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第三章 文化体育発表会編

ホントだ―。招待されてる――。

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 ハディスは、アポロニウス王子とその叔父であるポリンドへ辞去の挨拶も何もなしに、ただ強引にわたしの手を力任せに引いていく。何も考えていないのか滅茶苦茶な方向へ歩を進めるハディスのお陰で、進行方向は校舎周囲の整備された庭から、次第に自然豊かで木々や下草の生えた林の中へ突入して行く。

 そして、わたしとハディスのコンパスの差も何も考えていない勢いでぐいぐい手を引かれた結果、わたしは派手につんのめりそうになり――。

 ダン!!
「おわぁっっ!!」

 顔面からの地面ダイブを阻止するべく、一歩踏み出した足にぐっと力を込め、ついでに抗議の意図も込めて、思考回路が麻痺して機械的に足を進めている様子の護衛の手を、力だけでなく魔力も込めて思い切り強引に引き返した。

 尻餅こそつかなかったハディスだったけど、大きく体勢を崩したしゃがんだ姿勢でこちらを振り返った表情は、さっきまでの強張ったものではなく、焦りのあまり目を見開いた情けない状態になっていたけど、こちらの方が数倍ましだ。まだ言葉が通じる。

「ハディス様?これは場所を変えるのであって、逃走ではないはずですけど?それで、いつになったらすっかりお預け状態になっている『月見の宴』について説明していただけるんでしょうねぇ?」

 ずい、と自分より低い目線になっているハディスの顔を上から覗き込むと、ついっと視線を外される。悪さを叱られた子供か!という言葉を飲み込みつつ、じっとりとした視線のまま無言で覗き込み続けると、やがて根負けしたハディスがゆるゆると動き出した。

 ハディスが、むくり・と立ち上がったタイミングで、オルフェンズがわざとらしく鼻で笑う。

「銀の‥‥。」
「坊やの癇癪に付き合ってあげる趣味はありませんから。」

 薄い笑みを浮かべたままのオルフェンズが、くるりと踵を返して距離をとって立ち止まる。離れているからその間に話せ、と云うことなんだろう。それが分かっているから、ハディスも何も言い返さず、一瞬ぐっと唇を噛んでこちらに向き直る。

「ごめん。言い忘れていた訳じゃない。『月見の宴』に招待されている。神器の継承者全員に声が掛かっていて、僕とセレネ嬢も。君に伝えるのは、王城からの直接の達しだと騒ぎになるから、僕からにさせてくれって‥‥僕が止めてた。」
「継承者?わたし違いますけど?」
「ただ、違うとも言い切れないし、継承者特有の独自の色の魔力を持っているのは確かだ。」

 定性調査なら継承者か否かは関係ない。ならばただの安全な意見調査会などではなく、珍しい色の魔力を持つわたしの、見送りにされているはずの身柄の拘束の危機再び――と云うことだ。

「聞いた上でお断りする権利は?」
「招集主は、デウスエクス・マキナ・フージュ。国王だ。」

 眉間に深々と皺を寄せてポケットから有翼の獅子のエンボス加工の施された、純白の封筒を出す。手が震えそうになりながらそれを受け取り、くるりと返せば封蝋には間違いなく王立貴族学園の校章にも取り入れられている「王」を現す太陽の図柄が押されている。うん、ホンモノだ。
 くらりと眩暈がするけれど、生憎それで倒れてしまう様な繊細な性根は持ち合わせてはいないから一瞬で立ち直る。そんな自分を少し恨めしく思いながら、苛立たしさも込めて封蝋を摘まんで剝がし、蓋部分を引っ張って開封する。

 中から、美しい箔押しのカードに流麗な文字が連ねられているのを慎重に読み取り、繰り返し目を走らせ、再び読み‥‥ついにわたしは深――く溜息を吐いた。

「ホントだ―。招待されてる――。」

 何の感動もない。初めての王城からの、しかも国王直々の招待。けれど、既に囲い込み等の不穏な言葉を聞いているからか、嬉しい気持ちは微塵も沸いてこない。継承者全員に声が掛かってるってことは、イシケナルやミワロマイレともまた顔を合わせるってことよね?更に輪をかけて気が進まないわー。口さがない年長者達に次に何を言われるのか、気が気じゃないわ。

 あれ?でも――ふと、何かに思い当たった。

『多少は権威におもねておかねばならないしな。お誂え向きにこちらには双子と見紛うばかりの小娘の弟がいた。いつまでも手をこまねいている赤い護衛殿には用意出来ないだろうからな。』

 と、あの嫌がらせドレスが贈られた時にイシケナルも言っていた。招待されているのは継承者全員、と言うことは、イシケナルも月見の宴の事を知っていたということだ。

「ミーノマロ公爵は、あのドレスを月見の宴で着る様に、用意したってことですか?その‥‥ハディス様の色で。」

 あのドレスの生地は、光の加減によっては微かに桃色や紅色がかって見える光沢あるオパール色だった。ドレスは婚約者や夫婦で色を合わせたり、お互いの色をそれぞれの衣装に取り込んで纏う事も多い。だとすると、イシケナルは、あのドレスを纏ったわたしがハディスと共に月見の宴に出席する様な関係だと思っていると?もしくは、そう宣言させようとしようとしていると?

 へにゃりと眉根を下げたハディスと真っ向から視線がぶつかった。
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