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番外編 あれからかみしま乗組員は
3 もう、大人なんだから
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タクシーに乗り込んだ伊佐の顔は心なしかニヤけていた。他人のことは本人以上によく気がつく歌川が、自分のこととなったら見事なくらいに鈍感なのだ。
どう見ても虹富は歌川のことが好きだ。もっとも、虹富をその気にさせたのは歌川本人なのだが、無意識に口にした数々の言葉がこの事態を招いていることに気づいていない。
(あいつ、本当に面白いやつだな)
伊佐はそんなことを考えながら、メールを確認するためタブレットをオンにした。今日は休みでも、この数日間に部下からの報告やたくさんの承認待ちが溜まっている。それを一つ一つ確認しながら宿舎までの道のりを過ごした。
「お客さん、次の交差点は右ですかね」
「あ、はい。そうです。右にお願いします。すぐにコンビニが見えますので、そこで降ります」
「わかりました」
タクシーから降りた伊佐はコンビニエンスストアに入った。独身彼女なし宿舎住まいの伊佐は、今夜は適当にすまそうと考えていた。
その時、伊佐のスマートフォンが震えた。見ればショートメッセージで、その内容に二度見した。
【主計科の金城です。お忙しいのにすみません。私、平良隊長から家に来るようにって言われているのですが、行ってもよいのでしょうか】
「は? なんなんだこの相談じみたメッセージは」
平良とは特警隊の平良豪であろう。その平良から金城は家に呼び出されたようだ。いったい何をやらかしたのかと考える。特に思い当たる節はないが、監理官という名の自分に連絡してきたのだから、なにかあったのだろう。
伊佐は彼女にどう返信するべきか考えていると、その金城本人から電話がかかってきた。伊佐はとりあえずカゴを元の場所にもどして、外に出て電話をとる。
「伊佐です」
『伊佐監理官! あのっ、わたし! いいのでしょうか⁉︎』
金城は慌てたような口調でそう言った。
「金城さん、落ち着いてください。メッセージの件ですよね。平良さんと何があったのですか。私の不在時に問題でも?」
『仕事で何かあったわけではありません。その……カレーライスを作りに来いって。えっと、その、業務外といいますか、個人的なものだと思うのですが』
金城は急に歯切れが悪くなり、後半はもじもじしている。伊佐はますます困惑した。
「個人的に訪問するのですか? 平良さんのお宅に」
『……はい。そういうことして、いいのかなぁと思いまして』
「いいもなにも、個人的なことに私がどうこう言うことはないですよ。それに、お二人とも大人ですよね」
『そうなんですけど。男の人のお部屋に行くって、やっぱり、その、そういうことなんでしょうか』
「金城さん、なぜそれを私に?」
『伊佐監理官なら、そういうことに詳しいというか、男性の気持ちを確認したくて、あの、そのぉ』
伊佐は心の中で大きなため息をついた。いくら上司だからといって、部下の個人的な行動を制限する権限はない。しかもこれは、どう考えても恋愛相談なのではないだろうか。
「金城さん。二十歳を過ぎたらご自分で判断してください。よろしくお願いします」
『申し訳ありませんでした』
「いえ」
(俺はいったいなにをやっているんだか……)
伊佐は電話を切ると、再びコンビニエンスストアに入り、今度こそはとカゴに商品を入れた。
どう見ても虹富は歌川のことが好きだ。もっとも、虹富をその気にさせたのは歌川本人なのだが、無意識に口にした数々の言葉がこの事態を招いていることに気づいていない。
(あいつ、本当に面白いやつだな)
伊佐はそんなことを考えながら、メールを確認するためタブレットをオンにした。今日は休みでも、この数日間に部下からの報告やたくさんの承認待ちが溜まっている。それを一つ一つ確認しながら宿舎までの道のりを過ごした。
「お客さん、次の交差点は右ですかね」
「あ、はい。そうです。右にお願いします。すぐにコンビニが見えますので、そこで降ります」
「わかりました」
タクシーから降りた伊佐はコンビニエンスストアに入った。独身彼女なし宿舎住まいの伊佐は、今夜は適当にすまそうと考えていた。
その時、伊佐のスマートフォンが震えた。見ればショートメッセージで、その内容に二度見した。
【主計科の金城です。お忙しいのにすみません。私、平良隊長から家に来るようにって言われているのですが、行ってもよいのでしょうか】
「は? なんなんだこの相談じみたメッセージは」
平良とは特警隊の平良豪であろう。その平良から金城は家に呼び出されたようだ。いったい何をやらかしたのかと考える。特に思い当たる節はないが、監理官という名の自分に連絡してきたのだから、なにかあったのだろう。
伊佐は彼女にどう返信するべきか考えていると、その金城本人から電話がかかってきた。伊佐はとりあえずカゴを元の場所にもどして、外に出て電話をとる。
「伊佐です」
『伊佐監理官! あのっ、わたし! いいのでしょうか⁉︎』
金城は慌てたような口調でそう言った。
「金城さん、落ち着いてください。メッセージの件ですよね。平良さんと何があったのですか。私の不在時に問題でも?」
『仕事で何かあったわけではありません。その……カレーライスを作りに来いって。えっと、その、業務外といいますか、個人的なものだと思うのですが』
金城は急に歯切れが悪くなり、後半はもじもじしている。伊佐はますます困惑した。
「個人的に訪問するのですか? 平良さんのお宅に」
『……はい。そういうことして、いいのかなぁと思いまして』
「いいもなにも、個人的なことに私がどうこう言うことはないですよ。それに、お二人とも大人ですよね」
『そうなんですけど。男の人のお部屋に行くって、やっぱり、その、そういうことなんでしょうか』
「金城さん、なぜそれを私に?」
『伊佐監理官なら、そういうことに詳しいというか、男性の気持ちを確認したくて、あの、そのぉ』
伊佐は心の中で大きなため息をついた。いくら上司だからといって、部下の個人的な行動を制限する権限はない。しかもこれは、どう考えても恋愛相談なのではないだろうか。
「金城さん。二十歳を過ぎたらご自分で判断してください。よろしくお願いします」
『申し訳ありませんでした』
「いえ」
(俺はいったいなにをやっているんだか……)
伊佐は電話を切ると、再びコンビニエンスストアに入り、今度こそはとカゴに商品を入れた。
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