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38話 部長の恋

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 ゴールデンウィークが終わって、大学が始まる。朝起きると玉枝が朝食を作っている。
 はちみつを塗った食パンにオムレツ、サラダである。九郎は「いただきます」をして食べる。
 「玉枝さん、おいしいよ。」「よかった。」
九郎は朝食を食べ終わると着替える。玉枝もネグリジェ姿から服を変える。
 白いシャツにデニムのスカート、ミントグリーンのロングカーディガンを羽織っている。
 インターフォンが鳴り九郎が出るとあやめが立っている
 「おはよう、九郎。」「あやめ、おはよう。」
 「借りていた本返すから続きを貸して。」「うん、いいよ。」
九郎は本を取りに行く。玉枝があやめに言う。
 「あやめちゃん、おはよう。かわいいわよ。」「玉枝さん、おはよう。服素敵ですよ。」「ありがとう。」
九郎が戻ってきてあやめに本を貸す。あやめは九郎の貸すラノベを気に入っているようだ。
 3人は、アパートを出て、通りまで行くと玉枝は気配を小さくして見えなくなる。
 九郎とあやめは一緒に大学へ向かう。あやめが九郎に言う。
 「休みどこかへ行った。」「どこにも行ってないよ。」
 「私もよ。」「友達は。」「さあ、スマホで連絡とっていたけど、どこにも行ってないみたい。」
大学に入るとつよしが声をかけてくる。
 「お二人さんおはよう。」「つよし、おはよう。」「木村君、おはよう。」
 「九郎、どこかに行ったか。」「行ってないよ。」
 「俺はみこと温泉一泊旅行したよ。」「僕だってあやめの手料理を食べたよ。」
 「俺は混浴した。」「混浴。」
九郎は負けたと思う。あやめが反応する。
 「混浴って変なことしてないでしょうね。」「そりゃ、2人きりだぜ。」
あやめは想像する。そして赤くなる。九郎は混浴には慣れている。毎晩、玉枝が体を洗ってくれている。
 3人は教室に入ると席に着く。しばらくすると美琴が来て席に座る。あやめが美琴に言う。
 「みこ、混浴したの。」「そうよ、つよし、緊張して風呂で転んだのよ。」
 「それは内緒だろ。」「そうだっけ。」
つよしが抗議する。つよしが思い出したように言う。
 「九郎、部長が話あるらしいぞ。」「分かった、部室に寄るよ。」
九郎が答える。1日の講義が終わって4人はハイキング部の部室に行く。
 部室には部長と2人の先輩がいる。九郎は部長に聞く。
 「部長、話って何でしょう。」「・・・」
部長は黙ったまま深呼吸を始める。そして、九郎に言う。
 「玉枝さんを、デートに誘いたいんだ。どうしたらいいと思う。」
 「お姉さんは、誰とも付き合う気がないようなことを言ってました。」
部長は突然、土下座をする。その反動で椅子やテーブルが飛ぶ。部室にいた者たちがのけぞる。
 「九郎、頼む。」「お姉さんに聞いてみますけど保証はしませんよ。」
 「分かったお願いする。」「部長、なんでそこまでしてデートしたいのですか。」
 「分からんのか。」「はい。」
 「玉枝さんは素晴らしい人だ。寝ても覚めても玉枝さんのことを考えてしまうんだ。」「つまり恋をしていると。」
 「そんなありきたりな言葉で表さないで欲しい。彼女は私にとって女神さまだー」
九郎は怨霊なんだけどと思う。しかし玉枝は人間なら理想の彼女になるに違いない。
 「そんなに思われたら悪い気はしないわね。」
玉枝がうれしそうに言う。
 この後、男子部員が来るが、みんな九郎に玉枝とのデートのセッティングを頼んでくる。九郎はその全てを断る。
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