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第二章 誘拐編
まぁ、これでこそバンブリア商会長よね。けどぉ。
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「こんなに通学路にパターンがあるんですかぁ!?」
わたしが思わず叫び声を上げたのは、ハディスから知らされた通学ルート7パターン目、合計12パターンの折り返しを過ぎたところでだった。
「共通行程は省けるから12ルートの全行程回る訳じゃないよー。これくらいで悲鳴をあげてるようじゃあ現場百遍なんて出来ないねー。」
「分かってます!止める気はありませんから。ただ想像以上のパターンの多さだったから驚いただけです。」
と言っても、バンブリア邸から学園までの行きと帰りの道程を変え、7パターンをなぞったわたしたちは今3回目の学園前。ここまでまるで成果なしときたら、気持ちは焦るし、見落としがあったのではないかと不安感な気持ちばかりが増えている。
「ううぅ‥‥こんなことしてる間にヘリオスに何かあったら、どうしよう。こんな事ならわたしが攫われた方がまだましだったわ。」
ヘリオス大丈夫かしら、今頃わたしのことを思いながら怯えてるんじゃないかしらっ!居ても立っても居られないわ。わたしにもっと力があればいいのに!
「セレネ嬢、僕が付いていて君を攫わせたりしないよ。僕に出来得る限りのイロイロで防いでしまえるから。」
「桜の君に悪しき手を伸ばす不心得者など私が瞬時に灰燼に帰して差し上げます。」
「え。止めて2人とも。すごく怖いわ。」
揃って優し気な笑みを浮かべた護衛ズは、背後に黒い気配を背負っているのもお揃いだ。怖すぎる。
そして、8ルート目の林道行程の中程に差し掛かった時、ザワリと嫌な感覚が背筋を這った。
「紫色の魔力、見付けたわ!」
その辺り一帯に漂う紫色は、見間違えることのない程のはっきりした色彩を放っている。
ガラガラガラ・ガガッ!
「セレネ!何か手掛かりはあった?!」
もうもうと砂煙を立てながら、おおよそ貴族が乗るとは思えない速度と急停車で現れた馬車から顔を出して叫んだのは母オウナだ。オウナは執務時に着ているスーツ姿のまま、馬に乗った商会の男衆10人ばかりを連れて駆け付けた。
「お母さま!あ、ちょっ・待って‥‥あぁ。」
言い終わる前に、ヘリオスのためにと駆けつけて来た母や男衆が、やってきた勢いのままドヤドヤと紫色の魔力の漂う一帯に突っ込んで来た。魔力は煙や霧とは異なり、人の波くらいでは流れていかない様だったけど、その他の手掛かりとなりそうな足跡や、車輪跡等、地面に刻まれた痕跡は判別が難しくなってしまった。しかも―――。
「おい!大丈夫‥‥かぁ?」
「――ふぇ?なんかほわほわして、いい気分だなぁ‥‥。」
「あれー?俺ここに、何しに来たんだっけぇ。」
駆け付けた男衆の間で、何だか2次災害が起こり始めている気がする。どうしたら良いの!?
――と思った次の瞬間、母が仁王立ちで男衆を鋭く睨み、大きく息を吸う。
「注意散漫は怪我のもと!確認点検で自分のやるべきことを把握して無事故・無災害よ!」
オウナの口から飛び出した仕事場のスローガンか!?と思しき言葉が辺りに響くと、途端に男衆がしゃっきりと背筋を伸ばした。
「「「気持ちを引き締めて無事故・無災害。ヨシ!」」」
男たちが、片手を腰に、もう一方の手は宙を指さしてビシリとポーズを決める。そこでふとわたしはこの光景を思い出した。バンブリア商会製造部門の朝礼での従業員揃っての安全衛生スローガン宣誓の光景だ。応援に駆け付けてくれた厳つめの男衆は、製造部門の者なのだろう。
流石お母さまだわ!毎日の習慣を利用して、魅了の朦朧とした意識を現実に引き戻すなんて。見習わないとねっ!
「商会長!済みません。自分たち気持ちが弛んでいました。」
「いいえ、私こそ皆を仕事以外に付き合わせてしまってごめんなさい。」
「そんな!商会長のお力になりたくて進んで来たんです。微力ながらヘリオス坊ちゃんを助け出すお手伝いをさせてください!!」
「みんな!有り難う!!」
目の前で展開されているのは、企業ドラマの感動的なワンシーンなのかしら?いや、そんなもの要らないし、さっさと探させて――!!
「もぉ!お母さまっ!!」
「何やっているのセレネ!早くヘリオスを探すわよ。何か分かったことは無いの!?」
えぇ――。いきなりの切り替えの早さ‥‥まぁ、これでこそバンブリア商会長よね。けどぉ。
「報告しますわ、お母様。馭者たちに残された魔力と同じ種類の色が、この辺りに漂っていました。」
「消えてしまったの?」
「はい。お母様と皆様の安全衛生スローガン宣誓で、ほぼ見えなくなりました。」
そう、あんなにくっきりしていた紫色が、商会朝礼の再現で消えるなんて!わたしだってビックリだ。
「じゃっ‥‥じゃあ、足跡とか手掛り品とかは?」
「お母様、地面をご覧ください。馬車のドリフト痕と、大勢での集合・動揺・整列での足跡を差し引けるのなら可能でしょう。」
母がわたしの言葉に弾かれたように、地面に視線を落とす。
「――別の線を当たりましょうか。犯人は現場に戻ってくるとか、無いかしら‥‥。」
殺人犯や放火犯ならまだしも、誘拐犯はそんなに現場をうろつくものだろうか。まあ、この現場の惨状を見れば、その気持ちは分からないでもないけど。
あ、惨状って言っても犯行の痕跡じゃなくて、現場保全の意味でのね!
わたしが思わず叫び声を上げたのは、ハディスから知らされた通学ルート7パターン目、合計12パターンの折り返しを過ぎたところでだった。
「共通行程は省けるから12ルートの全行程回る訳じゃないよー。これくらいで悲鳴をあげてるようじゃあ現場百遍なんて出来ないねー。」
「分かってます!止める気はありませんから。ただ想像以上のパターンの多さだったから驚いただけです。」
と言っても、バンブリア邸から学園までの行きと帰りの道程を変え、7パターンをなぞったわたしたちは今3回目の学園前。ここまでまるで成果なしときたら、気持ちは焦るし、見落としがあったのではないかと不安感な気持ちばかりが増えている。
「ううぅ‥‥こんなことしてる間にヘリオスに何かあったら、どうしよう。こんな事ならわたしが攫われた方がまだましだったわ。」
ヘリオス大丈夫かしら、今頃わたしのことを思いながら怯えてるんじゃないかしらっ!居ても立っても居られないわ。わたしにもっと力があればいいのに!
「セレネ嬢、僕が付いていて君を攫わせたりしないよ。僕に出来得る限りのイロイロで防いでしまえるから。」
「桜の君に悪しき手を伸ばす不心得者など私が瞬時に灰燼に帰して差し上げます。」
「え。止めて2人とも。すごく怖いわ。」
揃って優し気な笑みを浮かべた護衛ズは、背後に黒い気配を背負っているのもお揃いだ。怖すぎる。
そして、8ルート目の林道行程の中程に差し掛かった時、ザワリと嫌な感覚が背筋を這った。
「紫色の魔力、見付けたわ!」
その辺り一帯に漂う紫色は、見間違えることのない程のはっきりした色彩を放っている。
ガラガラガラ・ガガッ!
「セレネ!何か手掛かりはあった?!」
もうもうと砂煙を立てながら、おおよそ貴族が乗るとは思えない速度と急停車で現れた馬車から顔を出して叫んだのは母オウナだ。オウナは執務時に着ているスーツ姿のまま、馬に乗った商会の男衆10人ばかりを連れて駆け付けた。
「お母さま!あ、ちょっ・待って‥‥あぁ。」
言い終わる前に、ヘリオスのためにと駆けつけて来た母や男衆が、やってきた勢いのままドヤドヤと紫色の魔力の漂う一帯に突っ込んで来た。魔力は煙や霧とは異なり、人の波くらいでは流れていかない様だったけど、その他の手掛かりとなりそうな足跡や、車輪跡等、地面に刻まれた痕跡は判別が難しくなってしまった。しかも―――。
「おい!大丈夫‥‥かぁ?」
「――ふぇ?なんかほわほわして、いい気分だなぁ‥‥。」
「あれー?俺ここに、何しに来たんだっけぇ。」
駆け付けた男衆の間で、何だか2次災害が起こり始めている気がする。どうしたら良いの!?
――と思った次の瞬間、母が仁王立ちで男衆を鋭く睨み、大きく息を吸う。
「注意散漫は怪我のもと!確認点検で自分のやるべきことを把握して無事故・無災害よ!」
オウナの口から飛び出した仕事場のスローガンか!?と思しき言葉が辺りに響くと、途端に男衆がしゃっきりと背筋を伸ばした。
「「「気持ちを引き締めて無事故・無災害。ヨシ!」」」
男たちが、片手を腰に、もう一方の手は宙を指さしてビシリとポーズを決める。そこでふとわたしはこの光景を思い出した。バンブリア商会製造部門の朝礼での従業員揃っての安全衛生スローガン宣誓の光景だ。応援に駆け付けてくれた厳つめの男衆は、製造部門の者なのだろう。
流石お母さまだわ!毎日の習慣を利用して、魅了の朦朧とした意識を現実に引き戻すなんて。見習わないとねっ!
「商会長!済みません。自分たち気持ちが弛んでいました。」
「いいえ、私こそ皆を仕事以外に付き合わせてしまってごめんなさい。」
「そんな!商会長のお力になりたくて進んで来たんです。微力ながらヘリオス坊ちゃんを助け出すお手伝いをさせてください!!」
「みんな!有り難う!!」
目の前で展開されているのは、企業ドラマの感動的なワンシーンなのかしら?いや、そんなもの要らないし、さっさと探させて――!!
「もぉ!お母さまっ!!」
「何やっているのセレネ!早くヘリオスを探すわよ。何か分かったことは無いの!?」
えぇ――。いきなりの切り替えの早さ‥‥まぁ、これでこそバンブリア商会長よね。けどぉ。
「報告しますわ、お母様。馭者たちに残された魔力と同じ種類の色が、この辺りに漂っていました。」
「消えてしまったの?」
「はい。お母様と皆様の安全衛生スローガン宣誓で、ほぼ見えなくなりました。」
そう、あんなにくっきりしていた紫色が、商会朝礼の再現で消えるなんて!わたしだってビックリだ。
「じゃっ‥‥じゃあ、足跡とか手掛り品とかは?」
「お母様、地面をご覧ください。馬車のドリフト痕と、大勢での集合・動揺・整列での足跡を差し引けるのなら可能でしょう。」
母がわたしの言葉に弾かれたように、地面に視線を落とす。
「――別の線を当たりましょうか。犯人は現場に戻ってくるとか、無いかしら‥‥。」
殺人犯や放火犯ならまだしも、誘拐犯はそんなに現場をうろつくものだろうか。まあ、この現場の惨状を見れば、その気持ちは分からないでもないけど。
あ、惨状って言っても犯行の痕跡じゃなくて、現場保全の意味でのね!
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