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第三章 文化体育発表会編
冒険者にまで愛されて、流石は魅了のイシケナル公爵ね。
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こんな喧嘩沙汰で冒険者に一目置かれるなんてとっても不本意なんだけど、けれど間違いなく同行して来た戦闘冒険者たちのわたしを見る目からは侮りは感じられなくなったわ。うーん、結果オーライ?
「一体何があったんだ?こちらは下手をすれば大怪我をするところだったんだ。ならず者の体当たりがこの宿の出迎えか?」
スバルが低い声で上級執事を叱責する。
「も‥‥申し訳ありません!この男達が、シンリ砦の森で採取した魔力の結晶石を持ち込んでおりまして‥‥。」
「魔力の結晶石など、魔物の住むどの森にでも転がっているだろう?何故それが大の男が吹っ飛ぶような騒ぎになるんだ。」
怪訝そうな表情で、足元に転がる男達と執事を見比べながらスバルが問うと、執事は一瞬口ごもったものの、わたしたちの背後に控える同行した戦闘冒険者を目にし、わたしにも怯えたような視線をちらりと向けて、渋々といった様子で口を開いた。
「それが、かの森は現在禁足地とされておりまして、そこへ侵入したことも問題ではあるのですが、その結晶石を採取する際に魔物への成りかけである『生成』を見掛けたと言うんです。」
動物は魔力を帯びすぎると魔物へと変容する。それはこの世界の理で、動物でもなく魔物にも成り切っていない『生成』は歴史上何度か姿を目撃されることはあったものの、決して捕らえる事の出来なかった希少なモノだ。魔物を研究する上で、欲しがる者達は多く、手にすることが出来ればその希少さから多額の褒賞金を得る事も出来るし、研究への多大なる寄与をする事も出来るだろう。
「だから、この土地の主であるイシケナル様の為に狩りに行くべきだと言う者と、その領主様の定めた決まりを破って森へ踏み込むのは、イシケナル様の顔に泥を塗る愚行でしかないと言う者とで対立し、どちらがよりイシケナル様を崇めているか、崇拝しているか、敬愛してるかで言い争いを通り越してついには先程の事態になるに至ったのです。」
「贈り物をするか、言いつけを守るか、どっちがより公爵のことを想っているかのマウントの取り合いになったと‥‥?」
言いながら渋い顔になりそうなのをぐっと堪えて居るスバル――気持ちは分かるわ。
そして相変わらず冒険者にまで愛されて、流石は魅了のイシケナル公爵ね。思わず脱力してしまうわ。ヘリオス上手くやってるかしら。時間を作って様子を見に行きたいわね。
予期せず時間を取られる元凶となった、足元に転がるイシケナル心棒者2人をげんなりして見る。機能性重視の衣服と防具や武器の類を見て判断するに2人ともに冒険者の様だ。
「ねぇ、まさかだけどこの人たちは合流予定の人?」
「いや、私が手配したのは戦闘冒険者だけだ。この男たちは希少素材採取に特化した採取冒険者だな。装備や筋肉の付き方を見ればすぐに分かる。」
「へぇー、筋肉の付き方でその人が何に特化しているのかわかるなんて凄いわ!じゃあ、スバルの人間観察眼を通せば、どの人が戦闘力があるとかすぐに分かっちゃうのね!」
感心して言ったのに、スバルは苦笑して首を横に振る。
「そうでもないよ。現に目の前の親しい相手の力すら推し量る事も出来ないで、いつも驚かされるばかりなんだから。」
「まぁ、何かの間違いでしてよ?わたしには力なんて呼べる様な大層なものなんて一つもないんですもの。おほほ。」
不穏なことを言い出したスバルに笑って誤魔化すと「うんうん、分かってるよ。」とニコニコ微笑みながら頷かれた。
「まぁ、理由はともかく、公共の場であれだけ派手な暴力騒ぎを起こしたんだから、この二人は街を巡回する衛兵に突き出しておいたらいいと思うよ。それに、この2人とも禁足の決まりを破っているんでしょ?なら拘束しておくよ。」
言うが早いか、床に伸びて転がったままの冒険者達が装備として身に付けていた運搬や捕獲に使用するロープを「丁度良いや。」と呟きながら取り外し、気を失ったままの2人を背中合わせにして手早く一つに纏め上げて縛った。その間、上級執事が従業員と宿の守衛の2人を呼び寄せて衛兵への伝言を命じている。
「けど、確かに生成は気になるから、明日の探索・偵察予定にそのあたりの情報収集も入れたいところだね。詳しい予定は明朝出発時の日の出の時刻にここで伝えるから、エクリプス家の依頼で来ている戦闘冒険者は、これで解散していいよ。ゆっくり休んでおいてくれ。」
スバルの仕切りで、素早く事件解決から散会へ導いた手腕に思わず溜息が漏れそうだ。淀みない指示の声に、わたし達と同行して来た冒険者達はそれぞれの宿泊に充てられている部屋へと消えていった。その場に残ったのが拘束した冒険者を見張る上級執事とスバル、その従者、わたし、そして護衛ズとなったところで、スバルが上級執事に尋ねる。
「それにしても森が禁足になっているのは予定外だったな。何で急に禁足なんかになったんだ?数日前、探索人員募集の告知を冒険者ギルドに出した時にはまだそんな話は無かったのに。」
「仰る通り、禁足令が出されたのは今朝の事です。ですからこの様に、情報の錯綜を言い訳に森へ侵入する輩が出てしまっているのでしょう。由緒正しいイシケナル公爵領に在ってお恥ずかしい限りです。禁足となった詳しい話はまだ伝わってはおりませんが、領主様の決定は我々を慮っての事であるはずですから、それを蔑ろにするのは土地に根を下ろさない冒険者や行商人くらいでしょう。」
思いがけずカヒナシ領民からの厚い支持を目にして、その領主の様々な表情や遣り取りを想い出したわたしは、意外さに目を瞬かせたのだった。
「一体何があったんだ?こちらは下手をすれば大怪我をするところだったんだ。ならず者の体当たりがこの宿の出迎えか?」
スバルが低い声で上級執事を叱責する。
「も‥‥申し訳ありません!この男達が、シンリ砦の森で採取した魔力の結晶石を持ち込んでおりまして‥‥。」
「魔力の結晶石など、魔物の住むどの森にでも転がっているだろう?何故それが大の男が吹っ飛ぶような騒ぎになるんだ。」
怪訝そうな表情で、足元に転がる男達と執事を見比べながらスバルが問うと、執事は一瞬口ごもったものの、わたしたちの背後に控える同行した戦闘冒険者を目にし、わたしにも怯えたような視線をちらりと向けて、渋々といった様子で口を開いた。
「それが、かの森は現在禁足地とされておりまして、そこへ侵入したことも問題ではあるのですが、その結晶石を採取する際に魔物への成りかけである『生成』を見掛けたと言うんです。」
動物は魔力を帯びすぎると魔物へと変容する。それはこの世界の理で、動物でもなく魔物にも成り切っていない『生成』は歴史上何度か姿を目撃されることはあったものの、決して捕らえる事の出来なかった希少なモノだ。魔物を研究する上で、欲しがる者達は多く、手にすることが出来ればその希少さから多額の褒賞金を得る事も出来るし、研究への多大なる寄与をする事も出来るだろう。
「だから、この土地の主であるイシケナル様の為に狩りに行くべきだと言う者と、その領主様の定めた決まりを破って森へ踏み込むのは、イシケナル様の顔に泥を塗る愚行でしかないと言う者とで対立し、どちらがよりイシケナル様を崇めているか、崇拝しているか、敬愛してるかで言い争いを通り越してついには先程の事態になるに至ったのです。」
「贈り物をするか、言いつけを守るか、どっちがより公爵のことを想っているかのマウントの取り合いになったと‥‥?」
言いながら渋い顔になりそうなのをぐっと堪えて居るスバル――気持ちは分かるわ。
そして相変わらず冒険者にまで愛されて、流石は魅了のイシケナル公爵ね。思わず脱力してしまうわ。ヘリオス上手くやってるかしら。時間を作って様子を見に行きたいわね。
予期せず時間を取られる元凶となった、足元に転がるイシケナル心棒者2人をげんなりして見る。機能性重視の衣服と防具や武器の類を見て判断するに2人ともに冒険者の様だ。
「ねぇ、まさかだけどこの人たちは合流予定の人?」
「いや、私が手配したのは戦闘冒険者だけだ。この男たちは希少素材採取に特化した採取冒険者だな。装備や筋肉の付き方を見ればすぐに分かる。」
「へぇー、筋肉の付き方でその人が何に特化しているのかわかるなんて凄いわ!じゃあ、スバルの人間観察眼を通せば、どの人が戦闘力があるとかすぐに分かっちゃうのね!」
感心して言ったのに、スバルは苦笑して首を横に振る。
「そうでもないよ。現に目の前の親しい相手の力すら推し量る事も出来ないで、いつも驚かされるばかりなんだから。」
「まぁ、何かの間違いでしてよ?わたしには力なんて呼べる様な大層なものなんて一つもないんですもの。おほほ。」
不穏なことを言い出したスバルに笑って誤魔化すと「うんうん、分かってるよ。」とニコニコ微笑みながら頷かれた。
「まぁ、理由はともかく、公共の場であれだけ派手な暴力騒ぎを起こしたんだから、この二人は街を巡回する衛兵に突き出しておいたらいいと思うよ。それに、この2人とも禁足の決まりを破っているんでしょ?なら拘束しておくよ。」
言うが早いか、床に伸びて転がったままの冒険者達が装備として身に付けていた運搬や捕獲に使用するロープを「丁度良いや。」と呟きながら取り外し、気を失ったままの2人を背中合わせにして手早く一つに纏め上げて縛った。その間、上級執事が従業員と宿の守衛の2人を呼び寄せて衛兵への伝言を命じている。
「けど、確かに生成は気になるから、明日の探索・偵察予定にそのあたりの情報収集も入れたいところだね。詳しい予定は明朝出発時の日の出の時刻にここで伝えるから、エクリプス家の依頼で来ている戦闘冒険者は、これで解散していいよ。ゆっくり休んでおいてくれ。」
スバルの仕切りで、素早く事件解決から散会へ導いた手腕に思わず溜息が漏れそうだ。淀みない指示の声に、わたし達と同行して来た冒険者達はそれぞれの宿泊に充てられている部屋へと消えていった。その場に残ったのが拘束した冒険者を見張る上級執事とスバル、その従者、わたし、そして護衛ズとなったところで、スバルが上級執事に尋ねる。
「それにしても森が禁足になっているのは予定外だったな。何で急に禁足なんかになったんだ?数日前、探索人員募集の告知を冒険者ギルドに出した時にはまだそんな話は無かったのに。」
「仰る通り、禁足令が出されたのは今朝の事です。ですからこの様に、情報の錯綜を言い訳に森へ侵入する輩が出てしまっているのでしょう。由緒正しいイシケナル公爵領に在ってお恥ずかしい限りです。禁足となった詳しい話はまだ伝わってはおりませんが、領主様の決定は我々を慮っての事であるはずですから、それを蔑ろにするのは土地に根を下ろさない冒険者や行商人くらいでしょう。」
思いがけずカヒナシ領民からの厚い支持を目にして、その領主の様々な表情や遣り取りを想い出したわたしは、意外さに目を瞬かせたのだった。
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