月の下で夢を見て

希塔司

文字の大きさ
上 下
8 / 12
第1章 エーベの街の少女

7話「飼い主」

しおりを挟む
 エリオットたちは昼くらいにようやく出発することになった。二日酔いになっている2人を馬車の中で休ませて馬を引くリリアナは呆れながらエリオットに言った。

「私大人になったらこんな姿だけは見せたくないなー」

「あはは、酒は飲んでも飲まれるなっていうからね。昨日はほんとに騒がしかったから反動がすごいよね。」

 2人は今も二日酔いによる頭痛などに襲われて動けない。定期的に水を飲ませているが回復までには時間がかかるだろう。

 夕方まで歩いたところで野営をすることにした。馬車を使って移動しているからこのペースだと明日にはその洞窟にたどり着く。そして2人は日も暮れるくらいのころにやっと回復した。

「いやーごめんね足引っ張っちゃって。
2人は休んでて、マイクとご飯作るから。」

 ベラはマイクと一緒に今日の夕ご飯を作ってくれると言う。やはり勇者は戦う以外にも様々なことができるらしい。肉の香ばしい香りとスパイスの刺激臭、そして魚が焼ける音と匂いにすでにリリアナはお腹を鳴らしながら待っていた。

「そういえばエリオットは何か魔法覚えたの?この間買った本の。」

「うん、2つ覚えたよ。実戦で使う時が来たら見せるよ。」

 エリオットは短期間の中で少しずつ本を読んで補助や回復の魔法を覚えていた。少しでもみんなの役に立ちたいと思うエリオットの気持ちがより覚えを早めていた。

「補助や回復魔法か。そしたらエリオットは神官タイプって感じだね!
リリアナは攻撃や妨害魔法を扱う魔法使いタイプ、マイクは武器を中心に使う戦士タイプ。
本格的にパーティーって感じの構成だね。」

「確かに言われてみればバランスはいいよな。ベラは攻守両用で動けるし、あとは戦術を磨けばこの依頼はもちろんいろんなところで活躍できそうだ。」

 料理を作りながら自分たちのパーティーについて打ち合わせをする2人。前衛が2人、中衛のリリアナ、そして後衛のエリオットとバランスが取れている。モンスターと戦う際の基本はできている。あとはそれぞれ戦術を考えどなようにして敵と対するかを考えていく。
 
「戦術は戦ってる間に何か思いつくかもしれないね、さてとできた!」
そんな話をしている間に料理が完成した。肉と魚をふんだんに使った女性陣の好物がたっぷり使われた料理だ。

「今日も美味しそー!」

「ささ、冷めないうちに食べようぜ。」
こうして今日も楽しく過ごし、明日の突入に備えることになった。


  
       ーーーーーー

 次の日のお昼、ついに洞窟の前までたどり着いた。周りには露出している鉄鉱石や結露が長い時間で結晶化した石などが散らばっている。この間まではそれらを狙って冒険者が度々訪れていたが現在はあの虚構種の住処にされてからは誰1人近づいてはいない。

 中はとても暗く、20m先すらも確認できない状態になっている。足場が悪く崖が多いため滑って落ちたらまず助からない。

「エリオット気をつけてね。今火を灯すけど足元はしっかり見てね。」

「大丈夫だよ、しっかりと確認しながら歩くから。」

 エリオットは注意しながら歩いていく。洞窟の中に他のモンスターが住んでいる気配はない。おそらくあの虚構種が暴れ回って食べたり撃退してしまった影響だろう。そのおかげで足跡などはしっかりと残してあるため、どこに拠点を置いているかはわかる。

「しっかし中はジメジメと湿気が多いな、汗が止まらねぇよ。」

「だよね、こんな場所に住んでるなんて虚構種はやっぱり変だよ。」

 普通生物が住み着くにはある程度の気温や湿度など様々な要因が絡み合う。例えば暑い地方ではラクダだったり寒い地方ではオオカミなどが体温などを調節できるように進化していった。
 だが虚構種は何者かが人為的に作ったのか、その場所に適した調節を自ら行うことができる。ヒョウやカメレオンなどができる能力を持っている。何かしらの遺伝子組み替えなどをされないとまずできない。その点を考えると世界中に出没する虚構種は本当に異質な存在として扱われる。

 エリオットたちは途中の入り組んだ崖を登ったり流れている川を渡ったりしながら洞窟の中を探検していた。すると奥にいないはずの人影が見える。近くまで寄っていくとそこで焚き火をしている若い青年がいる。


「やぁ、君たちもここに来たのかい?」

「こんにちは、あなたはどうしてここに来たんですか?」

 いかにも怪しいローブ姿でいる青年。この洞窟は湿気が多いからそんな厚着は着れないはずなのに汗一つかいていない。警戒していきながらリリアナは聞いてみることに。


「いや実はね、僕のペットが1匹逃げ出してしまって。そいつちょっと厄介なところがあるんだよ。」


「厄介なこと?」


「そうそう、例えばいろんな環境に適するようにしたら喜んでその地にいる動物とかを狩り出すし。あと特殊な呪いなんかも付与できるように改良しちゃったから大変で...」
にやけながらそう言う青年を余計に怪しんでしまうリリアナ。するとエリオットはあることを思い出す。


「それってもしかして僕たちが追っているキマイラにそっくりじゃないですか?」


「なんだ君たち!キマイラを追っていたんだね、ちょうど今僕が話していたのもそいつのことなんだ。」


「てことはあなたがあの虚構種の飼い主なんですか?」
核心に迫ったリリアナ。青年はあっさりと答えを言った。

「そうだね、僕があいつら虚構種を作ったからね。ってそこの猫耳の人、さすがに待ってこれには事情があるんだよ。

虚構種を作ったのにはしっかりと理由があるんだよ。君たちは古代文明についてどれだけ知ってるかな?」

 突然古代文明について問いただしてくるのには何かわけがあると思った一行は黙って聞くことにした。

「人類どうしで禁忌の兵器を用いて争っていた時代、虚構種はその兵器を開発する副産物で誕生したんだよ。もちろん僕もその時代から今までずっとこの世界を見てきた。人は反省をしたとわかった僕は虚構種を処分しようと一斉に集めたんだけど...今回そのキマイラが逃げ出してしまったってわけだよ。これでわかったかな?」


「あなたのせいで今1人の少女が悲しんでるんですよ!それはどう考えてるんですか!?」

 エリオットは耐えきれずに怒鳴ってしまった。

「だから僕が探しにきたってわけだよ。
それに虚構種たちは本当はまだ生きていたいはずさ。そりゃ旧時代に人間のためにずっと働いていた守護獣のようなものだからね、自分のために生きようとしている彼らを皆殺しにするのは今考えると狂気の沙汰でしかないのさ。
 僕だって本当は彼らを自由にしたい、一緒に戦争を勝ち抜いた仲間だからね。けど今の時代の人間には理解はされずに強いモンスターとしていずれは処理される。ならせめて仲間として最期を与えてやるのが道理ってものじゃないかな?」

 青年は事の真相をありのまま話していた。嘘をついているとは言えないが何かが引っかかるとエリオットは感じていた。

「あなたは一体?」

「僕はリアーレ。旧時代から存在する現実の調停者さ。」

 現実という曖昧な定義をエリオットたちに伝えた後、彼は立ち上がりどこかへ歩いていった。


       ~続く~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~

日暮ミミ♪
恋愛
現代の日本。 山梨県のとある児童養護施設に育った中学3年生の相川愛美(あいかわまなみ)は、作家志望の女の子。卒業後は私立高校に進学したいと思っていた。でも、施設の経営状態は厳しく、進学するには施設を出なければならない。 そんな愛美に「進学費用を援助してもいい」と言ってくれる人物が現れる。 園長先生はその人物の名前を教えてくれないけれど、読書家の愛美には何となく自分の状況が『あしながおじさん』のヒロイン・ジュディと重なる。 春になり、横浜にある全寮制の名門女子高に入学した彼女は、自分を進学させてくれた施設の理事を「あしながおじさん」と呼び、その人物に宛てて手紙を出すようになる。 慣れない都会での生活・初めて持つスマートフォン・そして初恋……。 戸惑いながらも親友の牧村さやかや辺唐院珠莉(へんとういんじゅり)と助け合いながら、愛美は寮生活に慣れていく。 そして彼女は、幼い頃からの夢である小説家になるべく動き出すけれど――。 (原作:ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

処理中です...