かみしまの海〜海の守護神、綿津見となれ〜

ユーリ(佐伯瑠璃)

文字の大きさ
上 下
34 / 43
番外編 あれからかみしま乗組員は

2 歌川、拉致される

しおりを挟む
「はー! やっぱり石垣島は空気が違いますね。体がバカンスだって言っていますよ」

 歌川は空港ロビーを出ると、両手を上げて背伸びをした。造船所のお偉いさんにひたすら頭を下げたせいで、今はすっかりと気を緩めていた。
 それは伊佐も同じだった。胸を張って肺を広げて、南国の柔らかな空気を吸い込んだ。

「今日は休みだろ。ゆっくりしろよ」
「言われなくともそうさせていただきます」

 眼鏡のふちを上げながら歌川はキャリーケースに手をかけた。「では」と歌川が足を踏み出した時、伊佐は歌川の前に腕を突き出した。

 ドンッ

「うへっ。ちょっとなんなんですか。伊佐さんここに来て嫌がらせですかっ。僕は疲れているんですよ」
「おい、歌川。あれ」
「ですから、あなたのイタズラに付き合っている暇はないと」
「おまえに、迎えが来ている」
「はい?」
「歌川専属のあの子じゃないのか」
「なんです? 僕専属って……えっ」

 伊佐の視線を追いかけて確認した歌川。そこにいたのは主計科主任の虹富まどかだった。虹富は満面の笑みを浮かべて、こちらに向かって大きく手を振っている。

「おや? またどうして彼女が」
「歌川さーん! おかえりなさい!」
「歌川。俺はタクシーで帰るから、じゃあ」
「えっ、伊佐さん! ちょっと、どういうことですかー」

 片手を上げてまたなとタクシーに乗り込んだ伊佐は、歌川を待つことなく行ってしまった。歌川はそんな伊佐を呆然と見送った。何が何だか頭の整理が追いついていないのだ。

「歌川さん! 宿舎まで送りますね。さあ、乗ってください。疲れたでしょう?」
「虹富まどかさん、なぜここに!」
「ですから、歌川さんを迎えに来たんですよ。私もたまたまお休みだったので。あっ、お夕飯食べてもらえますよね? 職員のために新しいメニューを考案したんです」
「は、え、ああ」

 あの饒舌な歌川が完全に虹富のペースにおされていた。伊佐がさっさと帰った理由はここにある。とにかくこうなることは想像ついていたし、それを見ていられなかったのだ。

「かみしまが帰ってくるまで、私たちもがんばりましょうね! もう、歌川さんたら。しっかり」
「うおっ」

 歌川は虹富に、ドンと背中を押されてあっという間に車に乗せられる。船から降りた方が、なんだか大変な予感がしたのはいうまでもない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...