298 / 385
第四章 女神降臨編
この暗殺者のスペックはどうなってるの!?
しおりを挟む
「なに!?何でこんな高くなっちゃうの!?」
「ベヒモスは後脚でも立てるし、動けるのだ!四肢全て押さえんと動きは止められんのだぁぁぁぁ!」
「嘘でしょ!?2足歩行が普通に出来ちゃうなんて聞いてないわ!」
「そこいら中に居るモノではないからな!大禰宜の職にて様々な神話、文献を熟知する我だからこそ気付いたようなものだ!凄いであろう!!ほっほっほ――――!」
視界の急上昇は、前脚を完全に封じられたベヒモスが後脚で立ち上がったことによるものだった。
折角、動きを鈍くさせて転倒させることが出来そうなところまで漕ぎ着けたのに、まさかの2本足歩行への方針転換は想定外だ。
そんなの聞いてない!っていうか、振出しに戻るのはまずい!
「ムルキャン!取り敢えずこの巨体をひっくり返しましょう!転ばせて的が低くなれば、兵士の人たちの攻撃も当たりやすくなし、反撃を受けにくくなるわ!!」
「どうやるのだ!我はいまは長細い形になっているから、この身体から出せる打撃の攻撃なんぞほとんど効果はないぞ!殴打の衝撃で倒すような真似は、それこそ元のトレントの形状の、大樹まで成長した姿でないと無理だ!!」
たしかに、ひょろひょろな状態に変化してしまった今のムルキャンでは、巨大なベヒモスを力による攻撃で打ち倒すことは出来ない。鞭みたいに振り回せば打撃武器になるかもしれないけれど、わたしは勿論、兵士たちだって鞭を扱う訓練なんてしていないだろう。しかも巨大ベヒモスに、使った事の無い鞭を手に対峙するような無謀はしちゃいけないと思う。ならば、どうやって転倒させるか―――?
立ち上がったベヒモスによって再びムルキャンの細い枝の一つが切られたのか、ブチリと云う音が聞こえて来る。視線を向けると、思った通り、切られた枝の端が垂れ下がり、風にあおられてふらふら揺れている。脆くはない様で、ベヒモスは前肢に力を込めて、なかなか千切れない拘束に苛立たし気に唸り声を上げている。
「まずいわ!ムルキャンの幹が引きちぎられる前に何か別の手を考えないと‥‥。」
気持ちの焦りに呼応したかのように、天候が荒れて来たのか更に強く風が吹いて髪が大きく煽られ、ムルキャンの枝や根の端が大きく揺れる。
風で大きく揺れる、ベヒモスに巻き付いたままのムルキャン――――。
「そうよ!打撃に拘らず、体勢を崩させればいいのよ!」
ふいに閃いた考えに大きく声を上げると、ムルキャンの顔がぎょっと目を見開く。
「どうしようと言うのだ!?」
「枝をベヒモスの首か頭に巻き付けて、幹や根を出来るだけ長く垂らして欲しいの!垂らした先にわたしが繋がって動くから、貴方はベヒモスから外れないように頑張って!!」
「理解に苦しむ」と文句を言いつつも、徐々に引き千切られてゆく枝に危機感を感じていたであろうムルキャンは、巨体に蛇が巻き付く様にグルグルと螺旋を描きながら頭目指して勢いよく這い上がり、あっという間に先端の枝々を鉢巻の様にベヒモスの頭に巻き付けた。
「そのまま頑張って巻き付いていて!ベヒモスの頭を揺らすわ!!」
頭から下がったムルキャンの先端――根の先から手が滑らない様に手早く何度か手と腕に巻き付けて重力のまま下方に身を躍らせると、ベヒモスの肩甲骨の下あたりにぶら下がる形になった。すぐさまベヒモスの大きな身体の上を駆けるように、綱‥‥もといムルキャンを支えに胸に向かって進み、更に嫌がって首を振ったベヒモスの動きを利用して反動を付ける。そのまま頭に巻き付いた箇所を支点に、プロペラが回る様に、ワイヤーアクションよろしくベヒモスの周りを勢い良く回り始める。
顔の正面を横切った時、何度かベヒモスの裂けた大きな口が至近距離に迫り、ひやりとするタイミングはあったけど、体全体をバネの様にしならせて勢いをつけて回転の速度をどんどん上げて行く。
「軽すぎますね。」
突然耳元で声が響いて、ムルキャンを握り込んだ手元に近い場所を大きな手が掴む。
「オルフェ!どうやってここに!?」
「ふふっ‥‥桜の君の華奢なお体では少し目的の効果には及ばないと思いまして。面白い趣向に加わるべく、手土産を持って馳せ参じました。」
「はぁ!?」
言われて、ムルキャンを掴んでいるのとは逆の、下方に向けた腕の先を見れば、驚愕に表情を引き攣らせた兵士2名が、オルフェンズに背後からベルトを掴まれて硬直している。神器の力で固まっているのではなく、純粋に恐ろしさのあまり動けないで居るみたいだ。
「何やってるのぉぉぉ―――――!!!」
空中で旋回するわたしの側に、防具を纏った成人男性2人を片手で軽々持って来るって、この暗殺者のスペックはどうなってるの!?
「ベヒモスは後脚でも立てるし、動けるのだ!四肢全て押さえんと動きは止められんのだぁぁぁぁ!」
「嘘でしょ!?2足歩行が普通に出来ちゃうなんて聞いてないわ!」
「そこいら中に居るモノではないからな!大禰宜の職にて様々な神話、文献を熟知する我だからこそ気付いたようなものだ!凄いであろう!!ほっほっほ――――!」
視界の急上昇は、前脚を完全に封じられたベヒモスが後脚で立ち上がったことによるものだった。
折角、動きを鈍くさせて転倒させることが出来そうなところまで漕ぎ着けたのに、まさかの2本足歩行への方針転換は想定外だ。
そんなの聞いてない!っていうか、振出しに戻るのはまずい!
「ムルキャン!取り敢えずこの巨体をひっくり返しましょう!転ばせて的が低くなれば、兵士の人たちの攻撃も当たりやすくなし、反撃を受けにくくなるわ!!」
「どうやるのだ!我はいまは長細い形になっているから、この身体から出せる打撃の攻撃なんぞほとんど効果はないぞ!殴打の衝撃で倒すような真似は、それこそ元のトレントの形状の、大樹まで成長した姿でないと無理だ!!」
たしかに、ひょろひょろな状態に変化してしまった今のムルキャンでは、巨大なベヒモスを力による攻撃で打ち倒すことは出来ない。鞭みたいに振り回せば打撃武器になるかもしれないけれど、わたしは勿論、兵士たちだって鞭を扱う訓練なんてしていないだろう。しかも巨大ベヒモスに、使った事の無い鞭を手に対峙するような無謀はしちゃいけないと思う。ならば、どうやって転倒させるか―――?
立ち上がったベヒモスによって再びムルキャンの細い枝の一つが切られたのか、ブチリと云う音が聞こえて来る。視線を向けると、思った通り、切られた枝の端が垂れ下がり、風にあおられてふらふら揺れている。脆くはない様で、ベヒモスは前肢に力を込めて、なかなか千切れない拘束に苛立たし気に唸り声を上げている。
「まずいわ!ムルキャンの幹が引きちぎられる前に何か別の手を考えないと‥‥。」
気持ちの焦りに呼応したかのように、天候が荒れて来たのか更に強く風が吹いて髪が大きく煽られ、ムルキャンの枝や根の端が大きく揺れる。
風で大きく揺れる、ベヒモスに巻き付いたままのムルキャン――――。
「そうよ!打撃に拘らず、体勢を崩させればいいのよ!」
ふいに閃いた考えに大きく声を上げると、ムルキャンの顔がぎょっと目を見開く。
「どうしようと言うのだ!?」
「枝をベヒモスの首か頭に巻き付けて、幹や根を出来るだけ長く垂らして欲しいの!垂らした先にわたしが繋がって動くから、貴方はベヒモスから外れないように頑張って!!」
「理解に苦しむ」と文句を言いつつも、徐々に引き千切られてゆく枝に危機感を感じていたであろうムルキャンは、巨体に蛇が巻き付く様にグルグルと螺旋を描きながら頭目指して勢いよく這い上がり、あっという間に先端の枝々を鉢巻の様にベヒモスの頭に巻き付けた。
「そのまま頑張って巻き付いていて!ベヒモスの頭を揺らすわ!!」
頭から下がったムルキャンの先端――根の先から手が滑らない様に手早く何度か手と腕に巻き付けて重力のまま下方に身を躍らせると、ベヒモスの肩甲骨の下あたりにぶら下がる形になった。すぐさまベヒモスの大きな身体の上を駆けるように、綱‥‥もといムルキャンを支えに胸に向かって進み、更に嫌がって首を振ったベヒモスの動きを利用して反動を付ける。そのまま頭に巻き付いた箇所を支点に、プロペラが回る様に、ワイヤーアクションよろしくベヒモスの周りを勢い良く回り始める。
顔の正面を横切った時、何度かベヒモスの裂けた大きな口が至近距離に迫り、ひやりとするタイミングはあったけど、体全体をバネの様にしならせて勢いをつけて回転の速度をどんどん上げて行く。
「軽すぎますね。」
突然耳元で声が響いて、ムルキャンを握り込んだ手元に近い場所を大きな手が掴む。
「オルフェ!どうやってここに!?」
「ふふっ‥‥桜の君の華奢なお体では少し目的の効果には及ばないと思いまして。面白い趣向に加わるべく、手土産を持って馳せ参じました。」
「はぁ!?」
言われて、ムルキャンを掴んでいるのとは逆の、下方に向けた腕の先を見れば、驚愕に表情を引き攣らせた兵士2名が、オルフェンズに背後からベルトを掴まれて硬直している。神器の力で固まっているのではなく、純粋に恐ろしさのあまり動けないで居るみたいだ。
「何やってるのぉぉぉ―――――!!!」
空中で旋回するわたしの側に、防具を纏った成人男性2人を片手で軽々持って来るって、この暗殺者のスペックはどうなってるの!?
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない
miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。
家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。
いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。
「僕の心は君だけの物だ」
あれ? どうしてこうなった!?
※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。
※ご都合主義の展開があるかもです。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる