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第四章 女神降臨編
中身のない紛い物
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わたしに対する期待値の高さは絶対に間違ってる。勘弁してほしい。けど、オルフェンズに声を掛けるってことは帝石からの影響を思わせることがあるって事だろう。その点でオルフェンズの協力を得るためにわたしに声を掛けたのだとしたら、自惚れかもしれないけど、良い判断だと思う。
両親の流れを汲むはずの王家が、帝石に行い続けてきた魔力の押し付けに、オルフェンズは腹立たしく思いこそすれ、助けようと思える様な情は抱いて無さそうだから。
「オルフェ、王様の様子を見て、何か思うことがあったら教えてくれる?」
「憎しみや忌々しく思う以外に浮かぶ感想があるとお思いでしょうか?」
「分かりきってることは敢えて言わなくていいから、他にあればで良いわよ。」
わたしとオルフェンズの会話に周囲が息を呑む。けどそれが分かった上でのセット呼び出しじゃないの?と思うんだけど違ったのかしら。
何となく気まずそうに黙り込んでしまったアポロニウス王子と共に、国王の元へ向かう事となった。
結果はあっさりと出た。
「なんだ!?オル。いつの間に娘になったんだ!」
アポロニウス王子の背後にそっと連なって国王の元を訪ねたわたしたちの姿に、開口一番デウスエクス王が破顔しつつそんな声を上げた。王子がわたしたちを連れて来たのは、朝の執務を終えて束の間の休息をとっている国王の私室だ。そんな場所にこんな集団で押し掛けてどんな言い訳をするんだろう――と心配したのが馬鹿らしくなるような気安さだった。
声を掛けられたオルフェンズはまさかの展開に喜ぶか、涙を流すか‥‥と思ったんだけど、そのどれもの予想を裏切って、一切の感情の浮かばない真顔になっていた。無感情じゃなくって、どちらかと言えば腹立たしさが伝わって来る。
「オルフェ?あなたのお父さまなんじゃないの?」
あまりの冷ややかな硬い雰囲気に、堪らず声を掛けてみるけど返事は帰って来ない。
オルフェンズの反応が意外だったのは、声を掛けて来たデウスエクス王も同じだったらしい。戸惑った様子ながらも彼の反応を伺うかのように、変わらない表情をじっと見詰めている。
やがて、何かを諦めた様に深く息を吐いたオルフェンズは、未だ訴えるように視線を送り続ける国王から顔を逸らしてわたしに向き直り、静かに口を開く。
「よく似た偽物―――中身のない紛い物ですよ。」
いつも通りの薄い笑みが口元には浮かんでいるけど、アイスブルーの瞳には何の感情も浮かんでおらず、声音もただ静かで、それがどこか哀しさを堪えている様にも思える。その言葉を聞いたデウスエクス王は、ようやく視線をオルフェンズから外して、そっと何かを掬い取る様に胸の前に持ち上げた自身の両手を見詰める。
「―――そうか‥‥紛い物か。‥‥そうだな。――違うとも言い切れんな。」
悲し気に目を伏せるデウスエクス王が、ポツリと呟く。その感情は、とても偽物には思えない。
「王様‥‥貴方様は、デウスエクス王なのですか?それとも帝なのでしょうか?」
「帝?‥‥」
わたしの問い掛けに不思議そうに目を瞬かせた国王は、急に視線を宙に漂わせて何事か思索しているかのように黙り込む。
やがて、自分の中で何か答えが得られたかのように「成る程。」と、大きく頷くと、しっかりとした視線をわたしに合わせてきた。
「後世では私は『帝』と呼ばれているのだな。輝夜は『女神』と。ふむ、確かに女神であろうな。」
さっきまでの寂し気な様子とは打って変わって愉快そうに笑うデウスエクス王に、それまでのオルフェンズとのギスギスしたやり取りで話し掛けあぐねていたアポロニウス王子が勢い込んで話し掛ける。
「父上は―――私の父のデウスエクス・マキナ・フージュはっ‥‥どうなったのでしょうか!」
王子の切羽詰まった表情を見るに、憑りつかれた・とか、乗っ取られたと考えているんだろう。
それを察したのか帝は眉根を下げると「お前が心配する様なことにはなっておらんよ」と苦笑を浮かべる。
「お前はこの身の息子だな。分かっている。心配するな。滅びた魂が蘇ることはない。私はお前たちの言う『帝』のただの意思だ。私の身体であった礎から、この身へと魔力が移ったことによって、魔力に宿っていた私の意思や記憶が一時的に再現されているに過ぎん。私が再生される以上、この身に入り込んだ魔力は消耗され続けるから、それが尽きれば私も消滅する。なぁに、そんなに待たせることも無いだろう。それは数日かひと月かは分らんが遠からぬうちに必ず訪れ、過去の遺物は大人しく消え逝くだけだ。」
一瞬、オルフェンズに向けられた視線は、悲しみと温かさが共存している様にも見えて、意思や記憶だけと本人が言ったものの、そこに本物の親愛の情が有る様な気がして切なくなってしまう。
オルフェンズは頑なに視線を逸らして、目の前の男の中の『帝』を拒絶している様だけれど、本当にこれで良いのかな?
両親の流れを汲むはずの王家が、帝石に行い続けてきた魔力の押し付けに、オルフェンズは腹立たしく思いこそすれ、助けようと思える様な情は抱いて無さそうだから。
「オルフェ、王様の様子を見て、何か思うことがあったら教えてくれる?」
「憎しみや忌々しく思う以外に浮かぶ感想があるとお思いでしょうか?」
「分かりきってることは敢えて言わなくていいから、他にあればで良いわよ。」
わたしとオルフェンズの会話に周囲が息を呑む。けどそれが分かった上でのセット呼び出しじゃないの?と思うんだけど違ったのかしら。
何となく気まずそうに黙り込んでしまったアポロニウス王子と共に、国王の元へ向かう事となった。
結果はあっさりと出た。
「なんだ!?オル。いつの間に娘になったんだ!」
アポロニウス王子の背後にそっと連なって国王の元を訪ねたわたしたちの姿に、開口一番デウスエクス王が破顔しつつそんな声を上げた。王子がわたしたちを連れて来たのは、朝の執務を終えて束の間の休息をとっている国王の私室だ。そんな場所にこんな集団で押し掛けてどんな言い訳をするんだろう――と心配したのが馬鹿らしくなるような気安さだった。
声を掛けられたオルフェンズはまさかの展開に喜ぶか、涙を流すか‥‥と思ったんだけど、そのどれもの予想を裏切って、一切の感情の浮かばない真顔になっていた。無感情じゃなくって、どちらかと言えば腹立たしさが伝わって来る。
「オルフェ?あなたのお父さまなんじゃないの?」
あまりの冷ややかな硬い雰囲気に、堪らず声を掛けてみるけど返事は帰って来ない。
オルフェンズの反応が意外だったのは、声を掛けて来たデウスエクス王も同じだったらしい。戸惑った様子ながらも彼の反応を伺うかのように、変わらない表情をじっと見詰めている。
やがて、何かを諦めた様に深く息を吐いたオルフェンズは、未だ訴えるように視線を送り続ける国王から顔を逸らしてわたしに向き直り、静かに口を開く。
「よく似た偽物―――中身のない紛い物ですよ。」
いつも通りの薄い笑みが口元には浮かんでいるけど、アイスブルーの瞳には何の感情も浮かんでおらず、声音もただ静かで、それがどこか哀しさを堪えている様にも思える。その言葉を聞いたデウスエクス王は、ようやく視線をオルフェンズから外して、そっと何かを掬い取る様に胸の前に持ち上げた自身の両手を見詰める。
「―――そうか‥‥紛い物か。‥‥そうだな。――違うとも言い切れんな。」
悲し気に目を伏せるデウスエクス王が、ポツリと呟く。その感情は、とても偽物には思えない。
「王様‥‥貴方様は、デウスエクス王なのですか?それとも帝なのでしょうか?」
「帝?‥‥」
わたしの問い掛けに不思議そうに目を瞬かせた国王は、急に視線を宙に漂わせて何事か思索しているかのように黙り込む。
やがて、自分の中で何か答えが得られたかのように「成る程。」と、大きく頷くと、しっかりとした視線をわたしに合わせてきた。
「後世では私は『帝』と呼ばれているのだな。輝夜は『女神』と。ふむ、確かに女神であろうな。」
さっきまでの寂し気な様子とは打って変わって愉快そうに笑うデウスエクス王に、それまでのオルフェンズとのギスギスしたやり取りで話し掛けあぐねていたアポロニウス王子が勢い込んで話し掛ける。
「父上は―――私の父のデウスエクス・マキナ・フージュはっ‥‥どうなったのでしょうか!」
王子の切羽詰まった表情を見るに、憑りつかれた・とか、乗っ取られたと考えているんだろう。
それを察したのか帝は眉根を下げると「お前が心配する様なことにはなっておらんよ」と苦笑を浮かべる。
「お前はこの身の息子だな。分かっている。心配するな。滅びた魂が蘇ることはない。私はお前たちの言う『帝』のただの意思だ。私の身体であった礎から、この身へと魔力が移ったことによって、魔力に宿っていた私の意思や記憶が一時的に再現されているに過ぎん。私が再生される以上、この身に入り込んだ魔力は消耗され続けるから、それが尽きれば私も消滅する。なぁに、そんなに待たせることも無いだろう。それは数日かひと月かは分らんが遠からぬうちに必ず訪れ、過去の遺物は大人しく消え逝くだけだ。」
一瞬、オルフェンズに向けられた視線は、悲しみと温かさが共存している様にも見えて、意思や記憶だけと本人が言ったものの、そこに本物の親愛の情が有る様な気がして切なくなってしまう。
オルフェンズは頑なに視線を逸らして、目の前の男の中の『帝』を拒絶している様だけれど、本当にこれで良いのかな?
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