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第三章 文化体育発表会編
なんだろう、そのシンデレラストーリーみたいな話は。
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ハディスはわたしを静かに見詰めると、垂れ眼と優しげに弧を描く眉を困った様に更にへにゃりと下げて、わたしの頭に大きな手をポンポンと置くと1つ大きな溜息を吐いた。
「まず、言っておくけど、セレネ嬢。僕が君の護衛であるのは何物にも代えられない前提条件だよ。それに次いで、君も知っている通り、僕自身が継承者であると共に監視者でもある。そして監視者であるがゆえに、継承者とは言い切れないながらも特殊な魔力の色を持った君を見守るため、僕がここにいるんだから。だから僕は君のためにここに居る。それじゃぁ、ダメ?」
辛そうな表情をされると、特に覚悟もできていないわたしには「はっきりさせて」と強く言う事なんて勿論出来ないし、護衛とわたしの関係にも最近ようやく慣れて居心地良く感じてさえいるものを、終わりにする意気地もなく‥‥。
「ハディス様‥‥。」
呼び掛けると、貴族の笑みではなく、戸惑いを含んだ優しげな笑みが帰って来る。質問したわたしの返答を促すように首を傾げて、どんな答えでも受け入れると云うように微かに頷く。
父母も黙って成り行きを見守っている。いつもそうだ。この2人はわたし達子供を護ってくれるけど、こちらの意図もしっかり尊重してくれる。余程危険なことをしなければ、見守ることで好きにやることを許してくれて、成長を促してくれる。
なんて護られた、なんて心地良い状態。
けどそれじゃあ、シンリ砦の時みたいに護られるだけで手も出せず、不安だけを抱いてオロオロしていた時みたいな、進展も後退もない無駄で無利益な時間を過ごすことになるんじゃないかな‥‥。無駄、無利益どちらも嫌な言葉よ。
――覚悟するべきよね。
「約束とは、わたしに関わる約束を家族としているんですよね。わたし自身に関わることなのに、わたしだけが知らないなんておかしいと思いませんか?ハディス様が護って下さることは有り難いと思います。けど、分からないことが多すぎて、わたしがハディス様を護ることが出来ないのが悔しいんです。普通の主従関係なら主人も従者を守ります。けどハディス様は一方的に護ろうとしているでしょう?」
じっと見詰めるハディスの瞳が戸惑うように揺れるのを静かに見返しながら、一呼吸おいて父母へ視線を移す。
「手の届く、懐に入れた範囲の人間は守る。お父様、お母様からそう学んでいます。だからわたしは護衛であるハディス様やオルフェも護りたいんです。」
父母2人は揃って同じ様に苦笑し、一呼吸おいて隣のハディスが静かに席を立った。
「バンブリア夫妻、お嬢様をお借りしても?」
「誰に似たのか、頑迷な娘ですからね。どうぞ。ただ2人きりと云うわけにはいきませんけどね。」
母オウナの台詞にギョッとする。
何?!今の流れ、そんな感じだったの?護衛と2人っておかしくないよね?
「あー、2人にはなりませんよ。もう1人の護衛が間違いなく一緒に来ますから。」
「勿論。」
ハディスが困ったように頭を掻きながら言うと、すかさずわたしのすぐ傍の何もない空間から聞き慣れたテノールが響いた。
バンブリア邸にも、ささやかながら庭園はある。グリーンを基調に四季折々の花が植えられた、所謂イングリッシュガーデンに近い庭だ。
ハディスとわたしが並んで庭の小路を進み、それから少し間を開けてオルフェが付いてくる。彼なりに、今は離れてますよと云うアピールなんだろう。振り返ると、月光に柔らかく照らされたオルフェンズが幻惑的な美しさで薄い笑みを浮かべる。相変わらず綺麗だ――いや、そんな場合じゃない。
「それで、ハディス様は両親とどんな約束をなさっているんですか?」
「うん。単刀直入だね。君らしい。」
苦笑するハディスも、見慣れたとは言え、月光を受けるといつもの何割か増しでキラキラ効果がかかるから心臓に悪い。だからこそ、わたしは決意の鈍らぬ間の短期決戦を心掛けた。
「卒業祝賀夜会の後、君は色んな所から目を付けられたんた。だから王家は君の身柄を確保しておこうとしたけれど、君のご両親が強く拒否し、学園卒業までの間、君を自由にさせる代わりに、僕が君の護衛として側に付く事になってる。」
まぁ、想定内の返事だ。良かった。いや、両親が王家の要請拒否とか突っ込みたい所はあるけど。けどそれは今は置いておこう。
「目を付けられた‥‥有望な入婿候補なら望む所なんですけど、そうじゃないんですね?こちらには益の無い手駒として、目を付けた・と。そりゃ迷惑です。で、ハディス様はその人達から守ると同時に、わたしの監視もしてると、そう言う訳ですか。」
なんだろう、そのシンデレラストーリーみたいな話は。
「そもそもなんで、わたしが夜会で『色んな所から』目を付けられたんでしょう?」
「君には桜色の魔力があるよ。君の立ち回りの時に漏れ出ていたから僕も気付いた。膂力の朱と混同して分かりにくいけど、魔力に敏い一部の高位貴族は気付いてる。ただ、該当する神器は無いんだよね。」
離れたところでオルフェンズも薄い笑みを浮かべる。「だから桜の君だと申し上げているでしょう?」と。なるほど、髪色の比喩じゃなかったのね。
「まず、言っておくけど、セレネ嬢。僕が君の護衛であるのは何物にも代えられない前提条件だよ。それに次いで、君も知っている通り、僕自身が継承者であると共に監視者でもある。そして監視者であるがゆえに、継承者とは言い切れないながらも特殊な魔力の色を持った君を見守るため、僕がここにいるんだから。だから僕は君のためにここに居る。それじゃぁ、ダメ?」
辛そうな表情をされると、特に覚悟もできていないわたしには「はっきりさせて」と強く言う事なんて勿論出来ないし、護衛とわたしの関係にも最近ようやく慣れて居心地良く感じてさえいるものを、終わりにする意気地もなく‥‥。
「ハディス様‥‥。」
呼び掛けると、貴族の笑みではなく、戸惑いを含んだ優しげな笑みが帰って来る。質問したわたしの返答を促すように首を傾げて、どんな答えでも受け入れると云うように微かに頷く。
父母も黙って成り行きを見守っている。いつもそうだ。この2人はわたし達子供を護ってくれるけど、こちらの意図もしっかり尊重してくれる。余程危険なことをしなければ、見守ることで好きにやることを許してくれて、成長を促してくれる。
なんて護られた、なんて心地良い状態。
けどそれじゃあ、シンリ砦の時みたいに護られるだけで手も出せず、不安だけを抱いてオロオロしていた時みたいな、進展も後退もない無駄で無利益な時間を過ごすことになるんじゃないかな‥‥。無駄、無利益どちらも嫌な言葉よ。
――覚悟するべきよね。
「約束とは、わたしに関わる約束を家族としているんですよね。わたし自身に関わることなのに、わたしだけが知らないなんておかしいと思いませんか?ハディス様が護って下さることは有り難いと思います。けど、分からないことが多すぎて、わたしがハディス様を護ることが出来ないのが悔しいんです。普通の主従関係なら主人も従者を守ります。けどハディス様は一方的に護ろうとしているでしょう?」
じっと見詰めるハディスの瞳が戸惑うように揺れるのを静かに見返しながら、一呼吸おいて父母へ視線を移す。
「手の届く、懐に入れた範囲の人間は守る。お父様、お母様からそう学んでいます。だからわたしは護衛であるハディス様やオルフェも護りたいんです。」
父母2人は揃って同じ様に苦笑し、一呼吸おいて隣のハディスが静かに席を立った。
「バンブリア夫妻、お嬢様をお借りしても?」
「誰に似たのか、頑迷な娘ですからね。どうぞ。ただ2人きりと云うわけにはいきませんけどね。」
母オウナの台詞にギョッとする。
何?!今の流れ、そんな感じだったの?護衛と2人っておかしくないよね?
「あー、2人にはなりませんよ。もう1人の護衛が間違いなく一緒に来ますから。」
「勿論。」
ハディスが困ったように頭を掻きながら言うと、すかさずわたしのすぐ傍の何もない空間から聞き慣れたテノールが響いた。
バンブリア邸にも、ささやかながら庭園はある。グリーンを基調に四季折々の花が植えられた、所謂イングリッシュガーデンに近い庭だ。
ハディスとわたしが並んで庭の小路を進み、それから少し間を開けてオルフェが付いてくる。彼なりに、今は離れてますよと云うアピールなんだろう。振り返ると、月光に柔らかく照らされたオルフェンズが幻惑的な美しさで薄い笑みを浮かべる。相変わらず綺麗だ――いや、そんな場合じゃない。
「それで、ハディス様は両親とどんな約束をなさっているんですか?」
「うん。単刀直入だね。君らしい。」
苦笑するハディスも、見慣れたとは言え、月光を受けるといつもの何割か増しでキラキラ効果がかかるから心臓に悪い。だからこそ、わたしは決意の鈍らぬ間の短期決戦を心掛けた。
「卒業祝賀夜会の後、君は色んな所から目を付けられたんた。だから王家は君の身柄を確保しておこうとしたけれど、君のご両親が強く拒否し、学園卒業までの間、君を自由にさせる代わりに、僕が君の護衛として側に付く事になってる。」
まぁ、想定内の返事だ。良かった。いや、両親が王家の要請拒否とか突っ込みたい所はあるけど。けどそれは今は置いておこう。
「目を付けられた‥‥有望な入婿候補なら望む所なんですけど、そうじゃないんですね?こちらには益の無い手駒として、目を付けた・と。そりゃ迷惑です。で、ハディス様はその人達から守ると同時に、わたしの監視もしてると、そう言う訳ですか。」
なんだろう、そのシンデレラストーリーみたいな話は。
「そもそもなんで、わたしが夜会で『色んな所から』目を付けられたんでしょう?」
「君には桜色の魔力があるよ。君の立ち回りの時に漏れ出ていたから僕も気付いた。膂力の朱と混同して分かりにくいけど、魔力に敏い一部の高位貴族は気付いてる。ただ、該当する神器は無いんだよね。」
離れたところでオルフェンズも薄い笑みを浮かべる。「だから桜の君だと申し上げているでしょう?」と。なるほど、髪色の比喩じゃなかったのね。
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