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第186話 獣王国へ

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 俺たちは街道を車で疾走している。
 ラウニーも行くというので結局車を出したのだ。

 魔動車もどきを動かしているのは俺の能力なので俺は自力で進んでいるといってもいいのではないだろうか?

 車の中ではネムとティファリーゼがラウニーを甘やかしている。

 仲良く甘やかしている。
 ティファリーゼがドラゴンと分かってどうなるかと思ったが特に気にならないみたいだ。

 ティファリーゼのほうも怒りはだいぶ収まったようで、これなら大きな被害は出さずに済むだろう。

「ティファリーゼは向こうについたらどうするんだ?」

「そうですね、おばあさんの話ではギルなんとかが悪いそうなので徹底的にボコってぜったいに泣かせてやります」

 よし、平和だ。
 その程度であればよし。
 ちなみにドラゴンから見れば公爵も何も関係なしだ。フレデリカさんもただのおばあさんらしい。

 そんな車の外で黒曜はと言えば周りを全力疾走で蛇行運転ならぬ蛇行疾走している。

『ぱらりらぱらりら~』

 変なことを言ってるぞ。どこで誰に教わったんだ?
 いや、一人しかいないけどさ。

 結構なスピードで走り抜ける。いつしか昨日の戦場(?)後に差し掛かった。
 位置的にはターリの町の南側になる。北上すればターリ、このまま東進すれば国境だ。
 あれから丸一日、それに加えてここまでの移動時間がかかっているのでこの辺りには本当に誰もいない。

 のでそのまま国境に進攻する。

「今更だけどこの国境ってどうなってんの?」

「ただの森林ね」

 ふむ。
 つまりコウ王国と獣王国の間には森が広がっていて、その森を境界として国を分けている。
 森を貫くように走る街道があるわけだが、その管理はなんとなく共同で。という感じらしい。

 その森を走っていると…

 ばきっ! めきっ! どかーん!

『ぱらりら~』

 こら黒曜。体当たりで樹木を跳ね飛ばすのはやめなさい。
 30mもある木がグルングルン飛んだら人の迷惑だよ。

『はーい』

 えー、で、森を抜けるとそこには見事な草原が広がっている。

 街道に沿ってそのまま進むと次第に畑が見えてきて働いている人影とかも見えてくる。この辺りは穀倉地帯で人が住んでいるらしい。もちろん獣人の人だ。

「この辺りに住んでいるのは戦闘向きじゃない人たちですね。
 少し行くとこの辺りの魔物に対処するための砦があって闘士が詰めています」

「よし、ちょっと威嚇しよう」

『いってきまーす』

 黒曜が龍形態になって近づいていき、上空から挨拶。という名前の恫喝。
 俺の魔力視で砦の兵たちが大慌てしているのが見て取れた。
 あと。けが人が庭に収容されている様子もみえる。

 見覚えあるのもいるからあの部隊の、こいつらにぶっ飛ばされて怪我をしたやつらだろう。ここまでは自力でたどり着いたらしい。
 なかなかに丈夫だ。

 そしてその砦から見たことのない騎獣に乗って矢のように飛び出していく騎馬(馬じゃねえけど)が三騎ほど見えた。たぶんドラゴン襲来を知らせる伝令なのだろうとおもう。
 かなりの速さだ。

「うん、なかなかよく訓練されています」

「もしナギル君がこの砦によって騎獣を借りていたのならかなり早く知らせが届くかもしれないな」

「たぶん騶虞すうぐというやつですね。とても貴重な騎獣なの。すべるように駆け、三日三晩走り続けることができるそうよ。
 ほとんどが国の所属だけど、獣人ならあこがれる魔獣ね」

「いいね、じゃあ、あの騶虞を追い抜かないように進めばかなりの猶予を獣王国に与えることができるというわけだ」

 俺は騶虞を認識範囲の端にとらえるように速度を調整して車を走らせる。
 いい考えだと思った。
 思ったんだがあまり意味がなかった。

 日が暮れてきたから。
 騶虞はその評価にふさわしく夜も休まずに進むつもりらしい。だけどこっちは子供連れだからな。走り通しというわけにはいかない。
 当然休みもとらないと。

 騶虞を見失うことになるのは承知の上だがいったん街道をそれて見つかりにくいところでキャンプだ。
 しまうぞう君から家を出して快適キャンプ。

 ドラゴンや幼児に料理を期待するほどバカじゃないのでネムと二人で料理の時間。
 夫婦でキャンプで料理。いいね。
 カレーか? カレーなのか?

「このカレーっておいしいよね」

 鍋を掻きまわしながらネムが言う。

「まあ、カレー粉だけあればどんなものでも美味しくいただけるというからね」

「さすが晶ちゃん」

 はい、俺が作ったんではありません。
 男料理しかできない俺にカレー粉の調合なんてできるはずがない。
 料理は晶の得意分野で、そしてあいつはサバイバルとかよくやる流れでカレーにはとても詳しい。
 自分で調合したカレー粉をそこらで採取した野草や山菜にかけて食べていたりしたのだ。
 本当に『カレー粉があれば何とかなるのよ』とはよくあいつが言った言葉だ。

 まあ、俺は普通にカレーがいいのだが。

 そしてカレーを作るといったらがぜん張り切って働いたのがマーヤさん。
 あっちこっち行っているので香辛料なんかも詳しくて必要なものは見事に集めてくれた。
 ターメリックとかわからんもん。俺。

 という経緯で今、俺たちの手には見事なカレー粉があるのだ。

 ライスもたくさん収納に入っているから出先でも美味しいカレーライスが食べられる。

 カレーもあらかじめ作っておけばいいと思うのだが、それは許されないんだってさ。
 分からん。どこに拘っているのか全く分からん。

「だからもてないのよ」とか言われるけど、だったら裸でベッドに潜りこむなや。と思う。
 思うだけだぜ。口にはしない。

 そうして楽しいキャンプファイヤーの夜は過ぎていくのだ。
 ドラゴンが二匹ものさばっているから近くの魔物なんて寄り付きもしない。

 そのドラゴン相手に全く物おじしない我が嫁はなかなかにすごい。

 よし、明日はちょっと獣王国に先行してみるか。
 ネムの家族というのにまず会ってみよう。

◇・◇・◇・◇

 というわけで俺はネムを抱えて空を飛んでいる。
 空の上というのが実に隠密性が高い。人間は基本的に真上を見上げたりはしないのだ。
 ごくたまに気が向いた時ぐらいしかそういうことはしない。

 そして高度を上げれば、つまり5000mぐらいの高さを飛べば人間の大きさなんてまずみえない。
 5000mも必要か? と思うかもしれないが念のためにこれは必要なのだ。
 この世界、テレビもないし本だってめったにない。なので人間は基本的にみんな目がいい。
 感覚的なものだけど3.0とか普通なんだぜ。
 なのでこのぐらい距離を取らないと安心できない。
 この高さだと雲の上だしね。

 ラウニーたちはキャンプをした場所で待ってもらっている。
 獣王国の王都からたぶん20kmぐらい離れているかな。
 黒曜たちなら一瞬だ。

 雲の切れ間からちらちらと下を確認する。

「あっもそろそろ王都だよ」

 下は穀倉地帯なのか緑が広がる平原で、斜め方向に細かい建造物が集まった場所が見える。

「城塞都市だな」

 中央に高くなった場所があり、そこに大きな建造物。つまりお城があり、その周囲に大小の建物が並んでいる。
 それを取り囲むのは音楽高い城壁で、上から見ると少し歪んでいるが歯車のような形をしている。

 そしてその外側の一角にいま蟻のようにうごめくものがある。

「あれはおそらく王国軍ね。たぶんどこかに公爵家の軍もいると思うんだけど」

「まあ、いなかったら大顰蹙だよね」

 連絡は無事に届いたらしい。
 そしてドラゴンと戦うため現在準備が進んでいる。

 大きな――といってもここから見ると豆粒以下だが――攻城兵器のようなものを準備しているのも見える。
 役に立つとは思えないけど…

 でも失敗した。
 あいつら畑を踏み潰しながら部隊を展開しているじゃないか…

「あほじゃないかの?」

「ごめん、みんな脳筋なんだよ」

 困ったもんだ。
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