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第四章 女神降臨編

鬼ごっこの再開ですよ。

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 ふにゃふにゃと緩みそうになる顔全体をグッと引き締めて、精一杯の強がりでハディスを睨み付ける。けど、久し振りに会えたからか、少しでも気を抜けば、へにゃりと口許が緩みそうになる。
 まずいわ!怒ってることを伝えたいのに、表情筋が素直に仕事しすぎる……

「子猫ちゃん良く分かったねぇ!こんな怪しげな風貌の奴が現れたら、普通叫び声をあげてその辺中の物を投げ付けない?」

 と、突然ひょっこりとハディスの背後からポリンドが顔を出して感心したように言いながら、男性にしてはほっそりとした指先で、ハディスの纏う緋色のフルフェイスマスクをつついて見せる。魔力で作り出された甲冑は、実際には触れられないはずだから、ポリンドの指はマスクではなく頬っぺたをツンツンしている事になるんだろう。隠れて見えないけれど、きっとハディスは仏頂面で嫌そうに頬っぺたをつつかれているんだろうなぁって想像したら、また顔が緩んできちゃうわ。眼福な上に微笑ましすぎる美形兄弟のやり取りよ?にやけるなって言う方が無理でしょ!?

 それに、ポリンドの挙げた拒否行動が具体的すぎるんだけど、それってもしかして……

「――ポリンド講師は、そうしたんですね?」

 何で分かんないんだろう?こんなに凛々しく緋色の甲冑を着こなす人なんてハディスしかいないでしょ!って、改めて目に焼き付けようと思ったら、甲冑から僅かに覗く深紅の瞳と目が合った!?だめ!格好良すぎて直視出来ないわ……!

 内心のお祭り騒ぎを悟られないように、慌ててふいと顔を反らし、ポリンドの話に乗っかるふりをしてハディスの視線から逃れた。

 眼福な上に微笑ましすぎる美形兄弟のやり取りに、再びにやけそうになるのをグッとこらえて顔を反らすけど、緩む口元を誤魔化そうとした微妙な表情は見られてしまったかもしれない。

「えぇ―――っ、助けに来たのにツレないなぁ」
「カワイコぶってるとこ悪いけど、私達にはただの怪しげなフルフェイスマスクの甲冑姿にしか見えてないからねー」

 拗ねるハディスに、尚も甲冑姿のダメ出しをするポリンドの話に「そうなんですか?」なんて適当に相槌を打ちつつ、久々に会えたハディスの変わらない様子をそっと眺める。わたしを置いていく前と変わらない態度に、ちょっぴり安心してしまう。

「機能性重視したらこうなったんですー!」

 尚もいつも通りの、どこかのんびり飄々としつつも泰然としたハディスに、自然と話し掛けそうになるのをぐっと堪える。

 ――よし!言うわ!!黙って行くなんて勝手、許さないって!わたしの側にいるって決めたんなら勝手に離れるなんてダメ……って!……あれっっ?!何かこれって束縛の強い彼女――でもないから、彼女気取りの女よね?

「えぇっ!?わたし、痛すぎるわよね?!」

 誰にともなく呟いて、今更ながら気付いた事実に愕然とする。

 ――何よこれ!恥ずかしすぎて、そんなこと言えないわ!けど、黙って置いて行かれたのには腹が立ってるのよ!けど護衛なだけで恋人でもなくて、どうしたら良いの――――!?

 ぐるぐるとハディスへの関わり方について考えだしたわたしの側に、何故かぴったりとくっつく様にオルフェンズが距離を詰めて来る。ちゃんと考えたいのに邪魔しないで欲しいなーと思っていたら、さらに肩に腕を回してくるし!

 何を――――!?
「っ!何を・」

 思うのと同時に、ハディスの声を至近距離に捉えた瞬間、頭上に影が差したのに気付き―――

 ドン!!!

 激しい地響きと音が、抉られた地面から飛び散った石礫と共に周囲に広がった。


「時間切れです、桜の君。鬼ごっこの再開ですよ。」

 耳朶を擽るような調子近距離から響くオルフェンズの声よりも、油断していたところを突かれて、当たれば大怪我間違いなしのワイバーンの尻尾打ち付け攻撃に全く気付いていなかったことに息を飲む。

「ありがと、オルフェ!」

 尻尾の攻撃範囲から逃してくれたオルフェンズにお礼を言うけど、背後から抱きすくめられたままなので、その表情は見えない。

 前方、少し離れたところに、咄嗟にワイバーンの攻撃から逃れたハディスとポリンドの無事な姿が見えて、ほぅ、と安堵の息を吐く。青龍は、既にその気配を感じなくなっていたからポリンドの体内に戻ったのだろう。小ネズミたちは蜘蛛の子を散らすように咄嗟にその場から回避したみたいだった。みんな無事そうでよかった。
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