元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ

文字の大きさ
上 下
20 / 226
第一章 異世界帰還編

村長因縁の対決終結

しおりを挟む
 ぼんやりしながら机に向かい、アシュルから来た何枚もの手紙を眺める。入学してからというもの毎日手紙が送られてくる。健気な弟が可愛い。早く返事を書かなければ、もう何日も返していない。このところ気持ちが落ち着かなくて、ウェルとのことを何度も夢に見た。記憶を辿り、いつウェルに嫌われたのか何故嫌われたのか、ぐるぐると考え込んでは落ち込んで堂々巡り。生徒会はしばらくお休みを貰っているが、この間なんて授業中に注意力散漫だと叱られた。筆を持ち、紙を広げたのは良いが何も書けない。

『お兄ちゃん、ウェルに嫌われたみたいだ。』

 書きはじめてスラスラと浮かび上がった文は情けないものだった。こんなこと書いて送ったらアシュルが心配する。ダメだ、ダメだと紙を丸める。先程からこの行為の繰り返し。手紙は進まないどころか一枚も書けていない。

「そんなに悩んで、誰に書いてるの?」

 肩にぽすりと誰かの手が乗る。珍しいことに驚いて身体が大げさに跳ねる。とは言え、この部屋にいるのは一人だけ。軽薄にも聞こえる声の主は初対面だというのに絶対に仲良くなれないと思った相手、キルト・ウィチルダ。顔がいいのと同室なのもあり確実にフランドール側の攻略対象。華奢な本来のフランドールならば一瞬でコイツに犯されていただろう…。なぜならコイツは同室だと言うのに何度も何度も美少年を連れ込んでいる、マセガキだなんて言ってられない正真正銘のヤリチンだからだ!

「ウィチルダくんには関係ないだろ。急になんだ、俺みたいなのは嫌だと言ったのはウィチルダくんだろう?」
「…‥あの時のことはごめんね? ほら、聞いてたイメージと違って驚いたんだよ。ホントごめんね、許して?」
「……。」

 許さん、そんな犬みたいな顔をされても許さんぞ!
 それにお前には、まだまだ言いたいことがあるんだ!
 ええい、この際だだから言ってやるっ。

「それから何度も言うが、遊び相手を部屋に呼ぶな!」
「そ、それもごめん、もうしない。呼ばないよ、これからは誰ともしない。」
「…なんだ、やけに素直だな。」

 まっすぐこちらを見る瞳は真剣そのものだ。
 そんなふうに素直になられたら、これ以上怒れないじゃないか…。
 案外、良い子なのだろうか?

「それよりさ、さっきから何に悩んでるの? 手紙、書けないの? 誰に書いてるの?」
「うっ、質問が多いな。弟だよ、血は繋がってないが健気で可愛くてな。毎日、送ってきてくれるんだ。ただ、最近は…その…あまり上手くいかない事が多くて、何を書けばいいのか。」
「上手くいかない? もしかしてウェルギリウス殿下とのこと?」
「んっ、まぁ、なんか嫌われちまったっていうか。」
「どうして?」
「……わかんねぇ。」
「それ、僕に話してみない?」

 優しく問いかけられると、ほつれるみたいに言葉が出ていく。なんか、頭がぼんやりしてきた。じわじわと目頭が熱くなる。なんか話してたら、悲しくなってきた。笑いあったことも話したことも夢も、今まで楽しかったこと全部、無かったみたいで。ウェルから逸らされる視線や冷たい声が怖い。どうしても婚約破棄のことは言えない…でも、ウィチルダの相槌のタイミングとか急かさない感じとか、なんか話しやすくて気持ちが溢れる。言ってしまいたい…、聞いてほしい、いいや、ダメだ。どうしてこんなに話したくなってしまうのだろう。俺に兄はいない、でもいたとしたらこんな感じなのだろうか…? 丁寧に畳まれたハンカチで俺の濡れた顔をウィチルダが拭いてくれる。恥ずかしい、情けない姿、コイツに見られてるんだ。たぶんまた身体の方の年齢にひっぱられて…。

「ウェル…っ、殿下と話がしたいんだ…。」
「フランドールくんはウェルギリウス殿下のことが好きなの?」
「えっ、ああ、親友だと思っている。殿下はそう思ってはいなかったみたいだがな。」
「ふぅん、殿下は思ってない、ね。」

 含みのある微笑み、いや、ニヤ付きを浮かべたウィチルダの顔。急に現実に引き戻されて、俺は我に返った。

 って、なんで俺はウィチルダにこんなこと話してんだっ。
 あ~~~~っ!
 くそっ、騙されそうになった!
 美少年連れ込んでは食い荒らしてるやつの口車に乗せられたっ。
 今、なんか変だった!
 コイツは面白がってる。
 絶対そう!
 でなきゃ、こんな真面目に話し聞いてくれるのなんておかしい。
 貞操観念ゆるゆる野郎だぞ!
 俺の弱みでも握ろうとしてるんだ。

「…っ、今のは無しだ!」
「え? 解けちゃった…?」
「あ? お前、何か企んでるだろう。」
「へっ⁉…あ、いや、そんなことっ。」
「入学してから今の今までまともな会話もなく、挙げ句少し話せば喧嘩を売ってくる。企みがあるに決まっている、そうでなければおかしい!」

 椅子から立ち上がり、名探偵風に指をさすと、ウィチルダは顔を引き攣らせた。
 明らかに狼狽えている。
 やはりな、俺の目はごまかせない! 

 はぁ~と溜息を吐き、まいったと手を上げる。俺は勝ち誇った顔でフンと腕を組む。いやぁ~!気持ちがいいなっ。満足したところで、コツコツと窓ガラスを叩く音がして意識をそっちに向ける。伝書鳩が手紙と何かをぶら下げていた。きっとアシュルからだろう、俺はそれを受け取るべく窓辺に向かい手を伸ばした。

「えっ、なにっ…。」

 突然、背後に気配を感じたと思ったら肩と腰から腕が見えた。背には人の温かな体温。しがみつくみたいに、ぎゅっと張り付いている。

 こ、これは、もしかして…。
 抱きしめられている、のか?
 えっ⁉ なんでぇ⁉
 怖いっ! 

「うぃ、うぃちるだく~ん?」
 
 離してくれないかと、腕を優しく叩くが動かない。
 
 くっ、今度は、なんか弟みたいでっ。
 おれ、年下とか犬系に弱いんだよう…。
 
 顔を背に埋められ身動きがとれない。どうしようかと混乱しながら考えていると、抱きしめる力が更に強くなった。

「好きだ、フランドールくん。
 ウェルギリウス殿下のことは忘れたっていいだろう…?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...