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31 巡視船かみしま
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巡視船かみしまが、現れた。
その連絡を受けて歓喜に湧いたのは、先に退避していたかみしまの職員たちだ。
それぞれの場所から身を乗り出すようにして、巡視船かみしまを確認した。
「かみしまだ!」
「よかった! 無事だった!」
「俺たちの船が、帰ってきた!」
命令とはいえ、自分たちだけが退避していたことに後ろめたさと悔しさを抱えていたのだ。誰もが確信をした。
私たちはあの船で石垣に帰ると。
「みんな無事よね? 怪我をした人がいるってきいたけれど、大したことのない怪我よね。お願い神様、全員が無事でありますように」
手を合わせ願うのは、もう一人の主計科主任の虹富まどかだ。自分も残りたいと抵抗をしたが、叶わなかった。護衛艦つるみに保護されている間は、職員と自衛官の間に立ち連絡係として動いていた。
そのため、うおたかの動向やかみしまの戦闘開始を耳にしては心を痛めていたのだ。
(歌川さん……大丈夫よね。彼はきっと、大丈夫なはずよ。だって、歌川さんだもん)
とはいえ、御人的な感情は消すことができなかった。冷静でクールだけれど、ご飯を美味しそうに食べる姿が忘れられない。
「虹富さん!」
「レナさん! 大丈夫ですか? 怪我は」
「私は大丈夫よ。うおたかが助けてくれたから。あなたも大変だったわね。みんなのこと、ありがとう」
「なに言ってるんですかっ! レナさんが生きていて、よかったです……もう、ううっ」
「虹富さん……泣かないで。ほら、みんなが帰ってくる。まだ、仕事は山積みよ」
「はい。美味しいご飯、作らないと」
「そうよ。みんな、お腹空かせてるわ」
レナと虹富は抱き合って再会を喜んだ。
食堂でレナを見失ってからどれくらい時間が過ぎたか。虹富にとって、大好きな上司の生死も分からずにいた時間は、あまりにも長く辛いものだった。
「レナさぁぁん」
「虹富さん……もう、大丈夫だから」
しばらくは涙が止まらなかった。
◇
その頃、巡視船かみしまでは――
「アアアアア……!」
「男が情けない声を出すな。あと、小銃は返してもらうぞ」
甲板で大騒ぎしているのは、巡視船かみしまに回収された歌川だ。歌川は大きく凹んだかみしまの船体を見て、頭を抱えて嘆いているのだ。
そんな、歌川を見たかみしま特警隊隊長の平良は、うるさいやつだと言わんばかりに歌川の背に担がれた、大事な装備品を回収している。
「平良さんは現場オンリー、結果オーライでしのげますから余裕ですよね! 僕はこれから書類との戦いが始まるんですよ! うわぁぁぁぁ」
疲れ果てて座り込んでいた金城が、歌川を慰める。
「歌川さん、落ち着いてください。大丈夫ですって、歌川さんの責任じゃないですよ?」
「あなた方に、僕の気持ちが分かるもんですか! アアアアア――」
平良は金城の肩をトンと軽く叩いて首を横に振った。今は何を言ってもダメだから、そっとしておけという意味である。
とはいえ、共に海原に飛び込んだ仲である。そっとしておこうとは思っても、二人とも煩い歌川のそばから離れない。
監理官補佐の大変さは二人だって想像がつく。しかも、船長のそばを離れてはいけない監理官が、いちばん前進で戦ったのだから。
「さて、歌川くん。嘆くのはその辺にして、伊佐監理官の生存確認をしなくていいのか? なんか、ヘリから降りてきよな? 君の上司。トッキューでもないのにね……生きてるかな?」
平良の言葉でようやく騒ぐのをやめた歌川の表情はなぜか真っ青である。平良と金城は思わず顔を見合わせた。
(俺、なんかマズイことを言ったか?)
(いいえ、とくには……)
我に戻った歌川は先ほどの状態が嘘のように、黙って立ち上がった。蒼ざめた顔はそのままに。
「おい、歌川。大丈夫か」
「歌川、さん?」
「僕はバカです。なにやってるんだ……あの人のところへ、行かないと!」
「うたがわっ」
平良がもう一度声をかけようとした時には、歌川はいなかった。伊佐を探しに行ったのだ。
「……はやっ」
◇
さて、肝心の監理官はどうしているのか。
巡視船かみしまはまもなく護衛艦つるみが待つ水域に到着する。
船内アナウンスでそう知らされた。
あのあと、とてつもない脱力感に襲われて、睡魔も襲ってきて少しの間記憶がない。
しかし、伊佐も佐々木も生きている。
「空が、青いな」
「ええ、とても青いです。海とは違いますね」
「君は、海と空の融合を見たことあるかね」
「融合? 水平線なら何度も」
「うむ。だが、水平線とは違う。雲ひとつない空の青と、凪いだ青い海が重なると上下を見失ってしまう。パイロットが言うにはそれをバーティゴと言うらしい」
「聞いたことあります。戦闘機パイロットが訓練や任務でいちばん気をつけなければならないことだとか。空間識失調というやつですよね」
「それが海でも起きる」
「へぇ……」
なんの話をしているのか。ふと我に返るとおかしなことを言っていると思うのに、伊佐も佐々木も風呂にでも浸かっているような心地で深くは考えられない。
体力も気力も使い果たしたのだから、仕方がない。
二人は大の字になって、甲板に転がっていた。
見上げた空は青すぎるほど青く、先ほどまでの死闘が嘘のようだ。
「私はね伊佐くん。一度だけそれを味わったことがあるよ。前後、左右、上下がね、分からなくなったんだよ。だけどね、不思議と恐怖はなかった。心も体も暖かくなって、幸せな気分だった。ずっとこのままでいいと、思うくらいにね」
「佐々木さん、それ……死ぬ一歩手前とかじゃ」
「かもしれんな。ところで伊佐くん」
「はい」
「私たちは生きているのか?」
「生きていますよ。海上保安官は海では死ねないんです。海の神が、させません」
「うちの神さまは、人使いが荒いようだ」
「ええ、まったく」
甲板の上で、互いに生きていることを確認した。
そろそろ護衛艦つるみが、かみしまの姿を確認した頃ではないか。起きてあちらとの手続きや、預けたままの職員たちのことも気になる。
(起きなければ……)
しかし、どうにも体に力が入らない。切れた緊張の糸を繕うことができそうにない。
(だめだ、眠い。力が入らない……佐々木さんは、もっとしんどいだろうに)
人造人間は聞いたこともないような断末魔をあげて散った。散ったという表現であっているかすら分からないが、確かに目の前で消えたのだ。
突然の雷鳴で世界が黄色く染まった。黒いボディが弛緩して体の隙間から光が漏れた。それを目印に、ひたすら機関砲で撃ち込んだ。
(蒸発したようにも見えたな……アイツは会えたのだろうか、風丸竜二に)
耳に残るのは、人造人間らしくない「マイマスター」の細き声。
それを思い出すと、なぜか泣けてくるのだ。人の心を持たない戦闘マシーンに、唯一インプットされた主人への忠誠心はまるで子どものように感じられた。
人間の勝手な欲望から生み出され、元軍人の体を持たされた。そして悪だと一方的に叩かれる。
しかも、世にその存在すら知られないままに。
(いくら機械だと、心がない相手だ言われてもなぁ……)
伊佐の隣から大きなイビキが聞こえてきた。佐々木はもう夢の中だ。伊佐はその盛大なイビキを聴きながら、目を閉じる。
(とりあえず、休憩だ。さすがに、これくらい許されるだろ)
と、その時。
「伊佐さん! まったくなんど死にかけたら気が済むんですか! 僕は許しませんよ。絶対に死なせはしませんからぁぁぁ――」
なんとも甲高い声が、伊佐の頭上でした。ああ、歌川だ。歌川も無事だったならよかったなどと思っていると、急に胸を圧迫が襲った。
(おい、もしかして心マ始めたのか! おい、やめろ。起きるから、もうやめてくれ)
ぐっぐっと押されて、伊佐は逆に死ぬと慌てた。何度かそれが繰り返されて、ピタリと止まった。ああよかったと思った矢先だ。
歌川の影が、ぐーんと伊佐の顔に接近してきた。
(マジか⁉︎)
伊佐は間一髪のところで腕を上げた。
「むむむむむむむっ」
「俺は生きている。心音確かめてから蘇生に入れよっ」
「ンググググ」
伊佐は歌川の突き出した唇を手のひらで押さえた。危なく人工呼吸をされるところだったのだ。
「ブハッ! はぁはぁ……伊佐さん!」
「歌川くん、ご苦労」
「あなたって人は! ヌォォオ!」
歌川の雄叫びが、大海原を駆け抜けた。
◇
―― 巡視船かみしま、護衛艦つるみとコンタクト完了
護衛艦つるみから、医官と衛生隊が数名訪ねて来てくれた。
幸いにして、命に関わるような怪我をした者はいなかった。佐々木は打撲、伊佐は肋骨骨折、その他特警隊員も軽症と診断された。
とにかく、全員安静に過ごすようにと告げられた。
船長と航海長の由井は大仕事を終えて、胸を撫で下ろしている。
その隣で頭を抱えたり、眼鏡を外したりかけたりと忙しい男がひとり。
歌川だ。
今回の事件をどう処理すべきか、どう上に報告したものかと頭を悩ませているのだ。
「どうもこうも、まんま報告するしかないだろう? 録画もされているし隠しようもない。現にかみしまはボッコリ凹んでいるわけだしさ。あとは上がどうするか決めるさ」
伊佐は横腹を押さえながら、のんびりとした口調でそう言った。
それが気に食わなかったのか、歌川が目くじら立てて言い返す。
「僕の身にもなってくださいよ! 人造人間をどう説明しろと? 三年前の案件の続き? 知ったことですかー。文章に落とすことがどれほど大変か!」
「だったら、挿絵付きで出したらどうだ。絵、得意だろ?」
「挿絵……?」
歌川はずり落ちた眼鏡を上げる途中で動きを止める。
何はともあれ大変なのは変わりないのである。
その連絡を受けて歓喜に湧いたのは、先に退避していたかみしまの職員たちだ。
それぞれの場所から身を乗り出すようにして、巡視船かみしまを確認した。
「かみしまだ!」
「よかった! 無事だった!」
「俺たちの船が、帰ってきた!」
命令とはいえ、自分たちだけが退避していたことに後ろめたさと悔しさを抱えていたのだ。誰もが確信をした。
私たちはあの船で石垣に帰ると。
「みんな無事よね? 怪我をした人がいるってきいたけれど、大したことのない怪我よね。お願い神様、全員が無事でありますように」
手を合わせ願うのは、もう一人の主計科主任の虹富まどかだ。自分も残りたいと抵抗をしたが、叶わなかった。護衛艦つるみに保護されている間は、職員と自衛官の間に立ち連絡係として動いていた。
そのため、うおたかの動向やかみしまの戦闘開始を耳にしては心を痛めていたのだ。
(歌川さん……大丈夫よね。彼はきっと、大丈夫なはずよ。だって、歌川さんだもん)
とはいえ、御人的な感情は消すことができなかった。冷静でクールだけれど、ご飯を美味しそうに食べる姿が忘れられない。
「虹富さん!」
「レナさん! 大丈夫ですか? 怪我は」
「私は大丈夫よ。うおたかが助けてくれたから。あなたも大変だったわね。みんなのこと、ありがとう」
「なに言ってるんですかっ! レナさんが生きていて、よかったです……もう、ううっ」
「虹富さん……泣かないで。ほら、みんなが帰ってくる。まだ、仕事は山積みよ」
「はい。美味しいご飯、作らないと」
「そうよ。みんな、お腹空かせてるわ」
レナと虹富は抱き合って再会を喜んだ。
食堂でレナを見失ってからどれくらい時間が過ぎたか。虹富にとって、大好きな上司の生死も分からずにいた時間は、あまりにも長く辛いものだった。
「レナさぁぁん」
「虹富さん……もう、大丈夫だから」
しばらくは涙が止まらなかった。
◇
その頃、巡視船かみしまでは――
「アアアアア……!」
「男が情けない声を出すな。あと、小銃は返してもらうぞ」
甲板で大騒ぎしているのは、巡視船かみしまに回収された歌川だ。歌川は大きく凹んだかみしまの船体を見て、頭を抱えて嘆いているのだ。
そんな、歌川を見たかみしま特警隊隊長の平良は、うるさいやつだと言わんばかりに歌川の背に担がれた、大事な装備品を回収している。
「平良さんは現場オンリー、結果オーライでしのげますから余裕ですよね! 僕はこれから書類との戦いが始まるんですよ! うわぁぁぁぁ」
疲れ果てて座り込んでいた金城が、歌川を慰める。
「歌川さん、落ち着いてください。大丈夫ですって、歌川さんの責任じゃないですよ?」
「あなた方に、僕の気持ちが分かるもんですか! アアアアア――」
平良は金城の肩をトンと軽く叩いて首を横に振った。今は何を言ってもダメだから、そっとしておけという意味である。
とはいえ、共に海原に飛び込んだ仲である。そっとしておこうとは思っても、二人とも煩い歌川のそばから離れない。
監理官補佐の大変さは二人だって想像がつく。しかも、船長のそばを離れてはいけない監理官が、いちばん前進で戦ったのだから。
「さて、歌川くん。嘆くのはその辺にして、伊佐監理官の生存確認をしなくていいのか? なんか、ヘリから降りてきよな? 君の上司。トッキューでもないのにね……生きてるかな?」
平良の言葉でようやく騒ぐのをやめた歌川の表情はなぜか真っ青である。平良と金城は思わず顔を見合わせた。
(俺、なんかマズイことを言ったか?)
(いいえ、とくには……)
我に戻った歌川は先ほどの状態が嘘のように、黙って立ち上がった。蒼ざめた顔はそのままに。
「おい、歌川。大丈夫か」
「歌川、さん?」
「僕はバカです。なにやってるんだ……あの人のところへ、行かないと!」
「うたがわっ」
平良がもう一度声をかけようとした時には、歌川はいなかった。伊佐を探しに行ったのだ。
「……はやっ」
◇
さて、肝心の監理官はどうしているのか。
巡視船かみしまはまもなく護衛艦つるみが待つ水域に到着する。
船内アナウンスでそう知らされた。
あのあと、とてつもない脱力感に襲われて、睡魔も襲ってきて少しの間記憶がない。
しかし、伊佐も佐々木も生きている。
「空が、青いな」
「ええ、とても青いです。海とは違いますね」
「君は、海と空の融合を見たことあるかね」
「融合? 水平線なら何度も」
「うむ。だが、水平線とは違う。雲ひとつない空の青と、凪いだ青い海が重なると上下を見失ってしまう。パイロットが言うにはそれをバーティゴと言うらしい」
「聞いたことあります。戦闘機パイロットが訓練や任務でいちばん気をつけなければならないことだとか。空間識失調というやつですよね」
「それが海でも起きる」
「へぇ……」
なんの話をしているのか。ふと我に返るとおかしなことを言っていると思うのに、伊佐も佐々木も風呂にでも浸かっているような心地で深くは考えられない。
体力も気力も使い果たしたのだから、仕方がない。
二人は大の字になって、甲板に転がっていた。
見上げた空は青すぎるほど青く、先ほどまでの死闘が嘘のようだ。
「私はね伊佐くん。一度だけそれを味わったことがあるよ。前後、左右、上下がね、分からなくなったんだよ。だけどね、不思議と恐怖はなかった。心も体も暖かくなって、幸せな気分だった。ずっとこのままでいいと、思うくらいにね」
「佐々木さん、それ……死ぬ一歩手前とかじゃ」
「かもしれんな。ところで伊佐くん」
「はい」
「私たちは生きているのか?」
「生きていますよ。海上保安官は海では死ねないんです。海の神が、させません」
「うちの神さまは、人使いが荒いようだ」
「ええ、まったく」
甲板の上で、互いに生きていることを確認した。
そろそろ護衛艦つるみが、かみしまの姿を確認した頃ではないか。起きてあちらとの手続きや、預けたままの職員たちのことも気になる。
(起きなければ……)
しかし、どうにも体に力が入らない。切れた緊張の糸を繕うことができそうにない。
(だめだ、眠い。力が入らない……佐々木さんは、もっとしんどいだろうに)
人造人間は聞いたこともないような断末魔をあげて散った。散ったという表現であっているかすら分からないが、確かに目の前で消えたのだ。
突然の雷鳴で世界が黄色く染まった。黒いボディが弛緩して体の隙間から光が漏れた。それを目印に、ひたすら機関砲で撃ち込んだ。
(蒸発したようにも見えたな……アイツは会えたのだろうか、風丸竜二に)
耳に残るのは、人造人間らしくない「マイマスター」の細き声。
それを思い出すと、なぜか泣けてくるのだ。人の心を持たない戦闘マシーンに、唯一インプットされた主人への忠誠心はまるで子どものように感じられた。
人間の勝手な欲望から生み出され、元軍人の体を持たされた。そして悪だと一方的に叩かれる。
しかも、世にその存在すら知られないままに。
(いくら機械だと、心がない相手だ言われてもなぁ……)
伊佐の隣から大きなイビキが聞こえてきた。佐々木はもう夢の中だ。伊佐はその盛大なイビキを聴きながら、目を閉じる。
(とりあえず、休憩だ。さすがに、これくらい許されるだろ)
と、その時。
「伊佐さん! まったくなんど死にかけたら気が済むんですか! 僕は許しませんよ。絶対に死なせはしませんからぁぁぁ――」
なんとも甲高い声が、伊佐の頭上でした。ああ、歌川だ。歌川も無事だったならよかったなどと思っていると、急に胸を圧迫が襲った。
(おい、もしかして心マ始めたのか! おい、やめろ。起きるから、もうやめてくれ)
ぐっぐっと押されて、伊佐は逆に死ぬと慌てた。何度かそれが繰り返されて、ピタリと止まった。ああよかったと思った矢先だ。
歌川の影が、ぐーんと伊佐の顔に接近してきた。
(マジか⁉︎)
伊佐は間一髪のところで腕を上げた。
「むむむむむむむっ」
「俺は生きている。心音確かめてから蘇生に入れよっ」
「ンググググ」
伊佐は歌川の突き出した唇を手のひらで押さえた。危なく人工呼吸をされるところだったのだ。
「ブハッ! はぁはぁ……伊佐さん!」
「歌川くん、ご苦労」
「あなたって人は! ヌォォオ!」
歌川の雄叫びが、大海原を駆け抜けた。
◇
―― 巡視船かみしま、護衛艦つるみとコンタクト完了
護衛艦つるみから、医官と衛生隊が数名訪ねて来てくれた。
幸いにして、命に関わるような怪我をした者はいなかった。佐々木は打撲、伊佐は肋骨骨折、その他特警隊員も軽症と診断された。
とにかく、全員安静に過ごすようにと告げられた。
船長と航海長の由井は大仕事を終えて、胸を撫で下ろしている。
その隣で頭を抱えたり、眼鏡を外したりかけたりと忙しい男がひとり。
歌川だ。
今回の事件をどう処理すべきか、どう上に報告したものかと頭を悩ませているのだ。
「どうもこうも、まんま報告するしかないだろう? 録画もされているし隠しようもない。現にかみしまはボッコリ凹んでいるわけだしさ。あとは上がどうするか決めるさ」
伊佐は横腹を押さえながら、のんびりとした口調でそう言った。
それが気に食わなかったのか、歌川が目くじら立てて言い返す。
「僕の身にもなってくださいよ! 人造人間をどう説明しろと? 三年前の案件の続き? 知ったことですかー。文章に落とすことがどれほど大変か!」
「だったら、挿絵付きで出したらどうだ。絵、得意だろ?」
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