精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ

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5-12 お久しぶりのアウシールギルド。

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5-12 お久しぶりのアウシールギルド。


「アウシールか…何もかもみな懐かしい……」

「以前来たことがあるんですか?」

「うん…あるんですよ…」

 残念だ、素で返されてしまった。
 やっぱり元ネタを知らない人にこういう話を振ってはだめだな…

 俺はちょっと後悔した。だが反省はしなかった。機会があったらきっとまたやるだろう。たとえ滑ると分かっていても。

 まあ、それはさておき無事アウシールに到着した。
 あれ以降は順調な旅だったと言える。
 まあ来るまでの間に狩猟は(主にクレオが)してきたし、たくさんの獲物を獲った。これでクレオの方もひとまずは安心だろう。ここまでの道のりはインパラみたいな獣や、大物であれば水牛のような獣もいる。ここら辺は素材がそれなりに売れる。
 
 魔導結晶も多少は取れた。
 あまり強力な魔物のいない地方なのだがそれでも魔物のいないところはない。

 たぶんもろもろ二万リゼルぐらいにはなるだろう。
 半分を渡したとしてもしばらくは生活するのに困りはしないとう思う。

「え? でもお手伝いの依頼料は…」

「いやいや、あれは解体なんかを手伝って貰うための手間賃だよ、狩りはまた別の話、まあ今回の旅の間に狩った獲物は折半でいいんじゃないかな?」

「えっと。ありがとうございます」

 となるとあとは彼女の先行きだが。

「それでクレオが尋ねる人というのはどこにいるのかな?」

「はい、ロテナ地区の③エリアにある小さな分神殿だと聞いています。冥王神殿の神官さんで、お名前は『ヴェルナー』様だと聞いてます…」

「冥王神殿の分神殿か」

 つまりメイヤ様の神殿だな。
 分神殿というのは最少単位の神殿で地域の人がお祈りに来るような場所だ。
 メイヤ様信仰は日本でいう所の仏教のようなものなので、死者を弔い、死後の冥福を祈るような場所だ。罪を懺悔したりもするが、これはだめ、懺悔したら許されるとかそんなことはないのだ。謝罪とか反省は贖罪ではないのだ。
 もし罪を悔いているのなら少しずつでも罪を償っていくべきです。

 まあそう言うお祈りをする場所というのは結構色々なところにあったりする。
 地域に密着した小さなお寺みたいなものだ。

 当然このアウシールにもいくつかある。

 ここはメイヤ様を守護神にしている町なのでメイヤ神殿にとっては色々と良い環境のはずだ。

「さて、ロテナの③番というのがどのあたりか…わからないから聞いてみるしかないよね。まず最初に冒険者ギルドに行こうか、依頼完了しないとまずいし、獲物も清算してお金をわけて…
 まあ、俺の方にも個人的に用事があるから、更に町の地理なんかも聞いてしまおう」

 一石…何鳥だ?
 まあついでというものはある。
 それからゆっくりその分神殿を訪ねるべきだろう。

「はい、それで問題ないと思います」

「それでそこの神官さんにどんな用?」

「はい、なんでも両親の昔の仲間だったそうで、両親のことも良く知っているそうです、その神官さんは父の実家のことも知っていて、そこを頼るようにというのが遺言なんですけど…」

「ふむ、気乗りはしないわけだ」

「えへへっ、分かりますか? だって両親は駆け落ちした後音信不通だったとこですよ、そこに両親が死んだからって知らない娘が訪ねて行って歓迎されると思いますか?
 結構いい家だということですし…」

「うーん、まあ厄介者扱いされるのが落ちかなあ…」

「ね? そんな気するでしょう?」

 確かに言われてみれば気が重いのは分かる。
 うん、それは…自分ではやりたくないな。

「まあ、なるようになるさ」

「うわっ、ひとごとだとおもって」

 ひとごとですからね~。

「道はいろいろあるってことで」

「・・・そうですね」


 そんなことをしているうちにギルドに到着した。
 ギルドに来るのも実に久しぶりだ。二年ぶりぐらい?

 俺たちがまだ小さい時は年に二回ぐらい親父やお袋と巡回みたいにやってきたものだが、ルトナが成人してここに拠点を移した時にここに支店が立って、彼女が支社長みたいになって、ここで素材を集めて王都に送ってくるようになったので来る必要がなくなっていたのだ。

 そして二年ぶりのギルドはさらに賑やかになっていた。

「ずいぶんにぎやかですね」

「ああ、四年ちょい前に迷宮で大規模な改変が起こったという話は…知ってる?」

「いいえ」

 ふむ、まあ冒険者でもないとな。

「そうか…もともとここはアンデットが多い迷宮で、そのアンデットが際限なく湧くことに目を付けたキハール辺境伯が、魔法や魔剣などの鍛錬のためにこの迷宮を使おうと学校を立ち上げたんだよね」

 正確にはもともとあった脳筋系の騎士学校を魔法系の総合学園にシフトさせたのだ。

「それで少しにぎわっていたんだけど、やっぱりアンデットが多いと素材が思うようにならないだろう?
 だから若干頭打ちの感はあったみたいだ。
 ところが今から4年とちょっと前にこの迷宮で大規模な改変パラダイムシフトが起きた。それで迷宮の様子ががらりと変わってしまったんだ。
 かなりの広さがある階層型迷宮で、四階層がアンデット一杯の洞窟層。他はフィールド型かと見紛うほどの広い草原とか街とかの迷宮で、今は普通に素材もとれるようになった。
 で、じわじわ人が集まってきていたんだけどなんと」

「なんと?」

「大昔の古代宝具の発見があったんだ。しかも数回」

「ええ、アーティファクトですか?」

「そうそう、二匹目どころか三匹目、四匹目のドジョウも出たとなればこれは当然我も我もと人が集まるよね。
 学園の…ああ、キハール魔法戦術学園というんだけど、その学園の生徒も相変わらず訓練に使っているというし、学生にも実入りがあるのでこちらも人気が高い。驚いたことにその学園、今は王太子と、王女様も通っているらしいしね。
 とにかくここは今ものすごい勢いで成長している町さ」

「へえ…すごいんですねえ…」

 うん、通っている王女というのがサリアだからいまいち凄いという気がしない。
 まあ王女も近しく付き合えば普通の人ということだ。割とお転婆だしね。

 そんなわけで…

「このギルドは入るたびに手狭になっていく感じがする…」

「そうなんですか」

「明らかに利用者が増えているのにカウンターの数が変わらないからな…」

 ごった返しているという表現がぴったりだ。
 これってすごく待たされるんじゃないのか?
 そんなことを思っていたら後ろから声をかけられた。

「あら、そんなことはないんですよ」

「マルレーネさん」

「久しぶりねディア君。ずいぶん逞しくなったわ~」

「お久しぶりです。今度僕もこちらに拠点を移すことになりましたのでよろしくお願いします」

 あの時に期待の新人と言われて一緒に迷宮に行ったマルレーネさんだ。
 今ではもう十九か二十歳だろう。立派になった。
 うん、すごく立派になった。

「出世なさいました?」

「ええ、おかげさまで、今はこの本館のフロアチーフよ」

 ここすっごくブラックな職場のはずなのに出世したって嬉しそうに…なぜか涙が出て来るよ。

「それはおめでとうございます。今本館って言いました?」

 本館があるということは別館があるということだ。

「ええ、一年ほど前にね、さすがにここだけでは処理しきれなくなってしまって、迷宮対応をする第二事務所ができたのよ、まだプレハブで工事の途中なんだけどね。大きいわよ。
 主に迷宮関連は向こう、依頼関連はこちらで処理しているわ…という形を目指しているの」

 なるほど。

「ところでその娘さんは? ディアちゃんは一筋かと思ってた~」

 俺もそれで問題ないんだけど、ルトナがハーレムを作りたがっているんですよ。
 まあとりあえず苦笑しておこう。
 あとクレオの説明はしておかないとな。

「この子はセッタの町でサポートに雇ったクレオ嬢です。依頼完了の報告と、支払いをお願いします。あと、ここに来るまでに獲物をしとめているのでその買取と、後はいつもの物品の納付ですかね」

「ありがとう、それは本当に助かるのよ。今度拠点をこちらに持ってくるということはここで頼むこともできるってことでしょ?」

「そうなりますね。まあ材料の調達などもあるのでいつもいるとは限りませんけど…それに工房をどこか用意しないとですので、まだ少し先かと」

 それでも今までよりはるかにましよと笑うマルレーネさん。

 これは俺の副業に関しての話だ。
 物造りの一環としてポーション類の製造なども手掛けていたりする。
 俺の生活の中でものづくりはかなりのウエイトを占めるようになってきている。
 ポーションなどの医薬品然り、刀などの武器類然り。
 だがこれはあくまで『副業』である。俺が目指しているのはあくまでも武道家であり、錬金術師や魔法使いではないのだ。
 目指せ武術王。

「とりあえず処理をしてしまいましょう。奥にどうぞ」

 ざわりと周囲が騒めいた。
 まあみんな長い時間待っているのに後から来たのが順番抜かししたらそりゃ気になるわな。

「あの…」

「ああ、大丈夫、おいで」

 クレオも気になったようだが俺は無視してマルレーネさんの後についていく。これはギルドに頼まれた案件だからいいのである。

 そして物事には『ついで』というものがあったりする。
 うん、こちらはちょっとずるかな。

 奥の部屋で商品を出していたら一人の男性がはいってきた。
 かなり不機嫌そうな顔をしているな。苦虫を噛み潰したような顔だ。虫歯だろうか?

「彼が買取全般の主任をやっているロードルさんよ」

「初めまして」

 俺は笑って手を差し出したがロードル氏は『ふん』と口に出して無視してくれた。

 実際口に出して『ふんっ』ていうやつはじめて見たよ。
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