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第一章
第三十三話 有翼人の羽根(二)
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水飴に罪はないが、とろりとしたほのかな甘みを美味しいと思うことさえ憎い。
護栄はくすくすと笑っていて、いつまで笑ってるんだと言ってやろうと思ったその時、屋台へ買いに来た少年がいた。
「ああ、すみません。どうぞ」
「あ、あ……!」
「え?」
少年は護栄の顔を見ると、脱兎のごとく逃げ出した。
護栄はこれと言って何かしたわけでもないが、怯えたような顔をしていた。
「どうしたんですかね」
「あの子は父が匿っている羽無しの子です。宮廷の規定服はそれだけで恐ろしいのです」
美星は少年の顔に見覚えがあった。羽根を落としてから回復するまで時間がかかり、何度か世話をしてやったのだ。
羽無しと聞いて、ぴくりと護栄の指先が揺れたのが見えた。そして珍しく傷付いたような顔をして俯く。
「……申し訳ありません」
「護栄様が謝ることではないですよ。いつか護栄様こそ国民を救った方なのだと理解できる日が来ます」
護栄は何も返事はしてくれなかった。
いつもなら表情を変えずにそうですね、と受け流しそうなものなのに。
(意外と繊細なのね)
有翼人の傷付いた心を目の当たりにして言葉を失ってくれるのは、何だかとても嬉しかった。
「よければ父の所有する別荘地へ行きませんか。有翼人が集まっています」
「ああ、いいですね。そうしましょう」
護栄はゆっくりと顔を上げ小さく頷いた。
弟の手を引く姉のような気持ちで別荘地へ向かうと、護栄は一つの露店の前で足を止めた。
「護栄様?」
「これは……」
護栄がしゃがみ込んでまで見た商品は美星でも見たことのない商品だった。
それは白い羽根に宝石が付いている。けれど羽根は真っ白ではない。ほんの少し黄色がかっていて、それは粉となったかつての美星の羽根を思い出させた
美星は動けなくなった。いくつかの羽根飾りが陳列されているが色は一律ではない。
まるで有翼人の心の機微が具現化されたようだ。
「こりゃ護栄様じゃないですか ! いらっしゃい!」
「店主。これは何です」
「有翼人の羽根を使った飾りだよ。綺麗なもんだろう」
店主は嬉しそうに有翼人の羽根飾りを振り回した。
その振る舞いは有翼人狩りを彷彿とさせられ、羽のあった背がずくりと疼く。
美星はよろりと倒れそうになったが、護栄が支えてくれたので何とか立っていられた。
「銀五とは随分高額ですね。どうやって作ったんです。有翼人を迫害して得たのなら商品として認めることはできませんよ」
「こりゃ南の商店から卸してきたんですよ。南じゃ結構流通してます」
「南!? まさか有翼人売買が定常化してるの!?」
「え? いや、詳しいことは知らんが」
羽根を売るなら羽からもぎ取らなければいけない。
人間と獣人からしたら異質なものかもしれないが、有翼人にとっては自分の一部だ。それをもぎとり売り物にされるなど、美星には許せなかった。
怒りと恐怖で震えたが、護栄はぐっと美星の肩を強く抱きしめてくれた。
「全て私が買うので今すぐ店頭から下げてください。代金は後で部下に持ってこさせます」
「護栄様! こんな、有翼人を金で買うような事をなさるんですか!」
「出回るより良いでしょう。店主、絶対に販売はしないように。販売すれば厳罰とします」
「へ、へえ。分かりました」
護栄は店主が品をひっこめたのを確認すると、美星の肩を抱いたまま宮廷へ向けて歩き出した。
「護栄様!」
「落ち着きなさい。対策を練ります」
「……はい」
一人で歩けますと言おうとしたけれど、美星の脚は震えていた。
引っ張ってくれる護栄の腕は思いのほか力強かった。
護栄はくすくすと笑っていて、いつまで笑ってるんだと言ってやろうと思ったその時、屋台へ買いに来た少年がいた。
「ああ、すみません。どうぞ」
「あ、あ……!」
「え?」
少年は護栄の顔を見ると、脱兎のごとく逃げ出した。
護栄はこれと言って何かしたわけでもないが、怯えたような顔をしていた。
「どうしたんですかね」
「あの子は父が匿っている羽無しの子です。宮廷の規定服はそれだけで恐ろしいのです」
美星は少年の顔に見覚えがあった。羽根を落としてから回復するまで時間がかかり、何度か世話をしてやったのだ。
羽無しと聞いて、ぴくりと護栄の指先が揺れたのが見えた。そして珍しく傷付いたような顔をして俯く。
「……申し訳ありません」
「護栄様が謝ることではないですよ。いつか護栄様こそ国民を救った方なのだと理解できる日が来ます」
護栄は何も返事はしてくれなかった。
いつもなら表情を変えずにそうですね、と受け流しそうなものなのに。
(意外と繊細なのね)
有翼人の傷付いた心を目の当たりにして言葉を失ってくれるのは、何だかとても嬉しかった。
「よければ父の所有する別荘地へ行きませんか。有翼人が集まっています」
「ああ、いいですね。そうしましょう」
護栄はゆっくりと顔を上げ小さく頷いた。
弟の手を引く姉のような気持ちで別荘地へ向かうと、護栄は一つの露店の前で足を止めた。
「護栄様?」
「これは……」
護栄がしゃがみ込んでまで見た商品は美星でも見たことのない商品だった。
それは白い羽根に宝石が付いている。けれど羽根は真っ白ではない。ほんの少し黄色がかっていて、それは粉となったかつての美星の羽根を思い出させた
美星は動けなくなった。いくつかの羽根飾りが陳列されているが色は一律ではない。
まるで有翼人の心の機微が具現化されたようだ。
「こりゃ護栄様じゃないですか ! いらっしゃい!」
「店主。これは何です」
「有翼人の羽根を使った飾りだよ。綺麗なもんだろう」
店主は嬉しそうに有翼人の羽根飾りを振り回した。
その振る舞いは有翼人狩りを彷彿とさせられ、羽のあった背がずくりと疼く。
美星はよろりと倒れそうになったが、護栄が支えてくれたので何とか立っていられた。
「銀五とは随分高額ですね。どうやって作ったんです。有翼人を迫害して得たのなら商品として認めることはできませんよ」
「こりゃ南の商店から卸してきたんですよ。南じゃ結構流通してます」
「南!? まさか有翼人売買が定常化してるの!?」
「え? いや、詳しいことは知らんが」
羽根を売るなら羽からもぎ取らなければいけない。
人間と獣人からしたら異質なものかもしれないが、有翼人にとっては自分の一部だ。それをもぎとり売り物にされるなど、美星には許せなかった。
怒りと恐怖で震えたが、護栄はぐっと美星の肩を強く抱きしめてくれた。
「全て私が買うので今すぐ店頭から下げてください。代金は後で部下に持ってこさせます」
「護栄様! こんな、有翼人を金で買うような事をなさるんですか!」
「出回るより良いでしょう。店主、絶対に販売はしないように。販売すれば厳罰とします」
「へ、へえ。分かりました」
護栄は店主が品をひっこめたのを確認すると、美星の肩を抱いたまま宮廷へ向けて歩き出した。
「護栄様!」
「落ち着きなさい。対策を練ります」
「……はい」
一人で歩けますと言おうとしたけれど、美星の脚は震えていた。
引っ張ってくれる護栄の腕は思いのほか力強かった。
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