Lizette~オーダーケーキは食べないで~

蒼衣ユイ/広瀬由衣

文字の大きさ
上 下
4 / 13
ORDER01. 殺意の生クリーム

piece 3. 迫りくる生クリーム

しおりを挟む
 生クリームが狙ったのは君だから君も掃除を手伝うべきだ、とリンに言われて葵もモップで床掃除を始めた。
 そこはもっとしっかりやれだのこっちがまだ汚れているだの思いの外スパルタで、葵はじわりと汗をかき始めたけれどリゼは一人涼しい顔をしてアイスミルクティを飲んでいる。
 手伝う気はさらさらないようで、ため息を吐くと次はテーブルを拭けとタオルを渡された。
 生地はとても掃除に使って良いとは思えない滑らかさで、滑らかすぎて汚れが落ちるか疑問を持ちながら拭くとやはりべたつきが伸びただけだった。

 「……全然落ちないんですけど。この生クリーム何なんですか?」
 「オーダーケーキの材料よ。材料は心。心の奥深くに眠る願望が具現化した物」

 ああそうですか、と葵は棒読みで返事をした。まともな回答が返って来ない事は想像していたからだ。
 それに彼女の言う事が正しいのか嘘なのかも葵には分からないし、異を唱えたところで何が変わるわけでもない。ならとりあえずそれが真実であると仮定して考える事にした。

 (生クリームの行動が願望なら私を襲いたい人がいるって事になるよね……)

 本当に葵を狙って来たのかどうかは分からない。
 けれど店を破壊してまで襲い掛かってくる現象に納得のいく説明は思い浮かばなかった。
 ちらりとリゼを見ると、こくりとミルクティを飲み干しにこりと微笑んだ。

 「そうよ。あなたを殺したい人がいるの」
 「けど生クリームがどうやって人を殺すんですか」
 「口に飛び込まれたら窒息死するわ。人型で出てきたら絞殺かもね」
 「ファンタジーな存在のわりに殺し方は物理なんですね……」

 リゼもオーダーケーキも生クリームも、魔法じみた事をしていただけにファンタジックな攻撃をされるのかと思ったがそうでもないらしい。
 何だか言っている事とやっている事がちぐはぐだ。筋が通っていない違和感のせいで殺されるリアリティは一気に失せてしまった。

 (いや、魔法っぽければ殺されてあげるわけじゃないんだけど)

 リゼは半信半疑な葵の心境に気付いているのかいないのか、クスクスと花が飛び散るような愛らしい微笑みを浮かべた。
 からかわれているようで良い気はしない。葵は露骨にため息を吐いた。

 「まあでも物理で来るなら抵抗もできますし」
 「そうね。でも何としても殺そうと作戦を練ってくるわ。あなたはそれに抗えるかしら」
 「当たり前です。何で殺されるのを受け入れるんですか」
 「受け入れたいと思うように仕向けて来るのよ。例えば太陽のような笑顔で微笑みかけたりね」

 まただ、と葵は唇を噛んだ。
 葵が魔法のような現象を信じられないでいるのはリゼが棗累の存在を匂わせているからだった。
 もし本当にリゼや生クリームが物語から飛び出て来たのなら、現実に存在する人間を結び付ける必要などないだろう。魔法でポンと殺せば良いのだ。
 けれどそうしないという事は魔法では殺せないからか、もしくは他に目的があるからだ。
 葵は無意識に口を尖らせ疑惑と敵意を露わにリゼを睨みつけた。

 「甘い誘惑に気を付けて」

 ふふ、とお姫様は穏やかに微笑んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

祇園七福堂の見習い店主 神様の御用達はじめました

卯月みか
キャラ文芸
旧題:祇園七福堂繁盛記~神様の御用達~ 勤めていた雑貨屋が閉店し、意気消沈していた繁昌真璃は、焼き鳥屋で飲んだ帰り、居眠りをして電車を乗り過ごしてしまう。 財布も盗まれ、終電もなくなり、困り切った末、京都の祇園に住んでいる祖母の家を訪ねると、祖母は、自分を七福神の恵比寿だと名乗る謎の男性・八束と一緒に暮らしていた。 八束と同居することになった真璃は、彼と協力して、祖母から受け継いだ和雑貨店『七福堂』を立て直そうとする。 けれど、訪れるお客は神様ばかりで!? ※キャラ文芸大賞に応募しています。気に入っていただけましたら、投票していただけると嬉しいです。 ------------------- 実在の神社仏閣、場所等が出てきますが、このお話はフィクションです。実在の神社、場所、人物等、一切の関係はございません。

【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜

四片霞彩
キャラ文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞にて奨励賞を受賞いたしました🌸】 応援いただいた皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました! ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. 疲れた時は神様のおにぎり処に足を運んで。店主の豊穣の神が握るおにぎりが貴方を癒してくれる。 ここは人もあやかしも神も訪れるおむすび処。メニューは一択。店主にとっての思い出の味のみ――。 大学進学を機に田舎から都会に上京した伊勢山莉亜は、都会に馴染めず、居場所のなさを感じていた。 とある夕方、花見で立ち寄った公園で人のいない場所を探していると、キジ白の猫である神使のハルに導かれて、名前を忘れた豊穣の神・蓬が営むおむすび処に辿り着く。 自分が使役する神使のハルが迷惑を掛けたお詫びとして、おむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりをご馳走してくれる蓬。おにぎりを食べた莉亜は心を解きほぐされ、今まで溜めこんでいた感情を吐露して泣き出してしまうのだった。 店に通うようになった莉亜は、蓬が料理人として致命的なある物を失っていることを知ってしまう。そして、それを失っている蓬は近い内に消滅してしまうとも。 それでも蓬は自身が消える時までおにぎりを握り続け、店を開けるという。 そこにはおむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりと、かつて蓬を信仰していた人間・セイとの間にあった優しい思い出と大切な借り物、そして蓬が犯した取り返しのつかない罪が深く関わっていたのだった。 「これも俺の運命だ。アイツが現れるまで、ここでアイツから借りたものを守り続けること。それが俺に出来る、唯一の贖罪だ」 蓬を助けるには、豊穣の神としての蓬の名前とセイとの思い出の味という塩おにぎりが必要だという。 莉亜は蓬とセイのために、蓬の名前とセイとの思い出の味を見つけると決意するがーー。 蓬がセイに犯した罪とは、そして蓬は名前と思い出の味を思い出せるのかーー。 ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. ※ノベマに掲載していた短編作品を加筆、修正した長編作品になります。 ※ほっこり・じんわり大賞の応募について、運営様より許可をいただいております。

裏吉原あやかし語り

石田空
キャラ文芸
「堀の向こうには裏吉原があり、そこでは苦界の苦しみはないよ」 吉原に売られ、顔の火傷が原因で年季が明けるまで下働きとしてこき使われている音羽は、火事の日、遊女たちの噂になっている裏吉原に行けると信じて、堀に飛び込んだ。 そこで待っていたのは、人間のいない裏吉原。ここを出るためにはどのみち徳を積まないと出られないというあやかしだけの街だった。 「極楽浄土にそんな簡単に行けたら苦労はしないさね。あたしたちができるのは、ひとの苦しみを分かつことだけさ」 自称魔女の柊野に拾われた音羽は、裏吉原のひとびとの悩みを分かつ手伝いをはじめることになる。 *カクヨム、エブリスタ、pixivにも掲載しております。

【完結】皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜

空岡
キャラ文芸
【完結】 後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー 町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。 小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。 月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。 後宮にあがった月花だが、 「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」 皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく―― 飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――? これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。

誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。【完結】

双葉
キャラ文芸
【本作のキーワード】 ・幽霊カフェでお仕事 ・イケメン店主に翻弄される恋 ・岐阜県~愛知県が舞台 ・数々の人間ドラマ ・紅茶/除霊/西洋絵画 +++  人生に疲れ果てた璃乃が辿り着いたのは、幽霊の浄化を目的としたカフェだった。  カフェを運営するのは(見た目だけなら王子様の)蒼唯&(不器用だけど優しい)朔也。そんな特殊カフェで、璃乃のアルバイト生活が始まる――。  舞台は岐阜県の田舎町。  様々な出会いと別れを描くヒューマンドラマ。 ※実在の地名・施設などが登場しますが、本作の内容はフィクションです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...