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6-24 勇者ちゃんたち逃亡
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side テレーザ
あらかじめ想定していた質疑応答は全く役に立ちませんでした。
メヒテュルトが裏切ったせいで帝国の暗部が明るみに出てしまったんです…
なんでこんなことに…
しかも暗部って基本口の堅い人間で構成されているんですよね?
なのになんでみんな素直に白状しているんですか?
せめてもの救いはビジュー公爵家のアルフレイディア様の独断専行だったというところまでばれてしまったことでしょうか。
これなら最悪公爵家に責任を取ってもらって、帝国がしらばっくれるということもできるかもしれません。
できれば逆切れして喧嘩を売って、みんなで引き揚げてうやむやにしたいところだったんですけど、それもできなくなってしまいました。
勇者の翔子殿、流歌殿が行方不明になってしまって、今帰ると二人を放り出すことになってしまいます…
メヒテュルトも厳しく罰したいところですけど現状で彼女を罰するというのは無理。
あからさまな報復ですし、これをやってしまうと対外的に帝国が秩序のない国だと思われてしまいます。
他国に情報を漏らしたのだから処罰対象でいいんですけど、その原因が帝国の公爵家が王国の貴族の暗殺を謀ったから…というのでは…
これでレングナー子爵家を厳しく罰すると公爵家も、というかアルフレイディア様も厳しく罰するような話になるでしょうし…
公爵家と言えど敵はいますから、きっと彼らが大騒ぎをするでしょう。
ああ、なんにしても情報がなさすぎる…
勇者は王国に人質に取られたと考えるべきでしょうね…
「王陛下…事情は…把握しました。
ただこちらも何分情報がなく…
それに私個人がお返事できるような案件でもありません…
本国に連絡を取り、もろもろ確認を取りたく思います」
私は目の前に悠然と座っているクラリオーサ・アリオンゼールⅣ世陛下の軽く頭を下げる。軽くなのは私たちが座っているせいで、もし正式な謁見であれば平身低頭するような話だわ。
それを向かい合って悠然とソファーに座って話すのだから、この人も結構曲者。
能天気なお姫様と聞いていたけどとんでもないわ。
隣にいるキハール殿も曲者だし。
帝国から外交官を呼んで、あとは任せるしかないわね…
丸投げともいうけど…
「まあ、仕方がないことかの。まだ若いそなたがすべての責任を取るというのは酷に過ぎようしの」
「それにしてもディア君が帝国の公爵家のね…」
「これこれ、まだ可能性があるというだけじゃろ。
ナガン家の話では大怪我をしている子供を拾って育ててきたという話だし、その場所も王国の北部大平原じゃという。
いかに地続きとはいえ帝国の版図で魔物に襲われた子供が、はるか障壁山脈まで移動し、それを乗り越えて王国に逃げ込むなどありえぬよ。
一体何をどうしたらそういう奇矯な考えになるのかのう」
「ありゃ、そりゃそうね。
その奇矯な発想にとりつかれて、いきなり襲撃するという発想が分からないわね。
何なのかしら」
ううっ、冷や汗が…
でも根性でにっこり笑って素知らぬ顔でお茶を頂く。たぶん成功していると思いたい。
もう一度帝国に随分旗色が悪いことを知らせないといけないわ…
このまま外交官が来てもやり込められるだけになってしまう。
本当に胃が痛い…
■ ■ ■ side ディア
「何て快適な…」
「信じられません、迷宮の地下にこんな施設が…」
愕然とする流歌と翔子君をみて俺は無理もないと思う。
「キャー、すごいですの。楽しいですの」
「ぴよぴよ」
フフルとフェルトがはしゃいで飛び回っている。
ついにここを開放することになってしまった。
「うわーすごい。目玉が飛び出るような魔道具のオンパレードだよ」
「すごいですわ。ディア兄さまの魔道具ってここが出どころだったんですね~」
「オリハルコンの包丁…すごい」
もちろんうちのメンバーも一緒だ。
現在俺たちがいるのはアウシールの迷宮第六階層。
今までの到達記録が第四階層で、現在探索中になっているからここに来たことがある人間は彼らが初めてだろう。
迷宮の四階層は広大なトンネル立体迷路型で、冥府とのつながりが近くにあるためかアンデットがいくらでもわいてくる階層だ。
迷路のどこかに冥力石があって、この迷宮で死んだ人間はそこからあの世に旅立つことになる。
逆にアンデットなどはここでは実体化しやすく、倒されたアンデットは歪みを失い、まあ、一度でというわけにはいかないのだが何度も復活しては倒されるを繰り返すうちに浄化されて世界に還元されていく。
しかもここのアンデットはよい魔石を落とすのでいい稼ぎにもなるのだ。
winwinな関係だな。
この迷宮のもとになったショッピングモールは八階層で、ソウルイーターを倒した後再編された迷宮でやはりちゃんと迷宮になっていた。
つまり普通に魔物が湧くわけだ。
だが迷宮というのは濃度の濃い魔力に浸食されたあれやこれやが変質した結果出来るもので、魔力に対して耐性のあるものは影響を受けない。
今はもうそういう技術が失われてしまったのだが、このショッピングモールが生きていたころは魔法技術は今よりもずっと高度で、魔力コートされた物品は迷宮化の影響を受けることなく残っていたりする。
施設も同様。
五階層は長い時間を経た廃墟のような感じの階層で、地下型の迷宮だから天井もあるわけで、結果としてすごくでかい鍾乳洞のような環境に草木が生えて生き物が暮らす。そんな階層になっている。
この階層は小物や衣服が多く売られていたようでそんなものが生き物のように徘徊する階層となってしまったらしい。
《リビングメイルとかと同じでありますな》
『リビングワンピースとかリビングオーバーオールとかだけどな』
なんか笑える。
ただ結構強いよ。
六階層はもともと温泉施設と宿泊施設、あと従業員の住居があった階層で、この階層も鍾乳洞のような感じなのだが宿泊施設はまだ生きていた。
建物自体がコーティングされていて魔物化しなかったのだ。
なのでホテルなどはいまだに使えたりする。
中にはいってシステムを立ち上げたら水道も電気というか照明もコンロ関係も動き出して問題がなかった。
掃除もコーティングのおかげで簡単に済んだしね。
「じゃあ、しばらくここに隠れるという感じでいいかな?」
「はい、大丈夫です」
お嬢さん二人はホテルの一室〔スーパースイートだと思う〕を占拠してしばらく帝国から身を隠すことになった。
当然原因は帝国の暗部の暴走だ。
「帝国がどうするのかわからないけど、もう帝国に帰るという選択肢はないですから…これでいいです」
帝国の反応がどうなるかわからないがこのままおとなしく続けるというのはないと思うんだよね。
帝国に引き上げるという方向が可能性高いと思う。
もちろん何らかのけじめをつけてね。
ただそうなるとお嬢さん二人も帰らないといけなくなりそうだし、帝国で女の勇者がまともな人生を送れるとは思えないから、やむを得ず一時失踪。
失踪先として俺が思いついたのがこの迷宮の奥だったのだ。
「なんかオブザデッドで楽しいですよ」
「うん、いいよね」
この二人はゾンビものとか好きらしい。
施設内は安全で、外には魔物がいて、魔物をかわしながら、倒しながら活動する。そういうのがワクワクするらしい。
まあ、いつ窓を破って出で来るか…というようなドキドキはないけど、現実だからその方がいいでしょ。
「それに魔道具の研究がしたい」
「うん、いいと思う、七階層に携帯ショップとかあったよ。あれ絶対携帯ショップ。研究するとすごいことになるかも」
じつに楽しそうだ。
この辺りは大昔の魔道具が生き残っているのでそれが気になって仕方がないらしい。
活動できる範囲も広いし、まあ退屈はしないだろう。問題は人との接触が限られることか。ストレスになるだろうから週一ぐらいでお忍びで町に出るか。
「いいんですか?」
「いいよ、エレベーターで外まで直接出れば人目にもつかないし、変装すれば何とかなると思う」
そう言ったらみんなの顔が変な顔になった。
「あれは反則だと思います」
「そうです、みんな一生懸命迷宮に挑んでいるのに、あの真ん中の柱にエレベーターとかいうのがあって、一階層どころか外から最下層まで移動できるなんて…」
「しかも最下層がこんなお宝の山だとは思いませんでした」
うーん、わからなくもない。
だけどここにある魔道具を世に出すだけで世界の政治とか軍事とかのバランスが崩れるのは火を見るより明らか。
さすがにこれは大っぴらにできないよ。
そういう意味では俺は迷宮を守る側、運営する側といえる。
「おおー、ダンジョンマスターですの」
「あっ、なんかかっこいいかも」
いや、君ら、それは人間側としてどうなんだろう。という発言だよ。
まあ、気持ちは分かるけど。
さて、これで勇者ちゃんたちが帰ってこないとなれば帝国の連中が騒ぎだすだろう。
二人にはわざわざ目立つように迷宮に入ってもらったし、俺たちのアリバイは作ったし、これで準備OKかな。
食料も十分だしね。
とりあえず見つかることはないだろう。
後は帝国の動き待ちか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2022年、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
side テレーザ
あらかじめ想定していた質疑応答は全く役に立ちませんでした。
メヒテュルトが裏切ったせいで帝国の暗部が明るみに出てしまったんです…
なんでこんなことに…
しかも暗部って基本口の堅い人間で構成されているんですよね?
なのになんでみんな素直に白状しているんですか?
せめてもの救いはビジュー公爵家のアルフレイディア様の独断専行だったというところまでばれてしまったことでしょうか。
これなら最悪公爵家に責任を取ってもらって、帝国がしらばっくれるということもできるかもしれません。
できれば逆切れして喧嘩を売って、みんなで引き揚げてうやむやにしたいところだったんですけど、それもできなくなってしまいました。
勇者の翔子殿、流歌殿が行方不明になってしまって、今帰ると二人を放り出すことになってしまいます…
メヒテュルトも厳しく罰したいところですけど現状で彼女を罰するというのは無理。
あからさまな報復ですし、これをやってしまうと対外的に帝国が秩序のない国だと思われてしまいます。
他国に情報を漏らしたのだから処罰対象でいいんですけど、その原因が帝国の公爵家が王国の貴族の暗殺を謀ったから…というのでは…
これでレングナー子爵家を厳しく罰すると公爵家も、というかアルフレイディア様も厳しく罰するような話になるでしょうし…
公爵家と言えど敵はいますから、きっと彼らが大騒ぎをするでしょう。
ああ、なんにしても情報がなさすぎる…
勇者は王国に人質に取られたと考えるべきでしょうね…
「王陛下…事情は…把握しました。
ただこちらも何分情報がなく…
それに私個人がお返事できるような案件でもありません…
本国に連絡を取り、もろもろ確認を取りたく思います」
私は目の前に悠然と座っているクラリオーサ・アリオンゼールⅣ世陛下の軽く頭を下げる。軽くなのは私たちが座っているせいで、もし正式な謁見であれば平身低頭するような話だわ。
それを向かい合って悠然とソファーに座って話すのだから、この人も結構曲者。
能天気なお姫様と聞いていたけどとんでもないわ。
隣にいるキハール殿も曲者だし。
帝国から外交官を呼んで、あとは任せるしかないわね…
丸投げともいうけど…
「まあ、仕方がないことかの。まだ若いそなたがすべての責任を取るというのは酷に過ぎようしの」
「それにしてもディア君が帝国の公爵家のね…」
「これこれ、まだ可能性があるというだけじゃろ。
ナガン家の話では大怪我をしている子供を拾って育ててきたという話だし、その場所も王国の北部大平原じゃという。
いかに地続きとはいえ帝国の版図で魔物に襲われた子供が、はるか障壁山脈まで移動し、それを乗り越えて王国に逃げ込むなどありえぬよ。
一体何をどうしたらそういう奇矯な考えになるのかのう」
「ありゃ、そりゃそうね。
その奇矯な発想にとりつかれて、いきなり襲撃するという発想が分からないわね。
何なのかしら」
ううっ、冷や汗が…
でも根性でにっこり笑って素知らぬ顔でお茶を頂く。たぶん成功していると思いたい。
もう一度帝国に随分旗色が悪いことを知らせないといけないわ…
このまま外交官が来てもやり込められるだけになってしまう。
本当に胃が痛い…
■ ■ ■ side ディア
「何て快適な…」
「信じられません、迷宮の地下にこんな施設が…」
愕然とする流歌と翔子君をみて俺は無理もないと思う。
「キャー、すごいですの。楽しいですの」
「ぴよぴよ」
フフルとフェルトがはしゃいで飛び回っている。
ついにここを開放することになってしまった。
「うわーすごい。目玉が飛び出るような魔道具のオンパレードだよ」
「すごいですわ。ディア兄さまの魔道具ってここが出どころだったんですね~」
「オリハルコンの包丁…すごい」
もちろんうちのメンバーも一緒だ。
現在俺たちがいるのはアウシールの迷宮第六階層。
今までの到達記録が第四階層で、現在探索中になっているからここに来たことがある人間は彼らが初めてだろう。
迷宮の四階層は広大なトンネル立体迷路型で、冥府とのつながりが近くにあるためかアンデットがいくらでもわいてくる階層だ。
迷路のどこかに冥力石があって、この迷宮で死んだ人間はそこからあの世に旅立つことになる。
逆にアンデットなどはここでは実体化しやすく、倒されたアンデットは歪みを失い、まあ、一度でというわけにはいかないのだが何度も復活しては倒されるを繰り返すうちに浄化されて世界に還元されていく。
しかもここのアンデットはよい魔石を落とすのでいい稼ぎにもなるのだ。
winwinな関係だな。
この迷宮のもとになったショッピングモールは八階層で、ソウルイーターを倒した後再編された迷宮でやはりちゃんと迷宮になっていた。
つまり普通に魔物が湧くわけだ。
だが迷宮というのは濃度の濃い魔力に浸食されたあれやこれやが変質した結果出来るもので、魔力に対して耐性のあるものは影響を受けない。
今はもうそういう技術が失われてしまったのだが、このショッピングモールが生きていたころは魔法技術は今よりもずっと高度で、魔力コートされた物品は迷宮化の影響を受けることなく残っていたりする。
施設も同様。
五階層は長い時間を経た廃墟のような感じの階層で、地下型の迷宮だから天井もあるわけで、結果としてすごくでかい鍾乳洞のような環境に草木が生えて生き物が暮らす。そんな階層になっている。
この階層は小物や衣服が多く売られていたようでそんなものが生き物のように徘徊する階層となってしまったらしい。
《リビングメイルとかと同じでありますな》
『リビングワンピースとかリビングオーバーオールとかだけどな』
なんか笑える。
ただ結構強いよ。
六階層はもともと温泉施設と宿泊施設、あと従業員の住居があった階層で、この階層も鍾乳洞のような感じなのだが宿泊施設はまだ生きていた。
建物自体がコーティングされていて魔物化しなかったのだ。
なのでホテルなどはいまだに使えたりする。
中にはいってシステムを立ち上げたら水道も電気というか照明もコンロ関係も動き出して問題がなかった。
掃除もコーティングのおかげで簡単に済んだしね。
「じゃあ、しばらくここに隠れるという感じでいいかな?」
「はい、大丈夫です」
お嬢さん二人はホテルの一室〔スーパースイートだと思う〕を占拠してしばらく帝国から身を隠すことになった。
当然原因は帝国の暗部の暴走だ。
「帝国がどうするのかわからないけど、もう帝国に帰るという選択肢はないですから…これでいいです」
帝国の反応がどうなるかわからないがこのままおとなしく続けるというのはないと思うんだよね。
帝国に引き上げるという方向が可能性高いと思う。
もちろん何らかのけじめをつけてね。
ただそうなるとお嬢さん二人も帰らないといけなくなりそうだし、帝国で女の勇者がまともな人生を送れるとは思えないから、やむを得ず一時失踪。
失踪先として俺が思いついたのがこの迷宮の奥だったのだ。
「なんかオブザデッドで楽しいですよ」
「うん、いいよね」
この二人はゾンビものとか好きらしい。
施設内は安全で、外には魔物がいて、魔物をかわしながら、倒しながら活動する。そういうのがワクワクするらしい。
まあ、いつ窓を破って出で来るか…というようなドキドキはないけど、現実だからその方がいいでしょ。
「それに魔道具の研究がしたい」
「うん、いいと思う、七階層に携帯ショップとかあったよ。あれ絶対携帯ショップ。研究するとすごいことになるかも」
じつに楽しそうだ。
この辺りは大昔の魔道具が生き残っているのでそれが気になって仕方がないらしい。
活動できる範囲も広いし、まあ退屈はしないだろう。問題は人との接触が限られることか。ストレスになるだろうから週一ぐらいでお忍びで町に出るか。
「いいんですか?」
「いいよ、エレベーターで外まで直接出れば人目にもつかないし、変装すれば何とかなると思う」
そう言ったらみんなの顔が変な顔になった。
「あれは反則だと思います」
「そうです、みんな一生懸命迷宮に挑んでいるのに、あの真ん中の柱にエレベーターとかいうのがあって、一階層どころか外から最下層まで移動できるなんて…」
「しかも最下層がこんなお宝の山だとは思いませんでした」
うーん、わからなくもない。
だけどここにある魔道具を世に出すだけで世界の政治とか軍事とかのバランスが崩れるのは火を見るより明らか。
さすがにこれは大っぴらにできないよ。
そういう意味では俺は迷宮を守る側、運営する側といえる。
「おおー、ダンジョンマスターですの」
「あっ、なんかかっこいいかも」
いや、君ら、それは人間側としてどうなんだろう。という発言だよ。
まあ、気持ちは分かるけど。
さて、これで勇者ちゃんたちが帰ってこないとなれば帝国の連中が騒ぎだすだろう。
二人にはわざわざ目立つように迷宮に入ってもらったし、俺たちのアリバイは作ったし、これで準備OKかな。
食料も十分だしね。
とりあえず見つかることはないだろう。
後は帝国の動き待ちか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2022年、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
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