転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ

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第7話 冒険者がやってきた

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第7話 冒険者がやってきた


 自動車の正体はなんと冒険者だった。

 …いや、失礼、自動車に乗っていたのが冒険者だった。

 ここはど田舎だからいないんだよね、そんなの。
 当然自動車ならぬ魔動車を見るのも初めてだ。

「ねえ、お母ちゃん、冒険者って何?」

「あらあら、リウも男の子ね。やっぱり冒険者にあこがれる?」

 いやいや知らん存在ものにあこがれるとか無理だから。
 で根掘り葉掘り聞いてみたがぶっちゃけ冒険者は冒険者であるらしい。
 まあ、何でも屋だ。何でも屋。
 依頼を受けて雑用から護衛、果ては危険生物の討伐まで。

 特に魔物狩りをしたり、迷宮に挑むようなのは花形であるようだ。

 で、その冒険者がなぜここに来たのか。何かを探しているらしい。
 お母ちゃんがちょっと挙動不審だった。うーむ、何か超高級な薬草を横取りとかされる心配をしているのだろうか?

 その冒険者だが魔動車という機械でやってきたわけだ。
 見たい、知りたい、触りたい。しかし件の車は村長宅にしまわれてしまったので見に行けない。すっげー悔しい。
 周りをちょろちょろして調べてみたら車のことではなく冒険者のことが分かった。

 四人組だった。
 男二人、女一人、あと…よくわからないのが一人。

「彼女はbestiaというのよ」

 獣人ヴェスティアというらしい。

 この世界の獣人はけもみみ、けもしっぽのエロいねーちゃんとかではないようだ。
 身長120cmぐらいの直立したちょっと可愛らしい感じの動物。かな。
 耳が兎みたいに大きくて長く、尻尾がぶわっという感じでふさふさな生き物だ。
 白とピンクの毛並みがもふもふ。モフモフは素晴らしい。
 何の動物か? というと分からないがリアルシルバ〇アである。

 どうも斥候のような人らしい。

 女の人は普通の人間に見える。若くてまだ少女という感じ、なんと魔術師さんだそうな。
 ほほう。ショートヘアーのかわいこちゃん。

 男は片方がドワーフっぽい人だった。
 身長は150ぐらいだろうか。やっぱり小さい。
 体格は横にがっしりしていて、そんで髭もじゃもじゃで、いかにもドワーフっぽい。
 鍛冶や細工物が得意な山に暮らす人たち。
 やっぱりドワーフだった。

 どうもあの魔動車はこの人の趣味らしい。
 職業はなんと僧侶。坊さん。どんな宗教なのかは知らない。
 坊さんといっても頭つるつるではない。髪の毛もふさふさで編み込んであってなかなかおしゃれさん。

 あと一人は男の人でこの人はたぶん戦士か剣士。
 腰に剣をぶら下げていてよく修練とかしている。
 鍛えている印象はあるが、普通の人だな。

 ここら辺がここ三日の成果だ。
 よく調べたと思うぜ。

 といっても毎日スパイ大作戦などやってはいられない。
 ど田舎の子供は忙しいのだ。家の手伝いとかあるからな。

 その合間に修業もある。
 操魔の修練は欠かしてはいけない。あれが俺の生命線なのだ。

《魔王の称号クラスコードがあれば楽勝ですよー》

 とは言うが何がどう楽勝なのかはわからないからな。『備えあればうれしいな』というやつだ(違う)。

 なので俺は地べたに座り地面の砂をわさわさ捏ねる。砂粒の分子結合を解いてできるだけ細かい粒子にする。
 そしてそれをくっつけていく。『ビルドアップ』と名付けよう。
 そして作っているのは全長で16cmに収まる短剣だな。ナイフともいう。あるいはスローイングダガーか。

 いやね、あの兎、骨が砕けちゃって結構大変だったのよ。
 解体も大変だったし料理も大変だ。
 お母ちゃん苦労してた。ドゴラにもらったと言ったら戦慄してたな。

 となるとドカンじゃなくてプスッを目指さないとダメだろ? そう思うよな?

 というわけでナイフ作りだ。そして出来たナイフを収納にしまっておくのだ。

「坊や土遊び? 楽しそうだね」

 いきなり声をかけられて顔を上げたら冒険者の姉ちゃんだった。

「お姉さん、冒険者の人だ」

「うん、わたしは魔術師の…」

「フゼットってあばば」

 いきなり割り込んできたのはお母ちゃんだった。そして大慌てしている。
 おもわず名前を呼んでしまったが、呼んではいけなかった。といった雰囲気。

「やっだりり~ももがごご」

 お母ちゃんがすごい勢いで飛んできてフゼット嬢の口をふさいだ。

「りう~、もう少し一人で遊んでいてね~」

「うん」

 すごい勢いでフゼット嬢を家に引き込むお母ちゃん。
 これは事件の香りがする。
 ここは名探偵の出番だな。

「おおー、ちっちゃい子可愛いですです」

 むむっ、今度は獣人が出た。
 いかん、これでは覗きに行けないぞ。

「私はテンテンですです。一緒に遊ぶデス」

 いゃ、ちょっと待て、俺は今重大な…

「はい、お菓子あげるです」

「あっ、ありがとう」

 砂糖菓子だな。金平糖みたいなものだった。
 美味し。

 じゃなくてー。

 くそー、こうなったら。

「フェイント」

「なんのー! です」

「とりゃ」

「はいです」

「うりゃ」

「お見通しです」

 さすが斥候職ということか、手ごわい。
 鬼ごっこをしているうちにお母ちゃんたちの話は終わってしまった。

 まさかわざとか? うーむ、要警戒だ。

 その日の夜、お母ちゃんはいつにもまして俺様LOVEだった。
 一応フゼット嬢のことを聞いたら『昔お母さんのおうちの近くに住んでいた女の子』ということだった。

 久しぶりに会って吃驚したんだと。積もる話もあったらしい。
 うちの親父が正体不明なことと何か関係があるのだろうか。
 まあ、お母ちゃんはちょっとうれしそうにも見えるから、悪い話でもないのだろう。
 ならいいか。

◇・◇・◇・◇

 翌日、村長から村の子供達に向けて魔術教室が開催されるという通達があった。
 前回のことがあったので行くのをやめようかとも思ったのだ。お母ちゃんは知らないことだけどね。
 そしたらテンテン嬢が呼びに来てしまった。

 ちっこい癖に――まあ、俺よりは大きいが――力強くて軽々と運ばれてしまった。
 仕方ない、手をプラプラさせて〝う~~~っ〟とか唸っておくか。
 お母ちゃんもついてきた。
 なぜか二人には受けた。
 ギャグが受けると嬉しくなるのは元日本人の性か。しょうもない性だとは思うがそんな自分が好きだぜ。

「こらー、なにをしているか。ここは村の子供達のための魔法教室だ。無能の来るところではなーーーい。そもそも儂の村に無能なぞいらんのだこのゴミが」

 村長登場。
 まあ、こうなると思ったんだ。お母ちゃんには心配をかけたくなかったんだが。
 ちらりと見るとお母ちゃんは顔を曇らせていた。
 当然なにか言い返そうと口を開いて…

 隣から漂ってくる冷気に口をつぐんだ。

「おいお前、今なんといったデス? わしの村? ここは公爵様の村デス。無能はいらん? 誰が決めたデス?」

 うわっ、すっごい圧力。
 それをまともに浴びた村長はへたり込んでいる。

 奥からフゼット嬢が飛んできて、後ろから村人たちも飛んできた。

 テンテンさん(ちょっと畏敬)がフゼット嬢に向き直る。

「この村の村長は言動に不適格なところがあるです。その旨公爵様に連絡するです。それと村長の資産を凍結するです。
 ギールス。査察に入るです」

 ギールスというのは戦士風の男の人だ。二人がびしっと敬礼している。
 ドワーフのおっちゃんは頭を掻いている。

「村長、ここの領主は大医王マシス・ノバ公爵様です。お前は公爵様の手足として仕事をするのが役目デス。
 この村に誰が住むかは公爵様が決めるデス。
 お前ごときが口を出していいいことではないデス。
 村の私物化も許されないデス。
 死にたいデスか?」

 何やら〝です〟が〝death〟に聞こえる。
 デスデス言われると死にそうになる?

 そのせいか村長も恐れ入って米つきバッタのように地面に頭を叩きつけて平謝り。

「鳥なき里の蝙蝠ですデス。
 自分より偉い人間がいない辺境の村で自分がえらくなったような錯覚を起こしたです。
 でも村長なんて平民の中のリーダーなだけ。上に士族も貴族もいるです。
 貴族も男爵から公爵までいるです。
 村長なんてまじめにやらなければ命がいくつあっても足りない最下級の管理職です」

 この言葉は当たり前なんだが愕然としたのは村人の方だったろう。
 自分たちのリーダーで一番偉いと思っていた村長が実は最底辺だと教えられたのだ。

「こういったやつは大概調子こいて不正をするデス。叩けば埃が出るですよ。
 とはいえ…」

 とテンテンさんの雰囲気は少し和らいだ。

「命まで取られるようなバカはなかなかできないです。
 まじめにやれば情状酌量はあるです。
 働けデス」


 村長一家はみんな飛び跳ねて仕事に行った。
 息子が二人いるみたいだが門番の仕事についているらしくテンテンさんに尻をけ飛ばされて門に走っていった。

 嫁さんたちはいきなり村の掃除を始め、村長は自らみんなのお茶の支度をする。
 なぜか俺たちにまでお茶とお茶菓子が出てきた。

 お母ちゃんは毒気を抜かれたみたいに肩をすくめた。

 まあ、おおむね平和だな。
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