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29 信じる力
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巡視船かみしまが火を噴いた。
その知らせは、かみしまから離れた護衛艦つるみまで届いていた。
「艦長! 巡視船かみしまが射撃を開始したそうです!」
「そうか」
「艦長、我々はどうしますか。このまま待機を続けますか。もしもアレに射撃を行っているならば、海保の武器では……」
アレの正体を知っている副長の鹿島は、巡視船かみしまのことを案じた。なにか海上自衛隊としてできることはないかと、ずっと考えていたのだ。
しかし、どう考えても規則や法律の壁は高かった。
「鹿島」
「はい」
「我々にできることは、時間まで待つことだ。約束の時間を過ぎるようであれば、石垣へ向かう」
「約束の時間ですか」
「合同訓練予定の時間だ。それがリミットだと思っている。その時間を過ぎても連絡がなければ、上に報告だ。その時は我々も罰せられるだろうがね。なあに、責任は私にある。君たちはあまり心配するな」
巡視船かみしまが職員の受け入れを頼んできたときに、護衛艦つるみはその旨を防衛省に報告する義務があったのだ。
しかし、艦長の屋島はそれをしなかった。
それは、なぜか。
巡視船かみしまはあのデンジャーゾーンにどの船も入れたくなかった。巻き込みたくなかったのだ。事が事なだけに、最悪はかみしま一隻で被害をとどめておきたいとの意図が伝わった。ヘリコプターうおたかを返したのも、彼らの強い想いが痛いほど分かったからだ。
三年前は今よりも派手な対処を強いられた。それなのに、合同訓練で片付けられたのだ。
国民へ過度の不安を与えないためである。
「海の男はね、そう簡単に死にやしない。約束も違えたりしないもんだ。なあ、鹿島。そう思わないか」
「そうであって欲しいと、思います」
鹿島にはその海の男を、まだ信じ切ることはできなかった。理想と現実の差を埋めるには、あまりにも厳しい。
「訓練海域に向かう。戦速を戻せ」
「戦速戻せー」
護衛艦つるみは海上保安庁の職員を乗せ、予定されていた訓練海域へ向けて舵をきった。
艦長の腹の中では決まっている。
―― 巡視船かみしまは、必ずやってくる。
なにもなかったように時間通りに現れて、補給訓練をするのだ。屋島はそう信じていた。
◇
「撃て!」
船長の号令に、海上保安官たちは即座に反応した。ベテランの佐々木も躊躇うことなく、標的に向かって発射した。
三年前は放水銃で活動停止した人造人間をコンテナに落とすという任務であった。
今回はあのときとは違う。
自衛隊もいない、警察もいない、仲間の船もない、巡視船かみしまただ一隻で挑んでいる。
「これで絶対に終いにしなきゃならない! 沈め! 沈めー!」
体中に響く射撃の振動は、これまで体験したことのないものであった。連射されているのに、一発一発の弾の重みが腕や胸を圧迫するようだ。
「佐々木さん、特警隊が前に出ました!」
「あいつらも戻ってきたのか。まったく難儀なことだ」
護衛艦つるみに、職員を退避させるためにかみしまを離れた特警隊B班は、向こうに留まることをせずに戻ってきたのだ。
高速艇を見事にさばいて、巡視船かみしまの前に出た。武装したかみしま特警隊は全員小銃を構えている。
向こうに浮き上がった人造人間は、ピクリとも動かない。あれほどの銃弾を浴びせたにも関わらず、その体が傷ついた形跡はなかった。
「外したのか、それともアイツの体は特別なのか。もう少し、距離を詰める必要があるな」
「これ以上かみしまが近づくのは無理なのでは?」
「いや、無理ではない。ブリッジに行ってくる。ここを頼んだ」
「佐々木機関長!」
唯一、変化があったとすれば海面からの高さだ。見上げるほどの高さにあった人造人間は、船橋よりも低い位置まで下がっていた。
だから特警隊が、前に出たのだ。
あまり長引かせると危険だと佐々木は思った。アレが動き出したら、特警隊やこの船にも大きな被害が起きる。
佐々木は船長の松平のもとへ急いだ。
―― 大丈夫だ。巡視船かみしまは戦える船だ!
「船長!」
「佐々木機関長。どうかしましたか」
「このままではキリがつかない。生身の人間である特警隊は後退させるべきです」
「しかし、近距離で狙撃しなければ致命傷は与えられない。うおたかに救助された伊佐くんから、首が弱点ではないかとの報告があった」
「首が弱点……あそこにやつの全てが集中していると?」
「下手に船に装備された機関砲で体を粉砕しても、またよみがえる可能性がある。三年前の潜水艦が撃った魚雷でもダメだったのがその証拠です」
あのときだって確実に仕留めたのだ。自衛隊の技術でコンテナを外すわけがない。それは佐々木もよく知っている。
(魚雷でダメなものを、どうやって海保がヤるんだ!)
「とはいえ私も彼ら特警隊を犠牲にはしたくないのです。それを言っても、彼らの燃え上がる正義と勇気は抑えられない」
「船長。やはり、特警隊は後退させましょう。ヤツの首は、我々が取るしかない。このかみしまには、海の神が乗っている。どの管区にも負けない硬い船体がある」
「佐々木くん、それはどういう意味ですか」
「巡視船かみしまは軍艦並みの強さをもった船ですよ。船長ならばおわかりでしょう」
「佐々木くん……」
「腹を括ってください。大丈夫です。やれます! それは私が、保証します!」
佐々木が船長に進言した内容に船長は唾を呑み込んだ。佐々木が言わんとすることは分かる、しかしそれを実際に行動に起こすとなると船橋にいる全員がなんというか。
船長の松平は今も忙しくしている航海長の由井と通信長の江口らを見た。
彼らはどんな反応をするだろうか。
「船長」
「佐々木くん、少し時間がほしい」
「分かりました。でも、そんなに待てません。アレが動き出したら、もう……」
「分かっています」
佐々木は静かに船橋を出た。
◇
その頃、ヘリコプターで待機中の伊佐は特警隊が巡視船より前に出たことを心配していた。誰よりも人造人間の恐ろしさを伊佐は知っているからだ。
そんな中、伊佐は船の前方にある機関砲に注目した。
そこに双眼鏡を向けると、ロープなのかワイヤーなのか分からないが紐のようなもので、男が自分の体をその機関砲の一部に括るように巻いていた。
伊佐はそれが誰かが分かってしまった。
(佐々木機関長⁉︎)
なぜ、体をその機関砲から離れないように固定しようてしているのか。伊佐の答えはひとつだ。
(佐々木機関長が、あの人造人間を撃ちとろうとしているんだ。ぜったいに機関砲から体が離れないように! そこまでするなんて、アレしかないだろ!)
そして、しばらくすると高速艇が、かみしまの後ろに後退していくのが見えた。いったい何が起きようとしているのか。
「了解しました! うおたか護衛艦つるみまで退避いたします」
うおたかの機長である和久が無線に応答した。航空長の角倉が振り返り、伊佐ら乗務員にこう告げた。
「巡視船かみしまは総攻撃に移るそうです。船から距離を取るようにと命令がおりました。我々は護衛艦つるみまで退避します」
「総攻撃⁉︎」
高速警備艇も後退させ、ヘリコプターも離れろというのはただ事ではない。伊佐はうおたかの窓から体を乗り出すようにして巡視船かみしまを見た。
自分の不在中にこんなことがあってはならない。自分は巡視船かみしまに戻るべきだと強く思った。
「角倉さん! 私を巡視船かみしまに戻してください!」
「伊佐さん! それはっ」
「私は船長補佐であり、あの船の監理官です! 誰がなんと言おうと降ります! これは、命令だ」
それを聞いたレナはたまらず間に入る。
「伊佐さん、あなた怪我をしているのよ!」
「この程度のものが怪我なものか。俺は戻らなければならない。約束は違えてはならない……約束なんだ」
「伊佐さん!」
綿津見と幼き頃に交わした約束は、守らなければならない。
(この大和の、日本の海は俺たちが守るんだ)
「レナさん、頼む行かせてくれ」
「だったら私も!」
「それはダメだ。あなたにはすべき事がある」
「すべき事って、いったいなんなのよ。私がどんな思いであなたを助けたのか、わかる? もう二度、危険な目には遭わせたくないのよ」
「レナさん。本当に感謝しています。でも、約束は破れない。あなたには祈りを捧げてほしい。あなたがいうポセイドンに」
「祈り……」
「うん。レナさんにはその力がある。俺には分かる。あなたの祈りは俺たちを守ってくれている」
機長は航空長の角倉を見た。彼は彼女の指示なくして動かない。いくら監理官が命令だと言っても。
角倉は伊佐を睨みつけながら怒鳴るように言う。
「伊佐さん! あんたちゃんとかみしまを守りなさいよ! 私たちの、船なんだから!」
「はい!」
角倉は機長と機動救難士に指示を出した。許された時間は五分。五分以内に伊佐だけを巡視船かみしまに下ろすのだ。
「伊佐監理官を下ろしたら、すぐに離れます。燃料大丈夫よね? 護衛艦つるみまで退避!」
「了解!」
機長の和久は巡視船かみしま後方にうおたかを移動させた。巡視船かみしまに甲板員はいない。全員退避したからだ。それでも和久には関係ない。よく知った海上保安庁の巡視船だ。速度も難なく合わせられる。
「あとは頼みました!」
「わかったわ! 船長たちをよろしく!」
伊佐は機動救難士に補助されて、かみしま後方の甲板に降りた。そして機動救難士はすぐにうおたかに回収され船から離れた。
窓から見つめるレナの視線を伊佐は受け止める。
(彼女の祈りは、俺たちを救う。俺はそう信じている)
二度も救われたこの命は、綿津見の力や運の良さだけではないと、伊佐は感じていたのだ。
彼女の祈りと癒しの力は否定できない。
こうしてはいられない。うおたかを見送った伊佐は、前方で覚悟を決めた機関長の佐々木のもとへ走った。
(かみしまは腹を括ったんだ。これで終わりにする。アイツを二度と浮上させてはいけない。俺たちで終いにする!)
KAMISHIMA Ramming ――
その知らせは、かみしまから離れた護衛艦つるみまで届いていた。
「艦長! 巡視船かみしまが射撃を開始したそうです!」
「そうか」
「艦長、我々はどうしますか。このまま待機を続けますか。もしもアレに射撃を行っているならば、海保の武器では……」
アレの正体を知っている副長の鹿島は、巡視船かみしまのことを案じた。なにか海上自衛隊としてできることはないかと、ずっと考えていたのだ。
しかし、どう考えても規則や法律の壁は高かった。
「鹿島」
「はい」
「我々にできることは、時間まで待つことだ。約束の時間を過ぎるようであれば、石垣へ向かう」
「約束の時間ですか」
「合同訓練予定の時間だ。それがリミットだと思っている。その時間を過ぎても連絡がなければ、上に報告だ。その時は我々も罰せられるだろうがね。なあに、責任は私にある。君たちはあまり心配するな」
巡視船かみしまが職員の受け入れを頼んできたときに、護衛艦つるみはその旨を防衛省に報告する義務があったのだ。
しかし、艦長の屋島はそれをしなかった。
それは、なぜか。
巡視船かみしまはあのデンジャーゾーンにどの船も入れたくなかった。巻き込みたくなかったのだ。事が事なだけに、最悪はかみしま一隻で被害をとどめておきたいとの意図が伝わった。ヘリコプターうおたかを返したのも、彼らの強い想いが痛いほど分かったからだ。
三年前は今よりも派手な対処を強いられた。それなのに、合同訓練で片付けられたのだ。
国民へ過度の不安を与えないためである。
「海の男はね、そう簡単に死にやしない。約束も違えたりしないもんだ。なあ、鹿島。そう思わないか」
「そうであって欲しいと、思います」
鹿島にはその海の男を、まだ信じ切ることはできなかった。理想と現実の差を埋めるには、あまりにも厳しい。
「訓練海域に向かう。戦速を戻せ」
「戦速戻せー」
護衛艦つるみは海上保安庁の職員を乗せ、予定されていた訓練海域へ向けて舵をきった。
艦長の腹の中では決まっている。
―― 巡視船かみしまは、必ずやってくる。
なにもなかったように時間通りに現れて、補給訓練をするのだ。屋島はそう信じていた。
◇
「撃て!」
船長の号令に、海上保安官たちは即座に反応した。ベテランの佐々木も躊躇うことなく、標的に向かって発射した。
三年前は放水銃で活動停止した人造人間をコンテナに落とすという任務であった。
今回はあのときとは違う。
自衛隊もいない、警察もいない、仲間の船もない、巡視船かみしまただ一隻で挑んでいる。
「これで絶対に終いにしなきゃならない! 沈め! 沈めー!」
体中に響く射撃の振動は、これまで体験したことのないものであった。連射されているのに、一発一発の弾の重みが腕や胸を圧迫するようだ。
「佐々木さん、特警隊が前に出ました!」
「あいつらも戻ってきたのか。まったく難儀なことだ」
護衛艦つるみに、職員を退避させるためにかみしまを離れた特警隊B班は、向こうに留まることをせずに戻ってきたのだ。
高速艇を見事にさばいて、巡視船かみしまの前に出た。武装したかみしま特警隊は全員小銃を構えている。
向こうに浮き上がった人造人間は、ピクリとも動かない。あれほどの銃弾を浴びせたにも関わらず、その体が傷ついた形跡はなかった。
「外したのか、それともアイツの体は特別なのか。もう少し、距離を詰める必要があるな」
「これ以上かみしまが近づくのは無理なのでは?」
「いや、無理ではない。ブリッジに行ってくる。ここを頼んだ」
「佐々木機関長!」
唯一、変化があったとすれば海面からの高さだ。見上げるほどの高さにあった人造人間は、船橋よりも低い位置まで下がっていた。
だから特警隊が、前に出たのだ。
あまり長引かせると危険だと佐々木は思った。アレが動き出したら、特警隊やこの船にも大きな被害が起きる。
佐々木は船長の松平のもとへ急いだ。
―― 大丈夫だ。巡視船かみしまは戦える船だ!
「船長!」
「佐々木機関長。どうかしましたか」
「このままではキリがつかない。生身の人間である特警隊は後退させるべきです」
「しかし、近距離で狙撃しなければ致命傷は与えられない。うおたかに救助された伊佐くんから、首が弱点ではないかとの報告があった」
「首が弱点……あそこにやつの全てが集中していると?」
「下手に船に装備された機関砲で体を粉砕しても、またよみがえる可能性がある。三年前の潜水艦が撃った魚雷でもダメだったのがその証拠です」
あのときだって確実に仕留めたのだ。自衛隊の技術でコンテナを外すわけがない。それは佐々木もよく知っている。
(魚雷でダメなものを、どうやって海保がヤるんだ!)
「とはいえ私も彼ら特警隊を犠牲にはしたくないのです。それを言っても、彼らの燃え上がる正義と勇気は抑えられない」
「船長。やはり、特警隊は後退させましょう。ヤツの首は、我々が取るしかない。このかみしまには、海の神が乗っている。どの管区にも負けない硬い船体がある」
「佐々木くん、それはどういう意味ですか」
「巡視船かみしまは軍艦並みの強さをもった船ですよ。船長ならばおわかりでしょう」
「佐々木くん……」
「腹を括ってください。大丈夫です。やれます! それは私が、保証します!」
佐々木が船長に進言した内容に船長は唾を呑み込んだ。佐々木が言わんとすることは分かる、しかしそれを実際に行動に起こすとなると船橋にいる全員がなんというか。
船長の松平は今も忙しくしている航海長の由井と通信長の江口らを見た。
彼らはどんな反応をするだろうか。
「船長」
「佐々木くん、少し時間がほしい」
「分かりました。でも、そんなに待てません。アレが動き出したら、もう……」
「分かっています」
佐々木は静かに船橋を出た。
◇
その頃、ヘリコプターで待機中の伊佐は特警隊が巡視船より前に出たことを心配していた。誰よりも人造人間の恐ろしさを伊佐は知っているからだ。
そんな中、伊佐は船の前方にある機関砲に注目した。
そこに双眼鏡を向けると、ロープなのかワイヤーなのか分からないが紐のようなもので、男が自分の体をその機関砲の一部に括るように巻いていた。
伊佐はそれが誰かが分かってしまった。
(佐々木機関長⁉︎)
なぜ、体をその機関砲から離れないように固定しようてしているのか。伊佐の答えはひとつだ。
(佐々木機関長が、あの人造人間を撃ちとろうとしているんだ。ぜったいに機関砲から体が離れないように! そこまでするなんて、アレしかないだろ!)
そして、しばらくすると高速艇が、かみしまの後ろに後退していくのが見えた。いったい何が起きようとしているのか。
「了解しました! うおたか護衛艦つるみまで退避いたします」
うおたかの機長である和久が無線に応答した。航空長の角倉が振り返り、伊佐ら乗務員にこう告げた。
「巡視船かみしまは総攻撃に移るそうです。船から距離を取るようにと命令がおりました。我々は護衛艦つるみまで退避します」
「総攻撃⁉︎」
高速警備艇も後退させ、ヘリコプターも離れろというのはただ事ではない。伊佐はうおたかの窓から体を乗り出すようにして巡視船かみしまを見た。
自分の不在中にこんなことがあってはならない。自分は巡視船かみしまに戻るべきだと強く思った。
「角倉さん! 私を巡視船かみしまに戻してください!」
「伊佐さん! それはっ」
「私は船長補佐であり、あの船の監理官です! 誰がなんと言おうと降ります! これは、命令だ」
それを聞いたレナはたまらず間に入る。
「伊佐さん、あなた怪我をしているのよ!」
「この程度のものが怪我なものか。俺は戻らなければならない。約束は違えてはならない……約束なんだ」
「伊佐さん!」
綿津見と幼き頃に交わした約束は、守らなければならない。
(この大和の、日本の海は俺たちが守るんだ)
「レナさん、頼む行かせてくれ」
「だったら私も!」
「それはダメだ。あなたにはすべき事がある」
「すべき事って、いったいなんなのよ。私がどんな思いであなたを助けたのか、わかる? もう二度、危険な目には遭わせたくないのよ」
「レナさん。本当に感謝しています。でも、約束は破れない。あなたには祈りを捧げてほしい。あなたがいうポセイドンに」
「祈り……」
「うん。レナさんにはその力がある。俺には分かる。あなたの祈りは俺たちを守ってくれている」
機長は航空長の角倉を見た。彼は彼女の指示なくして動かない。いくら監理官が命令だと言っても。
角倉は伊佐を睨みつけながら怒鳴るように言う。
「伊佐さん! あんたちゃんとかみしまを守りなさいよ! 私たちの、船なんだから!」
「はい!」
角倉は機長と機動救難士に指示を出した。許された時間は五分。五分以内に伊佐だけを巡視船かみしまに下ろすのだ。
「伊佐監理官を下ろしたら、すぐに離れます。燃料大丈夫よね? 護衛艦つるみまで退避!」
「了解!」
機長の和久は巡視船かみしま後方にうおたかを移動させた。巡視船かみしまに甲板員はいない。全員退避したからだ。それでも和久には関係ない。よく知った海上保安庁の巡視船だ。速度も難なく合わせられる。
「あとは頼みました!」
「わかったわ! 船長たちをよろしく!」
伊佐は機動救難士に補助されて、かみしま後方の甲板に降りた。そして機動救難士はすぐにうおたかに回収され船から離れた。
窓から見つめるレナの視線を伊佐は受け止める。
(彼女の祈りは、俺たちを救う。俺はそう信じている)
二度も救われたこの命は、綿津見の力や運の良さだけではないと、伊佐は感じていたのだ。
彼女の祈りと癒しの力は否定できない。
こうしてはいられない。うおたかを見送った伊佐は、前方で覚悟を決めた機関長の佐々木のもとへ走った。
(かみしまは腹を括ったんだ。これで終わりにする。アイツを二度と浮上させてはいけない。俺たちで終いにする!)
KAMISHIMA Ramming ――
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