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オートフォーカス編
最高の一枚
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駐機場に出ると、すでに多くの人が、引かれた紐のぎりぎりまで近寄って見ていた。彩花はレンズを標準からズームレンズに代えた。
「荷物、持っていてあげるよ。前に行きたいだろ? 何処が空いてるかな」
「ありがとう学さん。この間、何も分からないままサインもらっちゃったから一番機の隊長さんの前がいいなぁ」
「そうだな。よし、こっち」
幸田は彩花の手を引き人と人との隙間を縫って、なんとか空いたスペースに入り込んだ。航空祭当日ならば絶対にできない事だ。
「良かった。一番機の前、空いていたね」
「うん!」
アナウンスが間もなくパイロットが登場すると言った。その時、可愛らしい団体さんがこれまた可愛らしいリュックサックを背負ってやって来る。そして、先頭を歩いていたエスコートの隊員が右に寄ってくださいと言った。
「申し訳ありません。もう少し全体的に右へ移動してくださーい。もう少しです」
基地の近くにある保育園児のようだ。幸田と彩花は誘導に従って右へ、右へと移動する。相手は小さなお客様だからあまり大人の混雑に巻き込んではいけない。ひとりひとりの思い遣りが、また一歩、また一歩と移動した。そして、それがようやく止まったのは彩花たちが四番機の真正面に来たときだった。
「ずいぶん一番機から離れたな。彩花さん、今回は残念だな」
「ううん。仕方がないよ。それにほら、ちょうど真ん中あたりだしよく見えるよ」
「そうだな。結果オーライってところだな」
そんなふうに二人ともやっと落ち着いて、あらためてブルーインパルスを見た。場内アナウンスもこれから展示飛行を始めますと言った。会場全体がざわざわとし始める。
ー 間もなく、ブルーインパルスのパイロットが一列に整列し、それぞれの機体に移動します。
ざっと視線が左手に集まった。もちろん彩花もファインダー越しに視線を向ける。青の飛行服を着た、六人のパイロットが横一列に並んでいた。
「うわぁ。かっこいい! みんなサングラスしてるー。学さん見えてますか?」
「見えているよ。俺のことは気にしないで、写真をたくさん撮ってよ」
「ありがとう」
パイロットが歩きはじめた。手の振りも、歩幅も六人揃っている。自分が乗る機体の前に来ると一人ずつその列から離れて行くけれど、その離れていくのもスムーズで団体行動の素晴らしさを思い知った。
(わぁ、もう直ぐ目の前に来るよ)
彩花の前でまた一人、列から離れて機体の前に立った。四番機に乗るパイロットだ。
「この人、背が高いのね」
と、独り言をこぼしたときに後ろから女性のキャーという悲鳴が上がった。何だろうと驚いて彩花はカメラを下ろして振り向いた。幸田も何事かと振り返る。
『サンダーさんよ! サンダーさんが一番かっこいい』
『ずっと追いかけているんですけど、今回が一番近くで見れたかもー』
『早くサングラス取ってくれないかな。八神さんのサイン欲しい』
彩花はその会話を聞いて、なんだ四番機さんのファンなのかと知り再び前を向いた。ファインダーからブルーインパルスの機体をズームして、好きでたまらないギア回りを撮ったりピーンと伸びたウイングを撮ったりしていた。
「あっ、安全ピンついてない! もう飛べるってことね!」
幸田はといえば女性たちの会話を聞いて衝撃を受けていた。なんで、よりによって、来てはならない四番機の、しかも二度と会いたくない八神というパイロットの前に来てしまったんだと。ウォークダウンが始まったのでもう移動できるスペースはない。
(まさかまた八神さんとはな。どこまで俺はついていないんだ)
「学さん。T-4ってぱっと見可愛いけど、よく見たらかっこいいですね」
「ああ」
目の前ではパイロットが耐Gスーツを着ているところだ。こんな大勢の前でここまでしなければならないなんて、航空自衛隊の花形は大変だ。
「はぁ……いい脚ですね。きゅって締まってるところとかいい。なのに逞しいし、これで空を飛ぶんですよね」
「彼は中でも一番モテるよ。彩花さんもああいうのが好きなんだな」
「一番モテるの? ふうん」
彩花は六機の中でも四番機が一番なんだと思い込んだ。幸田が少し憂いを帯びた視線で見ていたから間違いないだろうと。全部同じブルーインパルス。番号が違うだけに見えるけれど、なにかが違うらしい。
「あんまり、見ないで欲しいよ」
「えっ」
幸田は周りに気づかれない程度に彩花の腰を後ろから引き寄せた。自分にピッタリくっつくように。でも、カメラを撮る彩花を邪魔しないように緩く優しく。強引にこの場から連れ去りたい。ブルーインパルスなんか見なくていい。だけど、幸田にそんな勝手な事はできなかった。
「学さん?」
「ごめん。ほら、エンジン掛かった」
すっと彩花を解放してしまう。幸田の様子が少し変だなと思いながらも、彩花は再びカメラを構えた。
キイィーーン!
甲高いエンジン音が鳴り響き、いよいよ飛行前点検が終わる。整備士が機体の前と横、後にも立っており手を振って合図を送る。その姿もキビキビしていて凛々しい。そして一番からゴトゴトと音を立てながら順に滑走路へと移動していった。
ー さあ! 一番機から四番機までがフォーメーションを組んで離陸します!
「お尻! ブルーインパルスの後ろ姿って可愛いよ、たまんない」
彩花は夢中だった。四機がほぼ同時に離陸する瞬間は「うわー! いい!」を連呼していた。もちろん手元は連写音の嵐だ。彩花だけではない。立派なカメラをもった人たちも一斉に鳴らす。
カシャカシャカシャカシャカシャ……
ー さあ、皆様にブルーインパルスが挨拶をしに戻ってまいります。ファンブレイクです!
六機のブルーインパルスが山型の隊形で正面からやってきた。真っ白な噴煙を曳きながら。あまりにもの美しさに彩花はカメラを下ろした。
「うわー! きれい、かっこいい、すごいーー!」
口を開けたまま空を仰いで、彼らの飛行を夢中で追いかけた。危うく仰け反って転けそうになったくらいだ。そんな時は幸田がさり気なく支えてくれるのだ。彩花はこの素晴らしい展示飛行を幸田と見ることができて、本当に嬉しく思っていた。
ー 続きまして、フォーシップ・インバートです。一番機から四番機が……
「逆さまー!!」
シャッタースピードを事前に合わせておいて良かった。戦闘機なら1/1600、ブルーインパルスなら1/1250がおすすめと何かのサイトで見た。頭上でくるくる回ったり、真っ逆さまに落ちてきたり、ピッタリとくっつくように飛んだりとそのアクロバットに彩花は魅せられた。
ー 次に皆様の頭上に大きなハートを描きます。皆様にたくさんの幸がありますように!
「ハート?」
「彩花さん、あそこ。二機が……ほら」
「素敵」
縦に上昇した五番機と六番機が噴煙を出しながらハートを上から描いていく。それは本当に正確で、紙に落書きをするよりもきれいに形が整っている。そして、四番機が向こうからやってきた。
「あーっ! キュービットに矢を放ったぁ!! だから四番機がすごいっていったんだ。ねえ、学さん! みて、ハート」
「うん、見ているよ」
ちょっと寂しげに見上げる幸田に彩花は何かを感じ取ったのか、幸田の手をとってギュッと握った。それに驚いた幸田は視線を彩花に落とす。真っ青な雲ひとつない今の空は、描いたハートがまだきれいに残っている。
「学さん。今日は連れてきてくれてありがとう。素敵な思い出ができました」
「っ! 彩花さん」
「あ、待って。一枚撮る。学さんハートまだ残ってるよー」
「本当だ」
幸田が空を見上げたすきに、彩花は膝をついてスマートフォンを空に向けてカシャリ。ズームレンズでは空に描いたハートはフレームに収まらないと学んだから。彩花はちゃんと撮れているかアプリケーションのアルバムを開いて確認をした。それを見た彩花はふふっと微笑む。
そこには大好きな彼の精悍な横顔と、その肩越しに彼の優しさを表すハートがある。四番機が射抜いた矢は、まるで幸田が彩花の心を射抜いたように見えた。
「スマートフォンで撮ったこれが私の一番。私の宝物」
ー いよいよ最後になりました。正面をご覧ください。コークスクリューです!
「彩花さん、撮らなくていいの。ほら、凄いことになってるよ」
「あっ、本当だ! かっこいいー」
こうして、彩花にとって初めてのブルーインパルスの展示飛行が終わった。
◇
人の波が少しずつ引いていき、前日の事前公開も間もなく終わるころ。幸田と彩花も帰る準備をしていた。エスコートをしてくれていた山下の準備が整うまで、二人は来賓用に開放した控室にいるように言われていた。
「彩花さん、何枚と撮ったの?」
「ん? 分かんない。いっぱい撮ったよ」
「ははっ、分かんないのか。彩花さんらしいな」
「あっ、あのね! でも、最高の一枚が撮れたの。これっ!」
彩花がスマートフォンを見せようとしたとき、控室のドアが開いた。てっきり山下がお待たせしましたと来たのかと思った二人は、椅子から立ち上がって時を止めた。
「こんにちは」
よく通る声でその人は二人に挨拶をした。最初に反応をしたのは幸田だ。
「八神さん」
そこに立っていたのはさっきまで空を飛んでいたと思われる人。ブルーインパルスのパイロットだった。なんとなく異様な雰囲気を感じた彩花は幸田の顔を見る。
「学さん?」
いつもと違うモードの幸田がそこに居る。
「お久しぶりです。幸田二等陸尉。彼女さんかな? 初めましてブルーインパルス、四番機のパイロットをしています八神真司です」
「は、初めまして」
(えっ、どうして? なんでこんなところに、ブルーインパルスのパイロットが!?)
「荷物、持っていてあげるよ。前に行きたいだろ? 何処が空いてるかな」
「ありがとう学さん。この間、何も分からないままサインもらっちゃったから一番機の隊長さんの前がいいなぁ」
「そうだな。よし、こっち」
幸田は彩花の手を引き人と人との隙間を縫って、なんとか空いたスペースに入り込んだ。航空祭当日ならば絶対にできない事だ。
「良かった。一番機の前、空いていたね」
「うん!」
アナウンスが間もなくパイロットが登場すると言った。その時、可愛らしい団体さんがこれまた可愛らしいリュックサックを背負ってやって来る。そして、先頭を歩いていたエスコートの隊員が右に寄ってくださいと言った。
「申し訳ありません。もう少し全体的に右へ移動してくださーい。もう少しです」
基地の近くにある保育園児のようだ。幸田と彩花は誘導に従って右へ、右へと移動する。相手は小さなお客様だからあまり大人の混雑に巻き込んではいけない。ひとりひとりの思い遣りが、また一歩、また一歩と移動した。そして、それがようやく止まったのは彩花たちが四番機の真正面に来たときだった。
「ずいぶん一番機から離れたな。彩花さん、今回は残念だな」
「ううん。仕方がないよ。それにほら、ちょうど真ん中あたりだしよく見えるよ」
「そうだな。結果オーライってところだな」
そんなふうに二人ともやっと落ち着いて、あらためてブルーインパルスを見た。場内アナウンスもこれから展示飛行を始めますと言った。会場全体がざわざわとし始める。
ー 間もなく、ブルーインパルスのパイロットが一列に整列し、それぞれの機体に移動します。
ざっと視線が左手に集まった。もちろん彩花もファインダー越しに視線を向ける。青の飛行服を着た、六人のパイロットが横一列に並んでいた。
「うわぁ。かっこいい! みんなサングラスしてるー。学さん見えてますか?」
「見えているよ。俺のことは気にしないで、写真をたくさん撮ってよ」
「ありがとう」
パイロットが歩きはじめた。手の振りも、歩幅も六人揃っている。自分が乗る機体の前に来ると一人ずつその列から離れて行くけれど、その離れていくのもスムーズで団体行動の素晴らしさを思い知った。
(わぁ、もう直ぐ目の前に来るよ)
彩花の前でまた一人、列から離れて機体の前に立った。四番機に乗るパイロットだ。
「この人、背が高いのね」
と、独り言をこぼしたときに後ろから女性のキャーという悲鳴が上がった。何だろうと驚いて彩花はカメラを下ろして振り向いた。幸田も何事かと振り返る。
『サンダーさんよ! サンダーさんが一番かっこいい』
『ずっと追いかけているんですけど、今回が一番近くで見れたかもー』
『早くサングラス取ってくれないかな。八神さんのサイン欲しい』
彩花はその会話を聞いて、なんだ四番機さんのファンなのかと知り再び前を向いた。ファインダーからブルーインパルスの機体をズームして、好きでたまらないギア回りを撮ったりピーンと伸びたウイングを撮ったりしていた。
「あっ、安全ピンついてない! もう飛べるってことね!」
幸田はといえば女性たちの会話を聞いて衝撃を受けていた。なんで、よりによって、来てはならない四番機の、しかも二度と会いたくない八神というパイロットの前に来てしまったんだと。ウォークダウンが始まったのでもう移動できるスペースはない。
(まさかまた八神さんとはな。どこまで俺はついていないんだ)
「学さん。T-4ってぱっと見可愛いけど、よく見たらかっこいいですね」
「ああ」
目の前ではパイロットが耐Gスーツを着ているところだ。こんな大勢の前でここまでしなければならないなんて、航空自衛隊の花形は大変だ。
「はぁ……いい脚ですね。きゅって締まってるところとかいい。なのに逞しいし、これで空を飛ぶんですよね」
「彼は中でも一番モテるよ。彩花さんもああいうのが好きなんだな」
「一番モテるの? ふうん」
彩花は六機の中でも四番機が一番なんだと思い込んだ。幸田が少し憂いを帯びた視線で見ていたから間違いないだろうと。全部同じブルーインパルス。番号が違うだけに見えるけれど、なにかが違うらしい。
「あんまり、見ないで欲しいよ」
「えっ」
幸田は周りに気づかれない程度に彩花の腰を後ろから引き寄せた。自分にピッタリくっつくように。でも、カメラを撮る彩花を邪魔しないように緩く優しく。強引にこの場から連れ去りたい。ブルーインパルスなんか見なくていい。だけど、幸田にそんな勝手な事はできなかった。
「学さん?」
「ごめん。ほら、エンジン掛かった」
すっと彩花を解放してしまう。幸田の様子が少し変だなと思いながらも、彩花は再びカメラを構えた。
キイィーーン!
甲高いエンジン音が鳴り響き、いよいよ飛行前点検が終わる。整備士が機体の前と横、後にも立っており手を振って合図を送る。その姿もキビキビしていて凛々しい。そして一番からゴトゴトと音を立てながら順に滑走路へと移動していった。
ー さあ! 一番機から四番機までがフォーメーションを組んで離陸します!
「お尻! ブルーインパルスの後ろ姿って可愛いよ、たまんない」
彩花は夢中だった。四機がほぼ同時に離陸する瞬間は「うわー! いい!」を連呼していた。もちろん手元は連写音の嵐だ。彩花だけではない。立派なカメラをもった人たちも一斉に鳴らす。
カシャカシャカシャカシャカシャ……
ー さあ、皆様にブルーインパルスが挨拶をしに戻ってまいります。ファンブレイクです!
六機のブルーインパルスが山型の隊形で正面からやってきた。真っ白な噴煙を曳きながら。あまりにもの美しさに彩花はカメラを下ろした。
「うわー! きれい、かっこいい、すごいーー!」
口を開けたまま空を仰いで、彼らの飛行を夢中で追いかけた。危うく仰け反って転けそうになったくらいだ。そんな時は幸田がさり気なく支えてくれるのだ。彩花はこの素晴らしい展示飛行を幸田と見ることができて、本当に嬉しく思っていた。
ー 続きまして、フォーシップ・インバートです。一番機から四番機が……
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シャッタースピードを事前に合わせておいて良かった。戦闘機なら1/1600、ブルーインパルスなら1/1250がおすすめと何かのサイトで見た。頭上でくるくる回ったり、真っ逆さまに落ちてきたり、ピッタリとくっつくように飛んだりとそのアクロバットに彩花は魅せられた。
ー 次に皆様の頭上に大きなハートを描きます。皆様にたくさんの幸がありますように!
「ハート?」
「彩花さん、あそこ。二機が……ほら」
「素敵」
縦に上昇した五番機と六番機が噴煙を出しながらハートを上から描いていく。それは本当に正確で、紙に落書きをするよりもきれいに形が整っている。そして、四番機が向こうからやってきた。
「あーっ! キュービットに矢を放ったぁ!! だから四番機がすごいっていったんだ。ねえ、学さん! みて、ハート」
「うん、見ているよ」
ちょっと寂しげに見上げる幸田に彩花は何かを感じ取ったのか、幸田の手をとってギュッと握った。それに驚いた幸田は視線を彩花に落とす。真っ青な雲ひとつない今の空は、描いたハートがまだきれいに残っている。
「学さん。今日は連れてきてくれてありがとう。素敵な思い出ができました」
「っ! 彩花さん」
「あ、待って。一枚撮る。学さんハートまだ残ってるよー」
「本当だ」
幸田が空を見上げたすきに、彩花は膝をついてスマートフォンを空に向けてカシャリ。ズームレンズでは空に描いたハートはフレームに収まらないと学んだから。彩花はちゃんと撮れているかアプリケーションのアルバムを開いて確認をした。それを見た彩花はふふっと微笑む。
そこには大好きな彼の精悍な横顔と、その肩越しに彼の優しさを表すハートがある。四番機が射抜いた矢は、まるで幸田が彩花の心を射抜いたように見えた。
「スマートフォンで撮ったこれが私の一番。私の宝物」
ー いよいよ最後になりました。正面をご覧ください。コークスクリューです!
「彩花さん、撮らなくていいの。ほら、凄いことになってるよ」
「あっ、本当だ! かっこいいー」
こうして、彩花にとって初めてのブルーインパルスの展示飛行が終わった。
◇
人の波が少しずつ引いていき、前日の事前公開も間もなく終わるころ。幸田と彩花も帰る準備をしていた。エスコートをしてくれていた山下の準備が整うまで、二人は来賓用に開放した控室にいるように言われていた。
「彩花さん、何枚と撮ったの?」
「ん? 分かんない。いっぱい撮ったよ」
「ははっ、分かんないのか。彩花さんらしいな」
「あっ、あのね! でも、最高の一枚が撮れたの。これっ!」
彩花がスマートフォンを見せようとしたとき、控室のドアが開いた。てっきり山下がお待たせしましたと来たのかと思った二人は、椅子から立ち上がって時を止めた。
「こんにちは」
よく通る声でその人は二人に挨拶をした。最初に反応をしたのは幸田だ。
「八神さん」
そこに立っていたのはさっきまで空を飛んでいたと思われる人。ブルーインパルスのパイロットだった。なんとなく異様な雰囲気を感じた彩花は幸田の顔を見る。
「学さん?」
いつもと違うモードの幸田がそこに居る。
「お久しぶりです。幸田二等陸尉。彼女さんかな? 初めましてブルーインパルス、四番機のパイロットをしています八神真司です」
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