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第一章
第十九話 道標
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「金魚屋の開祖? 金魚屋って常夜の店じゃないの?」
「そうです! 自動化と汎用化で現世で開業したんです!」
「はい?」
ひよちゃんが嬉しそうに両手をパタパタさせる姿は愛らしさしかないが、言ってることはずいぶんと固い。
たまに難しいこと言うわよねひよちゃん……
「出目金を消すための施策だよ。出目金はそもそも人間の魂だ。強い未練に囚われた一部が金魚になり、それが恨みに転じて出目金になっただけ。異形であっても所詮は魂だ。そして魂が消えるフローは二つある」
「フ、フロー?」
「一つは自ら現世で昇天すること。これがレギュラーだ。つまり現世で消せれば魂が常夜に来ることはない。そこで僕は現世で魂を消す仕組みを作った。これが現世の金魚屋と《金魚の弔い》システム」
「金魚の、弔い……システム……?」
何だその魔法と科学が合体したようなのは。
「葬儀でもあげるの?」
「そんなようなことだよ。黒曜さんは強制昇天を自動化したんだ。それを管理するのが現世の金魚屋で、全国に店舗を展開して経営という仕組みにした」
「自動化と汎用化です!」
「あ、ああ? うん。それね」
「分からないなら頷かなくていいよ」
「うるさいわね! あんた一言多いって言われない!?」
「言われます! 結様はいつも一言多いです!」
「ちょっとひよちゃん」
ひよちゃんは口を開けて楽しそうにきゃっきゃとはしゃぎ、若旦那はぷにぷにとひよちゃんの丸いほっぺたを突いている。
「えーっと、つまり金魚の弔いをやってるのが若旦那の双子のお兄さんてこと?」
「そうだよ。ずっとうまくいってたんだ。でも最近このシステムが動かなくなってしまったんだ。そしてそのタイミングで黒曜さんは子供を作った。それも現世でとなれば、彼と同じく常夜と現世の血を引く唯一無二の存在だ。君はそもそも普通の人間とは違うんだよ」
若旦那は不満気な顔でひよちゃんを見ながら膝に乗せ、うりうりと頬ずりをした。
会話と行動が噛み合わないんですけど。シリアスかほのぼのかどっちかにしなさいよ。
「唯一無二でもないでしょ。玻璃だってお父さんの娘なら」
「玻璃は黒曜さんの力を受け継がなかった。なら常夜としては用無しだ。でも累と紫音さんに根回しまでして守ったなら、現状を打破する手段が彼女に隠されていると思っていいだろう。それに」
若旦那はひよちゃんと頬をぺたりと合わせたままちろりと紫音を見やった。
「紫音さんが現世の人間を召べるのは一生に一人だけ。その貴重な一回を費やして何も無いわけがない」
「一人だけ? 若旦那は跡取りとして召ばれたんでしょ?」
「僕を召んだのは先代鯉屋当主だよ。紫音さんの父親」
「そうなの? その人はどうしたの?」
途端に空気が冷えてぴりっと緊張が走った。
ひよちゃんですら表情を無くしていて、明らかに禁句を言ったような雰囲気だった。
「……いや、言い難いなら良いんだけど」
「亡くなったのよ。色々あってね」
「亡くなった……」
……待って。お父さんは鯉屋の創始者なのよね。創始者って当主ってことじゃないの? ならその血統の紫音は、まさか……
そろりと紫音を見ると、困ったように微笑んでいた。
誰も何とは言わなかったけれど、紫音の表情が全てを物語っているような気がした。
私は思わず目を逸らすと、沈黙を破るように動いたのは若旦那だった。若旦那はひよちゃんを抱っこしたまま立ち上がった。
「僕は累に話を聞いてくる。瑠璃と紫音さんは大人しくしてること。いいね」
「は? 何で?」
若旦那は私の問いには答えず、ひよちゃんときゃっきゃしながら出て行った。
……お散歩にでも行くのかしら。
「いまいち話が分かんないんだけど」
「分かる必要は無いわ。結様ならお一人でどうにかなさるでしょう」
「それでいいの? 不安なんだけど」
「じゃあどうするというの。現世に行く方法も知らないあなたが何をするの?」
「それはそうなんだけど」
「それにあなたには決めてもらわなきゃいけないことがあるわ」
「私に? 何を?」
「死ぬか、それとも死ぬかよ」
「……は?」
紫音はいつになく鋭い目をしていた。言っていることは子供の言葉遊びのようだったけれど、とても重々しい空気を放っていた。
「そうです! 自動化と汎用化で現世で開業したんです!」
「はい?」
ひよちゃんが嬉しそうに両手をパタパタさせる姿は愛らしさしかないが、言ってることはずいぶんと固い。
たまに難しいこと言うわよねひよちゃん……
「出目金を消すための施策だよ。出目金はそもそも人間の魂だ。強い未練に囚われた一部が金魚になり、それが恨みに転じて出目金になっただけ。異形であっても所詮は魂だ。そして魂が消えるフローは二つある」
「フ、フロー?」
「一つは自ら現世で昇天すること。これがレギュラーだ。つまり現世で消せれば魂が常夜に来ることはない。そこで僕は現世で魂を消す仕組みを作った。これが現世の金魚屋と《金魚の弔い》システム」
「金魚の、弔い……システム……?」
何だその魔法と科学が合体したようなのは。
「葬儀でもあげるの?」
「そんなようなことだよ。黒曜さんは強制昇天を自動化したんだ。それを管理するのが現世の金魚屋で、全国に店舗を展開して経営という仕組みにした」
「自動化と汎用化です!」
「あ、ああ? うん。それね」
「分からないなら頷かなくていいよ」
「うるさいわね! あんた一言多いって言われない!?」
「言われます! 結様はいつも一言多いです!」
「ちょっとひよちゃん」
ひよちゃんは口を開けて楽しそうにきゃっきゃとはしゃぎ、若旦那はぷにぷにとひよちゃんの丸いほっぺたを突いている。
「えーっと、つまり金魚の弔いをやってるのが若旦那の双子のお兄さんてこと?」
「そうだよ。ずっとうまくいってたんだ。でも最近このシステムが動かなくなってしまったんだ。そしてそのタイミングで黒曜さんは子供を作った。それも現世でとなれば、彼と同じく常夜と現世の血を引く唯一無二の存在だ。君はそもそも普通の人間とは違うんだよ」
若旦那は不満気な顔でひよちゃんを見ながら膝に乗せ、うりうりと頬ずりをした。
会話と行動が噛み合わないんですけど。シリアスかほのぼのかどっちかにしなさいよ。
「唯一無二でもないでしょ。玻璃だってお父さんの娘なら」
「玻璃は黒曜さんの力を受け継がなかった。なら常夜としては用無しだ。でも累と紫音さんに根回しまでして守ったなら、現状を打破する手段が彼女に隠されていると思っていいだろう。それに」
若旦那はひよちゃんと頬をぺたりと合わせたままちろりと紫音を見やった。
「紫音さんが現世の人間を召べるのは一生に一人だけ。その貴重な一回を費やして何も無いわけがない」
「一人だけ? 若旦那は跡取りとして召ばれたんでしょ?」
「僕を召んだのは先代鯉屋当主だよ。紫音さんの父親」
「そうなの? その人はどうしたの?」
途端に空気が冷えてぴりっと緊張が走った。
ひよちゃんですら表情を無くしていて、明らかに禁句を言ったような雰囲気だった。
「……いや、言い難いなら良いんだけど」
「亡くなったのよ。色々あってね」
「亡くなった……」
……待って。お父さんは鯉屋の創始者なのよね。創始者って当主ってことじゃないの? ならその血統の紫音は、まさか……
そろりと紫音を見ると、困ったように微笑んでいた。
誰も何とは言わなかったけれど、紫音の表情が全てを物語っているような気がした。
私は思わず目を逸らすと、沈黙を破るように動いたのは若旦那だった。若旦那はひよちゃんを抱っこしたまま立ち上がった。
「僕は累に話を聞いてくる。瑠璃と紫音さんは大人しくしてること。いいね」
「は? 何で?」
若旦那は私の問いには答えず、ひよちゃんときゃっきゃしながら出て行った。
……お散歩にでも行くのかしら。
「いまいち話が分かんないんだけど」
「分かる必要は無いわ。結様ならお一人でどうにかなさるでしょう」
「それでいいの? 不安なんだけど」
「じゃあどうするというの。現世に行く方法も知らないあなたが何をするの?」
「それはそうなんだけど」
「それにあなたには決めてもらわなきゃいけないことがあるわ」
「私に? 何を?」
「死ぬか、それとも死ぬかよ」
「……は?」
紫音はいつになく鋭い目をしていた。言っていることは子供の言葉遊びのようだったけれど、とても重々しい空気を放っていた。
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