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第二章 ブロックサイン

昏き追憶ー逃避ー

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壮一さんとの海辺のドライブは日が暮れる前に終わらせて、今夜は私の部屋で過ごす事になった。
途中、私がスーパーで買い物をしている間に壮一さんは着替えを取りに帰った。そう言えば、我が家に泊まるのは初めてだ。

(ベッド、セミダブルでよかった)

夕飯は、和食中心のメニューにしよう。一日運転してもらったお礼をしないとね。
レジで会計を済ませたところで、タイミングよく壮一さんが戻ってきた。
走ってきたのか薄っすら汗が滲んでいる。

「待たせたな」
「ううん。今、支払い済ませたばかりだから待ってない」
「そうか」
「汗、かいてる。走って来たの? はい、コレで拭いて」
「ああ。ありがとう」

秋になったとはいえ昼間はまだ暑い。ちょっと動いただけで汗が吹き出てしまう。
ハンカチを私に返し終わると、買い物袋を取った壮一さんは「行くか」と言って店を出た。先を行く、ちょっぴり俺様な彼は自分から手を繋ごうとはしない。

「今日は冷しゃぶにしたよ。おろしポン酢で」
「お、いいな!」

だから私から彼の腕に自分の腕を絡ませる。そうしたら彼は目尻を下げて脇を締めてくれるの。離れるなよ、と言うように。





「ご飯が炊きあがるまで少し時間があるから、お風呂先に使って?」
「手伝わなくていいのか」
「大丈夫。ずっと運転してくれたお礼だから」
「じゃあ、甘えさせてもらう」
「うん。あっ、ちょ」

壮一はんはキッチンに立つ私を後ろから被さるように抱きついてきた。

(耳ーっ! もう、直ぐ噛んでくるんだからっ)

「蒼子、作らないのか。無理そうなら手伝うぞ」
「作るから、耳っ。耳やめっ………んんん」

耳の縁を舌先でなぞったり、歯を立てたり、耳裏にキスを仕掛けてきたりで全然手を動かせない。腰に回された手は幸い大人しい。

「壮一さんっ」
「なんだ、どうした」
「何だかっ、いじわるっ」
「蒼子の匂い嗅いでると落ち着くんだよ。諦めろ」
「もう、ご飯ができないよっ」

私は何とか理性を立て直し訴える。すると、壮一さんは首を長めに吸ってようやく離れた。悪戯っ子のように、してヤったりの表情の向こう側に少し潤んだ瞳が見えたのは気のせいだろうか。
大人しくバスルームに向かう彼の背中が悲しげに見えた。

(あれ? なんだか……変)

その後はいつもの壮一さんで私が作った夕飯をきれいに平らげてくれた。普通の食卓ならここにビールが並びそうなものだけど、私たちは飲まない。
私はどうしても外せないお付き合い以外は喉のために飲まないようにしている。壮一さんはお酒そのものが好きではないらしい。決して弱いわけじゃないと言っていたけれど、たぶん、彼は弱いのだと勝手に思っている。

「風呂入って来いよ。片付けておくから」
「え! 壮一さんが?」
「俺だって一人暮らしやってんだ。洗い物ぐらいできるぞ」

壮一さんは心外だと言うように眉間に皺を寄せて、口を尖がらせながら言う。そういうところが私の胸をキュンキュン鳴かせるの。
絶対に口には出さないけれど『かわいい、壮一』が時々顔を出すの。

「じゃあ、お願いします」
「おう。ゆっくり浸かってこいよ」

ハスルームに入る前にキッチンに立つ壮一さんを見た。背を屈めてカチャカチャ音をたてながら食器を扱う姿に、将来の旦那様を想像してしまう。

(いつかそうなると、いいな)





「ぁ、あっ、んんっ。やぁ」

いつもより性急に壮一さんの手が這い回る。手と舌と同時に攻めてくる。
私の様子を伺いながらの愛撫は今夜は見られない。息をする暇さえ与えてくれない。

「うふっ、は、ああっ」

乳房を口に含み舌で転がしては歯を立て、反対の乳房は彼の左手が揉みしだく。

「やっ、まって」
「待てないってココは言っているぞ」

下腹部を這い既に潤っている場所に埋った。同時に三ケ所を責め立てられて脳が沸騰し始めた。口元はだらし無く開き、発情した雌猫のように鳴く事しか出来なかった。

「蒼子。イイんだろ?」
「ぁ、は、んっ…はぁ、ああっん」

そして、あっという間に絶頂に追いやられた。私の意志とは別の快楽が襲い、彼の意志で私は達したのだ。
壮一さんは何を、そんなに苛々しているのだろう。
乱暴に避妊具の袋が破られ、直ぐに入り口に彼のモノがあてられた。確かに気持ちいいし、私のそこは十分に濡れている。でも、以前の彼と何かが違う。

「は、うっ」

どう表現したらいいか分からないけど、無理やり押し込むような、何かから逃げて来たような勢いで私の中に入って来た。

「蒼子、蒼子っ」

彼の額からは大量の汗が吹き出して、鼻先からぽたりと雫になって落ちてくる。こめかみから顎に伝いまた、落ちてくる。

(壮一、さん? もしかして、泣いているの? 壮一さんの心が泣いている――)

「そう、いち。あ、ああっ」

彼を抱きしめたいのに、腰が激しく打ち付けられて思うように腕が上がらない。ただ、シーツを強く握りしめるので精一杯だった。

「……く」

景色が白くなりかけた時に彼はようやく達した。でも、それは始まりに過ぎなかった。直ぐに出ていった彼のモノは全く萎えておらず、直ぐに新しい避妊具が付け直された。

「え。あっ」

身体をうつ伏せに返されて、今度は背中からの愛撫が再開された。彼は私の首に歯を立てて甘噛みを繰り返しすと、舌を背骨に沿って這わせる。そして、私の腰を両手で持ち上げたと思ったら。

「あぁっ!」

脳が揺れる!
後ろからの行為は獣の交わりのようで、激しく中を掻き乱され、私は2度目の絶頂を迎えた。私の後を追うように壮一さんも達する。
私の背中には彼の重みとと共に安堵が急速に広がった。少しは満たされたのだろうかと心配になる。

「壮一さん」
「ああ?」

私が身体を捩って振り返ると「すまない」と詫びて起き上がり、後処理をする。
どうしてそんなに辛そうなのか、声をかけることができずにその背中を見つめていた。
するとその時、彼の右肩に何かの痕が見えた。そういえば、初めて結ばれた時に見えた線だと思いだす。
後ろから見た彼の右肩に残るそれは、まるで肩を繋ぎ合わせた様にも見える。

(それってもしかしてっ!)

心臓が速まり、熱くなった身体が冷えていくのがわかった。そして、言い表しのようのない感情が込み上げてくる。
私はその背中に抱きついた。

「壮一さん!」
「おおっ、どうしたんだよ」

私の想像が当たっているのなら、これは手術をした痕だ。手術痕はミミズが這ったように薄茶色に染まり、その周りの皮膚がわずかに引き攣っている。

「蒼子?」
「壮一さん。これ」

私は勇気を出して、そっと傷痕が残る肩に手を置いた。彼は小さく跳ねたかと思うと、何も言わずに優しく私の手を肩からどかした。

(壮一さん!)
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