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第三章 文化体育発表会編

格好良さ重視なので。みっともなくない程度に舞って魅せます!

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 今さらわたしに聞くまでもなく、学園内を熟知しているはずのアポロニウス王子のはずなんだけど?
 そう疑問を感じつつ、けど何故かわたしによる学園案内を希望する王子とその学友方を伴って、来賓や学園生で賑わう建物や付属施設を巡ることになった。

「平常時の学園はよく知っておいでだと思いますので、文化体育発表会限定の見どころをご案内しますね。」
「ほう、そのような場所があるのは初耳だな。」

 そう言って、わたしが向かうのは、今日限定で模様替えされた講義室やホール、そして庭や訓練場などだ。文具や書物、訓練用のグローブや木剣、小手などの防具も学生価格の推奨品を並べて販売しているブースも出来ている。
 最後に、剣術、体術のトーナメント出場者がウォーミングアップする中庭を見下ろせる、本日限定の即席カフェテリアを訪れた。

「これはっ‥‥!すごい熱気だな。」
「推し選手への熱視線を向ける者、一押しを探す者、また婚約者として目ぼしい者がいないか探す者、あとは、あらゆる職場からのスカウトマンが集まっていますから。」

 眼下で木剣を振るったり、身体を動かしてウォーミングアップする出場者達に、彼らを見下ろせる窓際へひしめき合った者達が歓声を上げる。大半が黄色い声を上げるご令嬢やご婦人方だけれど、中には鋭い視線で勧誘に足る人物がいないか見定めようとする大人の姿もある。

「この文化体育発表会は将来のために自分を売り込むまたとないイベントなんです。スカウトマンや顧客となる高位貴族があちらから足を運んでくださるなんて、こんな好条件を逃す手はないですから。ただの学生が目立てる場なんて早々無い訳ですし‥‥。」

 目立てる場なんて早々無い、って言ってるそばから周り中からの視線をえらく感じるのはどう云うことだろう?出場者達を見たくて集まった人たちのはずだけど、王子が一緒だからかしら。
 そう思っていたのに、人垣を抜け出した一人のご令嬢が、頬を染めながらわたし目掛けて駆け寄って来た。

「あのっ、バンブリア生徒会長。私たち、生徒会長の事を応援してますから!」

 へ?何を応援しているって?
 咄嗟にハディスを仰ぎ見ると逆に問い返すような笑みが返って来て、逆サイドに陣取ったオルフェンズを見上げると、いつもより深めな笑みが帰って来た。

 オルフェンズが何か関わってる?けど何を―――。

「ちょっぴり驚きましたけど、生徒会長は愛らしさ、美しさ、猛々しさも兼ね備えていらっしゃいますもの、きっとやってくださると信じております!優勝ですわ!」
「ドッジボール部での雄姿も麗しくいらっしゃいましたけれど、体術でのご活躍も期待しております!」

 ひゅっ‥‥と、自分が息を吸い込む音がやけに大きく耳に入った。

「オルフェ?ちょっと‥‥?」
「サプライズですよ。桜の君の代わりに出場登録を済ませておきました。」

 護衛が守る対象を格闘技の勝負の場に引っ張り出すなんて何を考えてるの―――!!
 いや、けどオルフェンズならやり兼ねないわ、だってこの人『スパルタ教育暗殺者』なんだもの――!

「おい、銀の!なにやってんだよっ。」
「そーよそーよ!体術って、わたしに何させようとしてるのよ。これ以上婚期が遠のくようなことになったらどうしたら良いのよぉー!」
「相手に不足はありますが、桜の君の光明こうみょうを示すに丁度良い舞台です。取るに足りない者達に思い知らせる事も出来ますし、貴女との出逢いで魅せられた優美な姿は忘れようもありません。それに、桜の君がご自慢の活動着をアピールなさる良い機会だと思いますよ?」

 活動着のアピール‥‥ですって!?わたしの活動着と言えば、バンブリア商会独占開発の魔物素材ジュシ製のちょっとハードボイルドな魔法少女風衣装――あれのアピールが出来るって事!?

「‥‥確かに!それはまたとないオイシイ機会ねっ。よくやったわ、オルフェ!」
「えぇ―――。そうなのぉー?!」
「まさかだが、バンブリア嬢は、出場するつもりなのか?」

 きょとんと眼を見開いて、泰然とした笑みを崩した王子がちょっとだけ可愛い。あと、驚かせられたことがちょっぴり嬉しい。

「ちょっと行ってきます!優勝は目指しませんが、格好良さと機能性を併せ持ったバンブリア商会うちの商品の魅力を存分にアピールできるように、みんなに魅せて来ます!」
「いや、無理はするな!?バンブリア嬢の様な華奢なご令嬢が、訓練を積んだ令息達が実力を示す為にしのぎを削る今日のトーナメント戦に出るなど、正気ではないぞ!叔父上、何で黙っている!!」

 アポロニウス王子や、ご学友達がわたしの前に回り込んで行く手を塞いでくる。

「無理をする気はありませんよ?格好良さ重視なので。みっともなくない程度に舞って魅せます!」
「王子、このはこう言う子だよ。だから、やらかさないように見守るのが護衛の務めになっちゃうんだよねー。」
「ふふ、桜の君の輝きは愚凡な輩如きに曇らせられるものではありません。このような些末な舞台でも必ずや赫々たる光芒を見せてくださるはずです。」

 わたしと護衛ズで次々に言葉を連ねると、何故か王子とご学友、そして周囲で様子を見守っていた令息達はからは、誰からともなく「この仲に入るのは難しいんじゃない?」などと云う呟きが漏れたような気がした。
 ハディスとオルフェンズは仲良しだけど、何でわたしも入ってるんだろう?解せないわー。
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