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一章
第十四話
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自分はこのままずっと不運のままなのかと不安に震えていた圭だったが、この先の事など今考えても仕方ないと半ば諦めた。
「それよりも、このステータスは誰にもバレないようにしないとな」
どのような眼で見られるかなど、想像するのに苦労はしない。
化け物を見るような眼で見られ、迫害される。そんなところだろう。
圭は自分で想像した事に僅かな恐怖を抱いた。
「そろそろ戻るか。日も暮れてきたところだしな」
一つ伸びをして辺りを見渡す。
来た時と変わらない雪景色、
弱者の生存を許さない環境、
燃えるような夕焼け、
美しくも厳しく残酷な世界、
地球のそれも日本から来た人間には厳しい環境、
それでも、
新道 圭は、
この世界で、
生きていく。
ーーーそう決めた。俺はこの世界で生きていく。この残酷で、目が潰れそうなほど明るく美しい世界で。
歩きだす、スノウリーフへと。
その足に迷いは感じられなかった。
冒険者ギルドに戻って来た。先程の受付嬢、ヴァイオレットを探す。
「あそこか」
どうやらずっと受付にいたらしい。しかし、そうだとは全く感じさせることのない無表情であった。
「おや、圭さん。もうお帰りですか?」
ヴァイオレットもこちらに気づいたようで、圭に話しかけて来た。
「ああ、依頼を終わらせて来た」
そう言うと分かっていたのではないかと聞きそうになるほど迅速に対応した。
「かしこまりました。それではステータスカードの裏側をご提示ください。討伐数を確認いたします」
直ぐに転移前から着ていた黒いジャケットの裏地の胸ポケットからカードを取り出した。
「………………確かに、確認いたしました。ありがとうございます。それではカードをお返し致します」
確かに『フリージングボア十匹』と討伐欄に書かれていたのを確認したヴァイオレットは圭にステータスカードを返した。
しかし、元特級冒険者の女性は自分の中に漂う疑問を晴らすべく圭に問いただした。
「一体どうやったのですか?貴方は未だ三級冒険者。それも今日冒険者になったばかりの新人です。戦闘経験もそう多くはないはず。
だと言うのに依頼を1日でこなしてみせた。いくら『フリージングボア』という弱いモンスターだったとしても、2日は最低かかります」
そう言い切った。それに対し圭はそんな事はないと首を横に振った。
「それはおかしいだろう。あんなモンスターに2日もかかるものか」
確かに『フリージングボア』は弱かった。圭ほどのステータスが無くとも容易く倒せるほどに。
それにあの『フリージングボア』たちは群れてすらいなかった。最高でも3匹同時に相手をした程度だ。
その程度の相手に2日もかかるものだろうか。
答えは否である。ただし、戦闘で言えばであるが。
『フリージングボア』はその小柄さから発見するのが難しく、時間がかかるらしい。
だからヴァイオレットはどうやったのか、何か直ぐに見つけられる方法でも見つけたのか、と気になったのだ。
だが、ヴァイオレットの考察は今回に限って言うならば外れている。圭はただ文字通り運が良かっただけなのだ。
ヴァイオレットが言わんとする事とそれが的外れな考察をしている事を察した圭は天井を見上げた。
ーーー何故今回に限って運が良いのか。幸運値5とは一体何だったのか。
そうたため息を吐きそうになったが、ふとあることに気づいた。
ーーーもしかして、この今の状況が「不運」ということか?無駄な詮索をされるという今のこの状況が?…………ああ、幸運値5というのはこういう事か。
そう納得してしまった自分に今度こそため息を吐いた。乾いた笑いと共にそれはギルドの喧騒に消えていった。
「それよりも、このステータスは誰にもバレないようにしないとな」
どのような眼で見られるかなど、想像するのに苦労はしない。
化け物を見るような眼で見られ、迫害される。そんなところだろう。
圭は自分で想像した事に僅かな恐怖を抱いた。
「そろそろ戻るか。日も暮れてきたところだしな」
一つ伸びをして辺りを見渡す。
来た時と変わらない雪景色、
弱者の生存を許さない環境、
燃えるような夕焼け、
美しくも厳しく残酷な世界、
地球のそれも日本から来た人間には厳しい環境、
それでも、
新道 圭は、
この世界で、
生きていく。
ーーーそう決めた。俺はこの世界で生きていく。この残酷で、目が潰れそうなほど明るく美しい世界で。
歩きだす、スノウリーフへと。
その足に迷いは感じられなかった。
冒険者ギルドに戻って来た。先程の受付嬢、ヴァイオレットを探す。
「あそこか」
どうやらずっと受付にいたらしい。しかし、そうだとは全く感じさせることのない無表情であった。
「おや、圭さん。もうお帰りですか?」
ヴァイオレットもこちらに気づいたようで、圭に話しかけて来た。
「ああ、依頼を終わらせて来た」
そう言うと分かっていたのではないかと聞きそうになるほど迅速に対応した。
「かしこまりました。それではステータスカードの裏側をご提示ください。討伐数を確認いたします」
直ぐに転移前から着ていた黒いジャケットの裏地の胸ポケットからカードを取り出した。
「………………確かに、確認いたしました。ありがとうございます。それではカードをお返し致します」
確かに『フリージングボア十匹』と討伐欄に書かれていたのを確認したヴァイオレットは圭にステータスカードを返した。
しかし、元特級冒険者の女性は自分の中に漂う疑問を晴らすべく圭に問いただした。
「一体どうやったのですか?貴方は未だ三級冒険者。それも今日冒険者になったばかりの新人です。戦闘経験もそう多くはないはず。
だと言うのに依頼を1日でこなしてみせた。いくら『フリージングボア』という弱いモンスターだったとしても、2日は最低かかります」
そう言い切った。それに対し圭はそんな事はないと首を横に振った。
「それはおかしいだろう。あんなモンスターに2日もかかるものか」
確かに『フリージングボア』は弱かった。圭ほどのステータスが無くとも容易く倒せるほどに。
それにあの『フリージングボア』たちは群れてすらいなかった。最高でも3匹同時に相手をした程度だ。
その程度の相手に2日もかかるものだろうか。
答えは否である。ただし、戦闘で言えばであるが。
『フリージングボア』はその小柄さから発見するのが難しく、時間がかかるらしい。
だからヴァイオレットはどうやったのか、何か直ぐに見つけられる方法でも見つけたのか、と気になったのだ。
だが、ヴァイオレットの考察は今回に限って言うならば外れている。圭はただ文字通り運が良かっただけなのだ。
ヴァイオレットが言わんとする事とそれが的外れな考察をしている事を察した圭は天井を見上げた。
ーーー何故今回に限って運が良いのか。幸運値5とは一体何だったのか。
そうたため息を吐きそうになったが、ふとあることに気づいた。
ーーーもしかして、この今の状況が「不運」ということか?無駄な詮索をされるという今のこの状況が?…………ああ、幸運値5というのはこういう事か。
そう納得してしまった自分に今度こそため息を吐いた。乾いた笑いと共にそれはギルドの喧騒に消えていった。
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