上 下
294 / 385
第四章 女神降臨編

わたしを王城へ入れない様にした「想い」に感謝したくなった。

しおりを挟む
 オルフェンズの短刀による連撃をものともせず、意外な打たれ強さを見せたムルキャンは、もしかするとまだ幼木だけれど、意外な活躍をしてくれるかもしれないし。だからとにかく、オルフェンズの、味方攻撃は止めさせなきゃ。この場で戦える人が協力して立ち向かわないと、手強い月の忌子ムーンドロップには対処できないからね!だから皆で仲良くタッグよ!!

 そう意気込んで振り返ると、辺り一面にチカチカと輝くピンクの欠片が現れ、その光る花弁が兵士達の中を桜吹雪の様に舞う。その様子に反応したのか大ネズミが頭から飛び降りて、舞い踊る欠片と共に何処からか現れた緋色の小ネズミを率いて駆け回ると、膂力の紅色の魔力が桜吹雪に溶け合って、兵士達を包み込んで行く。

「桜色の稀有なる魔力の煌めきを、貴女が信じる者達に振舞われるのですね。まぁ、良いでしょう。受け取った者達がどれだけ力を引き出すことが出来るのか、無様ながらに舞う姿を愉しませていただきましょう」

 オルフェンズが協力を決めたのは、わたしの説得とかじゃなくって、目に見えて発現した桜色の魔力のお陰だったみたい。物語のヒロインみたく、説得出来たりはしないのね……プレゼン能力がないみたいで、ちょっと挫けそう。
 けど、魔法ちからのおかげで、オルフェンズがようやく短刀を仕舞ってくれた。若干「力で語る」体育会系なノリの気もするけど……まぁ、良かったわ。

「なんだ、力が沸き上がって来る……!」
「身体が熱いぞ!?」
「剣が軽い、どうなってるんだ?いや、これが継承者の使う女神の加護の魔法か!」

 自分たちの身に起こった変化に気付いた兵士達が、尊いものを見る目を向けて来るけど残念ながら力が増したのは大ネズミこと、ハディスの魔力のお陰だ。わたしはそれを強化しただけ。だから訂正しておく。

「遠く離れた地から、女神の神器『火鼠のかわごろも』の継承者ハディアベス・ミウシ・フージュ様が力を貸してくれたわ!だからきっといつも以上の力が出せます!!わたしも皆さんの力が存分に発揮出来る様に応援してます!逞しい皆さんのことを、頼りにしています!」

 少しでも後押しする力になりたくて、兵士達を見回しつつ笑顔を向けると、再び桜色の輝く欠片が舞い散るのが視界に映る。

「さすが桜の君。美しいですね」

 オルフェンズが感嘆のため息と共にぽつりと呟くけど、そんな凄いものじゃない。強化するが無いと効果は薄くなってしまう。今も、ハディスの膂力向上の魔力を大ネズミが気を利かして貸してくれたから、兵士達の力が上がることに繋がっただけだ。

「ハディスが居てくれなかったら、何も出来てないわ……」

 桜吹雪に交じった紅色の輝く魔力を悔しく眺めつつ、ぽつりと言葉を零すと、ひやりとした空気が傍から漂う。

「あの赤いの……居ない時まで桜の君のお心を煩わせるとは、どこまでも邪魔な奴」
「え!?オルフェ?ちょっと勘違いよ?ハディスが邪魔をしてるから何も出来ないって話じゃなくって、居てくれるから頼りになるって話よ!?」
「なら、尚のこと許せない存在だということになりますね。桜の君は足掻いてこそ美しく輝くと言うのに……」

 陶酔するようにうっとりと囁かれた台詞は到底許容できるものじゃない。
 その理屈で行くと、わたしはいつまでもオルフェンズを愉しませるために、何かしらの苦労を負い続ける事になってしまう。
 ――そっか……だからこその、いつものスパルタ対応なのね。

 思わず遠い目になってしまうのは仕方ないだろう。わたしとしては、どこかの物語のお姫様ヒロインみたいに、ヒーローに助けられたいのに。かぐや姫を助けた神器の貴公子スピリッツは何処へ?とこのオルフェンズを問い詰めたいものね。
 いつかの婚約破棄の場で、このオルフェンズに湖に沈められた時に思った通り、自分が鬱アニメの主人公なら苦労の連続もあるだろうけど、そんな転生していないと信じたいわ。

「女神様が我らの味方となっているぞ!怖気付くな、町を守るぞ!!」
「「「「「「おぉぉぉ――――――っ!!!」」」」」

 兵士達の気合の入った声が響き、ようやく兵士たちが闘志漲る様子でベヒモスに対峙し始める。

 ようやくまともに動き出した戦場の様子に、ほっと胸を撫で下ろしつつ、始まった戦闘への不安に、思わず胸の前で両手を組んでギュッと握りしめる。

 魔力を渡して、煽った様な事にはなっているけど、内心は不安で一杯だ。誰にも傷ついて欲しくないけど、放っておけば強力な魔物や月の忌子ムーンドロップたちにこの国はあっという間に蹂躙されてしまうから、見ないふりは出来ないし……。
 そんな風に考えたら、少しだけ、ハディスが月の忌子騒ぎが広がった後に、わたしを王城へ入れない様にした「想い」に感謝したくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

伯爵様は、私と婚約破棄して妹と添い遂げたいそうです。――どうぞお好きに。ああ、後悔は今更、もう遅いですよ?

銀灰
恋愛
婚約者の伯爵ダニエルは、私と婚約破棄し、下心の見え透いた愛嬌を振り撒く私の妹と添い遂げたいそうです。 どうぞ、お好きに。 ――その結果は……?

一つ、お尋ねしてよろしいですか?

アキヨシ
恋愛
甚大災害で命を落したバツイチ子持ちのおばちゃんは異世界転生を果たす。 今度は貴族令嬢。でも父親にはガン無視されて不遇な生活を送る事になるかと思えばそうでもなく、父親以外には普通に大事にされている。 しかもこの異世界、現代に通じる魔導具があり、インフラ整備され、ご飯も美味しい。魔法のおかげで便利生活が送れてる! あれ?前世の記憶で無双とかする隙間がないじゃない! という事で、魔法の使える普通の貴族令嬢として頑張って生きていこうとしたのに……王子の婚約者候補とかフツーに嫌ですメンドクサイ! え、神の恩寵がある?だから役に立つ?――いやいや、ないない、もう充分国は栄えているって。 え、魔力の相性が良い?――いや、ちょっと迫られても……さては、おまえロリだな!? という年の差カップル(?)の攻防の物語です。 ※基本西洋風な異世界ですがとても現代的で便利な世界です。 ※設定は独自のものが多く、貴族的なあれこれは厳密なものではありません。生暖かく受け流してくださいませ。 ※他サイト様にも掲載しています。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...