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番外編 イレギュラー
予期せぬ訪問者
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壮一さんと想いが通じ合って何度もお互いの家を行き来した。今日は私の部屋でまったり過ごすごとになっている。彼の部屋と違って狭いから少し片付けをしなくてはと腰を上げた。それが間違い。
「わぁ……懐かしいなぁ。完全試合した時のスコアブックだ」
クローゼットの奥には開けることのなかった段ボールが並んでいた。思い切って整理をしようと出したのは良かったのだけれど......。ぎっしり詰まったスコアブックが私の計画の行方を眩ませた。
大学時代、壮一さんのチームを追いかけていた私は、公式戦だけでなく時間さえ合えば練習試合まで足を運んでいた。完全にストーカー状態だった。当時、壮一さんはキャッチャーではなく二番手のピッチャーをしていた。二番手といってもエースと実力は変わらなかったの。今、私が手にしているスコアブックは春の大会初戦のもの。
「壮一さんが先発だったんだよね。途中でエースの松田さんが出てくると思ってたんだけど、壮一さんが三人でビシビシ抑えて行くから監督さん変えられなかったのよ。はぁ、素敵だったわぁ」
壮一さんの決め球は、その見た目の通りストレート。調子がいい時は、ホームベース手前でその球が曲がりながら少しだけ落ちてシンカー気味になっていた。速球が目の前で急に曲がって落ちたら、なかなか打てないみたい。味方のキャッチャーですら落とすことがあったんだもん。
「ふふっ。ヤンチャな感じだった」
安定したコントロールだったし野手からの信頼も高かった。なのにエースでないのは、彼ができ過ぎたから。オールラウンドプレーヤーだった壮一さんはどこの守備についても完璧。実はファーストを守っている時の壮一さんも素敵なの。滅多に守らなかったけれど、腕と足を目いっぱい伸ばして、どんな送球でも受け止めるあの姿が堪らなくかっこよかった。貴重なシーンだったなぁ。
私が知る限りでは、ファーストを守った試合さ3回しかない。高くても低くても、ショートバウンドでもなんでも簡単に取っていた。私はスコアブックを胸にギュと抱え込んであの頃の彼を思い出す。
「あーあ、写真撮っておけばよかったぁ」
「なんの写真を撮るって?」
「ひゃっ!」
突然後ろから声がして、驚きすぎて体が跳ねあがった。抱え込んだスコアブックがぐにゃりと曲がってしまうくらい激しく。
「蒼子?」
「そ、壮一さん。すごいびっくりしたんだけど。いつ来たの?」
「うん? いつって今だよ。声かけたのに返事ないし、倒れてないかって心配したくらいだ」
「ごめん、聞こえてなかった」
まだ、心臓はバクバク鳴っていた。別に悪い事をしていたわけではないけれど、本人登場で動揺は隠せない。壮一さんは不思議そうに私の顔を見ていた。
なにか、言わないとっ。
「えっと、お部屋を片付けようと思ってクローゼット開けたんだけど。逆に滞っちゃった」
「くくっ、よくある話だな。お、これもしかして」
「うん。私の宝物たち」
「うちの大学のか! こんなにあるのか! 蒼子が付けていたスコアブックって!」
壮一さんは目を見開いて、広げたままのスコアブックを端から手に取りページを捲った。それを見ている壮一さんの表情は目を細めたり、眉間を寄せたらり眉を下げたりと忙しい。どう思っているんだろう。
「ストーカーみたいで気持ち悪いよね」
「この試合、よく覚えてるよ」
「どれ?」
壮一さんが手にしていたのは公式戦ではなく、練習試合だった。隣から覗き込んでみると、その試合は壮一さんが出場していないもの。ベンチウォーマーだった時のものだ。
「ねえ。そう言えばこの試合出てなかったじゃない? どうして?」
「ちょうど肘と肩に違和感を覚え始めた時だったんだ。でも理由はそれじゃなくて、一度外から見て見たかったんだ。監督と選手間の微妙なズレが気になってな」
「ズレ?」
壮一さんが言うには、監督は基本に忠実な方だったそうだ。塁の進め方やヒッティングの指示の仕方は、誰もが納得するタイミングで出していた。ピッチャーの調子を見極めて、先発で行くか継投に回すか。
「基本的に文句のつけようは無かったよ。けど、俺の感覚とは少し違ったんだよなぁ」
「どんな風に?」
「うーん」
私は壮一さんの顔を下から覗き込んだ。監督との感覚のズレと言うものを聞きたくて仕方がなかった。だって、それが分かったら、私が疑問に思っている部分が解消されるかもしれないじゃない。壮一さんが監督になった時の。あのイケイケの攻め方に、私の脳が追いつかなかったんだから。
「なんだよ蒼子。積極的だな」
「そりゃそうよ。あの監督さんと壮一さんが監督していた時の違いが分かるのよ?」
「そうじゃないだろ」
「......え?」
どう違っていたのかを聞くはずだったのに、どうして私は天井を見上げているの⁉︎
「壮一さっ」
「アウトだろ。さっきの表情、完全にアウトだ」
「え、どういうことっ」
両腕を床に張り付けられて、腰の上を跨がられ壮一さんの顔がとても近くに接近していた。
これは、いったい。
「知りたいか? 俺と当時の監督とのズレ」
「う、うん」
「じゃあ先ず、監督の癖を上げてみろよ。蒼子なら言えるだろ?」
「あ……んんっ。ゃ、壮一さっ」
言えと言いながら私の首元に顔を寄せ、ちゅ、ちゅとキスを落としていく。下から上に向かって耳の縁まで辿って行く。
「あん、やめてよ。言えないっ」
「あ? そんな事はないだろ。きちんとスコア付けてるんだ。ほら、ワンアウト、ランナー2塁。監督が出すサインは」
壮一さんの声が耳元で私の鼓膜を震わせるの。息が耳の奥まで届いて、ゾクゾクする。
わざとなんだからっ、やめてっ。
「は、はんっ……ば、バントっ。やんっ」
「残念。セーフティバントだ」
「え、なんかズルい!」
聞き返すとニヤと笑う。
「間違ったから俺の好きにする」
「なんですって? 聞いてないわ!」
壮一さんは容赦ない。私の両手を一つに纏めて頭上で固定すると、空いた手が動き出す。無骨な親指が私の唇を撫でた。思わずピクッと肩が揺れる。その親指は頬に移り目尻を撫でた。
(こんな、焦らし……やだっ)
思わず首を捩る。
「リクエスト聞いてやる。どうして欲しい」
「りっ……、リクエスト、聞いてくれるの?」
「ああ」
意地悪な瞳は瑞々しい光を放っていた。
(やだ……色っぽい)
「キス、して。唇に」
「好きだな、キス」
「壮一さんのキス……好きっ。んっ」
はふっと食べるみたいに唇を重ねてくる。短気でせっかちなのにキスする時はとっても優しいの。ううん、キスだけじゃない。その先も全部、口調に似合わず酷く優しい。壮一さんの舌が私のに絡まると、下肢が勝手に疼き出す。
「蒼子、いいか」
「はっ、ん。うん」
大きな手が私のシャツを捲り上げて、一直線に迷いなく上がってくる。乳房をその大きな手で、包み込むように揉み先端を指の腹で弾く。
「あっ……」
「蒼子」
「はぁ……、壮一さぁ」
気持ちが良くて、もっともっとと気持ちを込めて彼の舌に自分のを絡めた。唾液が漏れるのも気にならない。最初は、この腕に抱きしめられるだけでいい、口づけが出来たら幸せだと思っていた。でも今は、私の全部を捧げても貴方の全部を貰っても足りない。溶けて混ざり合ってしまいたい。
「蒼子。ここ、好きだろ?」
「はうっ」
たぶん、下の解しは要らない。すぐに貫いて欲しいと淫らな私の脳がそう囁く。
と、その時。
ー ピンポーン
インターホンが鳴った。
私たちはピタリと動きを止め、耳を澄ます。
「え? うち?」「そうみたいだな」
壮一さんが私の手を引いて一緒に起き上がった。私の身体はまだ火照りが継続中で自分でも頬が熱いのが分かる。取り敢えず、行ってみないと。
「誰かしら?」
私は身なりを整えてモニターを覗いた。そこに映った男の姿を見て一気にクールダウンっ。
(ええっ! なんで、なんで来たのっ)
「わぁ……懐かしいなぁ。完全試合した時のスコアブックだ」
クローゼットの奥には開けることのなかった段ボールが並んでいた。思い切って整理をしようと出したのは良かったのだけれど......。ぎっしり詰まったスコアブックが私の計画の行方を眩ませた。
大学時代、壮一さんのチームを追いかけていた私は、公式戦だけでなく時間さえ合えば練習試合まで足を運んでいた。完全にストーカー状態だった。当時、壮一さんはキャッチャーではなく二番手のピッチャーをしていた。二番手といってもエースと実力は変わらなかったの。今、私が手にしているスコアブックは春の大会初戦のもの。
「壮一さんが先発だったんだよね。途中でエースの松田さんが出てくると思ってたんだけど、壮一さんが三人でビシビシ抑えて行くから監督さん変えられなかったのよ。はぁ、素敵だったわぁ」
壮一さんの決め球は、その見た目の通りストレート。調子がいい時は、ホームベース手前でその球が曲がりながら少しだけ落ちてシンカー気味になっていた。速球が目の前で急に曲がって落ちたら、なかなか打てないみたい。味方のキャッチャーですら落とすことがあったんだもん。
「ふふっ。ヤンチャな感じだった」
安定したコントロールだったし野手からの信頼も高かった。なのにエースでないのは、彼ができ過ぎたから。オールラウンドプレーヤーだった壮一さんはどこの守備についても完璧。実はファーストを守っている時の壮一さんも素敵なの。滅多に守らなかったけれど、腕と足を目いっぱい伸ばして、どんな送球でも受け止めるあの姿が堪らなくかっこよかった。貴重なシーンだったなぁ。
私が知る限りでは、ファーストを守った試合さ3回しかない。高くても低くても、ショートバウンドでもなんでも簡単に取っていた。私はスコアブックを胸にギュと抱え込んであの頃の彼を思い出す。
「あーあ、写真撮っておけばよかったぁ」
「なんの写真を撮るって?」
「ひゃっ!」
突然後ろから声がして、驚きすぎて体が跳ねあがった。抱え込んだスコアブックがぐにゃりと曲がってしまうくらい激しく。
「蒼子?」
「そ、壮一さん。すごいびっくりしたんだけど。いつ来たの?」
「うん? いつって今だよ。声かけたのに返事ないし、倒れてないかって心配したくらいだ」
「ごめん、聞こえてなかった」
まだ、心臓はバクバク鳴っていた。別に悪い事をしていたわけではないけれど、本人登場で動揺は隠せない。壮一さんは不思議そうに私の顔を見ていた。
なにか、言わないとっ。
「えっと、お部屋を片付けようと思ってクローゼット開けたんだけど。逆に滞っちゃった」
「くくっ、よくある話だな。お、これもしかして」
「うん。私の宝物たち」
「うちの大学のか! こんなにあるのか! 蒼子が付けていたスコアブックって!」
壮一さんは目を見開いて、広げたままのスコアブックを端から手に取りページを捲った。それを見ている壮一さんの表情は目を細めたり、眉間を寄せたらり眉を下げたりと忙しい。どう思っているんだろう。
「ストーカーみたいで気持ち悪いよね」
「この試合、よく覚えてるよ」
「どれ?」
壮一さんが手にしていたのは公式戦ではなく、練習試合だった。隣から覗き込んでみると、その試合は壮一さんが出場していないもの。ベンチウォーマーだった時のものだ。
「ねえ。そう言えばこの試合出てなかったじゃない? どうして?」
「ちょうど肘と肩に違和感を覚え始めた時だったんだ。でも理由はそれじゃなくて、一度外から見て見たかったんだ。監督と選手間の微妙なズレが気になってな」
「ズレ?」
壮一さんが言うには、監督は基本に忠実な方だったそうだ。塁の進め方やヒッティングの指示の仕方は、誰もが納得するタイミングで出していた。ピッチャーの調子を見極めて、先発で行くか継投に回すか。
「基本的に文句のつけようは無かったよ。けど、俺の感覚とは少し違ったんだよなぁ」
「どんな風に?」
「うーん」
私は壮一さんの顔を下から覗き込んだ。監督との感覚のズレと言うものを聞きたくて仕方がなかった。だって、それが分かったら、私が疑問に思っている部分が解消されるかもしれないじゃない。壮一さんが監督になった時の。あのイケイケの攻め方に、私の脳が追いつかなかったんだから。
「なんだよ蒼子。積極的だな」
「そりゃそうよ。あの監督さんと壮一さんが監督していた時の違いが分かるのよ?」
「そうじゃないだろ」
「......え?」
どう違っていたのかを聞くはずだったのに、どうして私は天井を見上げているの⁉︎
「壮一さっ」
「アウトだろ。さっきの表情、完全にアウトだ」
「え、どういうことっ」
両腕を床に張り付けられて、腰の上を跨がられ壮一さんの顔がとても近くに接近していた。
これは、いったい。
「知りたいか? 俺と当時の監督とのズレ」
「う、うん」
「じゃあ先ず、監督の癖を上げてみろよ。蒼子なら言えるだろ?」
「あ……んんっ。ゃ、壮一さっ」
言えと言いながら私の首元に顔を寄せ、ちゅ、ちゅとキスを落としていく。下から上に向かって耳の縁まで辿って行く。
「あん、やめてよ。言えないっ」
「あ? そんな事はないだろ。きちんとスコア付けてるんだ。ほら、ワンアウト、ランナー2塁。監督が出すサインは」
壮一さんの声が耳元で私の鼓膜を震わせるの。息が耳の奥まで届いて、ゾクゾクする。
わざとなんだからっ、やめてっ。
「は、はんっ……ば、バントっ。やんっ」
「残念。セーフティバントだ」
「え、なんかズルい!」
聞き返すとニヤと笑う。
「間違ったから俺の好きにする」
「なんですって? 聞いてないわ!」
壮一さんは容赦ない。私の両手を一つに纏めて頭上で固定すると、空いた手が動き出す。無骨な親指が私の唇を撫でた。思わずピクッと肩が揺れる。その親指は頬に移り目尻を撫でた。
(こんな、焦らし……やだっ)
思わず首を捩る。
「リクエスト聞いてやる。どうして欲しい」
「りっ……、リクエスト、聞いてくれるの?」
「ああ」
意地悪な瞳は瑞々しい光を放っていた。
(やだ……色っぽい)
「キス、して。唇に」
「好きだな、キス」
「壮一さんのキス……好きっ。んっ」
はふっと食べるみたいに唇を重ねてくる。短気でせっかちなのにキスする時はとっても優しいの。ううん、キスだけじゃない。その先も全部、口調に似合わず酷く優しい。壮一さんの舌が私のに絡まると、下肢が勝手に疼き出す。
「蒼子、いいか」
「はっ、ん。うん」
大きな手が私のシャツを捲り上げて、一直線に迷いなく上がってくる。乳房をその大きな手で、包み込むように揉み先端を指の腹で弾く。
「あっ……」
「蒼子」
「はぁ……、壮一さぁ」
気持ちが良くて、もっともっとと気持ちを込めて彼の舌に自分のを絡めた。唾液が漏れるのも気にならない。最初は、この腕に抱きしめられるだけでいい、口づけが出来たら幸せだと思っていた。でも今は、私の全部を捧げても貴方の全部を貰っても足りない。溶けて混ざり合ってしまいたい。
「蒼子。ここ、好きだろ?」
「はうっ」
たぶん、下の解しは要らない。すぐに貫いて欲しいと淫らな私の脳がそう囁く。
と、その時。
ー ピンポーン
インターホンが鳴った。
私たちはピタリと動きを止め、耳を澄ます。
「え? うち?」「そうみたいだな」
壮一さんが私の手を引いて一緒に起き上がった。私の身体はまだ火照りが継続中で自分でも頬が熱いのが分かる。取り敢えず、行ってみないと。
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