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1話 添い寝

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 翼九郎よくくろうは、幼い時から人に見えないものが見えていた。
 九郎は、近所から一人で話をしているとか誰もいないのに誰かと遊んでいるようだと言われ気味悪がられる。両親も九郎の行動を心配していた。
 彼は、小学生になって自分に見えているものが他の人には見えていないのだということを理解する。高学年になって、彼は自分に見えているものが霊や妖怪だということを知る。
 そして、彼は、霊や妖怪を見えないものとして行動することを覚えていく。九郎は、普通の中学生として、普通の高校生として過ごす。
 九郎は、自分の秘密を知られることを恐れて過ごしたため、人に接するのがちょっと苦手になっている。そのため友達は少ないし、恋愛をしたこともない。
 彼は、西本にしもと大学に合格して、そこの文学部に行くことにする。
 両親は心配する。大学生活は、下宿になるのだ。コミュニケーション能力に疑いのある息子を一人で生活させて良い物かと悩む。
 父親にあっては、毎日電話で確認しないと野垂れ死にするかもしれないぞと言いだしている。
 九郎は、そんな両親を説得して一人暮らしする権利を獲得する。彼は下宿を探し始める。
 なるべく部屋代は安く済ませたいので、難のある物件を漁る。中には事故物件も含まれている。
 見ていくが、首を吊った霊がいたり、妖怪のようなものがいたりする。
 風呂に老人が座っているものもある。さすがに狭い風呂で老人と混浴は嫌だ。
 不動産業者が言う
 「すぐに入居者が出て行ってしまう物件がありますが見ますか。」「部屋代はどうですか。」
 「相場の半額ほどです。」「ぜひ、見せてください。」
そのアパートはまだ新しく日当たりもよく、大学に近い場所にある。
 不動産業者に部屋を見せてもらう、部屋は205号である。
 1DKの6畳の部屋にベランダがある。光ケーブルも引かれている。何より部屋に霊や妖怪がいないのだ。
 九郎は不動産業者に聞く
 「どうして入居者は出て行ったのですか。」「怪奇現象が起きるそうです。」
 「そうですか。ここに決めます。」「本当に良いのですか。」「はい。」
優良物件で部屋代半額である。ここしかないと九郎は考える。
 大学の入学式は、4月3日なので、引っ越しは4月1日にする。運ぶ荷物は主に衣類だけなので親の車で運んでもらう。
 机とベットは組み立て式の物を下宿の近くのホームセンターで買い、親の車で運んでもらう。
 机とベットを組み立てると日が暮れてくる。九郎は夕食をコンビニで買って食べ、風呂に入ると1日の疲れが出たのかベットに倒れ込むように寝込む。
 深夜、彼は熱い吐息で目を覚ます。 寝たまま目を開くと美人がこちらを見ている。
 九郎は驚き、飛び起きると彼の横に全裸の美女が横たわっている。
 「お、お、お・・・」
九郎は驚きのあまり声が出ない。相手が人でないことも判断できない有様である。
 「私が見えるみたいね。」
女は言う。
 「幽霊なのか。」
九郎が聞くと女は答える
 「怨霊よ。」
女の答えに九郎は後ずさる。霊の中でも怨霊はやばいと思う。
 「何、怖がっている振りしているの。」
女は九郎の下半身を見ながら言う。
 九郎は女に言われて気づく
 「こ、こ、これは生理現象だ。この淫魔め。」「お・ん・り・ょ・う」
女は言いながら近づいてくる。
 「近づくな。服を着てくれ。」
九郎は、ベットに落ちていたTシャツを女に投げつける。彼は裸を見ないようにする。
 お色気でとり殺されてはたまらない。。
 女はTシャツを受け取ると
 「着てもいいの。は・だ・か・見たいでしょ。」「怨霊の裸なんか見たくない。」「分かりました。服着ちゃうわよ。」
女はそういうとネグリジェ姿になる。
 「わざとやっていたのか。」
九郎が言うと女は笑う。
 「遅いから寝ましょ。添い寝してあげる。」「結構です。床で寝ます。」「私は床でもいいのよ。」
九郎は女に懇願する
 「どうか、構わないでください。」「だーめ。」
女は九郎に抱き着く。九郎は諦め、女と添い寝をする。彼は必死に色欲を抑え込む。
 こうして九郎の下宿生活の1日目が終わる。
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