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第1章 魔法の世界
9異国(1)
しおりを挟む「───うそぉ」
そこはまさに異国だった。
燦々と降り注ぐ太陽の光に、南に広がる大海原。大きな港には沢山の船が停泊しており、広場には採れたての魚や果物を売る屋台が立ち並ぶ。街の建物はレンガ造りだろうか。高さの異なる四角い建物が数え切れないほど密集していた。
その中心の高台に、豪奢で巨大な宮殿が建っている。玉ねぎのような形をした青いドーム型の屋根が、宮殿を飾るの王冠のように輝いていた。
「街っていうか、国じゃん……」
目の前の光景に唖然と立ち尽くす。まさか砂漠越えの末に辿り着いた場所がこのような場所とは思いもしない。
「流石にこの世界観は予想してなかったよ……」
行き交う人々はゆったりとした服を身に纏っている。前世でいうところの中東の民族衣装に近いだろう。他国の人間と思われる装いの人も中にはいるが、国全体が千夜一夜物語の世界の雰囲気だ。耳慣れない音楽がどこからか聴こえてくる。風に乗って香ってくるスパイスや香水の匂いに酔いそうになり、思わず口元に手を当てた。
「……とりあえず、買い出ししなくちゃ」
ここで立ち止まっていても仕方がない。人混みをかき分けながら、ひとまず市場へ向かうことにした。
すれ違う女性たちの多くが髪の毛を布で隠しているのに気づき、私も倣ってローブのフードを深く被る。暑いが我慢するしかない。
それにしても、国に立ち入るのに入国手続きのようなものが無かったが大丈夫だろうか。市街地への入口は砂漠の端に面していた。そこから足を踏み入れたのだが、見張りの人間が立っているわけでもなかったため勝手にお邪魔してしまった。不法入国とか、後になって罰を受けたりしないだろうか。不安になってきた。
「お嬢ちゃんお嬢ちゃん!果物はどうだい?安くしとくよ」
「……あ、えっと」
唐突に話しかけられて、戸惑いながら立ち止まる。沢山の果物が並べられた屋台から、女性が身を乗り出すようにこちらを見ていた。
「どっから来たんだい?見かけない格好だねえ」
「ええと、東?のほうから……?」
祖父以外の人間と話すなんて十二年振り、というか前世以来で上手く言葉が出てこなかった。
声をかけてきた果物屋台の女店主は、私の格好を物珍しそうに見つめた。やはりこの辺では目立つ格好なのだろう。入国して今まであまり人目を気にせずにいたが、もしかしたら怪しむ人もいたかもしれない。
見慣れぬ格好の子供。珍しがられるだけでなく、子供が一人で歩いているというだけで目をつける輩もいるだろう。目的は物盗りか人攫いかは解らないが、最大限警戒しておかなければ。
「お嬢ちゃん?」
「あ、すいません。考え事をしてて……果物美味しそうですね。おすすめはありますか」
「そうさねぇ……これなんかどうだい?」
気を取り直して買い物をしようと店主に尋ねる。少し悩むそぶりを見せながら店主が手に取ったのは、手のひらサイズのオレンジ色の果物。形を見るに、おそらく瓜の一種だろう。
「アルキパテス産の"トルパ"さ。今朝商船から仕入れたばかりだよ」
「じゃあ、それを三つ下さい」
三本指を立ててそう言うと、店主は「はいよ!」と笑顔で頷いた。"アルキパテス"という名称に聞き覚えは無い、というか全く知らないが、言い様からするに国か都市などの名前だろうか。
代金を払って果物を受け取り、魔法のかかった鞄に仕舞う。そこそこの重さがあるはずだが、鞄に入れた途端にまったく重量を感じなくなった。魔法道具って便利だ。
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掲載は不定期になります。
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