桜の花弁が散る頃に

ユーリ(佐伯瑠璃)

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二章 -勝沼・流川・会津編ー

その体に宿るもの

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「累、戻っていたのか」
「うん、つい今しがたね。とりあえずこれを着ろ」
兄が買ってきてくれた服を着ようとして、ああ、と思い出した。
「兄さん、申し訳ないんだけどシャワーを貸してくれないかな」
項に京極の匂いがついているというのであれば落としたいし確認しなければならない事もある。確かめるのは怖い。けれど、先送りしてもいい事などない。杞憂ならいいが、そうでなかったら放置は事態を悪化させるだけだ。
「いいよ」
蓮兄さんが何かを言いかけるのを兄さんが遮って言ってくれた

震える手で洗面台の兄の保湿クリームの裏に隠した検査紙を取り出す
カミソリで軽く指を切る。そのまま血液をたらした。俺が不安になりすぎているだけだと証明してくれ!
……
1分、たった1分の待ち時間がとてつもなく、とてつもなく長く感じた。
………
以前に試しで計測した時は、Ω値は検出されなかった。
今ははっきりと検出されている。この値がどれくらい危機なのかわからない……!
『この線を超えたら完全にΩに変わったと言う事よ』
まだ、半分だ。半分。でもここで止まってくれるのか!?

頸から、ニオイがした気がした。浴室に飛び込んだ。全身を思いっきり擦り洗いする。何度も何度も洗う。熱いお湯がひりついた肌に染みる。それでもまだ、うなじからニオイがする気がして悲鳴が漏れる。
俺はどこまで ピッチングが進んでいるのだろうか
蓮兄さんにうなじを嗅がれただけでゾワッとした。
けれど、ヒートは来ていない。まだ間に合うのだろうか
そしてコンちゃん、コンちゃんの言っていたことは正しかった。
この世界が小説の世界だなんて思いはしない。けれど、コンちゃんは未来予想、未来予見の力をもっていたのではないのだろうか

『いい?京極はね、陸の努力を全て台無しにするの。私は陸がαらしくあるためにどれだけ努力をしてきたかを知っている。お兄さんと比べられてどんなに辛かったかも知ってる。それを跳ね返すためにどれだけの努力をしてきたかを知っている。なのにあいつは……』

コンちゃん、俺はすごく努力をしてきたよ 
βでありながら優秀な兄。

『βであれだけ優秀なのだから、弟はαだし、すごいのだろうな』
『うちの小学校から帝都大卒が出るんじゃ!?』
『なんだ、α様ってたいした事ないんだな』
『あれだけ 優秀なβの弟のくせして、αなのに大したことはないんだな』
『逆の方が納得いくよな』
『詐欺なんじゃね?』
『測定が間違ってるじゃ?それとも自分でズルしたのかね、兄の血液とすり替えたりしたとかさ』

ずるりと浴室の床に座り込んだ
ずっと言われてきた言葉。それを跳ね返すためにずっと頑張ってきた。
コンちゃんは俺のそういった姿を見てもいないのに分かってくれていた。
結果の出てない俺を、結果の出せない俺のそれまでの姿勢を見てくれたのだ。 経過を評価してくれたのだ。
そんなコンちゃんに惹かれた
 2人で幸せになれると思ってた。コンちゃんは優秀な優秀なΩだ。俺は出来そこないのα
 世間的に求められる像とはほど遠い2人。
でも割れ鍋に綴じ蓋。世間の評価なんて関係ない、俺たちは番って幸せな家庭を作れると思っていた。

でも……
俺はいつまでαでいられるのだろう……

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