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第四章 女神降臨編

許さないで欲しい。愛さないで欲しい。

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‥‥ない‥‥  で‥‥し い。





‥‥ 許 さ ない で 欲しい 。愛 さない ‥‥で 欲 しい‥‥ 。



――― 全てを忘れて 苦しまないで 居られ ますよう ‥‥に 。
 幼い あなた一人を 置いて 逝く  私たちを 恨み 憎み ‥‥忘れてしまえば 貴方は 幸せに なれるで ‥‥しょう。

だから ―――。


――― 許さ ない  で 欲しい、愛 さない で ‥‥。






 アポロニウス王子の手を通して伝わって来たのは、帝と思われる男性の悲痛な声。今はもう肉体は無いから、魔石の中に遺った残留思念みたいなものかもしれない。
 よほど強い思いを抱えて結晶化したのだろう。

 突き放すような言葉を紡いではいるものの、込められた想いは何よりも愛する者への労りの気持ちなんじゃないかな。自分たちを恨み、忘れて、その先にある幸せを掴んで欲しいと願った無私の思い遣り、無償の愛。
 けど、これが幼いオルフェンズが受け取った両親からの言葉だったとしたら、彼にはどんなに残酷に響いただろう。見捨てられたと絶望したんじゃないかな‥‥。

「ねえオルフェ、怒ってもいいかな?石になっちゃってるけど、あなたのお父さんに、勝手に子供の選ぶ先を決めないでって怒っても、良いか‥‥な。」

 あれ?声がうまく出ないわ。

「桜の君‥‥――いいえ、貴女のなさることを止める気はありませんが、私はこうしてここに在ることを後悔はしておりませんから、私のためにならば怒る必要はありませんよ?」

 いつも通りの薄い笑顔のままのオルフェンズが繋いでいない方の手を伸ばして来て、わたしの目元をそっと指でなぞる。何を?と思ったら、彼のもとに戻って行った指先には滴がついていて、そこでようやく、あぁ、わたし泣いてるんだって気付いた。

 そうだった、オルフェンズが傷ついてる、傷付けられたなんて考えるわたしも随分身勝手よね。勝手に泣くなんて申し訳ないわ。

 ずず!!

 思い切り鼻水をすすると、浮かんでいた涙も止まった気がする。
 うん、これで頑張れる!

 ふんっと気合を入れて顔を上げれば、目を丸くしているアポロニウス王子と目が合った。

「方向性にはひとこと言いたい思いもあるけど、帝がとっても愛情深い人だってことは分かったわ。ほんと神話や伝承だけじゃ分からないことが沢山あるわね。」

 オルフェンズに目を向ければ、わたしが出す回答を待っているかの様な静かな表情が返ってくる。

「そう思うと、帝に恨まれたかぐや姫が天に昇ったって神話が残っているけど、怪しいものね。むしろ帝は自分の人間としての存在を捨てても、かぐや姫と共に結界の礎として、人として生きるよりもずっとずっと長い時間一緒に繋がることを選んでいるのよね?恨むほど大嫌いな相手と繋がり続けるなんて有り得ないんじゃないかしら?」
「あぁ、同感だな。恐らくは、最初私たちが聞いたのと同じように断片的な帝の声だけを聞いた誰かが、誤った内容を伝えたのかもしれないな。」

 わたしと言葉を交わすアポロニウス王子の顔色は随分と良くなっている。その手は未だ帝石に触れて魔力で探り続けている状態だけれど、繊細な魔力操作にも慣れて来たのか、わたしと話しながら魔力を送り続けている。

 いや、それにしてもいつまで探っているつもりなんだろう‥‥。さすがにお父さんの中をいつまでも王子が探り続けていると、オルフェンズもいい気はしないんじゃないかな。
 やっぱ王子も男の子だからヘリオスみたいに変な探求心が湧いちゃっているのかもしれないわ。だとしたら、わたしがいい加減止めないとダメよね。

「あの、アポロニウス王――。」
「――うっ!!」

 口を挟もうとしたところで、王子が衝撃を受けた様に、突然両肩を撥ねさせた。
 と同時に、石の裂け目からから大量の黄金色と黒色の魔力が竜巻の様に2色の渦を巻いて溢れ出し、辺りの土砂を巻き込んで王子の周りを凄い速度でぐるぐると旋回し始める。その直前、わたしはオルフェンズに勢いよく肩を引かれて王子から遠ざけられていた。

「アポロニウス王子―――!?」

 声が掻き消されそうなほど激しく渦巻く黄金と黒色の魔力の中に取り残された王子からは、言葉は返らない。騎士達は走り寄って王子を庇おうとするけど、魔力の渦が他者を阻んで近付く事が出来ない。
 目を眇めていたギリムが「なんなんだ、これは!」と悪態をつきながら右手を王子に向かって突き出して、魔力操作で渦を止めようとするけれども全く効果は表れない。

「オルフェ!放して!王子を助け出さなきゃ!!」

 ガッチリと肩を抱きすくめられて、王子に近付くことが出来ないわたしの目の前で、渦巻く魔力の渦がどんどん消えて行く――と思っていたら、黒い魔力は絡まった糸が解ける様に、旋回しながら黄金色の魔力と分離して周囲に四散し、黄金色の魔力だけが、みるみる王子の中へと吸い込まれて行った。
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