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第四章 女神降臨編
はぐれなくても、逃げちゃうでしょ?離れないように捕まえておくことにしたんだー。
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赤い柔らかな生地が幾重にも重ねられた、ふわふわした金魚の様な愛らしいドレス。
暗い赤の艶やかな生地をマーメイドラインに仕立て、ビジューと銀糸で全身に流れるような花と蔓の意匠をあしらった妖艶で華やかなドレス。
鮮やかな緋色のオフショルダーでありながら、腰に同色の生地で作った大きな薔薇の装飾をあしらい、スカート部は華やかに広がりを持たせたドレス。
赤赤赤‥‥部屋中、どっちを向いても赤いドレスが目に入る。
「おかしいと思いますよ、この状況。服飾部門でデザインもするわたしへの挑戦ですか?動くのも、体温調節するのも、日常の手入れも‥‥ありとあらゆるものが普段使いに向かない非効率的でしかなく、全てにおいて具体的効果を求めるわたしがドレスを着るのはすなわち、新商品を売り込むためにのみ!と決めているわたしに対する挑戦ですよね。」
唇を尖らせて、隣に立つ赤髪を胡乱な目付きで見上げると、困ったやつだなあーとでも言いたげな、余裕の笑みを返されて余計に苛立ちが増す。
ちなみに、今はバンブリア邸の一室で、色とりどりではなく赤系統に大きく偏ったドレス群を前にした攻防中だ。いつの間にかバンブリア商会含め、ライバル各社で作られた赤系ドレスのラインナップを集めたらしい‥‥ホントにひどい偏りだ。
「お出かけに誘ったのに、ヘリオス君が居ないのに出かける気なんて起きないって言った君に気を使って、お家でショッピング出来る様に手配したのにひどいなぁー。」
いや、絶対にひどいなんて思ってないでしょ。その証拠に、完全に笑いながらの泣き真似だもの。とにかく、この赤色ドレスに囲まれた悪夢になってしまいそうな状況から抜け出したくなったわたしは止む無く、ハディスの当初の目論見通り、街へ出掛けることになった。
わたしを家から引っ張り出すためだけに、この状況を作り出したとしたら大した策士だけど、まぁ、偶然‥‥だよね?
「セレネ!こっち、串焼きの店が出てるよ!」
「ハディス様!?何でいきなり串焼きっ?お腹すいてるんですか??」
時刻にして昼過ぎ、屋敷で軽食を摂ってから出発してきたはずなのに、さらにガッツリ肉を求めるハディスにびっくりだ。20歳の育ち盛り?うーん。
市が立つ街中心部の大広場で、わたしの手をしっかり握りしめてグイグイ引っ張るハディスが真っ直ぐ向かったテントでは、美味しそうによく焼けた獣肉の串焼きが並んでいる。確かに香ばしい匂いが辺りに漂って食欲をそそりはするけど、街へ来るなり突き進んで行ったハディスの目的地はおそらくここだったのではないだろうかと思う位には、迷い無い足取りだった。
しかも手っ!つなぎ方っ!!
大広場側で馬車から降りた途端、勢いよく進もうとするハディスに驚いて遅れそうになるや、子供を迷子にならないようにしっかり捕まえる保護者の様にそれはしっかりと手を繋がれたわ。思わず「お父様ですか!?」ってポロリと突っ込んだら、思い切り無表情になったハディスが一瞬考えた後、にやりと笑って、指をしっかり絡める恋人つなぎに変えてきたのよ―――!!
「ハディス様?手、手!大丈夫ですよ?はぐれませんからっ!」
「はぐれなくても、逃げちゃうでしょ?離れないように捕まえておくことにしたんだー。」
真っ赤になって抗議の声を上げたわたしに、悪戯っぽく話すハディスは、けど貴族らしい綺麗な笑みを浮かべていて――え?なにこのチグハグ、こわっ!
「なんか企んでません?」
「どう絡め取るかなら考えてるよ。ナニをするかは教えないけどー。」
しーっと内緒話をする様に、繋いでいない手の人差し指を自分の口元に持って行く仕草が色っぽくて、何だか目に毒だ。いや?眼福?――って、凝視してたら「さすがに照れるよ。」なんて、いきなり素の作らない表情でへにゃりと笑うハディス!!ギャップに萌えます、ごちそうさまです!
「反応は悪くないのに何か違うんだよねー?」
なんてぼそぼそ言ってるけど、わたし的には頭の中でサンバカーニバルが開催されてると錯覚するくらいには、ハディスの見目麗しさに大興奮で小躍りしながら喝采を送ってる状態なんだけれど、違うのかー。
至近距離から問う様な視線を向けて来るから、何が言いたいのかなー?何が違うと思っているのかなー?ってじっと見詰め返して、けど視線が合ったことに安堵したような無自覚の笑みをふわりと唇に乗せたハディスは、そのまま視線をそらさずに、わたしの顔を目に焼き付けようとしているんじゃないかってほどじっと見詰めてくる。けどその瞳に浮かぶのは柔らかで優しい光で―――。
って黙って見てるだけじゃ何も分かんないし、非効率的だわ。
「取り敢えず串焼きはいかがですか?」
なんだか恥ずかしさが先にたって、見詰め合いを打ち切りたかったわたしは、焦って串焼屋台行きを切り出した。いい加減、心拍数が上がって息苦しくなっちゃったもの。食い意地が張ってるって思われるのは不本意だけど、心の平穏のためだ仕方ない。
今度はわたしが繋いだ手はそのままに、目当ての屋台に向かってハディスを引っ張った。
屋台へ向けて振り返る瞬間、ちらりと見えたハディスは、やっぱり穏やかで嬉しそうな優しい顔をしていた。
暗い赤の艶やかな生地をマーメイドラインに仕立て、ビジューと銀糸で全身に流れるような花と蔓の意匠をあしらった妖艶で華やかなドレス。
鮮やかな緋色のオフショルダーでありながら、腰に同色の生地で作った大きな薔薇の装飾をあしらい、スカート部は華やかに広がりを持たせたドレス。
赤赤赤‥‥部屋中、どっちを向いても赤いドレスが目に入る。
「おかしいと思いますよ、この状況。服飾部門でデザインもするわたしへの挑戦ですか?動くのも、体温調節するのも、日常の手入れも‥‥ありとあらゆるものが普段使いに向かない非効率的でしかなく、全てにおいて具体的効果を求めるわたしがドレスを着るのはすなわち、新商品を売り込むためにのみ!と決めているわたしに対する挑戦ですよね。」
唇を尖らせて、隣に立つ赤髪を胡乱な目付きで見上げると、困ったやつだなあーとでも言いたげな、余裕の笑みを返されて余計に苛立ちが増す。
ちなみに、今はバンブリア邸の一室で、色とりどりではなく赤系統に大きく偏ったドレス群を前にした攻防中だ。いつの間にかバンブリア商会含め、ライバル各社で作られた赤系ドレスのラインナップを集めたらしい‥‥ホントにひどい偏りだ。
「お出かけに誘ったのに、ヘリオス君が居ないのに出かける気なんて起きないって言った君に気を使って、お家でショッピング出来る様に手配したのにひどいなぁー。」
いや、絶対にひどいなんて思ってないでしょ。その証拠に、完全に笑いながらの泣き真似だもの。とにかく、この赤色ドレスに囲まれた悪夢になってしまいそうな状況から抜け出したくなったわたしは止む無く、ハディスの当初の目論見通り、街へ出掛けることになった。
わたしを家から引っ張り出すためだけに、この状況を作り出したとしたら大した策士だけど、まぁ、偶然‥‥だよね?
「セレネ!こっち、串焼きの店が出てるよ!」
「ハディス様!?何でいきなり串焼きっ?お腹すいてるんですか??」
時刻にして昼過ぎ、屋敷で軽食を摂ってから出発してきたはずなのに、さらにガッツリ肉を求めるハディスにびっくりだ。20歳の育ち盛り?うーん。
市が立つ街中心部の大広場で、わたしの手をしっかり握りしめてグイグイ引っ張るハディスが真っ直ぐ向かったテントでは、美味しそうによく焼けた獣肉の串焼きが並んでいる。確かに香ばしい匂いが辺りに漂って食欲をそそりはするけど、街へ来るなり突き進んで行ったハディスの目的地はおそらくここだったのではないだろうかと思う位には、迷い無い足取りだった。
しかも手っ!つなぎ方っ!!
大広場側で馬車から降りた途端、勢いよく進もうとするハディスに驚いて遅れそうになるや、子供を迷子にならないようにしっかり捕まえる保護者の様にそれはしっかりと手を繋がれたわ。思わず「お父様ですか!?」ってポロリと突っ込んだら、思い切り無表情になったハディスが一瞬考えた後、にやりと笑って、指をしっかり絡める恋人つなぎに変えてきたのよ―――!!
「ハディス様?手、手!大丈夫ですよ?はぐれませんからっ!」
「はぐれなくても、逃げちゃうでしょ?離れないように捕まえておくことにしたんだー。」
真っ赤になって抗議の声を上げたわたしに、悪戯っぽく話すハディスは、けど貴族らしい綺麗な笑みを浮かべていて――え?なにこのチグハグ、こわっ!
「なんか企んでません?」
「どう絡め取るかなら考えてるよ。ナニをするかは教えないけどー。」
しーっと内緒話をする様に、繋いでいない手の人差し指を自分の口元に持って行く仕草が色っぽくて、何だか目に毒だ。いや?眼福?――って、凝視してたら「さすがに照れるよ。」なんて、いきなり素の作らない表情でへにゃりと笑うハディス!!ギャップに萌えます、ごちそうさまです!
「反応は悪くないのに何か違うんだよねー?」
なんてぼそぼそ言ってるけど、わたし的には頭の中でサンバカーニバルが開催されてると錯覚するくらいには、ハディスの見目麗しさに大興奮で小躍りしながら喝采を送ってる状態なんだけれど、違うのかー。
至近距離から問う様な視線を向けて来るから、何が言いたいのかなー?何が違うと思っているのかなー?ってじっと見詰め返して、けど視線が合ったことに安堵したような無自覚の笑みをふわりと唇に乗せたハディスは、そのまま視線をそらさずに、わたしの顔を目に焼き付けようとしているんじゃないかってほどじっと見詰めてくる。けどその瞳に浮かぶのは柔らかで優しい光で―――。
って黙って見てるだけじゃ何も分かんないし、非効率的だわ。
「取り敢えず串焼きはいかがですか?」
なんだか恥ずかしさが先にたって、見詰め合いを打ち切りたかったわたしは、焦って串焼屋台行きを切り出した。いい加減、心拍数が上がって息苦しくなっちゃったもの。食い意地が張ってるって思われるのは不本意だけど、心の平穏のためだ仕方ない。
今度はわたしが繋いだ手はそのままに、目当ての屋台に向かってハディスを引っ張った。
屋台へ向けて振り返る瞬間、ちらりと見えたハディスは、やっぱり穏やかで嬉しそうな優しい顔をしていた。
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