41 / 43
番外編 あれからかみしま乗組員は
9 オレンジ色の温もり
しおりを挟む
「息子が世話になったようで」
「いえ。わたしは何もしていません。しっかりした息子さんですね。申し遅れました。私は伊佐と申します」
「伊佐さん! よろしくお願いします。いやぁ、息子は私に似なくてよかったですよ。あははは」
イカを片手にぶら下げて、男は大きな声で笑った。こんな豪快な男から、いかにも優しくていい子が生まれるなんて。伊佐は思わず母親の方を振り返って確認してしまう。伊佐と目が合った母親はにっこり笑って会釈した。
(なるほど。たしかに母親似だな。いやまた、素敵な年の差カップルじゃないか)
「おーい、海音! ちょっとこちっちに来てくれ。ここの海上保安官だそうだ」
「いや、わざわざ悪いですよ。プライベートなのに」
「我々は仲間でしょう。警備も救難も同じ海上保安官。その家族もまた仲間ですからね」
紹介しますよと、五十嵐という男は伊佐に言う。五十嵐は七管区から十一管区に異動してきた航空基地の職員だった。話を聞くと、伊佐の思った通りで昔は三管区の特殊救難隊に所属したことがあるそうだ。
「おじちゃんすごいでしょ? パパはねトッキューだったんだって」
「すごいなぁ。おじちゃんにはできないお仕事だよ」
「海優ったら、おじちゃんじゃないわよ! お兄さんでしょっ」
母親は大慌てだ。伊佐はそんな家族の風景が羨ましくもあり、微笑ましくもあった。
「いいんだよ、おじさんで。その方がしっかりした大人に見えるからね。ありがとう海優くん」
子どもたちがこれからも安全な海でたくさん遊べるように、海上保安官たちは責務を果たさなければならないのだ。
伊佐は海優という少年と約束の意味を込めて握手をした。すると海優は伊佐に小声で言った。
「ないしょだよ。海のかみ様が、おじちゃんのこと、おうえんしてた」
「えっ、会ったのかい?」
「うん。伊佐おじちゃんがんばってね」
「ありがとう」
そう、この子もまた綿津見が見えるのだ。
「さて、海優帰るか!」
「うん!」
「主人がお世話になりました。では、失礼します」
「はい、お気をつけて」
大きな背中、小さな背中、しなやかな背中が遠ざかる。不思議と彼らからオレンジ色の温かな温もりを感じた。きっとそれはあの大きなゴリラさんが放っているのだろう。
伊佐はその背中に向かって静かに敬礼をした。すると、見えていたかのように五十嵐は前を向いたまま手を挙げた。
《イサナギサ ヤマトノウミヲ マモレ オマエノ シメイダ》
「ワダツミ!」
まさかあの五十嵐という男は人間の姿を借りた綿津見なのか。突然海から伊佐の目の前に現れた。
(いや、まさか、そんなんなわけない)
いくらなんでもそれはないと、伊佐は自分に苦笑いした。そのとき、
「伊佐さーん」
「うん?」
声の方を振り返ると、手を振りながら砂浜を走ってくる我如古レナの姿があった。
「レナさん」
「いえ。わたしは何もしていません。しっかりした息子さんですね。申し遅れました。私は伊佐と申します」
「伊佐さん! よろしくお願いします。いやぁ、息子は私に似なくてよかったですよ。あははは」
イカを片手にぶら下げて、男は大きな声で笑った。こんな豪快な男から、いかにも優しくていい子が生まれるなんて。伊佐は思わず母親の方を振り返って確認してしまう。伊佐と目が合った母親はにっこり笑って会釈した。
(なるほど。たしかに母親似だな。いやまた、素敵な年の差カップルじゃないか)
「おーい、海音! ちょっとこちっちに来てくれ。ここの海上保安官だそうだ」
「いや、わざわざ悪いですよ。プライベートなのに」
「我々は仲間でしょう。警備も救難も同じ海上保安官。その家族もまた仲間ですからね」
紹介しますよと、五十嵐という男は伊佐に言う。五十嵐は七管区から十一管区に異動してきた航空基地の職員だった。話を聞くと、伊佐の思った通りで昔は三管区の特殊救難隊に所属したことがあるそうだ。
「おじちゃんすごいでしょ? パパはねトッキューだったんだって」
「すごいなぁ。おじちゃんにはできないお仕事だよ」
「海優ったら、おじちゃんじゃないわよ! お兄さんでしょっ」
母親は大慌てだ。伊佐はそんな家族の風景が羨ましくもあり、微笑ましくもあった。
「いいんだよ、おじさんで。その方がしっかりした大人に見えるからね。ありがとう海優くん」
子どもたちがこれからも安全な海でたくさん遊べるように、海上保安官たちは責務を果たさなければならないのだ。
伊佐は海優という少年と約束の意味を込めて握手をした。すると海優は伊佐に小声で言った。
「ないしょだよ。海のかみ様が、おじちゃんのこと、おうえんしてた」
「えっ、会ったのかい?」
「うん。伊佐おじちゃんがんばってね」
「ありがとう」
そう、この子もまた綿津見が見えるのだ。
「さて、海優帰るか!」
「うん!」
「主人がお世話になりました。では、失礼します」
「はい、お気をつけて」
大きな背中、小さな背中、しなやかな背中が遠ざかる。不思議と彼らからオレンジ色の温かな温もりを感じた。きっとそれはあの大きなゴリラさんが放っているのだろう。
伊佐はその背中に向かって静かに敬礼をした。すると、見えていたかのように五十嵐は前を向いたまま手を挙げた。
《イサナギサ ヤマトノウミヲ マモレ オマエノ シメイダ》
「ワダツミ!」
まさかあの五十嵐という男は人間の姿を借りた綿津見なのか。突然海から伊佐の目の前に現れた。
(いや、まさか、そんなんなわけない)
いくらなんでもそれはないと、伊佐は自分に苦笑いした。そのとき、
「伊佐さーん」
「うん?」
声の方を振り返ると、手を振りながら砂浜を走ってくる我如古レナの姿があった。
「レナさん」
10
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム
下城米雪
ライト文芸
彼女は高校時代の失敗を機に十年も引きこもり続けた。
親にも見捨てられ、唯一の味方は、実の兄だけだった。
ある日、彼女は決意する。
兄を安心させるため、自分はもう大丈夫だよと伝えるため、Vtuberとして百万人のファンを集める。
強くなった後で新しい挑戦をすることが「強くてニューゲーム」なら、これは真逆の物語。これから始まるのは、逃げて逃げて逃げ続けた彼女の全く新しい挑戦──
マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
スマホゲーム王
ルンルン太郎
ライト文芸
主人公葉山裕二はスマホゲームで1番になる為には販売員の給料では足りず、課金したくてウェブ小説を書き始めた。彼は果たして目的の課金生活をエンジョイできるのだろうか。無謀な夢は叶うのだろうか。
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる