氷結セシ我ガ世界

晴れのち曇り

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一章

第二十八話

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「ふう……結構美味かったな」

 あわやロリコン疑惑を突きつけられた圭だったが、断固として認めることは無かった。
 だが、その頑なな態度が逆にイルヴァの疑惑を大きくする結果となっていたのだが、圭はそれを知ることは無かった。

「ふむ……確かに美味かった。飯屋だけでもやっていけそうなくらいだったな」

 あの伝説の古龍も唸る程の味であった。
 見た目は普通の肉料理だったが、味は香辛料を効かせたのかスパイシーで気づいた頃には全て食べ終わっていた。

「あの値段であの味ならかなり良心的だろう」

 圭が先ほどの食べたばかりの料理の味を思い出しながら呟くと、横にいたイルヴァが反応した。

「ふむ……香辛料はこの辺りでは高級品と聞く。おそらく赤字になっているのではないか?」

「高級品なのか……だとしたら確実に利益度外視なんだろう。売れば売るほど赤字がふえるぞ、あれは」

 そんな店にとっては余計なお世話でしかない心配をしながら席を立った。

「さて、そろそろ部屋に行くか。あの子ももう準備が出来ているって言ってたしな」

 あの少女が食事中に「お部屋の準備が出来ました!」と部屋の鍵を渡しながら言いに来ていたのだ。
 いつの間に、と言いたくなるほどに手早く終わらせてくれたので、かなり驚いた。
 何より店内にウエイトレスが彼女しかいないのだ。
 否が応でも彼女の能力の高さを感じさせられた。

「そうだな、では行こうか」

「そう言えば、今更だが一部屋しか取れなかったが良かったのか?」

 イルヴァの方に向きを変え、一応といった風に聞いた。

「ああ、構わない。…………例え圭、お前に襲われようとも軽く捻ることが出来るからな」

「ははは……確かに、その場面が眼に浮かぶようだ」

 圭は乾いた笑いを漏らしながら、イルヴァの物騒な言葉に同意する。
 実際に圭がイルヴァを襲おうものなら、物理的に腕を捻られてねじ切られること請け負いだろう。
 一捻り(物理)というやつだ。

「ま、まあ……襲おうなんて思っちゃいない。一応聞いてみただけだ」

 どこか言い訳がましく聞こえる言葉をイルヴァはからかい混じりの疑いの眼を圭に向けた。

「ほお……ま、良いだろう。さっさと部屋で休むぞ」

 そう言ってイルヴァは先に部屋がある二階に上がって行った。

 その姿を見ながら思わずため息を零す。

「ふう……大丈夫だよな?俺、襲わないよな?」

 イルヴァに問い詰められて少し不安になっていた。










「…………部屋に行くか」

 考えるのが馬鹿馬鹿しくなったのか、頭を振って階段へ足を向けた。





 夜の帳は深く落ちていく。

 これから先に彼らを待つものなど誰も知るはずが無いのだ。







 そう、誰も。
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