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第1章 魔法の世界
24北へ
しおりを挟む出発までの準備には数日を要した。
屋敷を維持するための魔石への魔力の補充や守りの強化、そして私の身支度はすぐに整った。が、問題は祖父隠し部屋にある品々のことだった。
ルクリエディルタに頼んで旅に持っていったほうが良さそうなものを選別してもらっていたのだが、これに意外と時間がかかってしまったのである。
結果、『どれも貴重で魔法を学ぶ際に手元にあったほうが良いものが多い』
というルクリエディルタの提言により、持って行けるだけ持っていくことになった。
目の前に積まれているのはこれでもかという量の魔導書、魔法道具や魔法薬。薬草に魔石、その他もろもろ。ルクリエディルタ曰く、道中はもちろん学院に通うならば必ず役に立つらしい。
「持っていったほうが良いのはわかるんだけど、そんなに沢山は流石に入り切らないと思う」
空間拡張魔法がかけられている鞄の容量にも限界がある。無理があるのではとルクリエディルタに言うと、彼はいいえと首を横に振った。
「問題ありません。もう一つ魔法の鞄を作りましょう」
「えっ」
驚く私をよそに、ルクリエディルタが魔法をかける。何の変哲もないただの鞄にヒト型のルクリエディルタが手を翳すと、掌から光る糸が紡がれた。複雑な魔法陣が革地に刺繍されていく。
「────ふむ、こんなものでしょうか」
あっという間に魔法の鞄の出来上がりである。ルクリエディルタは出来上がった鞄に次々と荷物を詰め込む。あれだけあった大量の魔法道具やら何やらがすっぽりと小さな鞄に収まってしまった。
「……使い魔って皆こんなに凄い魔法使えるものなの?」
下手したら魔法使いよりもすごいのではないか。と、ルクリエディルタの使う魔法を目の当たりにして思う。
「魔法の行使については、個々の能力によります。ヒトの言葉を理解し文明と共に生きるものであれば、魔法を使える魔物は少なくありません。魔物の中でも知能の低いものはごまんとおりますから、そういった連中は魔力は有してますが魔法を使えない、もしくは単純な魔法のみを扱いますね」
どうやら彼が特殊らしい。それもそうか。ルクリエディルタは魔法生物の中でも上位で、光の神の眷属。それも神獣と呼ばれる存在らしい。世の使い魔すべてがこれほど巧みに魔法を使えたら、魔法使いの立場がない。
「姫様はこれから魔法を学ぶのですから、先程の魔法などはすぐに使えるようになりますよ」
「う、うーん?そうだといいな」
まったく自分が高度な魔法を使えるようになるイメージが湧かず、苦笑いで返す。それにルクリエディルタは使い魔だから主人の私を持ち上げてくれるだけだ。お世辞と取っておこう。
───次の日。私達はベルメニオール魔法魔術学院へ向けて出発した。
目指すは学院があるという北の大国エディルパレス。まずはアルバラグの王都の港から船に乗るらしい。
「くぁ、あ~、ねみ……」
「ジェハ、また夜中まで魔導書読んでたの。そんなに寝不足で大丈夫?」
大きな欠伸をかきながら歩くジェハールに、思わず呆れた目を向ける。彼は旅の支度を整える合間、書庫でひたすら本を読んでいた。集中すると時間を忘れてしまうらしい。長旅が始まるというのに、睡眠をとらずに途中で体調を崩しやしないだろうか。
「へーき。眠いだけで余裕で歩けるっつーの」
そう言う彼の確かに足取りは軽やかだ。体力は私よりよっぽどあるだろう。だけど学院まではとにかく道のりが長いのだ。無事にたどり着くためにも、常に身体は気遣っていかないと。
「焦らずに参りましょう。この者はともかく、姫様のお身体が心配です」
「私は身体強化があるから大丈夫だよ」
「いいえ。使用後の反動が心配です。一度に二、三時間程度でしたら問題ないでしょうが、継続して使い続ければ身体を壊してしまいます」
「えっ、そうなの」
知らなかった。魔力が足りてるならガンガン使っていいものかと思っていたのに、デメリットがあるだなんて。
「お嬢さん、知らずに使ってたわけ?」
「だって、魔力だけはあるし……私、筋力も体力も無いから魔力で補えるならいいやと思って」
そもそも使いすぎたら反動があるだなんて話、祖父は一言も言っていなかった。ルクリエディルタにそう反論すると、彼は困ったような顔をした。
「ヅェト様もまさかそのような使い方をなさるとは思っていなかったのでしょう。姫様のように持続的に使い続ける……否、使い続けられるのは普通では無いのです。身体強化は身体能力を上げるために体内に循環している魔力の均衡を一時的に崩し、四肢の一部に集中させ魔力を過剰に消費するもの……身体に負荷がかかるものなのですよ」
操作を誤れば魔力の枯渇に繋がり、死に至ることもある。だからこそ魔力操作は魔力の扱いに慣れるために初めに修練することが多いのだ。と、ルクリエディルタは言った。
「姫様は大変規格外の豊富な魔力をお持ちですが、身体への負荷は別問題です。なるべく身体強化は使わずに歩いて参りましょう」
「……はい」
懇々と諭されて大人しく頷く。身体が痛くなったり寿命が縮んだりするのは勘弁願いたい。もちろん死ぬのも嫌だ。魔力が多いからって使いまくっていたが、ほどほどにしなければ。
「───そういえば今更なんだけど、学院には誰でも入れるものなの?」
魔法を学ぶ学院ということは魔法を使えることは絶対条件だろうが、それ以外の入学要件もあるのではないだろうか。年齢とか、試験とか。疑問に思って口に出すと、ルクリエディルタはきょとんとした反応を返した。
「ふむ、少なくとも姫様が入学を断られることは万に一つも無いと思われますが……」
「そうなの?私は、ってことはジェハは?」
私が入れる理由の要件はいくつか思いあたるが、私だけが入学出来ても意味が無い。
「……申し訳ありません。ヅェト様の在学時にお供することはございましたが、私も学校の全てを知っているわけではなく……入学の方法については詳しくは存じません」
申し訳なさそうにルクリエディルタは耳を下げる。彼はあくまで使い魔だ。魔法の知識はあっても、世間のことまでは詳しくないというのは仕方がないのかもしれない。
「そっか……行ってみないと何にもわからないんだ……」
「ま、なんとかなるでしょ」
簡単に入れるとは俺も思ってねぇし。とジェハールはあっけらかんと言う。先行きが不安な私とは反対に、彼は随分と楽観的だ。いや、前向きと言うべきだろうか。ここでウダウダ悩んでも仕方がないと、割り切っているのだろう。
(なんとかなるかな……本当に?)
学院に入学する為に旅をするのに、たどり着いた先で入学出来ないかもしれない可能性がある。それでも向かうというのは、かなり勇気のいることだ。祖父のことを話せば門前払いはないだろうとは思うが、やはり不安である。
「お嬢さん、眉間にすげー皺」
「う゛」
考えが顔に出ていたのだろう、顰めた面を指摘されて潰れたカエルの様な声が口から漏れる。
「まず無事に着かねーことには何もわかんねぇんだから、悩んだって無駄だって」
「……そうだね、うん」
悩んだところでもう出発してしまっているのだし、あとは辿り着くまでひたすら頑張るしかない。先のことは考えないようにしよう。まずは一つ目の目的地まで歩くことに集中しなければ。
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