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一章
第三十九話
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圭は自身の心に住み着いていた黒い感情を吐き出して精神的に落ち着いたのか、憑き物が落ちたような表情をしながら歩いている。
イルヴァから見れば、先ほどの圭の姿は急に遠くを見たかと思えば、次の瞬間には確かな怒りを湛えた瞳で神を呪う言葉を吐き出したのだ。
正直なところ困惑していた。
だが、それと同時に不安でもあったのだ。
いつまた同じ眼をするか分からない。
あの瞳は暗く、怒りと絶望を内包しているように思えた。
もしかしたら圭が自分の前からいなくなるかもしれない、などとイルヴァは柄にもなく不安になった。
だからこそこう言うのだ。
「神はいない。もし仮にいるのであればそいつはただの屑だ。でなければこんな理不尽な事は起こらないはずだからな」
イルヴァは慰めのような言葉を口にした。
お前は正しいと、理不尽を呪うお前のその感情は正当なものだと擁護した。
その言葉の意味を理解したからか、フッと笑いながら何かを振り払うように頭を横に振った。
「そうだな……うん、きっとそうだ」
果たして神と呼ばれる存在が実在するのか、それは古龍にすら分からない。
* * *
少し暗い雰囲気を纏いながらもスノウリーフに帰って来た二人は、すぐに冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに入って来た二人を迎えたのは、やはりと言うべきかヴァイオレットだった。
ヴァイオレットはこちらに来い、と言わんばかりにじっと圭の眼を見つめていた。
その目線に気づいたのかは定かではないが、圭は冒険者ギルドで唯一の知り合いの元に足を向けた。
そんな圭の姿にじとっとした眼で見ていた者がいたのだが、それに気がつく事は無かった。
「ようこそいらっしゃいました、圭さん。本日はどのような御用でしょうか」
そう言いながら微笑む彼女の姿を遠目から見ていた他の冒険者達は驚愕とざわめきをもって圭達の方を見た。
時折「どういうことだ?」とか「あのヴァイオレットさんが…………笑った、だと?」とか「そんな……馬鹿な…………」などと言った言葉が聞こえてきたとかこなかったとか。
「『パワーベア』の討伐が終わったからその報告でね」
そう圭が言うと、聞き耳を立てていた冒険者達は別の意味を込めた驚愕の目線を圭達に注いだ。
何せ『パワーベア』はここら辺ではかなり強いモンスターにあたる。
そのモンスターを倒せるのは当然の事ながらかなり実力がある冒険者でなければならない。
だが、圭達はそれほどの実力者に見えなかったのだ。
「もう終わったのですか、やはり早いですね」
ヴァイオレットはそう言いながらあたかもその結果が当然の事であるかのようにさらりと流した。
まあ、圭の実力をじかに目の当たりにしたのだ。
ヴァイオレットのその無反応も当然と言えるだろう。
イルヴァから見れば、先ほどの圭の姿は急に遠くを見たかと思えば、次の瞬間には確かな怒りを湛えた瞳で神を呪う言葉を吐き出したのだ。
正直なところ困惑していた。
だが、それと同時に不安でもあったのだ。
いつまた同じ眼をするか分からない。
あの瞳は暗く、怒りと絶望を内包しているように思えた。
もしかしたら圭が自分の前からいなくなるかもしれない、などとイルヴァは柄にもなく不安になった。
だからこそこう言うのだ。
「神はいない。もし仮にいるのであればそいつはただの屑だ。でなければこんな理不尽な事は起こらないはずだからな」
イルヴァは慰めのような言葉を口にした。
お前は正しいと、理不尽を呪うお前のその感情は正当なものだと擁護した。
その言葉の意味を理解したからか、フッと笑いながら何かを振り払うように頭を横に振った。
「そうだな……うん、きっとそうだ」
果たして神と呼ばれる存在が実在するのか、それは古龍にすら分からない。
* * *
少し暗い雰囲気を纏いながらもスノウリーフに帰って来た二人は、すぐに冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに入って来た二人を迎えたのは、やはりと言うべきかヴァイオレットだった。
ヴァイオレットはこちらに来い、と言わんばかりにじっと圭の眼を見つめていた。
その目線に気づいたのかは定かではないが、圭は冒険者ギルドで唯一の知り合いの元に足を向けた。
そんな圭の姿にじとっとした眼で見ていた者がいたのだが、それに気がつく事は無かった。
「ようこそいらっしゃいました、圭さん。本日はどのような御用でしょうか」
そう言いながら微笑む彼女の姿を遠目から見ていた他の冒険者達は驚愕とざわめきをもって圭達の方を見た。
時折「どういうことだ?」とか「あのヴァイオレットさんが…………笑った、だと?」とか「そんな……馬鹿な…………」などと言った言葉が聞こえてきたとかこなかったとか。
「『パワーベア』の討伐が終わったからその報告でね」
そう圭が言うと、聞き耳を立てていた冒険者達は別の意味を込めた驚愕の目線を圭達に注いだ。
何せ『パワーベア』はここら辺ではかなり強いモンスターにあたる。
そのモンスターを倒せるのは当然の事ながらかなり実力がある冒険者でなければならない。
だが、圭達はそれほどの実力者に見えなかったのだ。
「もう終わったのですか、やはり早いですね」
ヴァイオレットはそう言いながらあたかもその結果が当然の事であるかのようにさらりと流した。
まあ、圭の実力をじかに目の当たりにしたのだ。
ヴァイオレットのその無反応も当然と言えるだろう。
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