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第170話 再会

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「ウエップ…」
「うえーっぷう」

 俺はちび助と二人でちょっと不快なおなかをなだめていた。
 帝都食い倒れツアーは完全に企画倒れ。マジで倒れそうになった。
 なんというか味付けがね…

 あまり食材がよくないのだ。

 それを大量の調味料で味付けをしてごまかすような料理ではっきり言って胃に重い。
 こりゃあかんというので途中でちび助から取り上げようとしたのが失敗だったな。
 食べ物を取られると思ったのか、ちび助は目の前にあるものをかき込めるだけ掻き込んでしまって結果ちょっとおなかの調子がおかしくなってしまったのだ。
 まだ食べ物に対してはかなりの執着があるようだ。

 しかしこの世界魔法があるのがすごい。
 三才児では薬なんかは簡単には使えない。
 子供は副作用が出やすいし、血液脳関門とかも十分に発達していないのだ。
 だが魔法ならOK。

「なあ~わかったろ。兄ちゃんがだめって言ったらだめなんだぞ」

「う~っ」

 ちょっと涙目でじっと見つめるちび助が可愛い。
 ゆっくり回復魔法を流してやりつつ収納にあった美味しい水を飲みながらひとやすみだ。

■ ■ ■

 そうしているうちに夜が近づいてくる。
 ちび助は昼過ぎには復活してそのご元気にご飯を食べてます。いやー、子供ってすごいね。

 そうこうしているうちに日が暮れてきて、俺は人に見られていないのを確認した後空に飛んだ。上空で黒曜がたむろしている。
 現在は応竜スタイルだ。

 空に浮かんでいるだけならこの方が安定するらしい。
 羽の付け根あたりにちび助をおろすと器用に羽を蠢かせてちび助を固定する。

 それがどうもかなり暖かいらしい。
 おなかがくちくなってポカポカするとどうなるのか。
 当然眠くなる。

 ちび助は黒曜の羽に埋もれてすぴすぴ寝てしまった。

「大丈夫か?」

『だいじょうぶ~。まかせて~』

 ちょっと見つめて…

「うん、大丈夫そうだな。じゃあちび助は任せるからもうしばらく上空待機で」

『は~い』

 俺は既に夜の闇に沈んだ町の中に音もなく舞い降りた。

■ ■ ■

 といっても途中までだ。
 さすが上流の貴人が集まる地区。地上の警戒はそれなりに厳しい。

『とはいっても物々しさはないな』

 多分無粋だからとかの理由だろう。

 軽武装の兵士が懐中電灯のような魔道具で道を照らしながら静かに見回っている。
 まだ時間が速いせいか中には魔道具の光の中でガーデンパーティーのような事をしている家もあるが、彼らにとって兵士はいないも同然のもののようだ。

 つまりこの町は住んでいる人の生活を乱さないことが第一に考えられているということだ。
 なのでたくさんの兵士があちこちを見張っている。のだが俺にはなんということもない。
 空に対してはほとんどだれも気にしていないからだ。

 まして今日は厚い雲が垂れこめていて地上はほとんど闇の中。
 兵士たちはほとんど何も見えないだろう。

 逆に魔力で物を見ている俺はほとんど昼間と変わらずものが見える。
 違うのは基本的にグレースケールだということだな。
 魔力では色は見えないんだ。

 色は肉眼で見ているから、そして肉眼では現在は闇でほとんど何も見えないから。
 なので見た目は3DCG作りかけのようなすべてが銀色の立体映像に見えるのだ。

 明かりで照らされたところだけ色が見えるから結構面白い世界といえる。

 そんな状況なので地上に降りるのはバカのすること。
 屋根の上ぐらいの高度を保って空中を移動する。これが一番安全だ。

 昼間記憶したマップを確認しつつ目的の家に移動する。
 当然のように部屋には明かりがともっていた。

『さて、とりあえず屋根の上でサーチかな』

 目的の家は三階建ての手の込んだ瀟洒なお屋敷だった。
 こじんまりとした洋館を宮殿レベルの精緻さで作ったような屋敷だった。

 腰を下ろし、魔力視で屋敷の中を透視していく。

『おっ、これは、昼間のおっさんか』

 腹に包帯がまかれ、静かに寝息を立てている。
 そばにはたぶんおっさんの付き添いの人、あとは看護婦みたいな感じの女性もいる。

 どうやら構造からみて、診療所みたいな構造になっているらしい。

『うーむ、聖女というのは回復魔法を得意とするクラスだと聞いたが…』

 あまりイメージが繋がらない。
 銃を乱射してけが人を量産している方があいつのイメージに合うのだが…

 だがそれが家のすべてではない。
 二階はプライベートルームのようで、その階はどこか工房めいている。

 何か書きなぐった紙がぶっ散らばっていたり、変な部品がまき散らされていたり。

『おお…日本のあいつの工作室みたいだ…』

 改造拳銃とか…まあ、いろいろやっていたからな…
 そのノリのまんまだ。

 そしてその一角に机に座って部品に鑢をかける女。

 どう見てもあきらだった。
 とりあえず話を聞かないとどうしようもない。

 俺はバルコニーに降り立ち、部屋に…入れないわな。うん、窓がしまってる。

 コンコンとノックをするがなったのか薄いガラスを叩いたようなカシャカシャという音。
 なんか安っぽいな。

 見た目に反して安っぽい音に不満を持っていると、それでも部屋の中で晶は音に気が付き、こちらを見る。

「えっと、誰?」

 まあ、暗いからな。わからなくても仕方がない。
 俺はこちらを見る晶にひらひらと手を振った。

 それで何か引っかかるものがあったのだろう。晶は眉をしかめて、それでもこちらに寄ってきた。
 この世界はブンブン手を振るやつはいるけどひらひら手を振るやつっていないんだよね。
 まあ、帝国がどうかは知らないが。

 晶は近づいて俺の顔をじっと見る。
 俺はしょうもないものを見るような目で晶を見下ろした。

「暗くてよく見えないけど…先輩だよね」

「おっ、偉いぞ、よくわかったな」

 その時にさっと雲の切れ間から月明かりが差し込んで俺を照らした。

「ええっ、なんかすっごく若くなってません?
 それに髪の色とか…染めたん?」

 ああ、そういえば俺もだいぶ印象が変わったかな。
 晶の方は若々しくなったような印象があるが地球にいるときと変わりがない。
 マーヤさんもそうだったけど、異世界に渡ったからって容姿が変わったりはしないんだよな。
 それだけ俺がやばかったということ。

「えへへ、でもやっと会えた…先輩…」

 そういうと晶は窓のカギを開けてゆっくりとバルコニーの入り口を開く。
 目にはウルウルと涙があふれ、それでもいきなり抱き付いてきたりしないのは俺の見た目が変わったからか…
 だがそんなことはどうでもいい。
 言わなくてはならないことがある。

「なあ、晶…」

 それでも意を決して俺の胸に飛び込もうと動き出した晶の動きが止まった。
 俺の声に恐れをなしたかのように。

「何でお前がここにいるんだ?」

「ふええっ!?
 あの、その…先輩が穴に吸い込まれて…その押し戻されたんだけど…やややややっぱり先輩を見捨てるとかできなくて…その…つい追いかけて飛び込んで…」

 じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ

 うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ

 やっぱり後先考えてないだけであったか…

「このバカ女がーーーっ!」

「ひぃぃぃぃぃっ。ごめんなさい!!」

 とりあえず怒鳴ってみました。うん。
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