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第二章 誘拐編
あれー!?何だか既視感!
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増えた人手、けれど薄れた手懸りの魔力と、踏み荒らされた現場から何とか見付け出せたのはヘリオスが残していったと思われる『紙でくるまれた枝』ただひとつだった。
「正確には、トレントの枝を花束を包むみたいにノートの切れ端で包んで、その真ん中をヘリオスのハンカチでギュッと縛ってある、意味不明の物体なのよね。」
道の側の藪の中に転がされていたその物体は、この場所を特定して探さなければ到底見付けられない様な、ほんのささやかで小さな手掛り品だった。けれど、わたしたちはこの場から些細な手掛かりの断片でも見付け出す心意気で、男衆も含めたローラー作戦を敢行した。等間隔に並んで、何か無いか少しづつ確実に調べる方法を取ったのだ。そして見付かったのがこれなのだけれど。
わたしの手の中のその物体を、母オウナとハディスが覗き込む。
「まあ、またヘリオスったら学園に研究材料を持って行っていたのね。勉強するための学園で新商品研究は駄目よって言っているのに困った子ね。けど、魔物素材とノートの切れ端なんて組み合わせはヘリオスくらいしか考えられないものね。ハンカチも何の変哲もない白いものだけど、テラスの香水をこっそり染み込ませているんだもの、大人ぶってテラスの真似なんかして。すぐにヘリオスのものだって分かるわね。」
オウナが頬に手を当ててため息をつく。何も気にしないで見た者には、ゴミにしか見えないそれは、けど家族にはすぐにヘリオスの持ち物だと分かるヒントがあった。お陰で、わたしたちにはヘリオスがここから去る時には、この手掛かり品を用意する余力があった事が分かり、少し気持ちが軽くなった――のだけれど。
「けどこの形の意味が分かんないのよねー。誘拐犯や攫われた場所に関わるヒントを伝えてくれている気がするんだけど‥‥。」
手の中に収まる、謎の物体を目を眇めて眺める。
意図があるように見えるが、残念ながらわたしには全く思い当たるものがない。
「何か大事なことを忘れているんじゃないのー?それともいつもの無自覚で何か変なモノに関わっちゃったとかぁ?」
ジト目で見て来るハディスに、突然の婚約破棄劇に巻き込んでくれたメルセンツの顔がぽんっと浮かんだわたしの喉からは、思わず「うぐぐぅ。」とくぐもった声が出た。そんなこと無い!と言い切れない自覚は有る。だからこそ、必死で記憶の糸を手繰るのだけれど、こんな厄介な魔力を使う様な人間に関わったことなんて無かったと思う。
3人で頭を突き合わせながらうんうん唸っていると、突然ふわりと、真後ろに気配を現したオルフェンズがわたしの耳元にそっと顔を寄せる。
「桜の君、花束‥‥花とトレント、そして布を結んだ人物で思い当たる者があるのではないでしょうか?」
「ふぅぁっ!オルフェ、不意打ち超至近距離美形禁止!色んな意味で心臓に悪いわっ。」
飛び上がって距離をとったわたしに、オルフェンズが安定の薄い笑みを見せ、母は生暖かい視線を向けてくる。母よ、何か勘違いしてやいないかな?
「銀の、わざわざ口を出してきたところを見ると、何か思い当たることがあるんだな?」
苦々し気に眉根を寄せたハディスに、更にオルフェンズが笑みを深める。
「恐らく、1年程前に見た光景を示しているのではないかと推察しましたので。」
「「「え?1年前に見た?」」」
絶句する3人をよそに、オルフェンズが「取るに足りない出来事でしたから、桜の君の御記憶に残らずとも何の障りも無い些事ですよ。」と言葉を続ける。
待って!?1年前の些事って、見て来た様に言ってるけど、言葉の通り受け止めていいの?いや、受け止めたくないけど!?
「あの時、桜の君は花を咲かせるトレントを集めておられました。当時より花嵐を纏う激しさと、桜花の可憐さを併せ持つ見事な手際に驚いたものです。その時に、貴女のお手を煩わせた、口元を布で覆った者が居りました。その者を示しているのではないかと。」
「花を咲かせるトレント?もしかして麻痺毒を放つ変異種のことかしら。それなら丁度1年ほど前にヘリオスが大層ご機嫌で冒険者から大量に譲り受けたって、屋敷に持って来たことがあったわね。ねぇ?セレネ、あなたまさかその冒険者に心当たりがあるんじゃないでしょうねぇ。」
母オウナの確信に満ちた瞳にロックオンされたわたしは、心当たりが大有りだ!まさかこんな場面で1年前の罪状を突き付けられるなんてっ!何とか言い訳しないとー!
「えっとぉ?1年前だからよく覚えてないんだけどぉ。たしか冒険者ギルドにトレントの変異種が現れて、みんな困っているから、それを駆除したら報奨金を割り増しであげちゃうよーなんて、すごく目に入るポスターがいっぱい貼ってあって、あと新しい素材にもなるなーなんて試しにちょろーっと様子見したらサクサク刈れちゃったー。なんて事はあった様な、無かった様な?」
「セレネ?あなた分かっているとは思うけど。」
ふぅ、やれやれ‥‥と、溜め息をつく母オウナ。
「やましいことを隠そうとすると、あなたの話は、急に知能レベルが下がるのよ?」
あれー!?何だか既視感!
「正確には、トレントの枝を花束を包むみたいにノートの切れ端で包んで、その真ん中をヘリオスのハンカチでギュッと縛ってある、意味不明の物体なのよね。」
道の側の藪の中に転がされていたその物体は、この場所を特定して探さなければ到底見付けられない様な、ほんのささやかで小さな手掛り品だった。けれど、わたしたちはこの場から些細な手掛かりの断片でも見付け出す心意気で、男衆も含めたローラー作戦を敢行した。等間隔に並んで、何か無いか少しづつ確実に調べる方法を取ったのだ。そして見付かったのがこれなのだけれど。
わたしの手の中のその物体を、母オウナとハディスが覗き込む。
「まあ、またヘリオスったら学園に研究材料を持って行っていたのね。勉強するための学園で新商品研究は駄目よって言っているのに困った子ね。けど、魔物素材とノートの切れ端なんて組み合わせはヘリオスくらいしか考えられないものね。ハンカチも何の変哲もない白いものだけど、テラスの香水をこっそり染み込ませているんだもの、大人ぶってテラスの真似なんかして。すぐにヘリオスのものだって分かるわね。」
オウナが頬に手を当ててため息をつく。何も気にしないで見た者には、ゴミにしか見えないそれは、けど家族にはすぐにヘリオスの持ち物だと分かるヒントがあった。お陰で、わたしたちにはヘリオスがここから去る時には、この手掛かり品を用意する余力があった事が分かり、少し気持ちが軽くなった――のだけれど。
「けどこの形の意味が分かんないのよねー。誘拐犯や攫われた場所に関わるヒントを伝えてくれている気がするんだけど‥‥。」
手の中に収まる、謎の物体を目を眇めて眺める。
意図があるように見えるが、残念ながらわたしには全く思い当たるものがない。
「何か大事なことを忘れているんじゃないのー?それともいつもの無自覚で何か変なモノに関わっちゃったとかぁ?」
ジト目で見て来るハディスに、突然の婚約破棄劇に巻き込んでくれたメルセンツの顔がぽんっと浮かんだわたしの喉からは、思わず「うぐぐぅ。」とくぐもった声が出た。そんなこと無い!と言い切れない自覚は有る。だからこそ、必死で記憶の糸を手繰るのだけれど、こんな厄介な魔力を使う様な人間に関わったことなんて無かったと思う。
3人で頭を突き合わせながらうんうん唸っていると、突然ふわりと、真後ろに気配を現したオルフェンズがわたしの耳元にそっと顔を寄せる。
「桜の君、花束‥‥花とトレント、そして布を結んだ人物で思い当たる者があるのではないでしょうか?」
「ふぅぁっ!オルフェ、不意打ち超至近距離美形禁止!色んな意味で心臓に悪いわっ。」
飛び上がって距離をとったわたしに、オルフェンズが安定の薄い笑みを見せ、母は生暖かい視線を向けてくる。母よ、何か勘違いしてやいないかな?
「銀の、わざわざ口を出してきたところを見ると、何か思い当たることがあるんだな?」
苦々し気に眉根を寄せたハディスに、更にオルフェンズが笑みを深める。
「恐らく、1年程前に見た光景を示しているのではないかと推察しましたので。」
「「「え?1年前に見た?」」」
絶句する3人をよそに、オルフェンズが「取るに足りない出来事でしたから、桜の君の御記憶に残らずとも何の障りも無い些事ですよ。」と言葉を続ける。
待って!?1年前の些事って、見て来た様に言ってるけど、言葉の通り受け止めていいの?いや、受け止めたくないけど!?
「あの時、桜の君は花を咲かせるトレントを集めておられました。当時より花嵐を纏う激しさと、桜花の可憐さを併せ持つ見事な手際に驚いたものです。その時に、貴女のお手を煩わせた、口元を布で覆った者が居りました。その者を示しているのではないかと。」
「花を咲かせるトレント?もしかして麻痺毒を放つ変異種のことかしら。それなら丁度1年ほど前にヘリオスが大層ご機嫌で冒険者から大量に譲り受けたって、屋敷に持って来たことがあったわね。ねぇ?セレネ、あなたまさかその冒険者に心当たりがあるんじゃないでしょうねぇ。」
母オウナの確信に満ちた瞳にロックオンされたわたしは、心当たりが大有りだ!まさかこんな場面で1年前の罪状を突き付けられるなんてっ!何とか言い訳しないとー!
「えっとぉ?1年前だからよく覚えてないんだけどぉ。たしか冒険者ギルドにトレントの変異種が現れて、みんな困っているから、それを駆除したら報奨金を割り増しであげちゃうよーなんて、すごく目に入るポスターがいっぱい貼ってあって、あと新しい素材にもなるなーなんて試しにちょろーっと様子見したらサクサク刈れちゃったー。なんて事はあった様な、無かった様な?」
「セレネ?あなた分かっているとは思うけど。」
ふぅ、やれやれ‥‥と、溜め息をつく母オウナ。
「やましいことを隠そうとすると、あなたの話は、急に知能レベルが下がるのよ?」
あれー!?何だか既視感!
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