自分を殺してしまいたいのよ」
「……私は……」
「彼の姿で現れたのは彼に罰して欲しいと思ってるからじゃないかしら。罰してもらって、そして許されたいんでしょう?」
生クリームの棗累はまだ何かに迷っているように揺れている。
あれが葵自身なら葵が迷っているという事だ。
「……紅茶を生クリームにかけたらスッキリしたんです。何かが溶けたような」
「あなたの殺意が少しだけ溶けたのね」
「リゼさんが廃棄したら……私の記憶も殺意も消えるんですよね……」
「そうよ。あれはもう賞味期限が切れるからすぐに廃棄できるわ」
リゼは葵に手を差し伸べる。
「さあ、オーダーは?」
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