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第四章 女神降臨編
何だか、触れちゃいけない所にうっかり来ちゃった気がするのは、気のせいよね?
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「この先は、進める者とそうでない者がいる。付いて来られる者だけ、進む様に。」
その言葉を受けて王妃と2人の騎士がそっと脇に逸れる。
「私はこの先へは進めません。神殿の方々、どうぞ、行くも残るもお気になさらず、お試しになると良いでしょう。」
少し残念そうな微笑みをデウスエクス王に向けた王妃が、わたし達に先へ行く様に促すけれど「付いて来られる者だけ」ってどういう意味?危険があったりするの!?
国王は再び白い廊下の先に向き直ると、ゆったりとした足取りで進み出す。ミワロマイレがその後に続き、次いで神官、わたしの順に縦一列にそろそろと歩き出す。廊下は10人が横並びで通れそうなくらい広いんだけれど、国王の忠告が不穏すぎて慌てて進む気も起こらないから、大人しく後ろに付き従う。わたしの後ろに騎士が3人並んだのが分かった。
廊下の様子に変化はない。けれど踏み出すにしたがって、妙な圧力が身体全体にかかってくる錯覚に襲われ始めた。それは、歩を進めるごとに強くなる。
「何これ‥‥水中を歩いてるみたい。ふわふわして重くなはいけど動き辛いわ。」
口に出して異常を訴えてみるけど、前を行くデウスエクス王とミワロマイレは淡々と進むだけで、何の反応も返って来ない。こんな変な感覚がしてるのはわたしだけなのかしら。――って!
「待って!神官が倒れたわ!」
貧血?急に倒れちゃった!あれ?でも王様も神官を抱え起こした騎士さんも落ち着きすぎじゃない?もしかして倒れるのが分かってた?
「彼は復調するまで騎士たちが面倒を見てくれるから心配には及ばん。命にも別状はない。」
王様は慌てるそぶりもないけど、わたしと同じようにミワロマイレも事情がつかめてなくて困惑顔よね。
「どうやら2人はこの先へ立ち入ることを認められた様だな。驚くのも仕方がないが、この先は近付く者を選別する場所なのだ。普段は王位を継ぐ者しか入れんが、私の弟たちは入れたから、もしやと思って案内したのだ。やはり入れたか。」
王様はとっても満足気なんだけど、わたしは意味が分かんない。さらに、わたしの後ろにいた騎士2人に「もう引き返して構わん。」なんて指示するから、幾ら何でも不用心じゃないかなぁ?と思ったら、騎士たちは揃って倒れた神官と同じくらい顔色が悪くなってる‥‥!?そっか、お仕事のために不調を堪えてついて来ていたのね。この先の何かに『選別』で弾かれると、どんな鍛えた騎士でも体調不良になっちゃうと‥――!?こわっ。
さらに進んだその先の白い廊下は相変わらずで、変わったことと言えば水圧の様なものが徐々に薄れ始めたことくらいだ。いいえ、ちがうわ‥‥声が聞こえる。段々と大きく聞こえて来たわ。
―――― で ‥‥ゆ る さ‥‥ な い ――――
弱々しい声。
男の人の―――悲し気で、苦し気な声。
「結解を超えた。もうすぐだ。」
国王の声にはっと気付けば、いつの間にか身体中を包んでいた奇妙な浮遊感が無くなっていた。
白い廊下の先にあったのは、王城らしくない、どこかの要塞にあるような頑丈で重厚で簡素な金属の扉だった。ドアノブも閂も何もないその扉にデウスエクス王がそっと手を触れると力を入れている訳でもなさそうなのに、ゴゴゴ‥‥と重い物を引き摺る音をたてながら、ゆっくりと扉が自ら開いて行く。
何が現れるの!?と身構えたわたしは、目の前の景色を見た途端、拍子抜けした。
―――えっ?中庭?さすがにお城の中だけあって野球場かコロッセオくらいの広さはあるけど、ただの草の生えた庭よね?城壁と同じくらい高い壁がここだけ丸く囲んでいるのはとっても変なんだけど、何か特別なモノが居たりあったりするわけじゃなくって、普通に大きな岩が転がっていて、丈の低い草だけが生えてる庭よね。
「なるほど‥‥そうでしたか。」
ひたすら首を傾げるしかないわたしと違って、ミワロマイレは何かに気付いたみたい。
「何に納得してるんですか?花も木もない、ただの味気ない中庭のどこに納得する要素があるんですか?」
「落ち着きのない破廉恥娘には分らんやもしれんな。それ、よく見てみるが良い。」
よく見るって言ったって、中庭に変わりはないわよ?むしろ変な声の方が気になるくらいだけど。でもその声も途切れ途切れだし、どこから聞こえてくるのか分からないのよねー。しかも、聞こえてくるんじゃなくって、魔力の化身の緋色ネズミの声みたいに耳じゃなくって頭の中に直接響いて来るような聞こえ方なのよ。
もしかして声の主は魔力の化身みたいなものなの?だとしたら、人じゃない喋る何かがここにあるってこと?どこに―――。
だだっ広い丈の低い草ばかりが生い茂り、時折、黒曜石の様にてらりとした光を湛える、大人の頭ほどの大きさの石が転がっている。草原の中央には、わたしの胸ほどの高さのひと際大きな黒曜石が、淡い黄金の光を放っているのが目に入った。太陽の反射よりも淡く薄い黄金色の光は、よくよく注視しなければ見落としてしまう程だ。
「魔力を持つ黒い石ですか?けど、魔力の凝りから出来た魔石でもないですよね‥‥。」
何だか、触れちゃいけない所にうっかり来ちゃった気がするのは、気のせいよね?
その言葉を受けて王妃と2人の騎士がそっと脇に逸れる。
「私はこの先へは進めません。神殿の方々、どうぞ、行くも残るもお気になさらず、お試しになると良いでしょう。」
少し残念そうな微笑みをデウスエクス王に向けた王妃が、わたし達に先へ行く様に促すけれど「付いて来られる者だけ」ってどういう意味?危険があったりするの!?
国王は再び白い廊下の先に向き直ると、ゆったりとした足取りで進み出す。ミワロマイレがその後に続き、次いで神官、わたしの順に縦一列にそろそろと歩き出す。廊下は10人が横並びで通れそうなくらい広いんだけれど、国王の忠告が不穏すぎて慌てて進む気も起こらないから、大人しく後ろに付き従う。わたしの後ろに騎士が3人並んだのが分かった。
廊下の様子に変化はない。けれど踏み出すにしたがって、妙な圧力が身体全体にかかってくる錯覚に襲われ始めた。それは、歩を進めるごとに強くなる。
「何これ‥‥水中を歩いてるみたい。ふわふわして重くなはいけど動き辛いわ。」
口に出して異常を訴えてみるけど、前を行くデウスエクス王とミワロマイレは淡々と進むだけで、何の反応も返って来ない。こんな変な感覚がしてるのはわたしだけなのかしら。――って!
「待って!神官が倒れたわ!」
貧血?急に倒れちゃった!あれ?でも王様も神官を抱え起こした騎士さんも落ち着きすぎじゃない?もしかして倒れるのが分かってた?
「彼は復調するまで騎士たちが面倒を見てくれるから心配には及ばん。命にも別状はない。」
王様は慌てるそぶりもないけど、わたしと同じようにミワロマイレも事情がつかめてなくて困惑顔よね。
「どうやら2人はこの先へ立ち入ることを認められた様だな。驚くのも仕方がないが、この先は近付く者を選別する場所なのだ。普段は王位を継ぐ者しか入れんが、私の弟たちは入れたから、もしやと思って案内したのだ。やはり入れたか。」
王様はとっても満足気なんだけど、わたしは意味が分かんない。さらに、わたしの後ろにいた騎士2人に「もう引き返して構わん。」なんて指示するから、幾ら何でも不用心じゃないかなぁ?と思ったら、騎士たちは揃って倒れた神官と同じくらい顔色が悪くなってる‥‥!?そっか、お仕事のために不調を堪えてついて来ていたのね。この先の何かに『選別』で弾かれると、どんな鍛えた騎士でも体調不良になっちゃうと‥――!?こわっ。
さらに進んだその先の白い廊下は相変わらずで、変わったことと言えば水圧の様なものが徐々に薄れ始めたことくらいだ。いいえ、ちがうわ‥‥声が聞こえる。段々と大きく聞こえて来たわ。
―――― で ‥‥ゆ る さ‥‥ な い ――――
弱々しい声。
男の人の―――悲し気で、苦し気な声。
「結解を超えた。もうすぐだ。」
国王の声にはっと気付けば、いつの間にか身体中を包んでいた奇妙な浮遊感が無くなっていた。
白い廊下の先にあったのは、王城らしくない、どこかの要塞にあるような頑丈で重厚で簡素な金属の扉だった。ドアノブも閂も何もないその扉にデウスエクス王がそっと手を触れると力を入れている訳でもなさそうなのに、ゴゴゴ‥‥と重い物を引き摺る音をたてながら、ゆっくりと扉が自ら開いて行く。
何が現れるの!?と身構えたわたしは、目の前の景色を見た途端、拍子抜けした。
―――えっ?中庭?さすがにお城の中だけあって野球場かコロッセオくらいの広さはあるけど、ただの草の生えた庭よね?城壁と同じくらい高い壁がここだけ丸く囲んでいるのはとっても変なんだけど、何か特別なモノが居たりあったりするわけじゃなくって、普通に大きな岩が転がっていて、丈の低い草だけが生えてる庭よね。
「なるほど‥‥そうでしたか。」
ひたすら首を傾げるしかないわたしと違って、ミワロマイレは何かに気付いたみたい。
「何に納得してるんですか?花も木もない、ただの味気ない中庭のどこに納得する要素があるんですか?」
「落ち着きのない破廉恥娘には分らんやもしれんな。それ、よく見てみるが良い。」
よく見るって言ったって、中庭に変わりはないわよ?むしろ変な声の方が気になるくらいだけど。でもその声も途切れ途切れだし、どこから聞こえてくるのか分からないのよねー。しかも、聞こえてくるんじゃなくって、魔力の化身の緋色ネズミの声みたいに耳じゃなくって頭の中に直接響いて来るような聞こえ方なのよ。
もしかして声の主は魔力の化身みたいなものなの?だとしたら、人じゃない喋る何かがここにあるってこと?どこに―――。
だだっ広い丈の低い草ばかりが生い茂り、時折、黒曜石の様にてらりとした光を湛える、大人の頭ほどの大きさの石が転がっている。草原の中央には、わたしの胸ほどの高さのひと際大きな黒曜石が、淡い黄金の光を放っているのが目に入った。太陽の反射よりも淡く薄い黄金色の光は、よくよく注視しなければ見落としてしまう程だ。
「魔力を持つ黒い石ですか?けど、魔力の凝りから出来た魔石でもないですよね‥‥。」
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