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そして、愛
キリン、荷役完了!
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天井を仰いだままピクリとも動かなくなった沢柳を見て、夕凪は不安になった。やっぱり言うべきではなかったのかもしれない。ましてや、女の自分がと後悔が湧き上がる。早まり過ぎたかもしれない、想いが先立って相手の気持ちを考えることなく口にしてしまった。
(どうしよう……。私って、バカ)
服が擦れる音がして沢柳が動いたことを知ると、夕凪は顔を伏せてしまった。沢柳にどんな顔をしたらよいか、どんな言葉をかければよいか分からなかったから。
「あんた……やってくれたな」
「うっ、ごめんなさい。何も考えずに言っちゃって、本当にごめんなさい」
「なんで謝る。後悔しているのか? 自分が言った言葉に、責任を持て。立場とかタイミングとかそういった事を抜きにして、俺からの返事はイエスだ。それ以外はない。あんたに責任を取ってもらいたい。その言葉に嘘はないんだろう?」
「えっ」
責任を取れと言われ、驚いた夕凪は沢柳の顔を見た。沢柳の瞳は麗しいほどに輝きを放っていた。そして頬には、一本の筋が顎に伝っている。まさかと思いながらもう一度沢柳の顔を見た。夕凪は沢柳の目尻にそっと指をのばしてみる。そこに触れたとき夕凪は心がギュッと締めつけられたように苦しくなった。触れた指先に生温い感触があったから。沢柳は自分に伸ばされた夕凪の手を上から押さえた。濡れた瞳で夕凪を見つめながら。
「浩太……ごめんっ」
「だからなぜ、謝る。俺はイエスと言っただろ」
「イエスっ!?」
「だから責任を取ってくれと言ったんだ。俺は喜んであんたのものになる。もう他に行くところはない。一生、夕凪のものだ」
いつも以上に色のある声で沢柳はそう囁き、頬に押し当てた夕凪の手をもちあげで、今度はその掌にキスをした。
夕凪にこのキスの意味は分からないだろう。沢柳の心の中だけにある『夕凪は俺のもの』の意を。そして今度は夕凪の瞳を捉えたまま手首に口付けてみせる。こんなに恋い焦がれた女性はいない『夕凪が欲しい』という欲望の表し。
そのひとつひとつの動作を夕凪は食い入るように見ていた。沢柳のその仕草がとても色っぽかったから。
「俺をもらってくれ」
「浩太」
「誓いのキスをくれないか。あんたからのキスが欲しい」
沢柳の懇願は夕凪の心を揺さぶった。気が強くて意地っ張りだけれど、いつも受け身な夕凪は自分からキスをしたことがなかった。それを沢柳は気づいていた。だからなおのこと、沢柳は夕凪からのキスが欲しかった。
「キス、で、いいの?」
「キスの先も歓迎する」
夕凪は沢柳の熱い視線にごくんと唾を飲み込んだ。燃えるように熱いのにその瞳の奥は優しい。矛盾しているようでそうでもない。
夕凪は思う。沢柳の感情は薄いわけではなくて、ずっと隠していたのではないかと。喜怒哀楽のそれらを奥に潜ませて、兄として冷静に弟たちの面倒を見てきた。父親不在の家庭を母親と共に守ってきたのではないかと。弟たちもそんな兄を父親のように慕っていたはず。夕凪はあの賑やかな家族を思い出すと、申し訳ない気持ちになってしまう。でも、この想いは止められない。
(ごめんなさい。私、浩太さんをもらいます)
夕凪は体を正して、沢柳の前で膝立ちをした。座り込んだ沢柳よりほんの少し高い位置に頭がくる。今、夕凪は沢柳を見下ろしている。まるでキリンから覗いているみたいに。
夕凪は両手を沢柳の頬に添えた。上から覗く沢柳の瞳は下がっていて、いつもに増してあどけなさが垣間見えた。視線を下に移すと、形の整った薄い唇がある。何度もキスをしたのに、初めてするような胸の高まりが夕凪を襲った。夕凪は少しでも気持ちを落ち着かせようと目を閉じ、鼻で息を深く吸い込む。
瞼を薄く開けて、夕凪は沢柳の唇に向かってゆっくりと頭を傾けた。夕凪の影が覆い被さる瞬間、沢柳が目を閉じたのが分かった。柔らかなタッチで触れた唇は夕凪の想像よりも熱い。
「ん……」
触れるのと触れられるのとではまるで違う感覚。ずっと触れていたい、でも、もっと深いところで確かめたい。なのに沢柳は夕凪にされるがままで、抵抗も反撃もしてこない。ただ、夕凪の腰に手を添えているだけ。そんな沢柳の態度が逆に夕凪の欲情を煽った。
(私を、欲しがって)
「浩太。あなたを、私に、ちょうだい」
夕凪が吐息混じりにそう言うと、沢柳はとても嬉しそうに微笑んだ。その笑みは今まででいちばん優しかった。
*
二人だけの空間で全てを晒し合うことは愛情の表しだと夕凪は思っている。今夜、夕凪は沢柳の全てを奪う。
『浩太、お願いがあるの。私と結婚、して』
それを聞いた沢柳はイエスだと言った。そして、責任をとってくれと言った。
『俺を泣かせた、責任だ』
ベッドのスプリングが軽く跳ねて、二人はシーツに体を預けた。夕凪が沢柳の体を弄るために、その硬い体に跨っている。服はベッドに上がる前に脱ぎ捨てた。生まれたままの姿を晒して恥じらいも躊躇いも全部、捨てた。
「はっ……っ」
夕凪は自分が沢柳からされたようにキスの合間に歯を立てた。その度に沢柳が小さな反応を見せてくる。その度に夕凪の劣情は煽られてしかたがなかった。食べてしまいたい! 夕凪が初めて思った感情だった。
「夕凪、っ……くっ」
夕凪は沢柳が漏らす声に勇気づけられ、攻める手を止めなかった。逞しい胸の筋肉の先にあるふたつの粒を、夕凪は自らの唇と舌で可愛がり、もう片方は指の腹で捏ねたり引っ掻いたりする。少しづつ沢柳の息が荒くなる。沢柳は夕凪の髪を何度も手で梳いて、漏れる吐息をごまかそうとする。夕凪の腹部には沢柳の象徴が触れ、硬く勃ち上がりはじめた。
(浩太の、勃ってる。よかった)
夕凪は右手を沢柳のそれに伸ばし、そっと握った。その瞬間、ビクンと脈打って硬さが増した。恐る恐る先端に向かって手を移動させてみる。握り直しながら何度か縦に扱くと、先端から滲み出たもので滑りがよくなった。そうしていると、どんどん硬さを増して熱を孕ませたように膨張していった。堪りかねた沢柳は思わず口を開いてしまう。
「まてっ、その……」
「ごめん。痛かった?」
「いや、その……っ。もどかしい」
「え?」
「…………」
夕凪が恐る恐る探るように握ってはこすり、こすっては握り直すを繰り返されて、登れそうで登れない生殺しの快楽が続いていた。
しかし沢柳は、初めて自発的に動いた夕凪にこうして欲しいとはなかなか言いだせない。沢柳は言いかけてまた、口をつぐんでしまった。
「あまりこういう事、慣れてなくて。ねえ、どうやったら気持ちいいの? 浩太、教えて」
「っ……」
「あっ(また、大きくなった?)」
夕凪が上目遣いで自分を見つめながら、いきり勃ったそれを壊れ物のように握りしめる姿に、沢柳の防壁は敢え無く崩れ落ちた。
「十分いいのだが、敢えて言うならもっと、強くしてもらってかまわない。例えばその、口を使って」
「あ、口を」
「いや。やらなくていい。今度は俺がーーくっ! はっ、ゆうっ」
「んっ」
夕凪は躊躇いもせず沢柳のものを口の中に咥え込んだ。しかも、いきなり喉の奥でホールドしている。
「ああっ! 深すぎる、だろっ」
「はいひょうふ」
「っーー!」
夕凪は無我夢中で、沢柳の状態など確認する余裕はなかった。咥内で肥大するそれを感じると嬉しくて更に頑張った。同時に、自分の体の奥もその反応と一緒に熱くなる。
長い髪を横に流して上下運動を繰り返すと沢柳が声を漏らした。自分の施しでイッて欲しい、もっと気持ちよくなって欲しい。そして、私を欲しがって欲しいと心の中で願う。すると、徐々に沢柳の腰も動き始めた。喉の奥に当たって苦しいけれど、絶対に止めたくないと夕凪は耐えた。
「まて、夕凪っ……はっ、もう、いい」
沢柳が音を上げるのも無視して、夕凪らダメだと首を横に振った。
「ふっ、振るなっ……、あっ、く、中に出てしまう。やめるんだ」
「はしへいいよ」
「ダメ、だっ。俺はっ、夕凪の中でイキたい!」
夕凪はその言葉を聞いて、咥えていたそれをフルんと出した。目元を赤く染めた沢柳が眉を下げて、困ったように夕凪の頬を撫でた。夕凪の額はほんのり汗が滲んで、頬は赤く熱を持っている。そこまでしてくれるとは思っていなかった。沢柳は夕凪の濡れた唇を指の腹でそっと拭う。
「んふっ」
この可愛らしい口で頑張った沢柳から夕凪へのご褒美は、深いキスだった。沢柳は夕凪のしなやかな背中を上から撫で下ろし、唇は何度も角度を変えて労いを込めた。沢柳は空いたもう片方の手を夕凪の下肢に伸ばし隘路へ指をあてると、もう愛撫の必要はないほど愛液が溢れていた。
「解す必要はないみたいだな。俺のを咥えながら感じていたのか」
「浩太の、口に入れたら、お腹が熱くなっちゃって。だから」
「俺が欲しかったか」
「うん」
沢柳は夕凪の体を包み込むように抱きしめた。愛以上の表現がこの世にあればいいのに。愛しているでは物足りない。
「上に、乗れるか」
「やってみる」
「ゆっくりでいい、夕凪のいい所に当てて、体を落とせ」
「んっ……はあっん!」
夕凪の入口がどんなに濡れていようとも、あまり解されてい隘路はやはり狭い。沢柳の肉棒をぎゅうぎゅうと締め付けながら、呑み込んでいった。
「やっぱり、キツイな」
「ああんっ、動かないでお願い。じっとしていて」
「っ、俺は、動いていない。夕凪の中が蠢いて……っ。あまり保(も)ちそうにないっ」
「私、動いてないよ。は、あっ、ダメダメ。無理ぃ、浩太、待ってイッちゃう」
「まて、俺は何もっ! はっ、くそ、夕凪っ、我慢しろ」
「やっ、あっ、無理っ、あ、あ、や、あっ、あっーー! ああんっ」
「ゆうっ……つはっ、うっ」
*
なんとも言い難い疲労感に包まれて、夕凪は瞼を閉じた。沢柳を自分の中に収めたままぐったりと力が抜け落ちている。沢柳に至っては曾てこんなに早く果てたことはなく、苦笑いするしかなかった。
自分の体の上に乗ったまま安らかな寝息を立てる夕凪は、汗にまみれ顔を赤くしたままだ。沢柳はゆっくりとその体をシーツの上に落とした。夕凪の体に収まったままの自身を抜き出すとき、ぎゅぅっと惜しむように夕凪が後を追う。
「夕凪、愛している。俺を、離さないでくれ」
「ん……っ」
夕凪から思いもよらぬタイミングでプロポーズを受け、不覚にも涙を零してしまった。責任を取れと言い迫り、夕凪のものになると誓った。
「まるで俺が嫁に行くみたいだな……。まあ、俺は構わないが」
「こう、た……ごめ」
「夕凪?」
「……」
夕凪の根本にある、私は女なのにという気持ちは消えないようだった。本当は可愛いと言われたいし、守られたいという気持ちがある。好きな人の為に尽くしたいと思っている。だけど、どうしても上手くできない。そんな夕凪の葛藤は沢柳がいちばん分かっていた。男らしさで身を守ってきた、夕凪の中に眠る乙女心があることを。
「これからは、もっと可愛がってやる。俺が夕凪を死ぬまで守ってやる。夕凪は俺のために、日々を生きてくれ」
夢の中の夕凪には聞こえない。でも、目を閉じたまま夕凪の表情はとても嬉しそうに見えた。沢柳が額を夕凪にコツんとくっつけると、一定のリズムで寝息が鼻にかかる。それすらも愛おしい。
沢柳は夕凪の手を自分の方に引き寄せて、その長く細い薬指にキスをした。
この手があの大きなキリンを動かし、この手で俺を愛してくれる。明日は一緒に街に行こう。そして、一緒に指輪を選ぼう。
「これは俺の仕事だ。それ以外は、あんたの好きにしていい。そうだな……俺はーー」
「木崎浩太になっても、いい」
(どうしよう……。私って、バカ)
服が擦れる音がして沢柳が動いたことを知ると、夕凪は顔を伏せてしまった。沢柳にどんな顔をしたらよいか、どんな言葉をかければよいか分からなかったから。
「あんた……やってくれたな」
「うっ、ごめんなさい。何も考えずに言っちゃって、本当にごめんなさい」
「なんで謝る。後悔しているのか? 自分が言った言葉に、責任を持て。立場とかタイミングとかそういった事を抜きにして、俺からの返事はイエスだ。それ以外はない。あんたに責任を取ってもらいたい。その言葉に嘘はないんだろう?」
「えっ」
責任を取れと言われ、驚いた夕凪は沢柳の顔を見た。沢柳の瞳は麗しいほどに輝きを放っていた。そして頬には、一本の筋が顎に伝っている。まさかと思いながらもう一度沢柳の顔を見た。夕凪は沢柳の目尻にそっと指をのばしてみる。そこに触れたとき夕凪は心がギュッと締めつけられたように苦しくなった。触れた指先に生温い感触があったから。沢柳は自分に伸ばされた夕凪の手を上から押さえた。濡れた瞳で夕凪を見つめながら。
「浩太……ごめんっ」
「だからなぜ、謝る。俺はイエスと言っただろ」
「イエスっ!?」
「だから責任を取ってくれと言ったんだ。俺は喜んであんたのものになる。もう他に行くところはない。一生、夕凪のものだ」
いつも以上に色のある声で沢柳はそう囁き、頬に押し当てた夕凪の手をもちあげで、今度はその掌にキスをした。
夕凪にこのキスの意味は分からないだろう。沢柳の心の中だけにある『夕凪は俺のもの』の意を。そして今度は夕凪の瞳を捉えたまま手首に口付けてみせる。こんなに恋い焦がれた女性はいない『夕凪が欲しい』という欲望の表し。
そのひとつひとつの動作を夕凪は食い入るように見ていた。沢柳のその仕草がとても色っぽかったから。
「俺をもらってくれ」
「浩太」
「誓いのキスをくれないか。あんたからのキスが欲しい」
沢柳の懇願は夕凪の心を揺さぶった。気が強くて意地っ張りだけれど、いつも受け身な夕凪は自分からキスをしたことがなかった。それを沢柳は気づいていた。だからなおのこと、沢柳は夕凪からのキスが欲しかった。
「キス、で、いいの?」
「キスの先も歓迎する」
夕凪は沢柳の熱い視線にごくんと唾を飲み込んだ。燃えるように熱いのにその瞳の奥は優しい。矛盾しているようでそうでもない。
夕凪は思う。沢柳の感情は薄いわけではなくて、ずっと隠していたのではないかと。喜怒哀楽のそれらを奥に潜ませて、兄として冷静に弟たちの面倒を見てきた。父親不在の家庭を母親と共に守ってきたのではないかと。弟たちもそんな兄を父親のように慕っていたはず。夕凪はあの賑やかな家族を思い出すと、申し訳ない気持ちになってしまう。でも、この想いは止められない。
(ごめんなさい。私、浩太さんをもらいます)
夕凪は体を正して、沢柳の前で膝立ちをした。座り込んだ沢柳よりほんの少し高い位置に頭がくる。今、夕凪は沢柳を見下ろしている。まるでキリンから覗いているみたいに。
夕凪は両手を沢柳の頬に添えた。上から覗く沢柳の瞳は下がっていて、いつもに増してあどけなさが垣間見えた。視線を下に移すと、形の整った薄い唇がある。何度もキスをしたのに、初めてするような胸の高まりが夕凪を襲った。夕凪は少しでも気持ちを落ち着かせようと目を閉じ、鼻で息を深く吸い込む。
瞼を薄く開けて、夕凪は沢柳の唇に向かってゆっくりと頭を傾けた。夕凪の影が覆い被さる瞬間、沢柳が目を閉じたのが分かった。柔らかなタッチで触れた唇は夕凪の想像よりも熱い。
「ん……」
触れるのと触れられるのとではまるで違う感覚。ずっと触れていたい、でも、もっと深いところで確かめたい。なのに沢柳は夕凪にされるがままで、抵抗も反撃もしてこない。ただ、夕凪の腰に手を添えているだけ。そんな沢柳の態度が逆に夕凪の欲情を煽った。
(私を、欲しがって)
「浩太。あなたを、私に、ちょうだい」
夕凪が吐息混じりにそう言うと、沢柳はとても嬉しそうに微笑んだ。その笑みは今まででいちばん優しかった。
*
二人だけの空間で全てを晒し合うことは愛情の表しだと夕凪は思っている。今夜、夕凪は沢柳の全てを奪う。
『浩太、お願いがあるの。私と結婚、して』
それを聞いた沢柳はイエスだと言った。そして、責任をとってくれと言った。
『俺を泣かせた、責任だ』
ベッドのスプリングが軽く跳ねて、二人はシーツに体を預けた。夕凪が沢柳の体を弄るために、その硬い体に跨っている。服はベッドに上がる前に脱ぎ捨てた。生まれたままの姿を晒して恥じらいも躊躇いも全部、捨てた。
「はっ……っ」
夕凪は自分が沢柳からされたようにキスの合間に歯を立てた。その度に沢柳が小さな反応を見せてくる。その度に夕凪の劣情は煽られてしかたがなかった。食べてしまいたい! 夕凪が初めて思った感情だった。
「夕凪、っ……くっ」
夕凪は沢柳が漏らす声に勇気づけられ、攻める手を止めなかった。逞しい胸の筋肉の先にあるふたつの粒を、夕凪は自らの唇と舌で可愛がり、もう片方は指の腹で捏ねたり引っ掻いたりする。少しづつ沢柳の息が荒くなる。沢柳は夕凪の髪を何度も手で梳いて、漏れる吐息をごまかそうとする。夕凪の腹部には沢柳の象徴が触れ、硬く勃ち上がりはじめた。
(浩太の、勃ってる。よかった)
夕凪は右手を沢柳のそれに伸ばし、そっと握った。その瞬間、ビクンと脈打って硬さが増した。恐る恐る先端に向かって手を移動させてみる。握り直しながら何度か縦に扱くと、先端から滲み出たもので滑りがよくなった。そうしていると、どんどん硬さを増して熱を孕ませたように膨張していった。堪りかねた沢柳は思わず口を開いてしまう。
「まてっ、その……」
「ごめん。痛かった?」
「いや、その……っ。もどかしい」
「え?」
「…………」
夕凪が恐る恐る探るように握ってはこすり、こすっては握り直すを繰り返されて、登れそうで登れない生殺しの快楽が続いていた。
しかし沢柳は、初めて自発的に動いた夕凪にこうして欲しいとはなかなか言いだせない。沢柳は言いかけてまた、口をつぐんでしまった。
「あまりこういう事、慣れてなくて。ねえ、どうやったら気持ちいいの? 浩太、教えて」
「っ……」
「あっ(また、大きくなった?)」
夕凪が上目遣いで自分を見つめながら、いきり勃ったそれを壊れ物のように握りしめる姿に、沢柳の防壁は敢え無く崩れ落ちた。
「十分いいのだが、敢えて言うならもっと、強くしてもらってかまわない。例えばその、口を使って」
「あ、口を」
「いや。やらなくていい。今度は俺がーーくっ! はっ、ゆうっ」
「んっ」
夕凪は躊躇いもせず沢柳のものを口の中に咥え込んだ。しかも、いきなり喉の奥でホールドしている。
「ああっ! 深すぎる、だろっ」
「はいひょうふ」
「っーー!」
夕凪は無我夢中で、沢柳の状態など確認する余裕はなかった。咥内で肥大するそれを感じると嬉しくて更に頑張った。同時に、自分の体の奥もその反応と一緒に熱くなる。
長い髪を横に流して上下運動を繰り返すと沢柳が声を漏らした。自分の施しでイッて欲しい、もっと気持ちよくなって欲しい。そして、私を欲しがって欲しいと心の中で願う。すると、徐々に沢柳の腰も動き始めた。喉の奥に当たって苦しいけれど、絶対に止めたくないと夕凪は耐えた。
「まて、夕凪っ……はっ、もう、いい」
沢柳が音を上げるのも無視して、夕凪らダメだと首を横に振った。
「ふっ、振るなっ……、あっ、く、中に出てしまう。やめるんだ」
「はしへいいよ」
「ダメ、だっ。俺はっ、夕凪の中でイキたい!」
夕凪はその言葉を聞いて、咥えていたそれをフルんと出した。目元を赤く染めた沢柳が眉を下げて、困ったように夕凪の頬を撫でた。夕凪の額はほんのり汗が滲んで、頬は赤く熱を持っている。そこまでしてくれるとは思っていなかった。沢柳は夕凪の濡れた唇を指の腹でそっと拭う。
「んふっ」
この可愛らしい口で頑張った沢柳から夕凪へのご褒美は、深いキスだった。沢柳は夕凪のしなやかな背中を上から撫で下ろし、唇は何度も角度を変えて労いを込めた。沢柳は空いたもう片方の手を夕凪の下肢に伸ばし隘路へ指をあてると、もう愛撫の必要はないほど愛液が溢れていた。
「解す必要はないみたいだな。俺のを咥えながら感じていたのか」
「浩太の、口に入れたら、お腹が熱くなっちゃって。だから」
「俺が欲しかったか」
「うん」
沢柳は夕凪の体を包み込むように抱きしめた。愛以上の表現がこの世にあればいいのに。愛しているでは物足りない。
「上に、乗れるか」
「やってみる」
「ゆっくりでいい、夕凪のいい所に当てて、体を落とせ」
「んっ……はあっん!」
夕凪の入口がどんなに濡れていようとも、あまり解されてい隘路はやはり狭い。沢柳の肉棒をぎゅうぎゅうと締め付けながら、呑み込んでいった。
「やっぱり、キツイな」
「ああんっ、動かないでお願い。じっとしていて」
「っ、俺は、動いていない。夕凪の中が蠢いて……っ。あまり保(も)ちそうにないっ」
「私、動いてないよ。は、あっ、ダメダメ。無理ぃ、浩太、待ってイッちゃう」
「まて、俺は何もっ! はっ、くそ、夕凪っ、我慢しろ」
「やっ、あっ、無理っ、あ、あ、や、あっ、あっーー! ああんっ」
「ゆうっ……つはっ、うっ」
*
なんとも言い難い疲労感に包まれて、夕凪は瞼を閉じた。沢柳を自分の中に収めたままぐったりと力が抜け落ちている。沢柳に至っては曾てこんなに早く果てたことはなく、苦笑いするしかなかった。
自分の体の上に乗ったまま安らかな寝息を立てる夕凪は、汗にまみれ顔を赤くしたままだ。沢柳はゆっくりとその体をシーツの上に落とした。夕凪の体に収まったままの自身を抜き出すとき、ぎゅぅっと惜しむように夕凪が後を追う。
「夕凪、愛している。俺を、離さないでくれ」
「ん……っ」
夕凪から思いもよらぬタイミングでプロポーズを受け、不覚にも涙を零してしまった。責任を取れと言い迫り、夕凪のものになると誓った。
「まるで俺が嫁に行くみたいだな……。まあ、俺は構わないが」
「こう、た……ごめ」
「夕凪?」
「……」
夕凪の根本にある、私は女なのにという気持ちは消えないようだった。本当は可愛いと言われたいし、守られたいという気持ちがある。好きな人の為に尽くしたいと思っている。だけど、どうしても上手くできない。そんな夕凪の葛藤は沢柳がいちばん分かっていた。男らしさで身を守ってきた、夕凪の中に眠る乙女心があることを。
「これからは、もっと可愛がってやる。俺が夕凪を死ぬまで守ってやる。夕凪は俺のために、日々を生きてくれ」
夢の中の夕凪には聞こえない。でも、目を閉じたまま夕凪の表情はとても嬉しそうに見えた。沢柳が額を夕凪にコツんとくっつけると、一定のリズムで寝息が鼻にかかる。それすらも愛おしい。
沢柳は夕凪の手を自分の方に引き寄せて、その長く細い薬指にキスをした。
この手があの大きなキリンを動かし、この手で俺を愛してくれる。明日は一緒に街に行こう。そして、一緒に指輪を選ぼう。
「これは俺の仕事だ。それ以外は、あんたの好きにしていい。そうだな……俺はーー」
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