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第四章 女神降臨編
わたしの胃が限界を迎えそうなんですけど―――!!!
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あれ?何故かギリムから残念な子を見る視線を向けられている気がするんだけど、どう云うことかしら?
「そうか、エクリプス嬢は月の忌子討伐に向かったと、そしてバンブリア嬢とはそんな話をしているのか。確か公的な発表は一切を認めていないはずなのだが、何故堂々とそのような話が出ているのだろう?」
にこやかな笑みを浮かべるアポロニウス王子に、わたしは完全に固まった。
公式に月の忌子が現れた事が発表されない以上、その対策のためのスバルの帰郷はひっそりと行わなければならなかった。発表をとどめている何処かの権力者からの要らぬ嫌疑や妨害を受けてしまうだろうから―――。
権力者の筆頭の王子に言っちゃったぁぁぁ!!
はわわわ‥‥!とパニックに陥るわたしを見て、ハディスがクスリと笑うと「僕に任せて。」と、わたしの頭にそっと手を置く。それだけなのにだんだんと落ち着いて行くから不思議だ。
「王子にはご令嬢の扱い方をそんな風に教えた覚えは無いんだけどねー?ついでに僕は王家の皆にセレネが月の忌子を目撃したってちゃんと伝えたはずだけどぉー?しかも時期を同じくしてなんと学園行事の発表でその存在について調べたばかりと来た。だから知っていたところで何ら問題は無いはずだよ?王子サマはきちんと発表を見なかったのかなぁ――――♪」
「ふん。分かっていて言っているに決まっているだろ。バンブリア嬢が、あまりに迂闊に話し過ぎるから少しばかり釘を刺しただけだ。」
軽口を叩くハディスの気安い様子と、ツンと澄ましたアポロニウス王子の言葉にぱあぁっと目の前が明るくなった気がして、確認するように王族2人を交互に見る。
「じゃ、お咎めなし?!」
「そうだね。」
ハディスがにこりと笑みを返してくる。
「よかったぁぁぁぁぁ―――――。」
握り締めた両拳を頭上に突き上げて、不安からの解放を噛み締めていると室内全員からの呆れた様な視線が突き刺さった。ギリムが「ちょっとでも王子がこの影響を受けていたなどと考えた自分が信じられない‥‥。」なんてぼそぼそ言いながら世も末みたいな顔をしていたけど、失礼しちゃうわよね?
「アポロニウス王子、ただ闇雲に動き回っても迷惑をかけるだけだとご理解いただけたでしょうか?」
ギリムが、さっとアポロニウス王子から外套を受け取りながら声をかける。
「そうだな、陛下に私で何かご助力出来るものがないかをお伺いしてみよう。」
「では早速、私から宰相へ連絡を取り、陛下への謁見の伺いを立てましょう。」
王子の返答に、直ぐに宰相令息のロザリオンが反応して次の段取りをさっと決めて行く。側近候補たちだけあって、見事な連携と手際の良さだ。
まあ、王子の気が変わる隙を与えないために、どんどん話を進めているような気もするけど。
未来のフージュ王国を支える若者たちを、無関係の立ち位置を決め込んで他人事として眺めながら感心していると、突然、全身を棘の付いたバスタオルで包まれた様な最悪な心地が襲ってきた。
「ぐきゃっ‥‥!」
思わずカエルが潰れた様な声が出て、慌てて周囲を見回すけれど特におかしな様子は何もない。けと、オルフェンズの白銀の紗や、ミワロマイレの魅了とは比べ物にならないくらいの不快感が襲ってきたんだから何もないはずがない。
「くっ‥‥。―――あぁ、けどこれは。」
「ハディス様、何か分かるんですか!?」
何か心当たりがあるのなら、このとんでもない不快感の元を教えて欲しい。
そしてこの不快な魔力を感じ取ったのは、わたしとハディスだけでなく、ギリムはもちろん、王子やロザリオンの他、半数ほどの学友や、扉のそばに控える騎士までもが突然の不快に身を強張らせている。
不快感は、今も絶えず続いている。
周囲の様子を確認するためなのだろう、騎士が扉を開け室外を確認していると、慌ただしく廊下を駆けてゆく騎士の1人を呼び止め、何事か話している。けれど、有意義な情報は無いのか、首を横に振る様子が見て取れる。そうしている間も、間断なく不快感を伴う巨大な魔力を感じるけれど、これといった効果や影響が分からない魔力だ。
王子の部屋の窓の外に、ちらりと長い影が横切るのが見えた。空間の不快感に身悶える様な激しい動きを見せる青い巨大ドジョウ――いや、ポリンドの魔力の化身『青龍』は、実体があれば王城の外壁をあちこち破壊しているであろう程の荒ぶり様だ。
「ハディス様!?このとんでもなく気持ちの悪い魔力に心当たりがあるんですよね!?何とかしないと、魔力に反応する人たちみんな、気持ち悪すぎて倒れちゃいますよ!?大惨事ですよ?」
「――言えない。けどじきに治まるはずだから。」
何か言えない人の魔力ってこと?それとも王城の秘密な魔力発生源みたいな、国家機密みたいなもの?じき治まるっていつ治まるのよ!その前にわたしの胃が限界を迎えそうなんですけど―――!!!
グラグラ眩暈がするくらいの不快感が充満した王城の空間に、その魔力に充てられたのか、苦しさを訴えるように激しくのたうちながら飛び回る青龍は、実体が無い故に壁や床を自由にすり抜けて各所からの悲鳴を誘発している。ここ王城は現在、魔力持ちにとって最悪な場所と化していた。
「そうか、エクリプス嬢は月の忌子討伐に向かったと、そしてバンブリア嬢とはそんな話をしているのか。確か公的な発表は一切を認めていないはずなのだが、何故堂々とそのような話が出ているのだろう?」
にこやかな笑みを浮かべるアポロニウス王子に、わたしは完全に固まった。
公式に月の忌子が現れた事が発表されない以上、その対策のためのスバルの帰郷はひっそりと行わなければならなかった。発表をとどめている何処かの権力者からの要らぬ嫌疑や妨害を受けてしまうだろうから―――。
権力者の筆頭の王子に言っちゃったぁぁぁ!!
はわわわ‥‥!とパニックに陥るわたしを見て、ハディスがクスリと笑うと「僕に任せて。」と、わたしの頭にそっと手を置く。それだけなのにだんだんと落ち着いて行くから不思議だ。
「王子にはご令嬢の扱い方をそんな風に教えた覚えは無いんだけどねー?ついでに僕は王家の皆にセレネが月の忌子を目撃したってちゃんと伝えたはずだけどぉー?しかも時期を同じくしてなんと学園行事の発表でその存在について調べたばかりと来た。だから知っていたところで何ら問題は無いはずだよ?王子サマはきちんと発表を見なかったのかなぁ――――♪」
「ふん。分かっていて言っているに決まっているだろ。バンブリア嬢が、あまりに迂闊に話し過ぎるから少しばかり釘を刺しただけだ。」
軽口を叩くハディスの気安い様子と、ツンと澄ましたアポロニウス王子の言葉にぱあぁっと目の前が明るくなった気がして、確認するように王族2人を交互に見る。
「じゃ、お咎めなし?!」
「そうだね。」
ハディスがにこりと笑みを返してくる。
「よかったぁぁぁぁぁ―――――。」
握り締めた両拳を頭上に突き上げて、不安からの解放を噛み締めていると室内全員からの呆れた様な視線が突き刺さった。ギリムが「ちょっとでも王子がこの影響を受けていたなどと考えた自分が信じられない‥‥。」なんてぼそぼそ言いながら世も末みたいな顔をしていたけど、失礼しちゃうわよね?
「アポロニウス王子、ただ闇雲に動き回っても迷惑をかけるだけだとご理解いただけたでしょうか?」
ギリムが、さっとアポロニウス王子から外套を受け取りながら声をかける。
「そうだな、陛下に私で何かご助力出来るものがないかをお伺いしてみよう。」
「では早速、私から宰相へ連絡を取り、陛下への謁見の伺いを立てましょう。」
王子の返答に、直ぐに宰相令息のロザリオンが反応して次の段取りをさっと決めて行く。側近候補たちだけあって、見事な連携と手際の良さだ。
まあ、王子の気が変わる隙を与えないために、どんどん話を進めているような気もするけど。
未来のフージュ王国を支える若者たちを、無関係の立ち位置を決め込んで他人事として眺めながら感心していると、突然、全身を棘の付いたバスタオルで包まれた様な最悪な心地が襲ってきた。
「ぐきゃっ‥‥!」
思わずカエルが潰れた様な声が出て、慌てて周囲を見回すけれど特におかしな様子は何もない。けと、オルフェンズの白銀の紗や、ミワロマイレの魅了とは比べ物にならないくらいの不快感が襲ってきたんだから何もないはずがない。
「くっ‥‥。―――あぁ、けどこれは。」
「ハディス様、何か分かるんですか!?」
何か心当たりがあるのなら、このとんでもない不快感の元を教えて欲しい。
そしてこの不快な魔力を感じ取ったのは、わたしとハディスだけでなく、ギリムはもちろん、王子やロザリオンの他、半数ほどの学友や、扉のそばに控える騎士までもが突然の不快に身を強張らせている。
不快感は、今も絶えず続いている。
周囲の様子を確認するためなのだろう、騎士が扉を開け室外を確認していると、慌ただしく廊下を駆けてゆく騎士の1人を呼び止め、何事か話している。けれど、有意義な情報は無いのか、首を横に振る様子が見て取れる。そうしている間も、間断なく不快感を伴う巨大な魔力を感じるけれど、これといった効果や影響が分からない魔力だ。
王子の部屋の窓の外に、ちらりと長い影が横切るのが見えた。空間の不快感に身悶える様な激しい動きを見せる青い巨大ドジョウ――いや、ポリンドの魔力の化身『青龍』は、実体があれば王城の外壁をあちこち破壊しているであろう程の荒ぶり様だ。
「ハディス様!?このとんでもなく気持ちの悪い魔力に心当たりがあるんですよね!?何とかしないと、魔力に反応する人たちみんな、気持ち悪すぎて倒れちゃいますよ!?大惨事ですよ?」
「――言えない。けどじきに治まるはずだから。」
何か言えない人の魔力ってこと?それとも王城の秘密な魔力発生源みたいな、国家機密みたいなもの?じき治まるっていつ治まるのよ!その前にわたしの胃が限界を迎えそうなんですけど―――!!!
グラグラ眩暈がするくらいの不快感が充満した王城の空間に、その魔力に充てられたのか、苦しさを訴えるように激しくのたうちながら飛び回る青龍は、実体が無い故に壁や床を自由にすり抜けて各所からの悲鳴を誘発している。ここ王城は現在、魔力持ちにとって最悪な場所と化していた。
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