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第四章 女神降臨編

天使は天使よ!幾つになったって、何してたって、可愛いものは可愛いのよっ

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『 嗚呼……  ついに、私の破滅が やって来た…… 何と、ままならない……  口惜し……や…… 』



 獅子の中で聞いた声を思い出す。諦め、悔しさ、悲しみ、怒りの負の感情を全部詰め込んだ、胸が辛くなる声音だった。


 獅子は千々に弾き飛んで、巨大な姿があった場所には黒い魔力の残滓すら残っていない。


「多分かぐや姫だろうなって声に、わたしが彼女の『破滅』だって言われたのよ。その言葉の通り、獅子を討伐して折角蘇った彼女を消すことになったと思うと、心が痛むわ」
「実際に手を下したのは僕やアポロニウスだし、セレが気に病む必要はないよ。僕が国民を守る騎士の仕事をするために、君達を巻き込んだだけだからね」

 すぐ隣に立ったハディスがわたしの頭に手を置いてポンポンと撫でる。慰めてくれているとは思うけど、彼の口元に刻まれた笑みはつくった表情だ。彼自身も帝やかぐや姫の消えた今回の顛末に、なにか心が重く沈む思いがあるんだろう。

 ハディスと共に、帝に守られていたバルコニーに立って、わたし達の戦った跡を眺める。
 魔力の炸裂によって、地表を丸く抉り取った形で荒れ果てた庭園を臨めば、今回の攻撃の凄まじさを改めて視認することができた。バンブリア邸2個分ほどの広さで地表が削られ、その周囲に土砂の山が築かれている。ミニチュア版のフージュ王国を取り囲む俊嶺が出来ている感じだ。

「強引な要請だったけど、倍返しと、うちの商会への便宜との引き換えを条件に、わたしがやろうと思ってやったんだもの。責任逃れする気はないから、ハディス一人で抱え込まなくてもいいわよ?心残りはあるけれど、あのまま獅子が王国に居付いたらこの国の人たちは殆どが体調不良や魔物の被害に見舞われて、王国が滅亡しちゃったかも・だし」

 体ごとハディスに向き直って、条件を忘れないでね・と、人差し指をびしりと彼の鼻先に突きつければ、固まった笑みが崩れて、へにゃりと眉根を下げた笑顔になった。

「あー……うん。協力報奨の再確認アリガトウゴザイマス。さすがセレだねー」
「商会発展には国の安定が一番の肝ですもの。ね、ヘリオス」

 呆れたような、けど力の抜けたようなホッとした表情を向けられて、なんだか気恥ずかしくなったわたしは慌ててヘリオスに顔を向ける。けれど、急な会話への巻き込みに戸惑う様子を見て和ませてもらおうと云うわたしの目論見は、あっけなく崩れた。

 帝が立っていた場所をじっと見詰めていたヘリオスが静かに振り返ると、これまで見た事のない落ち着き払った凪いだ表情だった。

「そうですね。先人の献身と努力を無駄にするわけにはいきませんから。僕たちは理想に向かって走り続けなければなりませんね」

 なんだか大人びた視線で答えられて、茶化すこともできずに固まっていると、ハディスがクスリと笑う。

「君の天使も、大空への跳躍のための第一歩を踏み出したみたいだね。男子の成長は、ある時急に訪れるものだよ」
「ふ……ふんっ、天使は天使よ!次期当主で充分頼りになる自慢の弟なんだから、幾つになったって、何してたって、可愛いものは可愛いのよ」

 ――まぁ、急に具体的な目標を見付けたみたいな、精悍な顔付きをしちゃってるのはビックリしたけど。ハディスも、ヘリオスも、帝やかぐや姫と関わって、どこか変わった気がするわ。わたしはわたしのままだから、ちょっと悔しい気もするけどねっ

 城内では倒れていた者達が、黒い魔力による不調から次々に回復して行った様だった。荒れ果てた庭園の周囲に集まって、ざわめく者達や、デウスエクス国王の安全確保のため、城内警備を早速始める近衛騎士など、みるみる活気が戻って行く。





 カンカンカン カーン
 カンカンカン カーン ……

 感傷に浸る間もなく、遠くから魔物の襲来を告げる警鐘が聞こえてきた。

 まさか本当にわたしが「かぐや姫」に破滅をもたらすことになるとは思わなかった。
 獅子の中で聞いたのがかぐや姫の声だったなら、オルフェンズや帝にも会わせてあげたかった。けど現実には、最初から攻撃的で、黒い魔力もばら蒔いて、王国の人達に害成すだけの存在だったから、討伐しないわけにはいかなかった。

 ――彼女の言った通り本当にままならないものね。


 しんみりと、考え込んでいる間にも、警鐘は鳴り響いている。

月の忌子ムーンドロップは消えているわよね?」
「えぇ、この地上での存在を感じませんから」

 わたしを挟んで、ハディスと反対側に立っているオルフェンズがこちらを向いて、いつも通りの薄い笑みを浮かべる。

「だったら、普通の魔物がまた町に現れたのね……。この驚異はいつまで続くのかしら」
「獅子が分散して降り注いでいますからね、この王国中に。しばらく続くのではないですか?」
「え!?」

 オルフェンズの言葉に目を瞬いた。
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