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6-18 穏やかな日常とお邪魔虫
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6-18 穏やかな日常とお邪魔虫
とうっ!
たあっ!
うりゃ!
威勢のいい掛け声がこだま…はしないか。響いている。
流歌と翔子ちゃんが刀を受け取りに来て、巻き藁などを使って切れ味を試しているところにサリアが遊びにきて一緒に練習しようと言い出した。
脳筋王女である。魔法なんか俺に次ぐ実力なのに。
ちなみに訓練に使っているのは木刀だ。
ほぼ同じ形で同じ重量バランスになるように作らされたものだ。
で小神殿と俺の工房の裏にある広場で現在大太刀回りの真っ最中。
観衆となった子供たちも大喜びだ。
「もう、ちゃんとお勉強しないとだめですよー」
「やだー」
「もっと見る~」
「勉強嫌いー」
おいガキども、本音が出ているぞ。
そのガキどもを引きずって何とか日常の『お務め』をさせようとするテテニスさん。頑張れ女の子。君には神様が付いている。
いや、ほんとに。
見習いとすら呼ばれることなくこの神殿を守ってきてくれたテテニスさんはメイヤ様直々にこの神殿の主神官に任命されました。
本人の知らないうちに。
じつをいうと神殿組織というのがあって、そういうのはそこがやるのだけど、ここは所詮忘れられた神殿なのだ。
しかも本当はここがメイヤ様のこの町における主神殿のはずなのに。
だからちょっとした嫌味のようなものもあるのだと思う。
メイヤ様直々に神官の資格と神殿の主たる権能を与えられたテテニス嬢は正式に【使徒】となった。
本人は気が付いていないけどね。
そういうこともあるから他の神官さんたちにはもっとまじめに仕事をしてほしいところです。
そんなわけで彼女の神官としての位階は結構高かったりする。
しかしそんなものが高くても子供達には関係ない。
彼女の苦労はまだ続くのだ。まあ、親ってそんなもの。
「あうっ」
おっと興奮して手を振り回していた子のアッパーを食らって伸びちゃった。
「きゃー、お姉ちゃん!」
「おにいちゃん、お姉ちゃんが!」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
とりあえずイデアルヒールをかければすぐに目を覚ます。
今や彼女もメイヤ様の加護もちだからね、状態異常には強いのだ。だからぴよってもすぐに立ち直る。
「はあ、とりあえず終わるまで無理でしょうか?」
「そうだね、でもそんなに長くは続かないよ」
立ち直ったテテニスに同意しつつ彼らが声援を送る人たちに目を向ける。サリアと勇者二人の対決。
はっきり言って圧倒的だ。
サリアが。
「あの子たち勇者なんだよね…あんなものなのかな?」
とルトナさん。
「いえ、でも勇者さんたちも決して弱くないですよ。なんとなくですが」
とテテニス嬢。
確かにテテニスの言は正しい。
勇者はかなり強い生き物だと思う。
界渡りの時、世界のハザマに落ちたときに自分を守ろうとする力が働く。これが足りないとそのままつぶされてしまうのだけど、界渡りに成功したということは自分の強化に成功したということだ。
そしてその時にたくさんの魔力というか力をため込んできたのでたくさんのスキルを持っているし、またスキルがかなり生えやすくなっている。
しかも勇者スキルなんてユニークスキルもある。
言ってみれば勇者というのは『才能の塊』『力の塊』のような生き物なのだ。
なので弱いはずがない。
彼女たちの話では剣などの武器を使った戦闘訓練は学校でかじった剣道ぐらいしかないらしいから間違いなく素人だ。
なのに木刀を振り回し、安定した体捌きでサリアと打ち合っているのだ、大したものといえる。
だが勇者は万能ではないし全能でもないし最強でもない。
もっと強いやつはいる。
例えば獣王なんて化け物は格闘戦に限れば勇者よりも確実に強い。過去に獣王に挑んで徹底的にボコられた勘違い勇者が何人かいたから間違いない。
魔物にも強いものはいて、戦死した勇者も多々いるらしい。
そこら辺を踏まえて勇者を一言でいうと『万能型の天才』これだとおもう。
対してルトナやサリアは颯獣王トゥリア・ナガンの愛弟子であの爺から戦闘技能を叩き込まれ、あの爺どもが認める実力者。
将来的には分からないが現在はサリアの方が確実に上。
うーん、でも将来も負けないかな。サリアってば一言でいえば『戦闘型の超人』だし。
身体機能を最大限最適化するイデアルヒールを受け続け、そのうえで戦闘技能を無茶苦茶なレベルで叩き込まれたルトナやサリアはそう、『超人』といって差支えがないとおもう。
しかもこいつらは努力しまくりの人間だ。
努力に勝る天才なしという言葉もあるし、学ぶは好むにしかず、好むは楽しむにしかず。という言葉もある。
二人は趣味として努力しまくる人たちなのだ。
それを考えるとこいつらがどこまで行くのかも興味深い。
そんなことを考えながら観戦していたら三人がさっと離れた。
「お二人とも強いですわ。でも…」
「でも何よ」
「負けない」
「お二人より強い人はたくさんいますし、わたくしは戦いなれていますから」
その言葉通り、最初二対一で勇者側が優位か! と見えた戦いだったが時間経過とともにサリアが次第に押し始めた。これは戦闘経験の差だろう。
そしてもう一つ。
「サリアの動きについてこれてないね」
ルトナが俺の耳にささやく。
「まあ、仕方がない、どうもあの二人は戦闘を二次元でとらえているからね」
これは他の勇者も見ての感想だ。勇者の欠点といってもいい。
地球人であればわかると思うが戦闘の際に地面の上に立って同じ平面上で戦うのだという感覚がどうしても染みついてしまうらしい。
だがこの世界の魔物は立体機動をするものが多い。
空を飛ぶ魔物だっている。
事実サリアも飛行魔法グラビットドライブを織り交ぜて三次元で戦闘している。そのたびに勇者の感覚がくるって押し込まれているのだ。
つまり勇者は立体機動に対処する方法を知らないでいる。
これはあとで反省会をしてやろう。
ちなみに二次元、三次元という言葉はルトナやサリアでないと通じません。この世界にはその概念がないのだ。
この二人には俺が子供のころから教えてたからね。
◆・◆・◆
反省会だが流歌たちは神妙に聞いていた。
まず勇者が最強ではないという事実は衝撃的だったらしい。
「思いあがらないように気を付けていたんですけど…」
それでも帝国で『勇者よ』『世界を救うものよ』ともてはやされればなんとなく自分たちは強いのだと錯覚も起こすだろう。
だが召喚などでこの世界の人間がかなわない敵と戦わせるために呼ばれた最強種族というわけではなく、たまたま世界から落っこちただけの、そしてその衝撃に耐えられるだけの強さを持っただけの人間である以上、自動的に最強になることなどないのだ。
まあ、ポテンシャルはあると思うけどね。
そして自分たちの戦闘感覚が二次元で、この世界の強者の戦闘感覚が三次元であるという事実には納得のいくところが多かったようだ。
「やっぱり帝国にいて、このままいいように使われるのはまずいと思う」
「うん、わかる」
帰りしな物陰で二人がそんな話をしていた。
その場合は何とか力になりたいと思う。
さて…
「お客さん?」
「ああ、そうだね。どうもひどい悪臭だ。それに数が多いね」
俺は敷地内に入り込んだ異物を感知した。
少し遅れてルトナも、そしてクレオも侵入者に気が付いた。
「これって戦場の風だよね」
とはルトナの言。皮膚感覚として殺気とかそういうのを感得しているらしい。
「肌を切るような鋭い空気を感じます。すてき」
とはクレオの言。
この子が何を感じ取っているのかわからない。でもなんか楽しくて気持ちのいい感触が襲ってくるんだって。
うん、すごく楽しそうだ。
でもあんまり理解したくない。
「えっと、迎撃は俺たちがやるから二人は神殿の子供達のことを頼むよ」
「「はーい」」
二人は得物を手に静かに家を出ていく。目指すは隣に立つ小神殿。
テテニスや子供達はそちらで暮らしているからね。
「ルトナ」
「はい?」
「ありがとうね」
彼女は戦闘大好きで、楽しい戦いは大好物という女だ。
なのにこういう時はただ黙って俺の指示に従ってくれる。
よい女である。
「当然よ。女は群れを守るために襲ってくる敵と戦うの。群れを守るために敵を滅ぼすのは男の仕事だから。
だから期待しているわ」
「うむ、任せなさい」
さて、楽しい夜になりそうだ。
バッチくて臭いのは消毒なのだ。
とうっ!
たあっ!
うりゃ!
威勢のいい掛け声がこだま…はしないか。響いている。
流歌と翔子ちゃんが刀を受け取りに来て、巻き藁などを使って切れ味を試しているところにサリアが遊びにきて一緒に練習しようと言い出した。
脳筋王女である。魔法なんか俺に次ぐ実力なのに。
ちなみに訓練に使っているのは木刀だ。
ほぼ同じ形で同じ重量バランスになるように作らされたものだ。
で小神殿と俺の工房の裏にある広場で現在大太刀回りの真っ最中。
観衆となった子供たちも大喜びだ。
「もう、ちゃんとお勉強しないとだめですよー」
「やだー」
「もっと見る~」
「勉強嫌いー」
おいガキども、本音が出ているぞ。
そのガキどもを引きずって何とか日常の『お務め』をさせようとするテテニスさん。頑張れ女の子。君には神様が付いている。
いや、ほんとに。
見習いとすら呼ばれることなくこの神殿を守ってきてくれたテテニスさんはメイヤ様直々にこの神殿の主神官に任命されました。
本人の知らないうちに。
じつをいうと神殿組織というのがあって、そういうのはそこがやるのだけど、ここは所詮忘れられた神殿なのだ。
しかも本当はここがメイヤ様のこの町における主神殿のはずなのに。
だからちょっとした嫌味のようなものもあるのだと思う。
メイヤ様直々に神官の資格と神殿の主たる権能を与えられたテテニス嬢は正式に【使徒】となった。
本人は気が付いていないけどね。
そういうこともあるから他の神官さんたちにはもっとまじめに仕事をしてほしいところです。
そんなわけで彼女の神官としての位階は結構高かったりする。
しかしそんなものが高くても子供達には関係ない。
彼女の苦労はまだ続くのだ。まあ、親ってそんなもの。
「あうっ」
おっと興奮して手を振り回していた子のアッパーを食らって伸びちゃった。
「きゃー、お姉ちゃん!」
「おにいちゃん、お姉ちゃんが!」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
とりあえずイデアルヒールをかければすぐに目を覚ます。
今や彼女もメイヤ様の加護もちだからね、状態異常には強いのだ。だからぴよってもすぐに立ち直る。
「はあ、とりあえず終わるまで無理でしょうか?」
「そうだね、でもそんなに長くは続かないよ」
立ち直ったテテニスに同意しつつ彼らが声援を送る人たちに目を向ける。サリアと勇者二人の対決。
はっきり言って圧倒的だ。
サリアが。
「あの子たち勇者なんだよね…あんなものなのかな?」
とルトナさん。
「いえ、でも勇者さんたちも決して弱くないですよ。なんとなくですが」
とテテニス嬢。
確かにテテニスの言は正しい。
勇者はかなり強い生き物だと思う。
界渡りの時、世界のハザマに落ちたときに自分を守ろうとする力が働く。これが足りないとそのままつぶされてしまうのだけど、界渡りに成功したということは自分の強化に成功したということだ。
そしてその時にたくさんの魔力というか力をため込んできたのでたくさんのスキルを持っているし、またスキルがかなり生えやすくなっている。
しかも勇者スキルなんてユニークスキルもある。
言ってみれば勇者というのは『才能の塊』『力の塊』のような生き物なのだ。
なので弱いはずがない。
彼女たちの話では剣などの武器を使った戦闘訓練は学校でかじった剣道ぐらいしかないらしいから間違いなく素人だ。
なのに木刀を振り回し、安定した体捌きでサリアと打ち合っているのだ、大したものといえる。
だが勇者は万能ではないし全能でもないし最強でもない。
もっと強いやつはいる。
例えば獣王なんて化け物は格闘戦に限れば勇者よりも確実に強い。過去に獣王に挑んで徹底的にボコられた勘違い勇者が何人かいたから間違いない。
魔物にも強いものはいて、戦死した勇者も多々いるらしい。
そこら辺を踏まえて勇者を一言でいうと『万能型の天才』これだとおもう。
対してルトナやサリアは颯獣王トゥリア・ナガンの愛弟子であの爺から戦闘技能を叩き込まれ、あの爺どもが認める実力者。
将来的には分からないが現在はサリアの方が確実に上。
うーん、でも将来も負けないかな。サリアってば一言でいえば『戦闘型の超人』だし。
身体機能を最大限最適化するイデアルヒールを受け続け、そのうえで戦闘技能を無茶苦茶なレベルで叩き込まれたルトナやサリアはそう、『超人』といって差支えがないとおもう。
しかもこいつらは努力しまくりの人間だ。
努力に勝る天才なしという言葉もあるし、学ぶは好むにしかず、好むは楽しむにしかず。という言葉もある。
二人は趣味として努力しまくる人たちなのだ。
それを考えるとこいつらがどこまで行くのかも興味深い。
そんなことを考えながら観戦していたら三人がさっと離れた。
「お二人とも強いですわ。でも…」
「でも何よ」
「負けない」
「お二人より強い人はたくさんいますし、わたくしは戦いなれていますから」
その言葉通り、最初二対一で勇者側が優位か! と見えた戦いだったが時間経過とともにサリアが次第に押し始めた。これは戦闘経験の差だろう。
そしてもう一つ。
「サリアの動きについてこれてないね」
ルトナが俺の耳にささやく。
「まあ、仕方がない、どうもあの二人は戦闘を二次元でとらえているからね」
これは他の勇者も見ての感想だ。勇者の欠点といってもいい。
地球人であればわかると思うが戦闘の際に地面の上に立って同じ平面上で戦うのだという感覚がどうしても染みついてしまうらしい。
だがこの世界の魔物は立体機動をするものが多い。
空を飛ぶ魔物だっている。
事実サリアも飛行魔法グラビットドライブを織り交ぜて三次元で戦闘している。そのたびに勇者の感覚がくるって押し込まれているのだ。
つまり勇者は立体機動に対処する方法を知らないでいる。
これはあとで反省会をしてやろう。
ちなみに二次元、三次元という言葉はルトナやサリアでないと通じません。この世界にはその概念がないのだ。
この二人には俺が子供のころから教えてたからね。
◆・◆・◆
反省会だが流歌たちは神妙に聞いていた。
まず勇者が最強ではないという事実は衝撃的だったらしい。
「思いあがらないように気を付けていたんですけど…」
それでも帝国で『勇者よ』『世界を救うものよ』ともてはやされればなんとなく自分たちは強いのだと錯覚も起こすだろう。
だが召喚などでこの世界の人間がかなわない敵と戦わせるために呼ばれた最強種族というわけではなく、たまたま世界から落っこちただけの、そしてその衝撃に耐えられるだけの強さを持っただけの人間である以上、自動的に最強になることなどないのだ。
まあ、ポテンシャルはあると思うけどね。
そして自分たちの戦闘感覚が二次元で、この世界の強者の戦闘感覚が三次元であるという事実には納得のいくところが多かったようだ。
「やっぱり帝国にいて、このままいいように使われるのはまずいと思う」
「うん、わかる」
帰りしな物陰で二人がそんな話をしていた。
その場合は何とか力になりたいと思う。
さて…
「お客さん?」
「ああ、そうだね。どうもひどい悪臭だ。それに数が多いね」
俺は敷地内に入り込んだ異物を感知した。
少し遅れてルトナも、そしてクレオも侵入者に気が付いた。
「これって戦場の風だよね」
とはルトナの言。皮膚感覚として殺気とかそういうのを感得しているらしい。
「肌を切るような鋭い空気を感じます。すてき」
とはクレオの言。
この子が何を感じ取っているのかわからない。でもなんか楽しくて気持ちのいい感触が襲ってくるんだって。
うん、すごく楽しそうだ。
でもあんまり理解したくない。
「えっと、迎撃は俺たちがやるから二人は神殿の子供達のことを頼むよ」
「「はーい」」
二人は得物を手に静かに家を出ていく。目指すは隣に立つ小神殿。
テテニスや子供達はそちらで暮らしているからね。
「ルトナ」
「はい?」
「ありがとうね」
彼女は戦闘大好きで、楽しい戦いは大好物という女だ。
なのにこういう時はただ黙って俺の指示に従ってくれる。
よい女である。
「当然よ。女は群れを守るために襲ってくる敵と戦うの。群れを守るために敵を滅ぼすのは男の仕事だから。
だから期待しているわ」
「うむ、任せなさい」
さて、楽しい夜になりそうだ。
バッチくて臭いのは消毒なのだ。
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