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第三章 文化体育発表会編
あぁ、聞く覚悟もないのについに言っちゃったよー。
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バンブリア邸での夕食は、家族間での情報交換の場となっている。今日は、郊外の領地から王都へ向かう商会の商品輸送隊――略して商隊が、最近たて続けに魔物に襲われている、と云う話が上った。
「魔物の姿をよく見掛ける様になったとは聞いていたんだ。だから念のため護衛の数を増やしていたんだが。ついに積み荷に被害が出てしまったよ。人的被害が少ないのは、オウナが商隊の守りについてしっかり手配してくれたからだね。」
「いいえ、テラスが実働員のささやかな声も拾い上げてくれたお陰だわ。手配が間に合って良かったけれど、軽傷とはいえ怪我人が出たからにはもう少ししっかり体制を見直さないといけないわね。」
商業ギルドや冒険者ギルドでも、各地で魔物の目撃例が増えていることが問題視され始めていた所の出来事らしい。つい先日もイシケナル・ミーノマロ公爵の領地でトレントが溢れ出る姿を見たばかりだ。
つい視線は隣に座るハディスの方へ向かう。
「目撃例が増えている地域は、限定的なのでしょうか?それとも王国各地で・なのでしょうか?大きな被害が出ないと良いのですけれど‥‥。」
心配な気持ちのまま口を開くと、自分でも意外なほど心細げな声が出た。暴れる魔物に立ち向かう、あまりに小さく脆い人間の姿が思い起こされる。あの時は、隣で澄まし顔で食事するこの護衛が戦いのさ中に居たと思うと気が気ではなかった。もう、あんな思いはたくさんだ。
「目撃例は王都近郊からエウレア地方にかけてが特に多いが、他の地域でも増加しているみたいだ。もともと生息地とされていた山岳や森林では浅い部分まで魔物が出てくる事例はもちろん増えている。ただ、特に気になるのは、今のところ魔物が実際に襲い掛かったのが商隊だけだと云うところか。」
父テラスが傍の報告書の束をパラリと捲る。
冒険者や旅人の被害は僅かとのことだった。抜きん出て商隊の被害が多いということだけれど、積み荷は荒らされはするけど食べたりはしないようで理由は不明だ。
「魔物による嫌がらせ‥‥?まさかねぇ。」
首を捻るわたしに、ハディスが疑わしげな視線を向けてきたけれど、さすがにわたしも魔物に因縁はありませんよ!?と睨み返す。
王都からエウレアへ向かう直線上には、今はヘリオスの居るイシケナル・ミーノマロ公爵の領地カヒナシ地方がある。今日スバルが目撃したエウレアからの急使は恐らく魔物に関わる事なんだろう。
「ヘリオス君から何か連絡は?」
「今のところ何も‥‥ネズミさんは何か伝えてきたりしますか?」
「うーん、残念ながら特には無いねー。あいつらは王国中に散らばっては居るけれど、自主的に詳しいことを知らせてくれる間諜みたいな役割は特にしないからね。もし出来るのなら僕の仕事も楽なんだけどねー。」
仕事と言うのは、護衛ではなく以前言っていた「僕が誰からの命令で継承者を監視する立場なのかって事を良く考えてね。」ってヤツだ。ホント、誰からの命令だろうね。王家の紋章で『有翼の獅子』を象った装飾の施された服を身に付けられる人に命令できる人なんて、1人しかいない訳だけど、ハッキリすると心臓に悪そうだから敢えて聞かないわ。
「王家は、この異常事態をどこまで把握していらっしゃるのかしら、ねぇ閣下。」
母よ、だからハッキリさせたくないんだってば。
「ギルドに入る情報は流れているはずだよー。各領地からも勿論公式、非公式共に連絡があるはずだからね。けど出来ることは限られてるから、こんな時こそ貴族が義務を果たすべきなんだけどねー。」
貴族たちは庶民と比較して体内に魔力を保有しているものが多く、その力を有効に使う為の技術を学び、国の有事の際には率先して戦うこととなる。だからこそ学園で学ぶことを推奨されている訳だけれど、現状のなんちゃって貴族が多数在籍するような状況で、本当に魔力を持っていて戦闘力に変換できるような人材は僅かだ。
「わたしよりも強い貴族が一体どれだけ居るやら、ですね。なんだか近い将来に明るい展望が見えないんですけど。」
「うん。それで、最終手段として継承者が居る。王が最終号令を掛けたら、僕は従わないといけない。」
ハディスが、じっとわたしを見詰めながら言葉を紡ぐ。
いや、あんまり心臓に悪そうな高位の方々の事情は聞きたくないし、巻き込まれたくないんですけどー?
「約束は守っていただきますからな。」
「えぇ、有事であろうが何であろうが、約束を反故にされた場合、我が商会がいつでもこの国を見限るつもりでいることは変わりありませんから。」
父母揃って空気が凍えるかと思える様な、怜悧で毅然とした視線と気配をハディスに向ける。
えぇっ!?何かすごく不穏で不敬な流れな気がするけど、ハディスの身分がしっかり明かされていないからセーフなの!?いや、知らないのは、この感じだとわたしだけよね?
「ちょっ‥‥お父様、お母様っ!ハディス様っ!いい加減わたしだけ除け者にするのは止めてくださいっ!!」
あぁ、聞く覚悟もないのについに言っちゃったよー。わたしの心臓、保つかなぁ。
「魔物の姿をよく見掛ける様になったとは聞いていたんだ。だから念のため護衛の数を増やしていたんだが。ついに積み荷に被害が出てしまったよ。人的被害が少ないのは、オウナが商隊の守りについてしっかり手配してくれたからだね。」
「いいえ、テラスが実働員のささやかな声も拾い上げてくれたお陰だわ。手配が間に合って良かったけれど、軽傷とはいえ怪我人が出たからにはもう少ししっかり体制を見直さないといけないわね。」
商業ギルドや冒険者ギルドでも、各地で魔物の目撃例が増えていることが問題視され始めていた所の出来事らしい。つい先日もイシケナル・ミーノマロ公爵の領地でトレントが溢れ出る姿を見たばかりだ。
つい視線は隣に座るハディスの方へ向かう。
「目撃例が増えている地域は、限定的なのでしょうか?それとも王国各地で・なのでしょうか?大きな被害が出ないと良いのですけれど‥‥。」
心配な気持ちのまま口を開くと、自分でも意外なほど心細げな声が出た。暴れる魔物に立ち向かう、あまりに小さく脆い人間の姿が思い起こされる。あの時は、隣で澄まし顔で食事するこの護衛が戦いのさ中に居たと思うと気が気ではなかった。もう、あんな思いはたくさんだ。
「目撃例は王都近郊からエウレア地方にかけてが特に多いが、他の地域でも増加しているみたいだ。もともと生息地とされていた山岳や森林では浅い部分まで魔物が出てくる事例はもちろん増えている。ただ、特に気になるのは、今のところ魔物が実際に襲い掛かったのが商隊だけだと云うところか。」
父テラスが傍の報告書の束をパラリと捲る。
冒険者や旅人の被害は僅かとのことだった。抜きん出て商隊の被害が多いということだけれど、積み荷は荒らされはするけど食べたりはしないようで理由は不明だ。
「魔物による嫌がらせ‥‥?まさかねぇ。」
首を捻るわたしに、ハディスが疑わしげな視線を向けてきたけれど、さすがにわたしも魔物に因縁はありませんよ!?と睨み返す。
王都からエウレアへ向かう直線上には、今はヘリオスの居るイシケナル・ミーノマロ公爵の領地カヒナシ地方がある。今日スバルが目撃したエウレアからの急使は恐らく魔物に関わる事なんだろう。
「ヘリオス君から何か連絡は?」
「今のところ何も‥‥ネズミさんは何か伝えてきたりしますか?」
「うーん、残念ながら特には無いねー。あいつらは王国中に散らばっては居るけれど、自主的に詳しいことを知らせてくれる間諜みたいな役割は特にしないからね。もし出来るのなら僕の仕事も楽なんだけどねー。」
仕事と言うのは、護衛ではなく以前言っていた「僕が誰からの命令で継承者を監視する立場なのかって事を良く考えてね。」ってヤツだ。ホント、誰からの命令だろうね。王家の紋章で『有翼の獅子』を象った装飾の施された服を身に付けられる人に命令できる人なんて、1人しかいない訳だけど、ハッキリすると心臓に悪そうだから敢えて聞かないわ。
「王家は、この異常事態をどこまで把握していらっしゃるのかしら、ねぇ閣下。」
母よ、だからハッキリさせたくないんだってば。
「ギルドに入る情報は流れているはずだよー。各領地からも勿論公式、非公式共に連絡があるはずだからね。けど出来ることは限られてるから、こんな時こそ貴族が義務を果たすべきなんだけどねー。」
貴族たちは庶民と比較して体内に魔力を保有しているものが多く、その力を有効に使う為の技術を学び、国の有事の際には率先して戦うこととなる。だからこそ学園で学ぶことを推奨されている訳だけれど、現状のなんちゃって貴族が多数在籍するような状況で、本当に魔力を持っていて戦闘力に変換できるような人材は僅かだ。
「わたしよりも強い貴族が一体どれだけ居るやら、ですね。なんだか近い将来に明るい展望が見えないんですけど。」
「うん。それで、最終手段として継承者が居る。王が最終号令を掛けたら、僕は従わないといけない。」
ハディスが、じっとわたしを見詰めながら言葉を紡ぐ。
いや、あんまり心臓に悪そうな高位の方々の事情は聞きたくないし、巻き込まれたくないんですけどー?
「約束は守っていただきますからな。」
「えぇ、有事であろうが何であろうが、約束を反故にされた場合、我が商会がいつでもこの国を見限るつもりでいることは変わりありませんから。」
父母揃って空気が凍えるかと思える様な、怜悧で毅然とした視線と気配をハディスに向ける。
えぇっ!?何かすごく不穏で不敬な流れな気がするけど、ハディスの身分がしっかり明かされていないからセーフなの!?いや、知らないのは、この感じだとわたしだけよね?
「ちょっ‥‥お父様、お母様っ!ハディス様っ!いい加減わたしだけ除け者にするのは止めてくださいっ!!」
あぁ、聞く覚悟もないのについに言っちゃったよー。わたしの心臓、保つかなぁ。
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