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第三章 文化体育発表会編

まぁ、何でもプラスに考えておくのが一番よね。

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 さらりとここ最近の魔物による商隊襲撃の首謀者であることを認めたムルキャンに、まさか人災だったなんてと目眩がしそうだけど、考えようによっては商隊の所に行かなくても、目の前の男を何とかすれば良いってことだ。なら、打つ手はきっとある!

「何だ、小娘がターゲットだったか。」

 ホッとしたように、なら自分は無関係だとでも言いそうな口振りのイシケナルが割り込んで来るけど、決して他人事じゃないはずだ。

ムルキャンこのおとこが、うちの商隊を狙ったお陰で、森までもが、この有り様なんですよ?何をしたかは分からないけど、以前とおんなじで黄色い魔力を使ったわね!なにをやったらこんな森全体真っ黄色の、こんな大惨事になるのよ。」
「我が君のためならこんなもの些事でしかない。」

 むふふんと鼻を鳴らしたムルキャンは、イシケナルと自分のために、大きな事をやり遂げた誇らしさに胸を反らせて自慢げだ。けれど逆にイシケナルは顔を引き攣らせてわなわなと震え出した。

「こぉ‥‥んの、ばぁっかもんがぁぁ―――!!!私の領地をこんな禍々しい、人間がまともに踏み込めもしないような土地に変えるとは、なんて事をしてくれたんだぁぁぁ!!しかも他の継承者の魔力にまみれさせるなど、気分が悪いわ――!」

 大音声だいおんじょうで、未だ跪いたままのムルキャンの頭の上から叱りつけたイシケナルは、ついでの様に「小娘には手出しせんと方針を変えたところだ。」とも付け加える。いや、そこ大事だからもっとしっかり言って!?
 怒鳴りつけられたムルキャンへの効果は絶大だった様で「申し訳ありません!」と、そのまま地面へ額を擦り付けて平伏し、ついでの様に告げられた言葉もすんなり受け入れたムルキャンは、バンブリア商会の商隊への魔物襲撃を思いとどまった様だった。良かった。

「この鬱陶しい黄色いのは何とかならんのか!森本来の魔力溜まりにある漆黒の魔力が混じって、全体がおかしな色になって美しくない!お前がばら撒いたのなら何とかせよ。」
「はいぃぃっ!――あの、大変申し上げにくいのですが、この森の魔物を使役するために利用した『仏の御石の鉢』の黄色い魔力は、私の魔力操作の力と併せて、森の魔物の制御も賄っておりますれば、解けば閉じ込めてあった巨大トレント達が暴れ出してしまいます。あとは、この魔力を介して森の情報を把握しておりますし、小物の魔物を操ることも可能としておりますれば、それらが一切出来なくなってしまいます!」

 黄色がかった暗灰色の魔力は、思った以上にやばいモノだった。そして、聞き捨てならない情報も混ざっていた。

「巨大トレントを閉じ込めていると言ったか?」
「はいぃぃ。奴等はどうしても制御できず、勝手に溢れ出して見境無く暴れだしますゆえ、私が制御するために黄色い魔力の詰まった手持ちの『聖水』全てと、森に溜まる漆黒の魔力、そして使役出来た魔物の魔力の全てを使って、森の深部に閉じ込めております。」

 未だはっきりと思い出せる、暗灰色の樹皮に、緑だけでなく禍々しい赤紫の葉を持った超巨大トレントの姿は、今まで見たどのトレントよりも恐ろしいものだった。ここへ来るにあたり、一番の脅威はそのトレントだったことは間違いない。

「それは大儀であるが、あのトレントどもはいつ頃から現れたのだ?」
「お褒めに与れるとは‥‥光栄でございます!!トレントは、私の研鑽の副産物で、私が魔力操作で魔物と融合する術を得、魔物同士の融合や分解、再構築が可能となり‥‥。」
「ちょ‥‥待って!」

 はしたないけど、思わず口を挟まずにはいられなかった。イシケナルから労りの言葉を掛けられたことで機嫌よく言葉を連ねていたムルキャンが、鬱陶し気な視線を寄越すけど構っていられない。見過ごせない大事なことだから、すぐに聞きたかった。自分を落ち着かせるように唾をごくりと飲み込んで、嫌な予感にこわばる唇を、ゆっくりと動かす。

「もしかしてそれって、貴方の生物実験の結果生まれたって事を言ってませんか?」

 じっと見詰めると、不愉快な事実を思い出したかのように、ムルキャンが眉間に皺を寄せてため息をつく。

「偉大なる力を得るための、崇高なる研鑽結果となるはずだったのに、出来上がったのは操ることもできない出来損ないだった。だから封じた。」

「――――こっっ‥‥のぉ、―――痴れ者がぁぁぁ!!」

 イシケナルの怒号が再び、いや更に憤怒の感情を乗せて響き渡った。その場にいるわたしたちみんなが同じ気持ちだったに違いない。けど何を言ったところで、巨大トレントは今のところ倒せない。だから、それを封じている現状の森を変えることはできない事は、皆なんとなく理解していた。

「仕方ない、ムルキャン。お前にこの森の監視を任ずる。私の領地を守る重要な仕事だ。この森で、おかしな出来事が起こらないよう、ここに留まり、しかと目を光らせよ。」

 こうなっては、ムルキャンを首尾よく味方に加えられていて良かったと言わざるを得ない。まぁ、この状況を作り出した一番の元凶もこの男なんだけど。

「わ‥‥我が君、もしかしてそれは」

 両目を見開いたムルキャンは、このシンリ砦の森に縛り付けるような命令を出したイシケナルに対して何を思うのか、推し量ることは出来ない。けど、前向きに捉えてもらわなきゃいけないから、ここはちょっと力を貸しておこうかな。

「凄いわ、カヒナシ領の正式なお抱えになれたってことよね!神殿に仕えながら、公爵と仲良くしてるだけだった以前とは比べ物にならないくらい、近くで正式に仕える権利を得たってことよね!!」

 弾む声と、羨望を感じさせる笑顔をつくって、胸の前で両手を組んで見せる。ハディスが側でゲホゴホととむせ上がっていたけど気にしない!
 ムルキャンは見る間に、見開いた瞳に明るい光を湛え、感動したかのように笑顔を浮かべる。

「おぉ‥‥、小娘、今だけはお前の事を許しても良いと思えたぞ。」
「ふふっ、ありがとう。」

 まぁ、何でもプラスに考えておくのが一番よね。


 この日、カヒナシ領は、シンリ砦の森に1人の心強い番人を加えた。その番人は、未だ嘗てない規模の被害を出しかねない森全体の環境破壊と、神への冒涜とも成り兼ねない生物実験を行った重罪人でもあった。しかしながら領主たるミーノマロ公爵の偉大なる温情に心打たれた重罪人は、進んでこの森に留まり、人への被害が出ない様に監視し、また護る役目を請け負ったのだった。
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