291 / 385
第四章 女神降臨編
恋愛脳のお花畑と、国防の義務は両立できるのか?
しおりを挟む
恋愛脳のお花畑と、国防の義務は両立できるのか?
あれからちょっぴり悩んだけど、頭で考えても具体的状況は何も変わらないと結論付けたわたしは、先駆者の意見を聞くことにした。
「そこのところ貴方はどう思ってるのか聞きたいのよ」
「小娘ぇ~~。そんな下らぬことで私の崇高な時間を邪魔するとは、やはりお前は我とはとことん気が合わぬらしい……」
屈んでちょうど目の高さに来るトレントの幼木に現れたおじさん顔に、恋愛相談をするこの混沌とした状況よ。けど、背に腹は変えられないわけで。
「わざわざこんな町外れに来てまで我に相談するしかないとは、お前もとことん友に恵まれぬらしいな~~。少しは我が主の魅力を見習ってはどうだ~~」
「いや、あれは魅力じゃなくて魅了だから」
即座に否定するけど、友云々に関しては否定出来ない……。国防と恋愛について、誰か先駆者に相談しようとしたとき、思い付くのがこの目の前の生成しか居なかったんだもの。
わたしは今、王都からカヒナシの中間に在る中規模な町に来ている。わたしの足なら朝早くに出発すれば日帰りで戻れる距離だ。王城へ行くのは今日はお休みして、自分の恋愛相談に充てることにした。護衛……?大ネズミが頭の上に居るし、多分オルフェンズもどこかに居るんじゃないかなー……。
中規模な町とは言え、昨今の魔物や月の忌子対策として、この町には守りのために兵舎が増設されている。その増設箇所とは、今最も有効な魔物対策として取り入れられた『仏の御石の鉢』の魔力をふんだんに纏いながらも、『燕の子安貝』の神器の継承者イシケナルの眷属だと強く主張する生成――ムルキャン・トレントの栽培舎だ。
その事は知っていたけど、まさかわたし自身、自分から会いに来ることがあるとは思っても見なかったわ。
「あのね、わたしだってまさか貴方に相談する事態に成るなんて思ってもみなかったわよ!?けど、国防と恋愛を天秤にかける相談なんて、そんなの貴方以外に考えた事の有る人居ると思う!?」
「ほっほぉ――う?小娘がなぁーにを生意気な事を抜かす。国防を天秤にした愛などと、身の程を弁えぬ戯言を囀るか~!はっ」
どうしよう、めちゃくちゃ苛々する。
相談相手間違えたかしら。
「けどな、我はイシケナル様の為にのみここに在る。我が君を護る為にならばなにも惜しくはないし、国など必要ない。我と我が君だけのために、我は動く」
想像通り過ぎる答えに呆れるどころか、むしろ清々しいのは迷いが無いからだろう。
「さすがね。むしろ悩むわたしが馬鹿みたいに思えちゃうわ」
「むっふぅ、小娘の分際で悩む頭が有ると思うことがそもそもの間違いだ。我が君の素晴らしきお姿を思い浮かべれば、愛などと云う言葉で片付けられるモノがどれだけ矮小で下らぬものか分かろうと云うものだ。ほっほっほぉ―――ぅ」
勝ち誇った幼木トレントには、愛らしさの欠片もないけど、取り敢えずありがとうの意味を込めてワシワシと頭と思われる枝の先端を撫でておいた。
「んなっ!?我の崇高な思索の詰まった頭に触れるとはこの、礼儀も知らん小娘がぁ――――……あ?」
ムルキャン・トレントは、怒っているのを表すように、小枝をザワザワと震える様に小刻みに動かした次の瞬間、何かに気付いたかのように急に表情を固めて静止した。
「何よ?ちょっと、何かあったの?」
「お前ぇぇ~……。確か継承者候補だとか言われていたなぁ?」
何があったのかは分からないけど、信じられないモノを見る目を向けてくる。初めて占術館であった時以来、ムルキャンにそんな風に見られるのは何度目か……。わたしを危険物みたいにでも思ってるのかもしれないわねー。
そう結論付けてふぅ・と、息をついた瞬間、ザワリとした嫌な感覚が急に全身を包んだ。
カンカンカン カーン
カンカンカン カーン ……
同時に、今居る兵舎の物見櫓から激しく警鐘を打ち鳴らすのが聞こえて来る。
「小娘、お前が現れるとロクなことが起きぬなぁぁ――」
恨みがましい視線を向ける小生意気な幼木に、言い返したくもあるけど、ビリビリと肌を刺激する嫌な気配は治まるどころか強まる一方だ。それによって否が応にも危険が迫っていることを思い知らされてしまい、口喧嘩をしている場合ではないとぐっと口を噤む。
兵舎の中が急に騒々しくなり、武装した人々が動くガチャガチャという音が響く。兵士たちの焦った声はすぐに怒号へと変わり、事態の急変を悟ることとなった。
あれからちょっぴり悩んだけど、頭で考えても具体的状況は何も変わらないと結論付けたわたしは、先駆者の意見を聞くことにした。
「そこのところ貴方はどう思ってるのか聞きたいのよ」
「小娘ぇ~~。そんな下らぬことで私の崇高な時間を邪魔するとは、やはりお前は我とはとことん気が合わぬらしい……」
屈んでちょうど目の高さに来るトレントの幼木に現れたおじさん顔に、恋愛相談をするこの混沌とした状況よ。けど、背に腹は変えられないわけで。
「わざわざこんな町外れに来てまで我に相談するしかないとは、お前もとことん友に恵まれぬらしいな~~。少しは我が主の魅力を見習ってはどうだ~~」
「いや、あれは魅力じゃなくて魅了だから」
即座に否定するけど、友云々に関しては否定出来ない……。国防と恋愛について、誰か先駆者に相談しようとしたとき、思い付くのがこの目の前の生成しか居なかったんだもの。
わたしは今、王都からカヒナシの中間に在る中規模な町に来ている。わたしの足なら朝早くに出発すれば日帰りで戻れる距離だ。王城へ行くのは今日はお休みして、自分の恋愛相談に充てることにした。護衛……?大ネズミが頭の上に居るし、多分オルフェンズもどこかに居るんじゃないかなー……。
中規模な町とは言え、昨今の魔物や月の忌子対策として、この町には守りのために兵舎が増設されている。その増設箇所とは、今最も有効な魔物対策として取り入れられた『仏の御石の鉢』の魔力をふんだんに纏いながらも、『燕の子安貝』の神器の継承者イシケナルの眷属だと強く主張する生成――ムルキャン・トレントの栽培舎だ。
その事は知っていたけど、まさかわたし自身、自分から会いに来ることがあるとは思っても見なかったわ。
「あのね、わたしだってまさか貴方に相談する事態に成るなんて思ってもみなかったわよ!?けど、国防と恋愛を天秤にかける相談なんて、そんなの貴方以外に考えた事の有る人居ると思う!?」
「ほっほぉ――う?小娘がなぁーにを生意気な事を抜かす。国防を天秤にした愛などと、身の程を弁えぬ戯言を囀るか~!はっ」
どうしよう、めちゃくちゃ苛々する。
相談相手間違えたかしら。
「けどな、我はイシケナル様の為にのみここに在る。我が君を護る為にならばなにも惜しくはないし、国など必要ない。我と我が君だけのために、我は動く」
想像通り過ぎる答えに呆れるどころか、むしろ清々しいのは迷いが無いからだろう。
「さすがね。むしろ悩むわたしが馬鹿みたいに思えちゃうわ」
「むっふぅ、小娘の分際で悩む頭が有ると思うことがそもそもの間違いだ。我が君の素晴らしきお姿を思い浮かべれば、愛などと云う言葉で片付けられるモノがどれだけ矮小で下らぬものか分かろうと云うものだ。ほっほっほぉ―――ぅ」
勝ち誇った幼木トレントには、愛らしさの欠片もないけど、取り敢えずありがとうの意味を込めてワシワシと頭と思われる枝の先端を撫でておいた。
「んなっ!?我の崇高な思索の詰まった頭に触れるとはこの、礼儀も知らん小娘がぁ――――……あ?」
ムルキャン・トレントは、怒っているのを表すように、小枝をザワザワと震える様に小刻みに動かした次の瞬間、何かに気付いたかのように急に表情を固めて静止した。
「何よ?ちょっと、何かあったの?」
「お前ぇぇ~……。確か継承者候補だとか言われていたなぁ?」
何があったのかは分からないけど、信じられないモノを見る目を向けてくる。初めて占術館であった時以来、ムルキャンにそんな風に見られるのは何度目か……。わたしを危険物みたいにでも思ってるのかもしれないわねー。
そう結論付けてふぅ・と、息をついた瞬間、ザワリとした嫌な感覚が急に全身を包んだ。
カンカンカン カーン
カンカンカン カーン ……
同時に、今居る兵舎の物見櫓から激しく警鐘を打ち鳴らすのが聞こえて来る。
「小娘、お前が現れるとロクなことが起きぬなぁぁ――」
恨みがましい視線を向ける小生意気な幼木に、言い返したくもあるけど、ビリビリと肌を刺激する嫌な気配は治まるどころか強まる一方だ。それによって否が応にも危険が迫っていることを思い知らされてしまい、口喧嘩をしている場合ではないとぐっと口を噤む。
兵舎の中が急に騒々しくなり、武装した人々が動くガチャガチャという音が響く。兵士たちの焦った声はすぐに怒号へと変わり、事態の急変を悟ることとなった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない
miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。
家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。
いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。
「僕の心は君だけの物だ」
あれ? どうしてこうなった!?
※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。
※ご都合主義の展開があるかもです。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる